『エターナルズ』エイジャックが切り開く道
2021年11月5日(金) 公開の映画『エターナルズ』は、MCU映画の第26作目。ドラマ『ワンダヴィジョン』(2021) から始まったMCUフェーズ4では、『ブラック・ウィドウ』『シャン・チー/テン・リングスの伝説』に続く映画第3弾となる。
『エターナルズ』では、アベンジャーズやガーディンズ・オブ・ギャラクシーといったスーパーヒーローチームを紹介してきたMCUに新たなヒーローチームが加わる。7,000年以上もの間人類を陰から見守ってきた不死身の宇宙種族・エターナルズだ。
そのエターナルズを精神的支柱としてリードするのは、俳優のサルマ・ハエックが演じたエイジャック。エターナルズのリーダーであるエイジャックはヒーリングの能力を持ち、更にエターナルズの創造主である宇宙の上位存在・セレスティアルズと直接交信することができる。
人類に危機が迫る中、バラバラになった10人のエターナルズが再び集結して共通の敵に向かっていくためには、エイジャックのリーダーシップが必要だ。そんなエイジャックをサルマ・ハエックはどのように演じたのだろうか。
“伝統的な祖母のような役”かと…
サルマ・ハエックは、メキシコ生まれの俳優。映画『デスペラード』(1995) でカロリーナ役を演じてブレークを果たすと、その後も『フリーダ』(2002) で主演を務めるなど、第一線で活躍してきた。だが、サルマ・ハエックは意外にもマーベルから『エターナルズ』出演のオファーが届いた時、このような重大な役だとは思っていなかったという。
秘密主義を徹底するマーベルは、多くの場合に出演依頼時に俳優に役を伝えずにオファーを出すことで知られている。ドラマ『ワンダヴィジョン』で初登場を果たし、映画『マーベルズ』への出演も決まっているテヨナ・パリスも、原作コミックで二代目キャプテン・マーベルになるモニカ・ランボー役を演じると聞かされたのは後からだった。
サルマ・ハエックは『エターナルズ』公開時点で55歳。米ニューヨークポストには、『エターナルズ』出演のオファーが届いたときに“伝統的な祖母のような役”だと思っていたと語っている。確かに、“伝統的な”物語においては、中高年の女性はいつも“優しいサポート役”か“意地悪な悪役”というステレオタイプな役割を押し付けられてきた。
その後、サルマ・ハエックは『エターナルズ』の監督を務めるのが『ノマドランド』(2021) のクロエ・ジャオ監督であり、同監督自身がサルマ・ハエックへのオファーを希望したと聞き、すぐにミーティングを持つことを決めたのだという。『ノマドランド』といえば、クロエ・ジャオ監督が非白人女性として初めてアカデミー監督賞を受賞した作品。公開時点で63歳だったフランシス・マクドーマンドが主演を務め、“現代のノマド”としてアメリカで生きる高齢者女性の姿を描いた。
そのクロエ・ジャオ監督が『エターナルズ』でサルマ・ハエックに託した役は、セレスティアルズのリーダーであるエイジャックだった。原作コミックでは男性のキャラクターだった為、サルマ・ハエックは配役の発表にあたって自身のInstagramで「女の子の皆、これからは私たちの時代です!」と投稿している。
排除されてきた中高年女性
サルマ・ハエックは、『エターナルズ』出演にあたってのより正直な心境をシンガポールのGeek Cultureのインタビューで語っている。長年にわたりキャリアを積んできたサルマ・ハエックにとって、『エターナルズ』でヒーローチームのリーダーという役が回ってきたことにはどのような意味があったのだろうか。
全く予想していませんでしたし、なんだか泣きたくなって、とても不思議な気持ちでした。それで気づいたんです。私たちは、多くの女性は、これまで“スーパーヒーロー”というものに含まれていなかったんです。(エターナルズに)中高年の女性が含まれるということは、とても意味があることです。これはもう私だけの話ではなく、新たな時代をレペゼンするであろうこのコスチュームに身を包むことに、非常に謙虚な気持ちになっています。
確かに、MCUにはキャプテン・マーベルやワスプ、ワンダといった女性主人公のヒーローが存在するが、いずれも初登場時は20代か30代の若い女性である。中高年以上の女性ヒーローは、「アントマン」シリーズの初代ワスプの例はあるが、一線でリーダーとして活躍する主人公級の女性キャラクターとしては、エイジャックを演じるサルマ・ハエックが最年長になる。
MUCのスーパーヒーローから排除されてきた中高年女性に光を当てたクロエ・ジャオ監督。そしてそれを新たな時代を切り拓く役割として受け止めたサルマ・ハエック。MCUで初めて非白人女性の監督が指揮をとった『エターナルズ』は、確かに多様な世界のありのままの姿を映し出している。
南米系の少女の姿に「泣きそうになった」
アメリカのSF小説家キャサリン・M・ヴァレンテは、小さい頃に「スター・ウォーズ」シリーズで自分を重ね合わせられるキャラクターがいなかったことから、赤いマントを羽織ったロイヤルガードを女性だと言い張っていたと語っている。ポップカルチャーである以上、見た人が自分を重ね合わせられる存在がスクリーンの中にいるかどうかというリプレゼンテーションの問題は、常に検討されなければならない。
なお、メキシコ生まれのサルマ・ハエックは、『エターナルズ』のワールドプレミアでは、南米系の少女達がエイジャックのコスチュームに身をまとっていたのを見つけ、「泣きそうになった」と話している。それだけ自身がお手本にできる存在がスーパーヒーロー映画の中にいなかったということだろう。今はサルマ・ハエックが、南米系の女性が何歳になってもスーパーヒーローチームのリーダーになれるということを子ども達に示しているのだ。
映画『エターナルズ』では、マ・ドンソクがMCUで初めて韓国系のヒーローを演じ、ブライアン・タイリー・ヘンリーがゲイのヒーローを演じる。ローレン・リドロフが演じるのは聴覚に障がいを持つヒーローだ。セナを演じるアンジェリーナ・ジョリーは、「多くの人が初めて自分自身をスーパーヒーローと重ね合わせることになるでしょう」と語っている。
現実に生きる、より多くの人々の姿を反映した『エターナルズ』。クロエ・ジャオ監督とキャスト達が届ける新たな物語に期待しよう。
映画『エターナルズ』は2021年11月5日(金) より劇場公開。
Source
New York Post / Geek Culture
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2021年11月24日(水) にはMCUドラマ『ホークアイ』の第1話と第2話が同時に配信される。詳細はこちらから。