ドラマ『ピースメイカー』配信開始!
DCコミックスのキャラクターで独自のユニバースを形成するDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)より、初のドラマ作品となる『ピースメイカー』の第1話がU-NEXTで配信を開始した。米国ではHBO Maxで配信された同シリーズは、Disney+のドラマ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』(2021-2022) と同じ時期に配信されたが、同時期においてはナンバーワンのヒット作となった。
そんな『ピースメイカー』が遂にU-NEXTで日本上陸。映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021) のその後を描く作品で、同作を手掛けたジェームズ・ガンが監督と脚本を手がける。「ワンダーウーマン」「アクアマン」「シャザム!」といった人気シリーズを要するDCEUに加わった新シリーズより、今回は第1話の各シーンをネタバレありで解説していこう。
以下の内容は、ドラマ『ピースメイカー』第1話の内容に関するネタバレを含みます。
第1話「全く新しいめくるめく世界」のネタバレあらすじ&解説
オルタナ右翼のピースメイカー
前作『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(以下「新スースク」)では、「平和のためなら人も殺す」という極端な思想を持つピースメイカーが登場。「全く新しいめくるめく世界」と題された『ピースメイカー』第1話は、その「新スースク」の振り返りからスタート。同作で描かれた「スターフィッシュ計画」の中で死んだかに思われていたピースメイカーだったが、ラストには一命を取り留めていたことが分かる。
「新スースク」のラストとポストクレジットシーンについては、こちらの記事に詳しい。
病院でレントゲンに文句をつけ、「Tinderのプロフィール用じゃない」とたしなめられるピースメイカー。元々刑務所に捕まっており、悪人で構成されるスーサイド・スクワッドにリクルートされたピースメイカーだが、回復が認められ家に帰ってよいと言われている。
入院中に仲良くなった清掃員のジャミールはピースメイカーのことを知らず、代わりに有名なヒーローの名前としてアクアマンを挙げる。ピースメイカーはアクアマンのことを「クソだ」と言い放ち、魚と性行為をしているとフェイクニュースらしい情報を持ち出す。
この時、ピースメイカーが情報源として「カエルのペペ99」というTwitterアカウント名を挙げているが、“カエルのペペ”とは『ボーイズ・クラブ』という2005年にマイスペース上に投稿されたジン内のキャラクターで、米4chで最も有名なミームの一つになった。その後、トランプ支持者をはじめとするオルタナ右翼が好んで使うようになり、原作者のマット・フュリーはこれを非難したにもかかわらず、この状況が好転することはなかった。
ピースメイカーが情報源として「カエルのペペ99」というアカウント名を挙げているのは、ピースメイカーがオルタナ右翼やトランプ支持者と親和性が高いことを示している。同時にDCEUの世界でも、右派がヒーローであるアクアマンのフェイクニュースを流していることを面白おかしく表現しているのだ。
人種差別主義者だと指摘されたピースメイカーは「犯罪者の人種に配慮して殺せと?」と右翼らしい理屈をこねているが、マサチューセッツ工科大学出身のジャミールは「違うが白人にも目を光らせろ」と正論で対抗している。
警察にも見張られていないというピースメイカーはユニフォームとヘルメットをはじめとする私物を整理して病院を後にする。このシーンで注目したいのは、ピースメイカーがベッドに広げたメモの内容だ。「新スースク」で行動を共にしたメンバーの名前をメモっているのだが、以下のように書かれている。
Kid Cleo
Polka Dots – Abner
Black Guy Bloodsport
Shark – Na Now Way
まず「Kid Cleo」と書かれているのは、ラットキャッチャー2ことクレオのことだ。その特徴を「Kid=子ども」と記している。唯一まともに記述できているのが、白人男性のポルカドットマンことアブナー。ブラッドスポートの特徴は「黒人」とだけ書いており、ピースメイカーが人種差別主義者であることを示している。そして「サメ」とだけ書かれているキングシャークの名前はナナウエでその正しい表記は「Nanaue」だが、つづりが分からなかったのか「Na Now Way」と当てている。ジェームズ・ガン監督は小道具まで抜かりない。
新チーム結成
そして『ピースメイカー』の伝説的なオープニングが始まる。登場人物たちが勢揃いして踊るこのオープニングはHBO MaxとDCの両YouTubeチャンネルで公開され、合わせて約1,200万回再生されている大人気映像だ。日本でも配信開始に合わせてU-NEXTのYouTubeチャンネルでこの映像が公開されている。
オーバービュー・ロフトというホテルに着いたレオタ・アデバヨは、「ボンドといえばバスタブにはシャンパンとオクトプッシーでしょ」と言っているが、これは映画『007/オクトパシー』(1983) のことである。男の子が生まれたら「シャークネード」という名前をつけたいと言っているのも人気サメ映画「シャークネード」シリーズのことだ。この仕事でお金を稼いだら家に戻ろうと恋人のキーヤと話すレオタは死亡フラグが立っているが、大丈夫だろうか……。
一方のピースメイカーは帰宅するもタクシー代が払えず、コスチュームのヘルメットを取られてしまう。合鍵も見つからず窓を割って帰宅する姿は哀愁を漂わせている。古いiPhoneには3,808件ものメールの着信が入っている。
残っていた留守電の主はビジランテ。ドラマ『ARROW/アロー』(2012-2020) にも登場したDCキャラだ。『ピースメイカー』ではピースメイカーの悪友という設定のようである。そして、退院したピースメイカーは晴れて自由の身……なわけはなく、あっという間に政府のエージェントに取り囲まれる。この場面のチャック・イウジ演じるクレムゾン・マーンの振る舞いはMCUのニック・フューリーを意識したものだろう。
ピースメイカーの刑期は26年も残っていたといい、「新スースク」でフラッグを始末したのもピースメイカー自身の判断だったことが明かされる。だがその忠誠心と殺しのスキルを買われ、「新スースク」の司令官だったアマンダ・ウォラーの部下であるマーンの下で刑期免除を報酬としてリクルートされる。
「バタフライ計画」と題された作戦にピースメイカーは「モスラと戦うのか?」と心配しているが、それもそのはず。「スターフィッシュ計画」と銘打たれた「新スースク」でのミッションは、日本の怪獣をイメージした巨大ヒトデの宇宙怪獣スターロが登場している。ピースメイカーは「ジェットパックは?」と聞いているが、原作コミックのピースメイカーはジェットパックを背負って空を飛ぶ描写がある。
頭には「新スースク」で埋め込まれたチップがあるらしく、ピースメイカーはこのオファーを断る余地がない。ここでピースメイカーはサイドキックの「ワッシー」を引き取ると言っているが、英語では「イーグリー」と言っている。イーグリー(Eagly)は鷲を英語にしたイーグル(Eagle)をもじった名前で、日本語では「ワッシー」に変更されたようだ。なお、ワッシーの種類はアメリカ合衆国の国鳥であるハクトウワシだ。
父はネオナチ
父のもとにワッシーを迎えに行く際に、老人から「バットマンがヒーローだ」と言われるピースメイカー。自分こそがスーパーヒーローだと思い込んでいるピースメイカーだが、アクアマンに続き、一般人から本当のヒーローの名を挙げられてしまっている。ここまでスーパーマンの名前が出ていないのは、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016) や『ジャスティス・リーグ』(2017) でスーパーマンが脅威とみなされたからだろう。
ピースメイカーの父の家では『FACT ATACK(事実攻撃)』という名の煽動的なオルタナ右翼番組が垂れ流されている。出所したと話しても、5ヶ月入院していたと話しても、撃たれたと話しても、息子に愛情を見せようとしないピースメイカーの父。「新スースク」でも、それぞれのキャラクターが家庭に困難を抱えていたことが明かされたが、ジェームズ・ガン監督はピースメイカーについても同様のシナリオを用意しているようだ。
作戦本部を作るエミリアとジョンは、新人のレオタに「新スースク」でブラッドスポート達を助けたことでウォラーに干されたと話す。これは「新スースク」のポストクレジットシーンでも示された見解だが、レオタはそうとは思っていないらしい。
ワッシーと再会を果たしたピースメイカーは、父に「新スースク」で出会ったブラッドスポートの話をしている。父が爆笑するのはブラッドスポートが幼少の頃に虐待されていたという話。やはり歪んでいる。そしてピースメイカーほどの屈強な人間を「なんでこんなヤワな男に育ったんだ」と吐き捨てるのだった。
父の家の隠し部屋は研究所になっており、ハイテクなアイテムが揃っている。共産主義者や黒人、カトリックにユダヤ人を殺すならヘルメットを持っていけと話す父はもはやオルタナ右翼というよりネオナチだ。
「古い文化」
エージェント達との夕食に現れたピースメイカーは「PSS MKR(ピースメイカー)」のナンバープレートをつけた車でフルコスチュームに身を包んで登場。上院議員が最初のターゲットだと告げられる。ナチュラルにセクハラ発言を繰り出すピースメイカーは、父といる時とは打って変わって奔放だ。
ピースメイカーの知り合いであるエイドリアンはピースメイカー復活に大喜び。小躍りしているところを見られた言い訳の中で出したシャロン・オズボーンは、ブラック・サバスのオジー・オズボーンのマネージャーとして知られる人物だ。
ピースメイカーはスレてない新人のレオタと親交を深めていた。レオタはレズビアンカップルで結婚しているが、それを知らないピースメイカーは“結婚”を指して「俺も古い文化が好きだ」と言っている。続けて「古い文化」の例として挙げている「フンメル人形」はアメリカの家庭の玄関によく見られる陶器の人形で、ピースメイカーの家の前にも複数置かれており、その下に合鍵がないか探していた。
そして、古い文化として「死刑」も挙げられているが、アメリカでは死刑廃止の流れが進んでいる。死刑制度の有無は州によって異なるが、連邦による死刑執行は20年近く行われていなかった。トランプ政権下では一気に13人もの死刑が執行されたが、バイデン大統領は連邦による死刑廃止を公約に掲げ、2021年7月に連邦の死刑執行を一時停止した。
ラストに待っていたのは…
レオタと交流できたピースメイカーは調子に乗って帰り道で見かけたエミリアを追ってバーに入る。エミリアはバーで居合わせた男からセクハラを受け、それを撃退すると男の仲間が逆上。それをも撃退するエミリアの姿にピースメイカーは惚れるが、エミリアが日常的に性的な眼差しを投げかけられていることが分かる。
ピースメイカーも「4年間刑務所に入ってた。今は楽しみたい」と一方的な都合を押し付けて、エミリアをストレス発散の道具のように扱っている。エミリアは「絡まれるのはメイクしてるから?」と言い、立ち去るのだった。それでも、ピースメイカーはワンナイトラブをゲット。ジェームズ・ガン監督が映画でもMCUでもできなかったであろうラブシーンが挿入されている。
レオタはウォラーとビデオ通話をしていた。レオタはウォラーの娘であり、ウォラーはチームの監視役としてレオタを送り込んだのだ。レオタはピースメイカーを「セクシストでレイシスト」としながら「哀しそう」とも話す。ウォラーはピースメイカーの父についても知っているようである。
事後のピースメイカーが見つけたのはプリティ・ボーイ・フロイドのレコード。アメリカのメタルバンドで1990年代に活躍した。歌声にエフェクトをかけて音程を補正するオートチューンを批判しながらも、イギリスのバンドのクワイアボーイズのレコードに感激するなどロックマニアとしての一面を見せている。
そして流し始めたクワイアボーイズ「I Don’t Love You Anymore」(1990) に合わせてピースメイカーが歌う中、ピースメイカーのお相手のアニー・スターファウセンは着々と暗殺の準備を進める。これは罠だったのだ。
アニーは明らかに常人ではない攻撃力と防御力を見せ、窓から飛び降りても傷一つ負っていない。昔懐かしいホラー風味の映像が繰り出される中、裸のピースメイカーはようやく装着したヘルメットからソニックブームを発動。自分の車も大破してしまうが、追ってきたアニーも「新スースク」を思わせるグロテスクな最期を迎え、この機器を乗り切る。
ピースメイカーのもとに残ったのは相棒のワッシー。タイガーテイルズ「Love Bomb Baby」(1990) が流れる中、ドラマ『ピースメイカー』シーズン1第1話は幕を閉じる。
……かと思いきや、『ピースメイカー』には第1話からポストクレジットシーンが用意されていた。父のもとでピースメイカーがヘルメットを選ぶシーンだ。ウルトラマンのようなヘルメットはかぶると疥癬(かいせん)になるという。疥癬は痒みが生じる皮膚病で、陰部にかかりやすい病気だ。下ネタのギャグリールである。
ドラマ『ピースメイカー』第1話考察
ドラマ『ピースメイカー』第1話は、順調な立ち上がり。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」や「新スースク」と同じく、ジェームズ・ガン監督らしい音楽をふんだんに使用したドラマ作品になっていた。
問題は、スーサイド・スクワッドのヴィラン達の中でも生粋のヴィランという様相を呈していたピースメイカーをどのようにして主人公に仕立て上げるのかという点だった。この点については、早い段階でより邪悪な父を登場させることで、ピースメイカーが相対的に“マシ”に見える演出になっていた。また、ピースメイカーのルーツを描きながらも、ネオナチの息子がオルタナ右翼という形になっており、差別主義の思想が地続きであることをも示している。
ストーリー展開の方では、バタフライ計画の詳細は第1話では明かされないままだった。政治家が関わっているようだが、チームは暗殺対象として認識している。一方でピースメイカーも命を狙われているが、誰かから情報が漏れているのだろうか。
そして、レオタを送り込んだウォラーの目的とは何なのか。レオタは作戦の目的をメンバーに知らせるよう提案していたが、裏の目的があるということなのだろう。この作戦はスーパーヒーローには実行できないものであることは確かだ。「新スースク」でのスター・フィッシュ作戦に続き、ウォラーは一体何を隠しているか、今後の展開から目が離せない。
ドラマ『ピースメイカー』はU-NEXTで4月15日(金)より見放題で独占配信。U-NETの新規登録者は1ヶ月の無料トライアルを体験できる。
「新スースク」ラストのネタバレ解説はこちらから。
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