マグニートーの来たれ、我が『X-MEN‘97』
1992年から1997年にかけて放送されたアニメ版『X-MEN』は娯楽と風刺のバランスが良く、差別や偏見とも戦う正しくヒーローチームだった。2024年3月20日（水）からDisney+にて配信が開始された正統続編である『X-MEN‘97』は、これまで戦った巨大ロボットのセンチネルなどだけではなく、現代の社会問題とも戦うものになっている。
『X-MEN‘97』で登場するマグニートーはプロフェッサーXの親友でもあり、宿敵でもあった。プロフェッサーXが暗殺された後の世界でマグニートーは何を語るのだろうか。本記事では『X-MEN’97』第2話「ミュータント解放のはじまり」について解説と考察、感想について述べていこう。なお、本記事は『X-MEN‘97』第2話「ミュータント解放のはじまり」のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、アニメ『X-MEN‘97』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
X-MENの新リーダー“マグニートー”
テロリストからヒーローへの転身
コニーアイランドの遊園地で、観覧車の事故が発生する。今にも観覧車は倒壊寸前だが、それにもかかわらず少年が取り残されている。少年が地上にカセットテープを落とすことから、『X-MEN‘97』がまだ90年代であることが伝わってくる。その倒壊する観覧車を立て直し、少年を救ったのは他ならぬブラザーフッド・オブ・ミュータンツのリーダーであるマグニートーであった。
マグニートーがX-MENのリーダーになるというプロフェッサーXの遺言に対して、自分は信頼されていなかったのかと落ち込むサイクロップス。そのように混乱するサイクロップスにジーン・グレイは、プロフェッサーXが家族の時間をつくれるようにしてくれたのではないかと励ます。
しかし、混乱しているのはサイクロップスだけではなかった。テロリストが突然ヒーローに転向し、世界中で人命救助を行なっているというニュースはアメリカ政府や反ミュータント団体フレンズ・オブ・ヒューマニティにも混乱を与えた。
割れる意見
その頃、下水道で暮らすミュータントたちであるモーロックスがフレンズ・オブ・ヒューマニティから襲撃を受ける。容姿が人類とは異なるというだけで下水道にしか居場所がないモーロックスを、地下に悪魔がいると安心できないという理由で襲うフレンズ・オブ・ヒューマニティだったが、モーロックスを救ったのもマグニートーであった。
X-MENたちも意見が割れ、かつてブラザーフッド・オブ・ミュータンツに所属していた経験を持つローグは「私たちにも汚れた過去がある。唾を吐かれても何も言えない。教授を見習って、もう一度、彼を信じてみたら？」と提案する。
マグニートーはそのような議論をしていることを知りながら、プロフェッサーXの遺した莫大な遺産を使い、ジェノーシャのミュータント国家へモーロックスを移住させていた。そして、何故豊富な資金がありながら、このようなことをしてこなかったとX-MENに問うのだった。
この移住に関しては、プロフェッサーXは共存を望んでいたためだと考察できる。プロフェッサーXの目指していた世界とはモーロックスのようなミュータントでも地上で共存できる世界であり、ジェノーシャへの移住は隔離政策と同じと考えたのだと考察できる。だが、それは理想主義者のプロフェッサーXの夢であり、プロフェッサーXの夢を尊重しながらも現実主義者のマグニートーは共存が叶う未来より安全な現在を優先したとも考察できる。
母親としての不安
恵まれし子らの学園を出て新たな生活の準備をするジーン・グレイは、かつてのスーツを見てX-MENとして戦っていた時代のことを懐かしむ。ジーン・グレイはフェニックス・フォースに取り憑かれたときでも隣にいてくれたスコット・サマーズが、マグニートーの監視という目的でサイクロップスとしてX-MENに残ることを不安視していた。
ジーン・グレイにはもう一つ不安があった。それは生まれてくる子供がミュータントだったらということだ。ミュータントだとすれば、日々の生活の中で周囲の同い年の子供たちとの違いを否が応でも覚えることになる。これはアニメ版『X-MEN』で、ジーン・グレイが結婚前にも抱いていた不安だ。ジーン・グレイはそのすべてをストームに打ち明ける。
子供に人間であってほしいと願ってしまう自分を嫌悪するジーン・グレイ。しかし、ストームは決して彼女を責めず、自分も同じ気持ちになることがあると語った。その一方で、ミュータントだからこそX-MENの仲間たちと出会えたと続けた。現実のマイノリティを子供に持つ親が抱える不安を反映させたと考察できるジーン・グレイの描写にはリアリティがある。
特にジーン・グレイはテレパシーを持つからこそ、周囲の影響を受けやすい上、ヘンリー・ガイリックの脳内を覗いたときにおぞましい差別主義者の思想に襲われた。それを実感すると、生まれてきた子供がミュータントであったときに如何に残酷な経験をすることになるか不安になっても仕方ない。ストームはそのようなジーン・グレイを母親らしいと評価するのだった。
新リーダーとしての葛藤
夜遅くにローグはマグニートーのもとを訪ねていた。マグニートーははじめてプロフェッサーXと出会ってから、常に繋がりを感じてきたと語り、あの特徴的なヘルメットはその繋がりを断つ意味があったと続けた。ローグは心を読まれないためにヘルメットを被ったと言うマグニートーに対して、ミュータント解放という聖戦を続けていく上でプロフェッサーXの愛を感じるのが怖かったのではないかと問いかける。
マグニートーは過ちを繰り返した自分でも、プロフェッサーXの夢と彼の犠牲で生まれた寛容な世界を守りたいと語る。過ちを犯した経験を持つローグはそれに同調する。そして、信頼を求めたのではなく勝ち取ったとローグは話す。マグニートーとローグの間には大きな秘密があるようで、マグニートーはそれに後ろめたさを感じていたのだ。
超人活動委員会の裁判
恵まれし子らの学園に国連のヘリが飛んでくる。降りてきた兵士は銃を構え、臨戦態勢だ。その指揮を執っていたのはヴァレリー・クーパー博士であり、目的は国連の超人活動委員会のもとで人道に関する罪を裁こうというものだった。超人活動委員会はコミックUncanny X-Men #199（1985）で初登場した組織で、国家安全保障会議、米軍、FBIなどの政府機関の代表らによって構成されている。
また、正統性を示すために裁判を受けるというのはアニメ版『X-MEN』でビーストが行なったことだ。ビーストがミュータントコントロールエージェンシーから登録されたミュータントの情報を抹消した罪に問われた際、裁判に意味はないとミュータントの収容所を破壊したのがアニメ版『X-MEN』でのマグニートーの初登場だった。ローグの言う通り信頼を勝ち取るため、そのときは否定したビーストとマグニートーが同じことをしていると考察できる。
X-MENのメンバーはジーン・グレイとウルヴァリンを除いて、全員が裁判に同席した。ここでもサイクロップスがジーン・グレイに黙って行動していることがウルヴァリンの口から語られており、スコット・サマーズとして生きることよりも、X-MENでいることの方が重要になっていると考察できる。
マグニートーは生い立ちからすべてを語り、人類に悲惨な歴史を繰り返している世界を見せる。それはセンチネルなどミュータントを含めたすべてのマイノリティに対する迫害の歴史でもあった。マグニートーにそれでも人類のルールを強いるとき、デモ隊の一部が暴走しはじめる。そしてマグニートーは「ルールを守っても襲われるようだな」と不敵に笑うのだった。その描写は2021年のアメリカ連邦議事堂襲撃事件を想起させる。
暴動を扇動していたのはXキューショナーだった。対エネルギー製チタンの鎧にセンチネル銃を装備したXキューショナーはX-MENたちに捕獲用首輪をつけさせ、サイクロップスからルビーグラスを奪う。その言動はブラック・ライブズ・マターに対するオール・ライブズ・マターを想起させる。Xキューショナーもアメリカの現実を反映させた存在だと考察できる。
誕生
X-MENのメンバーが暴徒の鎮圧に駆り出されているとき、ジーン・グレイに陣痛が来る。車を飛ばすウルヴァリンだったが、陣痛によってテレキネシスがコントロール不全となる。それによって帝王切開は無理だと医者は告げるが、ウルヴァリンは強引な手段を取ろうとする。
これまで出会ったミュータントたちにかわるがわる変身してXキューショナーを抑え込むモーフ。サイクロップスは援護しようとするがジーン・グレイのテレパシーを受け、ローグによって病院に運ばれる。X-MENの中でも貴重な戦力を2人も欠くことになり、副リーダーのストームは決断を迫られる。その決断とはマグニートーの解放だった。そうしてマグニートーとX-MENの共同戦線が誕生したのである。
一方、病院ではテレキネシスの暴走を理由に誰もジーン・グレイの出産に関する手術を行なわない。そこでサイクロップスが出した案が、医者の記憶と技術をローグが吸収し、ローグが手術を行なうというものだった。赤ん坊に触れたら最後、その生命エネルギーをすべて吸収してしまうことを恐れるローグだったが、ジーン・グレイからの信頼という言葉を胸に手術に挑む。
凶弾
ストームの天候操作能力とマグニートーの磁界の制御で暴徒を無力化することに成功したX-MENだったが、Xキューショナーがマグニートーを狙って凶弾を放つ。それを庇い、大きなダメージを追ったストームだったが、被害はそれにとどまらなかった。その特殊な銃弾はストームからミュータントとしての能力を奪ったのだ。
ミュータントにとって能力は最大のアイデンティティだ。だからこそ、それを無力化する捕獲用首輪が非人道的なものであり、それを使用する裁判にマグニートーは公平性を見出していなかったと考察できる。
打ちひしがれるストームを前にマグニートーは怒りを爆発させる。人類を信じて裁判まで受けた結末が、最愛の友が遺した教え子のアイデンティティを、魂を殺すことになってしまった。マグニートーはXキューショナーとこのような事態を招いた裁判官たちを成層圏まで持ち上げるが、プロフェッサーXの夢を信じると告げ、殺すことはしなかった。
それぞれの結末
マグニートーが語ったプロフェッサーXとの夢によって彼は恩赦され、ジェノーシャにあるミュータント国家は国連に加盟した。ジーン・グレイは無事出産し、ネイサン・チャールズ・サマーズという子供を授かった。ネイサン・チャールズ・サマーズは未来のミュータントであるケーブルの本名としても知られる。ここでケーブルがミスター・シニスターの手ではなく、スコット・サマーズとジーン・グレイの子供として誕生する新たな時間軸が誕生したとも考察できる。
しかし、すべてが解決したわけではなかった。ストームのミュータントとしての能力は永久に失われることになり、彼女はオロロ・マンローとして生きるべく、恵まれし子らの学園を去った。秘密を共有し合うマグニートーとローグに対してガンビットは深い不信感を抱くようになった。公平な裁判を望んだ代償はあまりにも大きく、その傷を癒すことは難しい。
X-MENのメンバーそれぞれが傷と向き合う中、傷だらけのジーン・グレイが帰ってくる。しかし、ジーン・グレイは恵まれし子らの学園におり、ネイサン・チャールズ・サマーズを出産したばかりだ。2人のジーン・グレイが意味するものは何なのだろうか。
第2話の感想と2人のジーン・グレイについて掘り下げられる第3話
ミュータントにとって最大のアイデンティティである能力の喪失や、一瞬で失われる信頼と傷つけられても信じることの重要性を描いた『X-MEN‘97』第2話「ミュータント解放のはじまり」。アメリカ連邦議事堂襲撃事件やブラック・ライブズ・マターに対するオール・ライブズ・マターの言説を想起させる展開が続き、大きな代償を支払い、視聴者はこの世界の過酷な社会問題を痛感した。
そして第3話では2人のジーン・グレイというショッキングな展開が描かれることになると考察できる。ジーン・グレイは幾度か死を経験しており、このジーン・グレイがクローンの可能性もある。また、フェニックス・フォースや変身能力を持つミスティークの可能性も高い。それを表すように、特定の個人ではなくX-MENというチームに助けを求めている。いったい、これからX-MENはどうなるのだろうか。その今後に期待したい。
『X-MEN‘97』第2話「ミュータント解放のはじまり」は2024年3月20日よりDisney+にて配信開始。
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