Netflixの“時短戦略” ネット配信ドラマが短くなった理由 『ノット・オーケー』は全7話156分 | VG+ (バゴプラ)

Netflixの“時短戦略” ネット配信ドラマが短くなった理由 『ノット・オーケー』は全7話156分

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SFドラマ『ノット・オーケー』が配信開始

Netflixによる新たなオリジナルSFドラマ『ノット・オーケー』が2020年2月26日(水)より配信を開始した。映画「IT/イット」シリーズで知られるソフィア・リリスが主演を務めた『ノット・オーケー』は、アメリカの田舎町に暮らす17歳の平凡な高校生がある日超能力に目覚めてしまうという物語。SF的な設定ありきの作品ではなく、自殺した父への思いや性の悩み、家族や友人との人間関係など、やり場のないストレスを抱える思春期の苦悩と葛藤が軸になっている。評価サイトのRotten Tomatoesでは、批評家による評価85%、視聴者による評価86%と、非常に高い評価を受けている。


一方で、『ノット・オーケー』で顕著に見られたのは、近年進むドラマ作品の“時短化”だ。かつて、日本のテレビドラマ作品はワンクール12話、アメリカにおいては22話というのが基本で、一話ごとの放送時間も1時間弱程度だった。近年、アメリカのケーブルドラマでは、視聴者のテレビ離れに伴う予算削減の波もあり、ドラマ1シーズンあたりの話数は半分以下の10話程度まで短縮されている。だが、この流れに拍車をかけてドラマの時短を仕掛けているのがNetflixやAmazonプライムビデオといったオンライン配信プラットフォームだ。

短くなっていくネット配信ドラマ

2月に配信を開始したNetflixドラマ『ノット・オーケー』シーズン1は、ドラマ作品としては異例とも言える全7話一話あたり20分前後という構成だ。全て見ても156分、毎話挿入されるエンディングを除けば映画一本分程度の長さで見れてしまう。

『ノット・オーケー』配信開始の翌日にリリースされたのは、Netflixを代表するSF作品『オルタード・カーボン』のシーズン2。シーズン1と同じく一話あたりは1時間程度だが、シーズンを通した話数は全10話から全8話に減少している。その甲斐もあってか、間延びせず、テンポの良いシーズンに仕上がっている。

Netflixだけではない。2019年7月に配信を開始し、Amazonプライムビデオのナンバーワンドラマに輝いた『ザ・ボーイズ』も、一話あたりは約1時間だったが全8話で公開されている。2019年11月に配信を開始した『高い城の男』シーズン4も、1話あたり45分程度と、これまでのシーズンと比べると若干短縮されている。

『ノット・オーケー』の戦略

では、なぜ配信ドラマは短くなっているのだろうか。『ノット・オーケー』の時間が短く設定された理由について、同作の監督を務めたジョナサン・エントウィッスルは、米Entertainment Weeklyに以下のように語っている。

ネットフリックスは、長編映画一本分のプラットフォームを用意してくれたんです。大体2時半で語ることのできるストーリーを複数のエピソードに分けるものです。興味深い形式でしたよ。普通ドラマというのは、(ストーリーが進むにつれて) 徐々に燃え上がっていくもので、各話1時間のテレビドラマと比べると、私たちが作ったのは2.5話分に過ぎません。変わったやり方ですが、私は各シーズンを映画一本分と考えていて、ストーリーの全体は複数のシーズンにまたがって語られます。ミニチュア映画とでも言いましょうか、それがNetflixが用意してくれたプラットフォームにおける試みです。

ジョナサン・エントウィッスルは、一つのシーズンを一本の映画として考えつつ、複数のシーズンでストーリーを完結させると語っている。なかなかアクロバティックな発想だ。この『ノット・オーケー』方式の魅力は、同じ2時間半の作品を作るにしても、映画ではなくドラマとして製作することで、一つのストーリーの中で計6回のクリフハンガー (続きが気になる終わり方) を設けられるということだろう (視聴者には“離脱”するチャンスも6回与えられる)。

視聴者が求めるもの

ジョナサン・エントウィッスルは、『このサイテーな世界の終わり』(2017-2019)では各話20〜25分程度で全8話、2シーズンのドラマを製作したこともある。ジョナサン・エントウィッスルと共に『ストレンジャー・シングス』(2016-)を手がけ、『ノット・オーケー』でも製作総指揮を務めるショーン・レヴィは、以下のように話している。

エントウィッスルは『このサイテーな世界の終わり』でとてもユニークなことをやりました。エピソードの数を最小限に抑えながら、一話ごとの時間も短くしたんです。これによって、イッキ見がしやすくなりました。私たちは『ノット・オーケー』で同じフォーマットを採用しています。これにより、(『ノット・オーケー』は) 消化しやすくて、とっつきやすいものになりました。ジョナサンは脂っこい (余分な) ストーリーテリングを望んでいません。畳み掛けるような、それでいてとっつきやすいストーリーテリングを望んでいるのです。特にこの作品 (『ノット・オーケー』) においては、この形式はとても正しいものだと思います。

ショーン・レヴィは、『ノット・オーケー』の極端に短い形式の利点について、視聴者にとっての「イッキ見のしやすさ」を挙げている。テレビドラマ作品のように毎週一話ずつ放送されるのではなく、全話を一挙に公開できるのがネット配信ドラマの強みだ。

ネット配信ドラマの登場以降、英語圏では“ビンジウォッチング (binge-watching = イッキ見)”と呼ばれるドラマの視聴方法が一般的になった。ドラマ作品であれば、気に入ればイッキに観られるし、気に入らなかったり、観るのに疲れたりすれば、離脱するか一旦距離を置くチャンスもある。今、視聴者が求めているのは“気軽にイッキ見できるドラマ”という無理難題にも思える作品なのだ。Netflix側も、週末にはイチオシ作品のイッキ見を勧める広告を打っている。視聴者の限られた“イッキ見枠”を獲得することは、配信業界にとって重要な課題なのだ。

進むネット配信ドラマの“時短化”。この潮流は、Netflixの最新SFドラマ『ノット・オーケー』において、一本の映画分の映像を連続したドラマとして見せる、複数のシーズンにまたがる前提で一つのストーリーを作るという新たな試みにまで広がった。『ノット・オーケー』という作品の面白さは折り紙つきで、多くの視聴者を夢中にさせるものだ。2時間半で完走でき、20分ごとにクリフハンガーが訪れるドラマ体験を、人々は手放せなくなるかもしれない。

ドラマ『ノット・オーケー』はNetflixで独占配信中。

『ノット・オーケー』

Amazonプライムビデオでは、SFドラマに“倍賭け”する戦略が話題になっている。

Source
Entertainment Weekly

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