E.T.の声を演じたのは?
1982年に公開されたSF映画『E.T.』。宇宙人と子ども達の出会いと別れを描いた名作で、後に続く多くのSF作品に影響を与えたスティーヴン・スピルバーグ監督の代表作の一つである。メリッサ・マシスンが手掛けた脚本や、ジョン・ウィリアムズが手掛けた音楽もさることながら、『E.T.』という作品を形作った大きな要素の一つが出演キャストの面々だ。
『E.T.』に出演したキャストと日本語吹き替え版の声優は、こちらの記事に詳しい。ガーティを演じたドリュー・バリモアをはじめとする子役達のその後は、ぜひチェックしていただきたい。
同時に、『E.T.』を語る上で外すことのできない存在が、パット・ウェルシュという人物だ。映画にはクレジットされていないが、実はE.T.の声を演じた重要な人物である。パット・ウェルシュは1日2箱を吸うヘビースモーカーで、E.T.の特徴的な声は、パット・ウェルシュの地声だったと言われている。
67歳という年齢でE.T.役の声優に抜擢されたパット・ウェルシュ。『E.T.』出演までに大きな実績があったわけでもない。一体どのような経緯で、世界的な知名度を得るキャラクターの声を、彼女が演じることになったのだろうか。
カメラ屋さんでスカウト
かつて、『E.T.』の謎に迫った人物がいる。People誌のJim Calio記者だ。1982年に刊行された「People」の8月23日号で、パット・ウェルシュがE.T.役に起用された経緯を紹介している。
それは1981年の夏のこと。カリフォルニア州サンフランシスコの北部に位置するマリンで主婦をしていたパット・ウェルシュは、カメラ屋さんで写真を拡大してもらうために、店員に話しかけていた。その後ろに立っていたのは、ジョージ・ルーカスのもとでサウンドデザイナーを担当していた当時34歳のベン・バートだった。「スター・ウォーズ」シリーズでライトセーバーの音やダース・ベイダーの呼吸音を生み出した人物として知られるベン・バートは、『E.T.』でもサウンドデザインを手がけ、アカデミー音響編集賞を受賞している。
パット・ウェルシュの声を聞いたベン・ハートは、彼女を外に連れ出し、自分が何者かを説明したという。当時、ベン・ハートはE.T.の声の担当者を探していたため、すぐに彼女のためのオーディションを実施。3ヶ月後には彼女がE.T.の声を担当することに決まった。
収録は9時間半、報酬は…
声の収録は、ベン・ハートがE.T.のセリフを言い、パット・ウェルシュがそれを真似する形で実施された。E.T.のセリフのほとんどはパット・ウェルシュのものだが、E.T.が初めてエリオットを見て叫ぶシーンはカワウソの声を加工したものを、E.T.のゲップは別のスタッフのものを使用していたという。
パット・ウェルシュが収録に要した時間は9時間半で、報酬はなんとわずか380ドル。E.T.役はある意味 “主演” であり、悪い意味で破格の報酬なのだが、当時の取材では「予算が少なかったのでしょう」と皮肉を言い、「(『E.T.』という) パズルのピースになれた」と喜んでいる。
『E.T.』の翌年に公開された『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』では、パット・ウェルシュは、賞金稼ぎのブーシの声を演じた。この作品のサウンドデザイナーも、もちろん『E.T.』のベン・バートだ。チョイ役ではあるが、ベン・ハートがパット・ウェルシュを380ドルで“使い捨て”にしなかったことには好感が持てる。
1915年生まれのパット・ウェルシュは、1995年に79歳で逝去。30代で心臓の手術を受けるなど、様々な病気を抱えて人生を歩んでいたという。異星で迷子になり、病と闘ったE.T.の姿と自身を重ね合わせることもあったのだろうか。『E.T.』への出演後には、銀行業を引退した夫と共に、新しい車のナンバープレートに「I LOVE ET」の文字列を選んだという。
映画史に残る名作『E.T.』に欠かせないピースを提供した人物として、パット・ウェルシュの存在を胸に刻んでおこう。
映画『E.T.』は4K ULTRA HD + Blu-rayセットが発売中。
Source
People