今最も注目のSF作家、ケン・リュウの映像化作品は? 実は実写化されていたアノ作品 | VG+ (バゴプラ)

今最も注目のSF作家、ケン・リュウの映像化作品は? 実は実写化されていたアノ作品

via: © THE COLONY

映像化されたケン・リュウの作品とは?

今最も注目を集めるSF作家

今、世界で最も注目を集めているSF作家といえば、「紙の動物園」で知られるケン・リュウだ。中国生まれアメリカ育ちのケン・リュウは、2012年に「紙の動物園」でSF・ファンタジーの三大賞を総なめにすると、2013年には「もののあはれ」でヒューゴー賞短編小説部門の二連覇を達成。そんな売れっ子の彼の作品の中には、実は既に実写化されている作品もある。だが、ケン・リュウの作品といえば、シンギュラリティをテーマにしていたり、ファンタジー色が強かったりと、実写化が想像できないような作品も少なくない。一体誰が、どのように、どの作品を実写映像化したのだろうか。今回は、実写化されたケン・リュウの作品をチェックしてみよう。

実写化されていた「母の記憶に」

これまでに、ケン・リュウの原作小説を実写化した作品は二本存在する。「Beautiful Dreamer」(2016) と「Real Artist」(2016) だ。今回は、ケン・リュウ初の実写化作品「Beautiful Dreamer」に焦点を合わせてみよう。同作は、自身初の映像化作品とあって、ケン・リュウ自身も製作総指揮として名前がクレジットされている。そして、この作品の原題は「Memories of My Mother」、つまり「母の記憶に」である。日本では「母の記憶に」を表題作としたケン・リュウの短編集が、2017年に新☆ハヤカワSFシリーズから発売されている。

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日本のケン・リュウファンにも馴染みが深い作品だが、「Beautiful Dreamer」と名前を変えた同作は、一体どのような映像作品に仕上がったのだろうか。

映像化された母と娘の物語

母と娘の絆を描いた傑作SF

「母の記憶に」は、2012年にデイリー・サイエンス・フィクション誌で発表された短編小説だ。舞台はドローンが飛び交う近未来。あと二年しか生きることができない病気にかかった母親は、娘の成長を見守ることができるよう、宇宙空間で延命治療を受けることを決意する。光速で移動する宇宙船内で生活することで残された最後の二年間を引き伸ばし、七年に一度だけ娘の顔を見られる道を選んだのだ。七年に一度だけ会えるという制約が、反抗期の娘とのすれ違いを生み、いつしか娘が母の年齢を追い越すという冷酷な現実をも突きつける。だが、それでも母は娘に会いに行くことをやめなかった――。ケン・リュウの短編小説の中でも特に文量が少ない作品だが、母娘の間の絆を、SF的なギミックを通して描いた傑作だ。

なぜ「Beautiful Dreamer」なのか

「Beautiful Dreamer」と聞くと、押井守監督作品の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)を連想する人も多いかもしれない。「母の記憶に」から変更されたこのタイトルの由来は、劇中歌として使用されているスティーブン・フォスターの「Beautiful Dreamer」(1862) から取られたもの。「美しい夢見る人、私のために目覚めて」と歌うこの曲の歌詞は、すれ違いがありながらも、20代の美しさを保ち続ける母との7年間隔の再会を待つ娘の心情に重ね合わせることができる。

実写化の裏側

映像化によって生まれたもの

そんな「Beautiful Dreamer」は、わずか26分の短編映画として公開された。原作のストーリーに忠実に実写化されている一方で、実写化ならではの工夫も見られる。母と娘の再会は、少なくとも7年の間隔が空く。その時間の経過を表現する為に、窓の外を飛ぶドローンや、部屋のディスプレイを始めとするインテリア等に変化を加えているのだ。そして、Afterparty VFX社が手がけたVFX技術も見事なもの。2050年以降の未来の世界を、繊細に描きだすことに成功している。

「紙の動物園」が本命だった!?

「Beautiful Dreamer」を手がけたのは、デイビッド・ガディ監督。ガディ監督はこれまでに、コカ・コーラやトヨタなどのコマーシャル作品を手がけてきた。同作は、自身が立ち上げた映画会社 The Colony社で製作した作品だ。実は、ガディ監督はケン・リュウの「紙の動物園」に惚れ込み、「紙の動物園」の実写化をケン・リュウに持ちかけていたという。しかし、話し合いの結果、同作は実写化不可能という結論に行き着く。そこで、ケン・リュウの方から「母の記憶に」の映像化が提案され、「Beautiful Dreamer」が製作されることになったのだという。「紙の動物園」も、「母の記憶に」も、すれ違う母と子の物語だ。作品は違えど、ガディ監督が描きたかった物語を表現できたのではないだろうか。

各賞を受賞し、上々の評価

「Beautiful Dreamer」は、ボストンSF映画祭で最優秀SF短編映画部門にノミネートされ、特別賞を受賞。ニューヨーク短編映画祭では最優秀作品に選ばれる等、高い評価を受けている。もちろん、ケン・リュウの原作の力があってこその結果でもあるが、魅力的な作品の実写化を成功させたのだから、今後が楽しみな映画スタジオである。

The Colony社は、YouTubeで「Beautiful Dreamer」を公開している。現在のところ日本語字幕は付いていないが、英語字幕付きで鑑賞することができる。ケン・リュウ初の実写化作品を、是非ともチェックしておこう。

Source
© 2018 Vox Media

VG+編集部

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