任天堂『どうぶつの森』発売延期を米SF作家が擁護「締め切りを恐れてはいけない」

『あつまれ どうぶつの森』発売延期で思わぬ余波

E3で任天堂が発表

世界最大のゲーム見本市・E3が6月11日〜13日にアメリカ・ロサンゼルスで開催された。この中で、任天堂が『あつまれ どうぶつの森』の発売延期を発表。当初の2019年内発売予定から、2020年3月20日発売に変更となった。『あつまれ どうぶつの森』発売延期決定を受けて、一時任天堂の株価が下落するなど、世界中で待ち望まれているシリーズの最新作だけに、世間に一定のインパクトをもたらした。

理由は「ワーク・ライフ・バランスの確保」

注目すべきは、任天堂側がこの『あつまれ どうぶつの森』発売延期の理由を、「社員のワーク・ライフ・バランスの確保」と表明したことである。過密になっている制作スケジュールを緩和し、余裕をもった体制で同作の開発に取り組むということだ。ゲーム会社に限らず企業が公に「社員のため」という理由で発売延期を発表することは異例のこと。企業としての任天堂の判断を称賛する声があがっている一方で、『あつまれ どうぶつの森』に限らず全てのゲームの開発が遅れるのでは、との懸念も浮上している。

SF界からも反応

「締め切りを恐れてはいけません」

クリエイティブの世界からも反応が起きている。上記のニュースに対して “スーパーマリオの生みの親” である宮本茂の「延期したゲームは結果的には良くなるが、 急いで作ったゲームが良くなることはない」という名言の引用が投稿され、クリエイティブな観点からも任天堂の判断を支持する声があがっているのだ。著書『ギーク・フェミニスト・レボリューション (原題: The Geek Feminist Revolution)』でヒューゴー賞を受賞したSF作家のキャメロン・ハーレイは、この名言を引用した上で、以下のようにツイートしている。

『The Broken Heavens』の執筆に苦戦していた時、ある作家が教えてくれました。「良い本は一度遅れたくらいで、それが遅れたことなど誰も覚えていないだろう。悪い本は永遠に悪いものであり、誰も忘れることはない」と。締め切りを恐れてはいけません。『The Light Brigade』は執筆が数カ月遅れていました。しかし、それでよかったのです。

不完全なまま急いで出されたものは、悪い意味で人々の記憶に残ってしまう。結果的に優れた作品が生み出せるかどうかが重要だと指摘している。

「パイレーツ・オブ・カリビアン」原作者も…?

キャメロン・ハーレイのこのツイートには、他のSF作家からも賛同のコメントが寄せられている。ゲーム「HALO」シリーズのノベライズ作品『Halo: The Cole Protocol』の著者であるトビアス・S・バッケルは、「私がこの仕事を始めた時、ティム・パワーズが全く同じことを言ってくれました。大きな影響を受けましたよ」とコメント。

ティム・パワーズは『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(2011)の原作『幻影の航海』(1987) 等を手がけ、フィリップ・K・ディック賞、世界幻想文学大賞をはじめとする数々のSF賞を受賞した著名SFファンタジー作家だ。

若手作家への助言も

更にキャメロン・ハーレイは、若手作家に向けて以下のように助言を綴っている。

新米ライターには、何があっても締め切りを守ることがプロであることを“証明”することだという強いプレッシャーがあるでしょうね。それは良いことですよ! 編集者と出版社は本当にそれを望んでいます。もちろんビジネスですからね。でも、作品によっては……時間をかけてください。私の経験上、それは価値のあることです。

言い訳にしてはいけない

一方で、SFファンタジー作家でヒューゴー賞受賞経験者のエイダン・モハーは、「良い本は一度遅れたくらいで〜」という言葉の濫用に釘をさすことも忘れていない。

仕事に取り掛かっている間は、この言葉は胸にしまうようにしています。言い訳としてではなく、焦って凡庸なものをつくるな、というリマインダーとして [覚えておくべきです]。

「時間をかけて良いものを作る」という言葉は遅延や延期の言い訳としてではなく、作家自身がクオリティの高い作品を生み出すためのポリシーとして用いられなければならない、という点を指摘している。

『あつまれ どうぶつの森』の発売延期発に端を発し、ワーク・ライフ・バランスとクリエイティブ、そしてビジネスの視点を巻き込んで、議論は思わぬ展開を見せている。入稿/脱稿の遅れは編集者や出版社スタッフのライフ・ワーク・バランスに影響を与えることにもつながるが、良いものができなければビジネスも成り立たない……。各々の立場で考えなければならない難しい問題だが、SNS上でオープンに議論ができる時代になったということが、一つの光明だろうか。

VG+編集部

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