実写ドラマ版『ラスアス』第2話はどうなった?
全世界で200以上のアワードを受賞したことで知られるゲーム『The Last of Us』(2013)。10年の時を経てHBOによって実写ドラマ化され、日本でも2023年1月16日(月) よりU-NEXTで第1話の配信を開始した。
第1話では、ゲームを忠実に再現する心意気とドラマならではの魅せ方で世界的に高い評価を受けている。第2話ではどんな“アダプテーション”が行われたのだろうか。今回も各シーンを原作ゲームと比較しながら解説していこう。なお、以下の内容はネタバレを含むので、必ずU-NEXTで本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『THE LAST OF US』第2話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
第2話「感染」ネタバレ解説&あらすじ
パンデミックの始まり
「感染(Infected)」というシンプルなタイトルが付けられたドラマ版『ラスアス』第2話は、原作ゲーム版のクリエイティブ・ディレクターであるニール・ドラックマンが自ら監督を務める。第1話では、ドラマ『チェルノブイリ』(2019) のクレイグ・メイジンが監督を務め、脚本はドラックマンとメイジンの共同脚本で制作された。第2話ではドラックマン監督、メイジン脚本の体制になる。
第1話で20年後まで進んだ実写版『ラスアス』だったが、第2話の冒頭では一転して2003年のジャカルタまで舞台は巻き戻る。日付は9月26日で、第1話冒頭のジョエルの誕生日の二日前ということになる。第1話では、ジャカルタで混乱が続いていることがリビングのラジオで報じられていた。
第2話は、ジャカルタでラトナ教授というインドネシア大学の菌類学の教授が警察に連行されるシーンから始まる。これは原作ゲームになかったシーンで、パンデミックの背景を詳細に描くという前話の流れを踏襲している。
菌類の試料(サンプル)を見たラトナ教授は、それが「オフィオコルジセプス属」だと指摘する。ゲーム『The Last of Us』で人を乗っ取る菌類のコンセプトは、昆虫に寄生して発芽する冬中夏草の生態を参考しているが、冬中夏草はオフィオコルジセプス(オフィオコルジケプスとも)科にあたる。
冬中夏草が昆虫ではなく人体に寄生した例が発見され、その足首には他の人間から噛まれた跡がある。ここからラトナ教授による解剖が始まるのだが、このシーンのホラー演出が恐ろしいほどに巧い。視聴者からすれば死体がいつ動き出し、噛み付いてくるか分からないという緊張感の中で、教授に死体の口を開けさせるという、(良い意味で)見てられない演出になっている。
元気にうねうね動く菌と対面した教授は、この菌が約30時間前に製粉工場で見つかったことを聞かされる。行政の動きはかなり迅速なようにも思えるが、3人の工場職員が人を襲い始め、噛んだ人間と噛まれた人間は始末されたものの、元の感染者は不明で工場職員14人が行方不明だという。ティーカップを持っていた教授の手が震える様子は、パンデミックが始まる時の恐怖を端的に表している。
教授はワクチンか治療薬の開発への協力を依頼されるが、教授は「治療薬もワクチンもない」という見解を述べると、ジャカルタの街を爆撃するよう告げる。感染が広がる前に燃やし尽くすしかないというのだ。このシーンから前回と同じオープニングにつながるのだが、教授の助言も虚しく、菌類によるパンデミックが広がっていったことを表現しているようにも見える。
実写版『ラスアス』は、第2話でも冒頭ではパンデミックがどこから始まったのかというところに焦点を置き、更に「治療薬もワクチンもない」と専門家に言わせることで絶望的な状況であることを視聴者に知らせている。それにしても、ジャカルタでの“発生”から約3日でテキサス州オースティンでの発症に至っているのだから、ものすごい感染力である。おそらくジャカルタを爆撃しても間に合わなかったのではないだろうか。
なお、オースティンには国際空港がある。第1話で上空から飛行機が落ちてきたのは、まだ検査体制もままならない中で飛行機の乗客か乗員が発症して機内がパニックに陥り墜落したものと予想できる。
期待しないジョエル
ドラマ『ラスアス』第2話は、前回のラストで陽性が確認されたエリーへのジョエルとテスの不信感が物語の軸になる。テスはこの運び屋の任務に可能性を見出しているが、ジョエルは「幻想を抱くな」と希望を抱かないようにしている。娘のサラを失った過去に起因するものだろう。期待して再び失う経験をしたくないのだ。
冷静なテスは、自分たちに利があれば仕事をするが、今はエリーの価値が分からない、とエリーを守る理由を与えるように要求する。ファイアフライの拠点で治療薬の開発が行われているというエリーの説明に、ジョエルが「よく聞くホラ話だ」と突き放すのはゲームと同じ。英語では「ワクチンに奇跡の治療、何も実現しなかった」と言っている。
パンデミックから20年間、何も進展がないのだとすれば、かなり厳しい状況にあることが分かる。その中でもファイアフライは、闇の中で希望を失わずに治療薬の開発を続けているのだ。
なお、ゲームではこのシーンは検問から逃げた直後の夜の雨の中で行われる。ドラマ版ではかなり尺をとってジョエルの苛立ちやテスの気遣い、エリーの気の強さが細やかに描かれている。テスはジョエルに、いずれにせよ報酬のために仕事を受けることを説得。テスが銃を求めたり、棚をどけて次のステージに進むのはゲームと同じだ。
ダウンタウンステージ
一行が進むのは、議事堂へ向かう道中のダウンタウンステージ。隔離地域の外は爆撃されたために廃墟になっていることが明かされている。字幕では省略されているが、テスは「ほとんどの大都市は感染を遅らせるために爆撃された」と語っている。教授が言った通り、有効な対策は爆撃しかないという結論に至ったのだろう。
ゲームでは都合良く(悪く)道が塞がれていたり崖になっていたりして進む道を誘導されるようになっているが、リアリティ重視のドラマではそういうわけにもいかない。“近道は危険”というセオリーを使って行く道を決め、「安全確認のため」とホテルに向かうことにする。
道中でエリーがモールで噛まれたという話をするのはゲームと同じ展開(ゲームではビル内での会話だが)。しかし、ゲームとの違いは、テスがエリーにモールに一人で行ったのか聞くことと、14歳という年齢を確認する点だ。モールの話は2014年に配信され、PS4版には本編と共に収録されている追加エピソード「Left Behind ‐残されたもの‐」で描かれている。ドラマ版も描かれることになるだろう。
更に、エリーは噂で聞いた感染者の話をする。ここでは、胞子を撒き散らすブローターや、目が見えないが暗闇でも対象の位置を把握できるクリッカーといった、段階が進んだ感染者の登場が示唆されている。
ジョエルに突きつけられた問い
浸水したホテルでは、エリーが「泳げない」と言い出したり、カウンターで「スイートに泊まりたい」「荷物をお運びします」と一人芝居を始めたりするシーンが再現されている。ただし、ゲーム版ではホテルステージは中盤のピッツバーグで登場する。この辺りの順番は、エリーの子どもっぽい一面を早めに見せておくために入れ替えたと思われる。
開かないドアを開けるためにテスを登らせて高所に回り込んで開けてもらうというのは、ゲーム版の再現だ。ゲームではジョエルはテス&エリーと逸れてしまうが、ドラマではジョエルとエリーを二人きりにしてコミュニケーションを取らせている。ここでジョエルはテスがミシガン州デトロイトの出身であることを明かす。これは原作では明かされなかった設定だ。
自分への質問を拒むジョエルだが、20年も生き続ける感染者もいることを明かす。エリーは、元人間を殺すということが辛くないのかと尋ね、その行為に対する倫理を問う。昨晩とどめをさした兵士は感染していない人間だ。ゲーム『The Last of Us』は、菌類に乗っ取られてゾンビ化した感染者だけでなく、行く手を阻む人間も相手にするという点が特徴だった。このシーンではテスが到着したために、その問いに対する答えは出さずに次へと進んでいく。
クリッカー登場
ホテルの屋上から見えたのは、這いつくばる大量の感染者だった。根を張る菌糸を踏めば他の感染者に位置を知られるという設定を取り入れ、ドラマ版ではまた進む道を選んでいくことになる。そこでジョエルが選んだのは博物館を通るルートだ。
博物館は続編のゲーム『The Last of UsⅡ』で登場したが、そちらは恐竜と宇宙博物館になっており、ドラマ版は歴史博物館になっている。そこで感染者に襲われたと見られる人間の死者を見つけた一行は、一切音を出さずに進むことに。前回も登場した感染第一段階の“ランナー”から受ける傷は噛まれた跡だけだが、それ以上の殺傷能力がある感染者の存在が示唆されている。
第1話より明らかにホラー度が上がった第2話は、崩壊していく博物館の中で感染第二段階の“クリッカー”と遭遇するシーンがハイライトの一つだ。ジョエルはエリーにクリッカーは目が見えないことをジェスチャーで伝えている。
クリッカーは「カカカッ」というクリック音を鳴らすことからクリッカーと呼ばれており、顔面からキノコが生えているため目が見えない。その代わりに聴力が発達していることから、ステルス行動がクリッカーに遭遇した時の基本になる。
エリーの呼吸音で位置がバレた一行はクリッカーとの戦闘になるも、ジョエルの軍隊仕込みのコンバット能力とテスの機転によってなんとか難を逃れる。一方でジョエルはクリッカーに襲われた時に、発症しないエリーが身代わりになり噛まれて助かっていた。
それでもエリーの感染を心配するジョエルに、テスは苛立っていた。事情があることは明白だ。「たまには成功を信じて」と、テスのもとへ行くよう勧めると、ジョエルはエリーと共にビルの屋上から遠くに見える州議事堂を眺める。このシーンでは、ゲームの光景とセリフ、音楽が完全に再現されている。木の板の橋は最初からかけられていたことになっているが、三人が渡る順番もゲームと同じである。
テスの言葉
三人は州議事堂に到着。ドラマでは、ゲームの州議事堂前が水没している設定はなくなっている。原作ではここでエリーが泳げないことを明かす展開になっていた。原作と同じく、議事堂の中ではファイアフライは全滅していた。
らしからぬ焦りを見せ、この場に残ると言い出したテスは、先ほどのクリッカーとの戦いで噛まれて感染していた。ゲームと同じく首の右の根本を噛まれたテスは傷口からただれが広がっていたが、エリーの傷口は治癒に向かっている。テスは自分を捨ててエリーを連れてビルとフランクの元へ向かうようジョエルに告げる。
そして、ゲームになかったテスのジョエルへの言葉は、自分たちの罪も含め「全てを正す」よう求める言葉と、「救える人を救って (Save who you can save.)」という言葉だ。前者は人類に対する責任であり、気温上昇が発端となった作中のパンデミックを対象としたもので、後者は娘のサラを救えなかったジョエル個人を対象とした言葉だと考えられる。
ゲーム版では軍(FEDRA)がやってきてテスが防衛線を張るのだが、実写ドラマ版では菌糸の伏線を活用し、街中の感染者の菌糸が議事堂の感染者と繋がることで感染者の大群が街から押し寄せる。原作とは異なり、ゾンビパニックの中でテスは最後を迎えることになる。
菌糸によって完全に乗っ取られる前に、ガソリンをまいて感染者もろとも自爆したテス。この場面は、ジッポライターに火が着かないという典型的な展開でありつつ、死を覚悟しているテスが最後まで諦めずに希望を繋ぐ印象的なシーンになっている。
爆発した議事堂を見送り、ジョエルは歩みを進めるのだった。救える人を救い、全てを正すために。
ドラマ『ラスアス』第2話感想
ドラックマン堂々の監督デビュー
実写ドラマ版『THE LAST OF US』第2話は、オープニング前のイントロを除けば、ほぼ原作ゲーム通りのストーリーラインだった。第2話で全体の9分の2が終わったところだが、原作ゲームとほぼ同じペースで進んでいるのではないだろうか。
一方で、原作ゲームを手掛けたニール・ドラックマンが監督を務めた第2話では、原作にも増してホラー要素が強くなっていた。ゲームで出来なかったホラー表現をドラマ媒体で楽しむように実現している印象だ。冒頭の死体のシーンや、ラストのテスの自爆シーンなどはその最たるもので、ドラックマンの映像監督としての技量も披露されている。
ニール・ドラックマンは、『ラスアス』と同じくノーティードッグが手がけたゲームが実写化されたトム・ホランド主演の映画『アンチャーテッド』(2022) に製作総指揮として参加したが、監督を務めるのは今回が初。今後は映像作品での活躍にも期待したい。
共感から生まれる想像力
第2話で注目したいのは、感染拡大の初期段階の様子が描かれたことだ。パンデミックを経験した私たちにとっては他人事ではなく、パンデミックを抑え込むことの重要性とその難しさはよく分かる。
視聴者には恐怖する教授への共感を抱かせつつ、現実のパンデミックを凌ぐ危険性と対処法のコストを示し、気候変動による未知のパンデミックの可能性に対する警鐘を鳴らす作りにもなっている。経験したことの恐怖と経験したことのない脅威を地続きのものとして示すことで想像力を養う、SF作品のお手本のような脚本だ。
ジョエルとエリーの物語の方は、テスを介してコミュニケーションが取れていた二人が残されてしまうことに。ゲームと違い、ドラマではジョエルはテスから“遺言”を受け取った。より人間ドラマに重きを置いた実写版では、こうした人々の言葉がジョエルの中に残っていくのだろう。
ここで初めて「The Last of Us=残された私たち」となったジョエルとエリー。第3話はいよいよビルの登場回になりそうだが、次回はどこまで描かれることになるのか、また、パンデミックの背景にフォーカスした描写はまだあるのか、次の配信を楽しみに待とう。
ドラマ『THE LAST OF US』は2023年1月16日(月)よりU-NEXTで独占配信。
原作のゲーム『The Last of Us』はPS5リメイク版が発売中。
『The Last of Us』と続編『The Last of Us II』はPS4でも発売中。
ドラマ『THE LAST OF US』第3話のネタバレ解説はこちらから。
第1話のネタバレ解説はこちらから。
シーズン2についてはこちらの記事で。
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