『ワンダヴィジョン』なぜ二人はマーベルを代表するカップルなったのか この先、MCUに求められるものは | VG+ (バゴプラ)

『ワンダヴィジョン』なぜ二人はマーベルを代表するカップルなったのか この先、MCUに求められるものは

© 2020 Marvel

『ワンダヴィジョン』いよいよ配信開始

遂に2021年1月15日(金) より、Disney+でドラマ『ワンダヴィジョン』が配信を開始。2020年は2009年以来となるMCU (マーベル・シネマティック・ユニバース) 作品が公開されなかった年として歴史に刻まれることになったが、その分、2021年はドラマに映画に計7本ものMCU作品が控えている。そして、その第1弾として封切りされるのが『ワンダヴィジョン』であり、最終的に丸一年の延期となった『ブラック・ウィドウ』(2021年5月7日(金) 公開予定) に代わって、同作がMCUフェーズ4の先陣を切ることになった。

ドラマ『ワンダヴィジョン』は、人体実験によってスーパーパワーを身に付けた人間のワンダシンセゾイド (アンドロイドより人間に近い人造人間) のヴィジョンが結婚し、郊外の街で新生活を始めるというストーリー。だが、舞台は『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) の一年半後に設定されており、ワンダとヴィジョンの身に降りかかった展開を考えれば、このあらすじは辻褄が合わないことは明らか。予告編ではヴィジョンが「何かがおかしい」と訴えかける場面も。二人の幸せそうな生活の裏には、どんな真実が隠れているのだろうか。

マーベルを代表するカップルになったワンダとヴィジョン

ワンダとヴィジョンは、今最も注目を集めているマーベル・カップルだ。カップルの二人がタイトルとなった例には『アントマン&ワスプ』(2018) があるが、カップルというよりもヒーロー同士のタッグという側面が強い。それに同じシリーズ内で登場したアントマンとワスプとは異なり、ワンダとヴィジョンは異なるシリーズから登場したキャラクター同士だ。まさに“カップリング”という言葉にピッタリの二人なのだ。

MCU内におけるヒーロー同士のロマンスについては、どうしてもブラック・ウィドウにその要素を背負わせる風潮があった (映画『ブラック・ウィドウ』がその矛盾に一つの答えを示してくれることを期待しよう)。そんな中で、なぜワンダとヴィジョンがMCUを代表するカップルだと言えるのか、原作での設定も交えて考えてみよう。

MCUのカップルと言えば、キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャーズとペギー・カーターや、スパイダーマンことピーター・パーカーとMJなど、何例も列挙することができるだろう。だが、前述のアントマンとワスプのようにヒーロー同士がカップルになっている例は、ブラックウィドウが“便利に”使われてきた例を除くとそれほど多くはない。

MCUでも異色のカップル

ワンダとヴィジョンのカップリングが人気を集める理由は、ヒーロー同士のカップリングであることと同時に、人とシンセゾイド (アンドロイド) のカップリングであるという点が大きいはずだ。MCUにおいては、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズにおけるガモーラとピーター・クィルが異星人間のカップルだが、“人同士”であることに変わりはない。種を超えたカップルとしてはワンダとビジョンが最もSF的で前衛的な姿を見せてくれているのだ。

なお、MCU版ではワンダは人体実験で後天的にスーパーパワーを得た人間で、ヴィジョンは人格を持つアンドロイドという設定だが、原作コミックではワンダはミュータントという設定だ。「X-MEN」シリーズから登場したワンダは、人類と対立するヴィランとして登場していた。ワンダとヴィジョンはお互いに人類と自分の間に壁を持つキャラクターだったのだ。

MCUにおいては人類という設定になったワンダだが、それでもこの二人が現在のMCUにおける最も前衛的なカップルだと言える。多数派の人間とは異なる性質を持つ者同士が壁を乗り越え、共鳴し、愛し合う姿は、多くの人々に勇気と感動を与えた。おそらく全ての人間にとって唯一の共通点である“人と違うということ”を内包した二人にこそ表現できる孤独と愛が、そこにはあるのだ。

MCUはその先へ行けるか

一方で、ワンダとヴィジョンの二人がMCUを代表するカップルになった背景には、MCUが抱える性における多様性の問題も存在する。MCUでは、保守層への配慮か、常に異性愛者たちのロマンスが物語の中心に置かれてきた (ワンダとヴィジョンも含む)。キャップ (あるいはファルコン) とウィンター・ソルジャーなど、ファンが期待する組み合わせも存在するが、公式にはロマンスは描かれていない。

唯一MCUにおいてセクシャルマイノリティのロマンスに言及されたのは、『アベンジャーズ/エンドゲーム』冒頭の集団カウンセリングのシーンで、カメオ出演したジョー・ルッソ監督が恋人について語るゲイの男性を演じた場面だけだ。ジョー・ルッソ監督はこのシーンについて「(MCUで) 4つの作品を撮る中で、どこかでゲイのキャラクターを出すことが、私たちにとっては非常に重要なことでした」とHollywood Reporterに語っているが、決してセクシャルマイノリティのキャラクターにヒーローとしてメインの役割を担わせたわけではなかった。

それでもMCUでは、セクシャルマイノリティによるロマンスが描かれることが明らかになっている『エターナルズ』(2021年11月5日米公開予定) や、公式にバイセクシャルであると発表されているヴァルキリーが中心的な役割を担う『マイティ・ソー/ラブ&サンダー (原題: Thor: Love and Thunder)』(2022年5月6日米公開予定) の公開が控える。

もちろんこの世界はロマンスが全てではなく、セクシャルマイノリティがいつもロマンスと共に語られる必要はない。恋愛至上主義の価値観を乗り越えたロマンスのない物語も存在して然るべきだ。一方で、これだけ多くの異性愛者の (特に白人の) カップリングを描いてきたMCUでは、今後多様なロマンスを描いていかなければ割が合わない。ジョー・ルッソ監督も度々“リプレゼンテーション”という言葉を口にしている通り、まずは観る人が登場人物に自分を重ね合わせられる多様な表象を十分に確保しなければならない。

SF的な想像力で、AIとして生を授かった存在と自ら超人的な力を手に入れた人間との愛を描いたMCU。その先駆性には、私たちが現実社会で今感じている違和に向き合うだけの力も宿っているはずだ。ワンダとヴィジョンを“超える”カップルの登場を楽しみにしつつ、ドラマ『ワンダヴィジョン』がどのような新しいビジョンを提示してくれるのか、注目しよう。

『ワンダヴィジョン』は2021年1月15日(金) より、Disney+で独占配信。

Disney+

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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