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大ヒットを記録した『MEG ザ・モンスター』
ジョーズ超えで“サメ映画”のトップに
日本で9月7日に封切りされ、週末興行で初登場1位を獲得した『MEG ザ・モンスター』。全世界の興行収入では、レジェンド『ジョーズ』(1975)を破り、歴代の“サメ映画”でトップに躍り出た。
難なく『ジョーズ』超えを果たした『MEG ザ・モンスター』だが、同作が他のサメ映画と少し違う点は、同作が紛れもないSF映画だという点である。『MEG ザ・モンスター』の原作は、スティーヴ・アルトンが1997年に発表したSF小説『メグ』。映画の公開に合わせて、角川文庫から映画と同名の小説も発売されている。
元々は90年代にディズニーが映画化する予定だったが、これが頓挫。紆余曲折を経てワーナー・ブラザースが版権を獲得し、『ナショナル・トレジャー』(2004)のジョン・タートルトーブ監督、ジェイソン・ステイサム主演という布陣で制作が進められた。
米中合作で大幅に設定を変更
更に、2016年3月には、米中合作で製作されることが発表された。ワーナー・ブラザースとチャイナ・メディア・キャピタル、TVBのジョイントベンチャーであるフラッグシップ・エンターテイメントが、『MEG ザ・モンスター』の製作に加わることが発表されたのだ。
実は、『MEG ザ・モンスター』は、米中の合作映画となったことで、スティーヴ・アルトンの原作小説から設定が大きく変更されている。例えば、原作の舞台となったのはサンディエゴ近辺の太平洋だが、映画版では中国の三亜湾ビーチに変更されている。今回は、映画化にあたってどのような設定変更がなされたのか、特にキャラクターに焦点を当てて、原作との違いを見ていこう。
ヒロインは日本人だった!?
日本人キャラクターが中国人に
最も大きな変更点は、登場人物だ。映画『MEG ザ・モンスター』では、中国人のジャン博士がトップに立つ海洋研究所が舞台になっている。だが、原作ではこのポジションに立っているのは、タナカ・マサオさんという日本人だ。小説では、より相棒に近い立場でジョナスと行動を共にしている。更に、ジョナスのロマンスのお相手はマサオの娘であるテリーとなっていたが、映画版では、『バイオハザードV リトリビューション』(2012)、『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)の中国人女優、リー・ビンビン演じるスーインがヒロインに。タナカ家が丸々ジャン家に置き換わっているのだ。
『MEG ザ・モンスター』でアジア人はどのように描かれたのか
そして、原作から唯一引き継がれた日本人要素が、ドラマ『HEROES/ヒーローズ』(2006-2010)でおなじみのマシ・オカ演じるトシというわけだ。そして、映画『MEG ザ・モンスター』で唯一の日本人キャラとして描かれたトシの設定も、味わい深いものがある。何気なくセクハラ発言が飛び出し、“もののあはれ”の感覚でメガロドンという“災害”に対峙する姿が、現在のハリウッドが日本人に対して抱いている印象なのだろう。そんなトシとは対照的に、スーインはリッチで聡明、そして勇敢な中国人女性として描かれた。中国が主要なマーケットとして設定されていることとは、無縁ではないだろう。
.@libingbing is ready to take on the largest prehistoric shark in #TheMeg – in theaters Thursday! pic.twitter.com/iIO1ZWlvgX
— The Meg Movie (@MegMovie) 2018年8月7日
主要キャラクターも設定が変更されていた
主人公ジョナスは“ステイサム寄り”に
一方で、キャラクターの設定変更は、日本人のキャラだけではない。主人公のジョナス・テイラーは、原作小説では潜水艇のパイロットであり海洋生物学者。アクションヒーローという雰囲気ではないのだが、ジェイソン・ステイサムが起用され、ド派手なアクションを見せるキャラクターに仕上がった。
『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)のロバート・テイラーが演じたのは、ジョナスの因縁の相手であるヘラー博士。彼は原作では完全なヴィランとして登場するのだが、映画版では彼なりの信念を持って行動するキャラクターに。ほとんどのキャラクターが小説版よりも“ブラッシュアップ”されているのだ。
Swim for your life. #TheMeg – in theaters August 10. pic.twitter.com/FV0V8HKvhC
— The Meg Movie (@MegMovie) 2018年7月16日
ジョナスの元妻の設定変更にある背景
そして、ジョナスの代わりに海洋生物学者の設定となったのは、ジョナスの前妻であるローリー。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017)のジェシカ・マクナミーが演じた。小説版では“肉食系”のジャーナリストだったが、映画版では男性クルーのセクハラ発言を注意するなど、性格の設定も変更されている。同作の製作にあたっては、残酷描写や性描写についても、中国のレギュレーションに配慮する必要があった。“サメ映画”にしては、ファミリーで観やすい映画に仕上がっている点も、『MEG ザ・モンスター』の特徴なのだ。
SF作品において、キャラクターの設定は非常に重要なポイントだ。『MEG ザ・モンスター』による“『ジョーズ』超え”の背景には、中国へのマーケティングの成果があることは確実だが、20年も前の作品であれば、現代に合わせた設定の変更が求められることも事実だ。皆さんは、原作小説と映画版、どちらの設定がお好みだっただろうか。