映画『バズ・ライトイヤー』公開
映画「トイ・ストーリー」シリーズの人気キャラクターであるバズ・ライトイヤーを主人公に据えた映画『バズ・ライトイヤー』が2022年7月1日(金)から全国の劇場で公開された。本作は、「トイ・ストーリー」でウッディやバズの持ち主だったアンディが観ていた映画という設定で製作された作品。スターコマンドのスペースレンジャーとしてのバズの活躍が描かれる。
気になるのは、「トイ・ストーリー」シリーズで小出しにされていた設定と『バズ・ライトイヤー』の世界観との整合性だ。1995年にシリーズの第1作目が公開されて27年。ジョン・ラセター監督作としてスタートした「トイ・ストーリー」シリーズはラセターを含む3人が監督し、『バズ・ライトイヤー』ではアンガス・マクレーンが新たに監督を務める。
そのアンガス・マクレーン監督は、『バズ・ライトイヤー』での最大の改変について米メディアに語っている。
以下の内容は、映画『バズ・ライトイヤー』の内容に関する重大なネタバレを含みます。
『バズ・ライトイヤー』最大の改変
映画『バズ・ライトイヤー』での原作「トイ・ストーリー」シリーズからの最大の改変は、なんと言っても『トイ・ストーリー2』(1999) で明かされた“ザーグ=バズの父”という設定だ。『トイ・ストーリー2』では、ベルト付きの新しいバズ・ライトイヤーのおもちゃがザーグのおもちゃに「お前の父は私だ」と告げられる。
これは同年に『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が公開された「スター・ウォーズ」シリーズからのオマージュだ。以降、ファンの間ではザーグはバズの父という前提が共有されていたが、映画『バズ・ライトイヤー』では異なる真実が明らかになる。
『バズ・ライトイヤー』では、ザーグのロボットから出てきた自分そっくりだが年老いている人物の姿を見て、バズは一度は「父さん?」と原作を踏襲した反応を見せる。しかし、その正体は、なんと未来からやってきたバズ自身だった。
仲間と出会わず孤独に生き、未来で圧倒的な技術力を手に入れたもう一人のバズは、タイムスリップと惑星脱出の燃料になるクリスタルを持つバズのもとへやって来た。過去の自分のミスを“なかったこと”にしようというのが、ザーグもとい未来のバズの狙いだった。
なぜ改変された?
ファンも驚きの改変はどのような経緯で実現したのだろうか。『バズ・ライトイヤー』を手掛けたアンガス・マクレーン監督は米IGNのインタビューにこう答えている。
それ(ザーグがバズの父という展開)も試みたんです。父の視点も探ってみましたが、観ている人が観ている間ずっと「お父さんだよね、お父さんだよ。さぁ、そうだよね。ほら、お父さんだ」という感じになってしまうんです。そうなると、彼の父が重要な存在であるということを示す必要が生じます。
しかし、私たちが行き着いた結論は、バズの最大の敵は自分自身であるというアイデアでした。文字通りの意味でも、比喩的な意味でもね。時間を遡ってミスを修正しようとする情熱は、彼の傲慢さであり、自分と世界を破壊するものでもあります。
“ザーグ=もう一人のバズ”という設定は、最初から決まっていたものではなかったらしい。既に観客が知っているストーリーであるがゆえ、“父である”ということ自体はサプライズにはならない。原作のまま“父だった”という設定にするならば、なぜ父なのか、ということに意味を持たせる必要があったが、それよりもバズの物語として“自分自身と向き合う”という展開が選ばれたのだ。
アンガス・マクレーン監督は、米TotalFilmにはこう話している。
“父の物語”はやろうとはしたんですよ。しかし、それを面白くするためには上映時間が足りませんでした。最終的には、バズが争う相手としてザーグの中に誰がいて欲しいか、という問いになりました。誰なら満足か? お父さん? 私はそれでは満足できない。アリーシャだったら? いやそれは嫌だな、って。
やはり父の物語を同時に語るには尺が足りなかったというのが理由のようだ。あくまで子ども向けの映画を作るスタジオであるピクサーは、大体の作品の上映時間は100分前後に収められており、『バズ・ライトイヤー』も105分に収まっている。試行錯誤の結果、中盤までに既に語られたバズ自身の物語を利用したということだろう。
試行錯誤の結果
本作で新たにバズ・ライトイヤーの声を担当したクリス・エヴァンスは、米IGNでストーリー展開の変遷について触れている。
ストーリー展開の選択は、いくつかの異なる形を経て行われたと思います。こうした映画をやっていて面白いことの一つは、収録をしている最中に人が入ってきて「オーケー、最初はこうだったよね? それはもう違くて、今はこれになった」って言われるんです。
その(バズとザーグに関する)シナリオについては、いくつかの異なる形があったと思います。でも、ピクサーが一番よく分かっていると信じて取り組むだけですよ。
やはりバズとザーグを巡る設定は変遷を辿っていたようで、クリス・エヴァンスの収録中にもリアルタイムで変更が加えられていたことが明かされている。
それにしても、「上映時間が足りなかった」という理由なら、Disney+のアニメシリーズ等でバズの父がザーズになる展開を描くことはできるかもしれない。今のところ次回作やスピンオフの話は聞こえてこないが、控えていたのがあのラストだっただけに、『バズ・ライトイヤー』と「トイ・ストーリー」シリーズを繋ぐ展開にも期待したいところだ。
『バズ・ライトイヤー』ラストとポストクレジットの解説はこちらから。
映画『バズ・ライトイヤー』は2022年7月1日(金)より全国の劇場で公開。