シーズン4第6話ネタバレ解説『ザ・ボーイズ』衝撃のラスト。民営刑務所とフェデラリスト協会の闇 あらすじ&考察 | VG+ (バゴプラ)

シーズン4第6話ネタバレ解説『ザ・ボーイズ』衝撃のラスト。民営刑務所とフェデラリスト協会の闇 あらすじ&考察

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『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話はどうなった?

Amazonプライムビデオのドラマ『ザ・ボーイズ』(2019-) は2024年6月よりシーズン4の配信がスタート。腐敗したスーパーヒーロー達とその被害者である一般人達の戦いを描いた人気シリーズもクライマックスを迎えている。

『ザ・ボーイズ』はシーズン5でフィナーレを迎えることがすでに発表されている。そんな中、全8話で構成されるシーズン4もあっという間にラスト3話を迎えている。今回は『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話をネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容は本編のネタバレを含むので、必ずAmazonプライムビデオで本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

また、本作は視聴対象が18歳以上の成人向けコンテンツになっている。露骨な残虐描写や流血描写、性描写が含まれるので、注意していただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話の内容に関するネタバレを含みます。

『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話「汚れ仕事」ネタバレ解説

ヴァーノン刑務所と民間経営

ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話は、前回ブッチャーが拉致したサミール・シャー博士にウイルスを作らせようとするシーンで幕をあける。ブッチャーはヒツジの頭を回収しており、それを元にウイルスを作るようサミールに迫理、非協力的なサミールにブッチャーは協力すれば車いすラグビーができるようにしてやると告げている。ちなみに東京パラリンピックで車いすラグビーの金メダルを獲得したのはブッチャーの出身国のイギリスで、日本も強豪国として知られる。

ブッチャーはジョー・ケスラーと共にサミールを拷問するが、急に咳き込んでしまう。ブッチャーの死期が近いのも確かだが、この前にヒツジの頭を出しているので、以前Vを注入したことがあるブッチャーにもウイルスの効果が出たのではないかと心配になる。いずれにせよ健康に問題があるブッチャーは、一週間でウイルスを完成させるよう指示するのだった。

ヒューを看取ったヒューイとダフネは、ニューヨークで『メイド・イン・マンハッタン』ツアーに参加していた。『メイド・イン・マンハッタン』は2002年にアメリカで公開された映画で、ロケ地となったベレスフォード・ホテルにヒューイはヒューの遺骨を撒いている。だが、二人は同作が酷い映画だということで意気投合。ダフネとの仲は好転したようだ。

一方のキミコは前回フレンチーが相談なしに自主したことで落ち込んでいた。さらにアニーは道端で「中絶は殺人だ」と罵倒されてしまう。ヒューイもダフネも味方でいてくれるのは心強いが、キミコは身内の問題、アニーは外部からの批判という問題を抱えている状態がシーズン4第6話の冒頭でも強調されている。

キミコはヴァーノン刑務所へ。この刑務所の看板を見ると、「VernonCorp LLC」という企業が運営する民間刑務所であることが分かる。テックナイトの本名はロバート・ヴァーノンで、犯罪捜査番組に出演しているテックナイトのサイドビジネスが民間刑務所の運営であることが示唆されている。事件の検挙率が上がれば儲かる仕組みというわけだ。

ちなみに米国における刑務所のうち民営の刑務所は数%に過ぎないが、再犯率の高さや環境の悪さから、米民主党はオバマ政権時代から段階的な民営刑務所の廃止を目指している。教育や医療、水道など人の心や命に関わる分野は、国が一定の関与を行わなければ取り返しのつかないことになるというのは、新自由主義による規制緩和の時代を経て得られた教訓だ。

ところが、前回の選挙では民営刑務所の企業がトランプ大統領候補に多額の献金を行なっており、トランプ前大統領は民営刑務所廃止を目指すとしたオバマの大統領令を取り消している。廃止の方針はバイデン大統領によって復活したが、テックナイトと民営刑務所を結びつけることで、保守派と民営刑務所の癒着という問題をあぶり出しているというところで、『ザ・ボーイズ』の細やかさが光る。

フェデラリスト協会と中絶規制

キミコがフレンチーから面会を拒否された一方、ヴォート・ニュース・ネットワークのニュース番組ではファイアクラッカーが司会を勤めている。前回Aトレインのスパイ容疑の濡れ衣を着せられ、リンチされたキャメロン・コールマンは“休暇”ということになっているが、戻ってこられるのだろうか……。

ニュースの内容はユダヤ陰謀論という劣化具合。ジェリー・ブラウンランド研究所の名前が挙げられているが、ジェリー・ブラウンはトランプ前大統領と対立して親中路線をとった前カリフォルニア州知事で、ランド研究所は陰謀論によく用いられる米国のシンクタンクだ。映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964) でドクター・ストレンジラブが働いていた“ブランド研究所”のモデルとされている。

強迫性障害があるMMはオフィスで瞑想を始めるが、トロントに逃げているというAトレインから電話がかかってくる。話を聞いたMMはザ・ボーイズを緊急招集するが、コールマンが殺されたことよりも、ホームランダーが軍隊のように能力者を集めていたことが問題だという。テックナイトとセージは密談しており、何らかの計画が動いていることが予想できる。

MMは、今夜テックナイトの屋敷にフェデラリスト協会の面々が集まるという情報を掴んでいた。フェデラリスト協会とは約40年前、女性の中絶の権利を保護したロー判決の後に結成された保守派の法曹団体で、最高裁判事の過半数を保守派にしてロー判決を覆すことをミッションとしてきた。結果、最高裁判事9名のうち6名が保守派、3名がリベラル派となった2022年6月、ドブス判決によって中絶を女性の権利として認めたロー判決が破棄されることになり、各州が州法で中絶を禁止できるようになった。

そこに潜入しようというMMの提案に、中絶を経験したアニーが躊躇いながらも珍しく「ブッチャーが必要」と言ったのは、そうしたフェデラリスト協会をめぐる歴史的な経緯があるからだろう。今の状況では、フェデラリスト協会は考えうる最悪の相手である。

オルタナ右翼の巣窟に乗り込む手段としてMMが用意していた案は、ウェブウィーバーを使うことだった。原作コミックでスパイダーマンのパロディーキャラとして登場するウェブウィーバーは、シーズン4第3話のゲーム画面に登場。続くシーズン4第4話では、ブッチャーが5万ドルを使ってウェブウィーバーからファイアクラッカーを脅すネタを手に入れていた。

この時ブッチャーは「ウェブウィーバーの肛門に消えた」「ヘロイン浣腸」という言葉を用いていたが、その意味がシーズン4第6話で明かされることになった。ウェブウィーバーはブッチャーの情報源として働いており、その見返りにブッチャーから薬物を受け取っていたのだ。そして、カットされたかと思われていた「ヘロイン浣腸」をMMがウェブウィーバーにやることに。

だが、これは麻酔薬で、MMとヒューイはウェブウィーバーのコスチュームを盗み出すことに成功する。『ザ・ボーイズ』では意外と少ない完全覆面のキャラクターを利用して潜入に挑むことになる。それにしてもウェブウィーバーがワンルームのアパートでボロボロの生活をしているという設定は、貧しいヒーローの代表であるスパイダーマンを“誇張”した演出なのだろう。

スレーブ・キャッチャー、CPAC、修正25条

テックナイト邸の集会には、ホームランダーとライアン、Aトレインにファイアクラッカー、そしてセージも参加している。ホームランダーはおべっかを使ってくるテックナイトを突き放しており、ヒーローとしては認めていない様子。セージはセージでテックナイトに招待されたアシュリーにキツく当たっている。ヴォートも一枚岩ではないというところがザ・ボーイズにとっては勝機になるかもしれない。

ファイアクラッカーはテックナイトの豪邸に感激しているが、テックナイトはヴァーノン家11世代の財産だと言う。テックナイトの先祖は「逃げた奴隷を捕らえて財を成した」と話しているが、これは奴隷制の時代に存在した“スレーブ・キャッチャー”という職業のことを指している。スレーブ・キャッチャーは逃げた奴隷を捕まえることを仕事にしており、ヴァーノン家は代々“捕えること”をビジネスにしてきたのだ。

シーズン4第3話では、ファイアクラッカーは貧しい育ちであることが示唆されており、劇中で何度か「White Trash = 貧しい白人」とも呼ばれている。セブンに入り、テレビに出てリッチになることに憧れを抱いたファイアクラッカーには、事実上の階級制度という壁が突きつけられている。更にテックナイトはAトレインに、「祖先もAトレインがいたら困ってただろう」と、いまだに黒人のAトレインを奴隷側の人間として扱っている。これは嫌われるわ。

ヒューイはウェブウィーバーのコスチュームを着て登場。MMはテックナイトのスーパーパワーが嗅覚・視覚・味覚・触覚といった五感が研ぎ澄まされていると明かす。ヒューイが館に入ると、その後ろ姿が確認できるが、お尻のあたりに穴が空いていることが分かる。ウェブウィーバーはお尻の少し上から糸を出すからだ。

ウェブウィーバーはどうやらサイドキックのテストのために招待されたようだ。ヒューイはこの集まりにニューマンがいることも確認。そのニューマンはセージとホームランダーに「保守主義者ばかりでまさに悪夢」と漏らしているが、英語では「CPAC nightmare(CPACの悪夢)」と言っている。CPACとは保守主義活動家集会(あるいは協会)のことで、保守派が集まる大きなイベントだ。

日本でも、日本保守連合が米国の保守連合と連携してCPAC Japanを開催している。幸福実現党初代党首であり日本保守連合議長のあえば浩明が実行委員会のメンバーに入っている他、第1回大会に落合陽一、第2回と第3回に甘利明らが参加している。

そして、ホームランダーとセージはGDPの38%を占める大富豪が集った今夜の集会で、クーデターの計画を発表すると言い出す。セージは「修正25条の発動には不可欠」と言っているが、修正25条とは、大統領が職務の遂行が不可能と判断した場合に副大統領が大統領になることを定めた憲法の項目である。この条項はケネディ暗殺後に制定された。

現実では、2021年に一部のトランプ支持者が連邦議会を占拠した際、当時のトランプ大統領がこの襲撃を煽ったとして、修正25条を発動するべきではないかという議論が共和党内で起きた。つまり、大統領として職務を執行する能力がないと判断して副大統領に権限を移行するということである。

この時点でトランプの大統領としての任期は2週間しかなく、修正25条の発動は実現しなかったが、『ザ・ボーイズ』シーズン4はロバート・シンガーの大統領就任直後に修正25条を発動するという逆のパターンが描かれている。現実におきた事件をベースにしていることは間違いないだろう。

ここでホームランダーは、前回登場したスタン・エドガーの件を口にする。前話のラストでは刑務所に戻されるエドガーをニューマンが助けており、世間的には行方不明ということになっているようだ。エドガーを釈放させたのはザ・ボーイズだが、刑務所に戻さなかったのはニューマンだ。ニューマンはホームランダーに真実を明かしておらず、エドガーの存在はニューマンの切り札になりそうだ。

バットマンパロディ満載のテックナイト

ヒューイ/ウェブウィーバーを案内するテックナイトは「だからサフディ兄弟に頼むことにしたんだ。もうPG-13は嫌だってね」と言っているが、サフディ兄弟は映画製作者で、弟のベニー・サフディはエドワード・テラー役で映画『オッペンハイマー』(2023) にも出演している。ヒューイが「ランの絵がいいね、壁に飾ってる」「たくさんの本がある書斎だ!」といちいち言っているのは、通信を繋いでいるザ・ボーイズメンバーに居場所を知らせるためだ。

また、テックナイトは『アンクル・トムの小屋』(1853) の初版を自慢している。同作は白人奴隷主と黒人奴隷の友情を描いた小説だが、現代では白人にとって都合の良い物語と受け止められており、“アンクル・トム”は“白人に媚を売る黒人”の代名詞となっている。

そしてテックナイトは、隠し扉の向こうにある“テックケイブ”へとヒューイを案内する。前回の解説記事公開後に読者の方からご教示いただいたのだが、テックナイトはバットマンをモデルにしている。今回明らかになった金持ち設定もバットマンが大富豪の白人であることを揶揄する演出だろう。テックナイトの一族が広義の“セキュリティ”の事業を担っているという点も、バットマンことブルース・ウェインが街を“監視”していることと重ね合わせているのだろう。

そして、バットマンといえばその秘密基地の名前は“バットケイブ”であり、テックナイトも“テックケイブ”を持っているというかなり直球なパロディとなっている。しかし、テックケイブはスーパーヒーローが出動するための秘密基地ではなく、拷問器具が並べられたハードSM用の秘密基地だった。

テックナイトは、黒人の執事イライジャを紹介。両親を失ってからはイライジャに育てられたといい、これもバットマンにとってのアルフレッド・ペニーワースを想起させる。テックナイトはイライジャを「父も同然」と言いながら、イライジャはテックナイトを「マスター」呼びだし、テックナイトはイライジャの掃除の仕方について激昂するわで、奴隷主と奴隷のような関係だ。

そして、テックケイブにはラディオというサイドキックが繋がれている。テックナイトに嘘をついたことで罰せられているらしい。サイドキックがいるのもバットマンを模した設定だが、テックナイトの下では皆が主従関係になってしまう。ちなみにラディオは原作コミックでもテックナイトのサイドキックだ。

現実はドラマより奇なり

ヴォートタワーではマスクを外した新人ブラック・ノワールがホームランダーの席で酒を飲んでいる。顔を見せているのはこれまでのシーズンでもオリジナルのブラック・ノワールを演じていたネイサン・ミッチェルで、新人ブラック・ノワールと一人二役を演じている。注意してくるディープに対し、新人ブラック・ノワールは「ブラック・ニンジャって何だ?」と愚痴を漏らす。

先代が残したのは「バスター・ビーバーの絵」だけだと言っているが、これはシーズン3第7話でブラック・ノワールの幻覚で登場したアニメのことだ。新人ブラック・ノワールはもうセブンを辞めるつもりのようで、ミズーリで「シルク・ドゥ・ヴォート」を見ると言っている。元ネタはもちろん世界樹で舞台公演を行なっているシルク・ドゥ・ソレイユだ。ちなみにシルク・ドゥ・ソレイユはコロナ禍の興行成績悪化によって経営破綻して会社更生に入っていた。先日、テレビ&映画業界への参入が報じられたばかりだ。

ディープは先代のブラック・ノワールがインドネシアでのヴォートの農場拡張のために地元民を殺し、それに性的快楽を覚えていたと話す。加えて、自分を笑う奴を痛めつければ敬意示す、「暴力は力だ」と言い、最悪の先輩による新人研修が行われる。残念な職場に来てしまったものだ。

通信が途切れたヒューイを心配するアニーは館への潜入を決意。MMはハロタンを持っていくと言っているが、ハロタンはシーズン4第3話でブッチャーがライアンに使おうとしていた麻酔薬だ。そのブッチャーはドロッドロの血を吐いて満身創痍という状況。幻覚のベッカは、ブッチャーに無実のサミールの足を切り落としたことの罪を問う。

ブッチャーは「血まみれの世界を救うには流血も必要」と反論するが、ベッカは、それはホームランダーと同じ行動だと批判する。やはりブッチャーとホームランダーは表裏一体なのか。ホームアンダーにはないベッカという最後のブレーキで、ブッチャーは踏みとどまれるか。

保守派の男性との会話に臨んだニューマンだが、「性暴力を受けた女性の身体は妊娠を拒絶する」というトンデモ論を聞かされる。『ザ・ボーイズ』流のボケだと思う人もいるだろう。だが、この発言は2012年にトッド・エイキンという共和党議員が実際に行ったものだ。地元テレビのインタビューで、性暴力を受けた女性の中絶も禁止するのかという質問に答えた時のもので、「女性の体には全てを拒絶できる仕組みがある」と発言、のちに失言だったと認めている。

流石のニューマンも自分の頭が爆発する想像をしてしまうほどとんでもない発言だが、現実になされた発言なのだから恐ろしい。ニューマンはこんな連中と仲良くはなれないと話すが、セージは11歳の時に白血病の祖母を助ける方法を見つけたが白人の医者たちからは笑われるだけで助けることができなかったと話す。二人は「話を聞いてもらえない少女の気持ち」を共有すると、権力を持った人間たちに取り行って喉を切り裂く、そのための仕事に取り組むことを確認するのだった。

そこに現れたファイアクラッカーは、会場で出される高級な食べ物が口に合わない。セージには安いカクテルを勧められ、ホームランダーからも立ち去るようアイコンタクトを送られる。セージ、ホームランダー、ニューマンという並びは、インテリ、暴力、政治家という並びであり、叩き上げのファイアクラッカーはそこに入ることができないでいるのだ。

テックナイトのSMプレイ、流れている音楽は?

テックナイトはチェーンで自分で首を絞めるとヒューイにチョコレートケーキの上に座って尻に刷り込むよう指示する。テックナイトよりもこんなことが思いつく製作陣が恐ろしい。そこにアシュリーが現れ、ヒューイはテックナイトから尻を拭くよう言われるが、この時渡されているのは紙やすりである。想像するだけで恐ろしい。

このシーンで流れている曲はジェリー・ラファティの「霧のベイカー街(Baker Street)」(1978)。曲の舞台になっているベイカー街はシャーロック・ホームズが住んでいた場所で、テックナイトがMMから「ホームズ並みの五感を持っている」と称されていたことに因んだ選曲だと思われる。

ブッチャーはジョー・ケスラーと口を割らないサミールについて話している。ケスラーは戦地から戻った後、平凡な日常が苦痛で、戦地で拷問をして殺した相手の顔を忘れることはなかったという。そしてある夜、本当の自分は拷問を楽しんでいた自分だと気付いたと話し、ブッチャーに「本当の自分」を問う。ベッカとは対照的な悪友だ。

ヒューイは木馬に括り付けられると、アシュリーからSM攻撃を喰らう。本当にやめてもらうにはセーフワードを言わなければならないが、ヒューイにはそれが分からない。SMプレイをする時は、「やめて」という言葉が本気のものかどうか判断できないため、事前に合言葉を決めておくのだが、ウェブウィーバーに知らされているセーフワードがわからないため、「クモの巣」「タランチュラ」などと当てずっぽうで叫んでいるのだ。

流れている曲はクリストファー・クロス「Sailing」(1979)。「すべての言葉はシンフォニー」と、この状況に対して皮肉な歌詞が歌われている。

階級の壁を越えられないファイアクラッカーは、鏡の前で笑顔を作って会場に戻ろうとするが、ここでアニーと出会してしまう。するとアニーは意外にも謝罪を始める。スターライトとアニーは別人格だと思おうとしたけれど両方とも自分だった、ファイアクラッカーにひどいことを言ったのは自分で、他の子にも同じように言った、ファイアクラッカーも許されないことをしたけれど、自分も許されないことをしたと全てを素直に認めるのだった。意外な言葉に隙ができたファイアクラッカーにアニーはハロタンを打って倒す。任務遂行のために倒す必要はあったが、アニーの言葉は本心だろう。

ヒューイの方は、セーフワードが分からず、アメリカ黒人の英雄ジョン・ヘンリーの名前を叫んでいる。最後は達したアシュリーの体液をマスクに塗られるなど散々な状況。この時流れている曲はアメリカ「風のマジック(You Can Do Magic)」(1982)。「望むものはなんでも手に入る」という歌詞ではテックナイトの全能感が表現されているが、「呪文を唱えれば好きなようにできる」という歌詞は、セーフワードを求められているヒューイの状況に重なる。

セーフワードが言えず、震えていることを見抜かれたヒューイは、「一番好きなもの」というヒントをもらうが、「ローション?」と答えて不正解を出してしまう。ここでテックナイトはウェブウィーバーのマスクをとって正体がヒューイであることを暴く。ヒューイは小さい頃テックナイトに憧れていたと話しているが、前話での父ヒューとの思い出話でもその件には触れられている。

テックナイトはスピンオフドラマ『ジェン・ブイ』(2023-) で穴という穴に挿入してしまう癖が明かされている。ここでテックナイトはヒューイの身体に突っ込むための穴を開けようとする。木馬に括り付けられているヒューイは絶体絶命の状況だ。

「マルキ・ド・サド」の意味は?

そのヒューイを助けに向かっていたのはMMとキミコ。ヒューイが無線でわざとらしく話していた「ランの絵」などのヒントを元にテックケイブへと近づいていく。書斎でセージに出くわすと、MMは娘のジャニーヌのことを話題に挙げられる状況にキミコがケーブの入口を探そうと本を落としていく音が相待ってパニックになり、動き出したセージの頭を撃ってしまう。

キミコが見つけた秘密のスイッチになっている本は、マルキ・ド・サドの『ソドム百二十』(1785) で、性倒錯と拷問が描かれた小説だ。ちなみにSMのSに相当する「サド」「サディスティック」という言葉はこのマルキ・ド・サドの名前からとられている。

強迫性障害を持っているMMはパニックを起こして倒れると、キミコはAトレインを部屋に連れてくる。すでにセージの姿はないが、セージは脳を傷つけても回復することが明かされており、唯一攻撃されても大丈夫なところが頭なのだろう。

キミコは本のタイトルを駆使してAトレインにMMを病院に連れていくよう頼む。最後は「彼の娘のために」という本のタイトルをAトレインに突きつけるて、Aトレインの良心を動かすのだった。この本はおそらく作中のオリジナルの書籍で、表紙には「ゴドルキン大学ベストセラーシリーズ」というマークが入っている。

身体に穴をあけられそうになっているヒューイの前にアニーとキミコが到着。キミコのドロップキックでテックナイトは倒されることに。一方のAトレインはMMを病院に連れ行ったことで、そこにいた黒人の少年から憧れの眼差しを受けることになる。同じ黒人を助けた黒人ヒーローの姿に感動したのだ。だがその少年とMMよりも救われたのはAトレインの方だろう。ヒーローとして受けた眼差しに純粋な笑顔を見せると、そのばをさるのだった。Aトレイン、毎エピソード良くなっている。

突きつけられる現実

脳にダメージを受けたセージは、ロボトミー手術を施した時と同じ状態になっており、使い物にならなくなっていた。この状況にホームランダーは「自分でやるしかない」と決意する。助けが得られないなら一度引くのも手なのだが、全部自分でやろうとするはホームランダーらしい。

ホームランダーは会場でスピーチを始め、ボブ・シンガー大統領への謀反計画について有力者たちに話しだす。シンガーを「意識の高い連中の奴隷」と表現しているところは、英語で「woke」という言葉が使われている。「woke」は「目が覚めた」という意味で、ポリティカルコレクトネスに対する意識を持った人々を揶揄するために保守派の人々が使うワードである。前出のCPACの会場でも、「Awake not woke」という標語が掲げられている。

修正25条の発動を口にしたホームランダーは、「トランスジェンダーや不法移民に占領される」と極右の陰謀論を展開。しかし、会場からは「それはヴォート・ニュース・ネットワークの戯言」「司法省はどうする?」「軍は?」「OPEC(石油輸出国機構)は?」「市場への影響は?」「公務員が一斉退職したら?」と次々に現実的な問題を突きつけられる。ホームランダーは支持者の大衆向けのスピーチはできても、議論をすることはできない。

ちなみに現実でもトランプ前大統領が退任直前に公務員を解雇しやすくする改革案を大統領令として出し、政権交代直前での公務員の一斉解雇が危惧されたことがある。この人々はそれくらい、現実的な話をしているということだ。

窮地に立たされたホームランダーに助け舟を出したのはニューマンだ。意外なのはニューマンが現実の政治家のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスの名前をあげたことだ。オカシオ=コルテスは現在のアメリカを代表するリベラル派の民主党議員で、史上最年少の女性下院議員になった人物でもある。34歳ですでに大統領候補に推す声もある人気者だ。

ニューマンは元々オカシオ=コルテスがモデルになっていると思われていた。しかし、『ザ・ボーイズ』の世界にはオカシオ=コルテスは別に存在しているということなのだろう。ニューマンは結局はヴィランだったので、ニューマンとの違いを示すためにオカシオ=コルテスの名前をあげたと捉えることもできる。

ニューマンは、「アメリカは民主主義ではない」と宣言。労働者はアップルなどの大企業に管理されるべきであり、富裕層は規制なく活動できるべきと、アメリカ資本主義の代弁者となる。ニューマンは富裕層の心を掴んだが、セージに目配せしており、先ほどの「まずは取り入る」という会話を踏襲した行動だったのだろう。想定外だったのは、ヒューイが仕掛けた盗聴器で全てが録音されていたことだ。

富豪への拷問

縛り付けられたテックナイトはアニーとキミコから拷問を受けるが、マゾのテックナイトは喜ぶばかり。そこでラディオが鎖をちぎり、テックナイトの銀行口座にアクセスした状態でヒューイらにPCを渡す。富豪のテックナイトに一番効くのは、金を使われることなのだ。

ヒューイは手始めに民主党のベテラン議員エリザベス・ウォーレンに4,000万ドルを送金、そして冤罪被害者を支援するイノセンス・プロジェクトに6,500万ドルを送金する。極め付けに、黒人に対する暴力と人種差別の撤廃のために活動するBLM(ブラック・ライヴス・マター)に1億ドルを送金することに。ここでようやくテックナイトは、自分の会社が運営する刑務所を反対派を収容する施設として提供する取引をホームランダーとしたと明かす。

テックナイトは強制収容所を提供する要員だったのだ。怒ったキミコはテックナイトの1億ドルをBLMに送金する。この直前にヒューイは「Internment camps(強制収容所)だ」と言ったのだが、第二次世界大戦中にアメリカで作られた日系人の強制収容所は英語で「Japanese internment camps」と表現する。あのエンターボタンには日系人としての怒りが込められていたのかもしれない。

そして、意外にもテックナイトにトドメを刺したのは執事のイライジャだった。これまでテックナイトの世話をしてきたし、穴の精液を掃除してきたのイライジャだったが、収容所の話を聞いてこれ以上野放しにできないと判断したのだ。奴隷のように扱ってきたラディオとイライジャの二人に背中を刺される、テックナイトにふさわしい最後だった。

撤収するヒューイに、イライジャはセーフワードは「ゼンデイヤ」だったと教える。ご存知だと思うが、ゼンデイヤはMCU「スパイダーマン」のMJ役などで知られるフェミニストの俳優だ。

ファイアクラッカーの薬は…

MMは病院でパニック発作に襲われたこと、仕事を休まないと心臓発作を起こすことを通告される。一方でキミコはフレンチーの面会に行き、「他に行く場所がない」と係員に伝えるが、会うことは叶わなそう。自分自身の身体に問題を抱えるMMと、他者との関係に問題を抱えるキミコの姿が対比されている。

ヴォート・タワーでは、コールマンを粛清したのにパーティの情報が漏れていたことから、ホームランダーはファイアクラッカーにスパイの疑いをかける。ファイアクラッカーは底辺の自分をフックアップしてくれたホームランダーは自分にとって全てだと言い、忠誠を示すためになんと母乳を出してみせる。衝撃の展開だ。

ファイアクラッカーはホームランダーのために薬を長期間服用した結果、母乳が出るようになったのだという。シーズン4第4話ではフレンチーがファイアクラッカーのトレーラーでなんらかの薬を発見しており、そのラベルには「メトクロプラミド」と書かれているという考察があった。メトクロプラミドには母乳の分泌を促進することがあるとされているが、さすがにこの量はフィクション上の設定である。

ホームランダーの唯一の弱点である母乳を手に入れたファイアクラッカーは、ホームランダーの“乳母”に……。一部では、ブッチャーがVの効果で母乳を出せるようになってホームランダーを支配するのでは、という考察もあったが、あながち間違っていなかったようだ……。

衝撃のラスト

アニーは盗聴されたニューマンのスピーチを聞いてショックを受けている。一方のヒューイは、テックナイトの地下室でされた性的な行為によって傷ついており、不安定な精神状態になっている。性別に拘らず性的に不本意なことをされれば深く傷つくものだ。ヒューイは他のボーイズメンバーと違って、「大丈夫じゃない」と言えることが偉い。それを受け止めてくれるアニーの存在あってのことでもあるのだろう。

『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話のラストでは、さらに衝撃的な展開が待っていた。拷問をしてでもウイルスを作らせようとするブッチャーにサミール博士は、ホームランダーを倒せるほどにウイルスを強化すれば、空気感染するほど高い感染力を持つようになると説明する。つまり、新型コロナウイルスと同じような感染力を持ち、世界的なパンデミックが引き起こされるということだ。

アニー、キミコ、ライアン、ニューマンとその娘のゾーイ……全ての能力者が命を落とす可能性があり、サミール博士はそれを悪人の手に渡せないという。至極真っ当な考え方だ。葛藤するブッチャーにジョー・ケスラーは「チャンスだ」と吹き込むが、ブッチャーは「大量虐殺は望んでいない」と反論。ケスラーは「能力者は死ぬべきだと言っただろ」と、幻覚のベッカは「ほとんどは無実の人」と主張するのだった。

このやり取りは、「テロリストを壊滅させる」と言ってパレスチナ人の大量虐殺に足を踏み入れているイスラエルの現状と重なる。イスラエル人でイスラエルを支持しているフレンチー役のトメア・カポンがシーズン4で唯一出演していない第6話でこのやりとりを入れたというのは、制作を手がけるエリック・クリプキの意図を感じる。

そして、ここからがあっと驚くどんでん返しだ。ジョー・ケスラーが突如としてベッカに「黙れ!」と声を荒げたのである。もちろんブッチャーは視聴者と同じように「(ベッカが)見えるのか?」とパニック状態に。そしてサミール博士の視点に切り替わると、そこにはケスラーの姿はなく、ブッチャーは一人で喋っている。ベッカと同じくジョー・ケスラーもブッチャーの幻覚だったのだ。

この展開は予想外で、さすがに声が出てしまった。エリック・クリプキ、流石である。脳に腫瘍ができたブッチャーは、ベッカと共にアフガンで死んだ(どうやらブッチャーは見殺しにしたと感じている)戦友のジョー・ケスラーを幻影として見ていたのだ。

これまでのシーンが回想されるが、CIAでも、自宅でも、外のベンチでも、確かにジョー・ケスラーがブッチャー以外の人物と会話したシーンはなかった。そしてケスラーは、ブッチャーが本当にしたいと思っていることを代弁していると主張する。つまり、ベッカは天使の声で、ケスラーは悪魔の声というわけだ。

ジョー・ケスラーは「パパは戻った(Daddy is home.)」という言葉を残し、『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話は幕を閉じる。

『ザ・ボーイズ』シーズン4第6話ネタバレ考察&感想

シーズン4第6話はまさかの衝撃回。残り2話となるところでブッチャーの悪友ケスラーの言葉がブッチャー自身のものであることが明らかになった。シーズン4第6話のタイトル「汚れ仕事」は、ケスラーの役割を指していたのだろう。

ケスラーは、最後に「エゼキエルを殺してやった」と意味深な発言もしている。ベッカにはブッチャーの理性が、ケスラーには欲望が反映されていると考察できるが、能力を使うこともケスラーの管理下にあるのだろうか。シーズン4では何度かブッチャーの皮下を通る寄生虫のようなものが登場しており、ブッチャーがエゼキエルに殺されかけた時にもこの寄生虫が暴れていた。ケスラーはあの寄生虫に宿っているということなのだろうか。

同時に、ホームランダーを倒すためにはパンデミックを引き起こすほどの強力なウイルスが必要だということも明らかになった。流石にブッチャーも、キミコやライアンを犠牲にしてでもホームランダーを倒したいとは思わないはず。踏みとどまってくれることを願いたいが、そうなると打倒ホームランダーの切り札は失われることになる。

そうなると鍵になるのはニューマンだろう。ニューマンは今回の盗聴で失脚させることができそうだが、これを脅しに使えばニューマンにホームランダーを殺させることができるかもしれない。そうなるとシーズン5でやることがなくなるのだが、まぁ、そこはライアンと健やかに余命を過ごすブッチャーの日常を見せてくれるだけでもいい。

一方でホームランダーはシーズン4でも強調されていた母乳の件が復活。弱点を露呈してしくじったセージを追い抜いてファイアクラッカーがセブン内の序列で上位に立つことになるだろう。ホームランダーもスピーチでしくじってしまったため、誰かに頼る甘えん坊な姿が戻ってきたのかもしれない。けれど、ファイアクラッカーは薬で母乳が出るようになったので、換えがきくと捉えることもできる。誰かに薬を飲ませて“乳母”を作るループに陥らないか、心配である……。

もちろんフレンチーやキミコ、MMの今後も気になるところ。『ザ・ボーイズ』シーズン4はラスト2話でどんな展開を見せるのか。引き続き注視していこう。

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『ザ・ボーイズ』シーズン4第5話のネタバレ解説&考察はこちらから。

第4話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第3話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第2話のネタバレ解説&考察はこちらから。

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『ザ・ボーイズ』シーズン3最終話のネタバレ解説&考察はこちらから。

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『ザ・ボーイズ』のシーズン5での終了についてエリック・クリプキ監督が語った内容はこちらの記事で。

『ジェン・ブイ』シーズン2についての情報はこちらから。

「ザ・ボーイズ」フランチャイズの更なるスピンオフ展開についてはこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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