『イカゲーム』シーズン2配信開始
Netflix史上最高の視聴回数を記録した『イカゲーム』(2021-) より、シーズン2が2024年12月より配信されている。韓国で製作された『イカゲーム』は、資本主義の負の側面を抉る物語が高く評価され、シーズン2ではさらに民主主義の仕組みにもスポットライトが当てられる。
また、『イカゲーム』シーズン2では、主人公ソン・ギフンとイカゲームを運営するフロントマンの対決が中心的な要素になる。今回は、シーズン1から暗躍し続けるフロントマンの過去と狙いについて、ファン・ドンヒョク監督のコメントも踏まえて解説&考察していこう。
なお、以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ずNetflixで本編を観終えてから読むようにしていただきたい。
以下の内容は、ドラマ『イカゲーム』シーズン2の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『イカゲーム2』フロントマンはどう描かれた?
明かされたフロントマンの過去
ドラマ『イカゲーム』シーズン2では、イ・ビョンホン演じるフロントマンことファン・イノがほとんど出ずっぱりの活躍を見せた。シーズン1では、オーナーだったオ・イルナムがゲームに参加したことで実質的な運営はフロントマンに委ねられていた。シーズン2ではフロントマンがオ・イルナムの立場になり、自らゲームに参戦するのだ。
フロントマンがゲームに参加した理由は、オ・イルナムがゲームに参加する前に「見てるよりやる方が面白い」と語っていたからだろう。だからフロントマンはオ・イルナムと同じ背番号001を背負ってゲームに参加することになる。
一方、フロントマンことファン・イノの弟ファン・ジュノは、シーズン1でイノから撃たれた後、イカゲーム主催側の息がかかったパク船長から助け出され、生き延びていた。おそらく自分の弟の生存を案じたイノが助けに向かわせたのだろう。
ファン・ジュノはイノの妻の墓参りに訪れるが、イノが来た痕跡はなく、母とイノについて話すことになる。どうやらジュノの母はイノとは血が繋がっていないらしいということが『イカゲーム』シーズン2では明らかになっている。
シーズン2第2話では、その上で、フロントマンことファン・イノの妻が肝臓移植が必要になりお金が必要になったこと、その前にイノはジュノに腎臓を提供していたことが明かされる。ジュノは、自分が腎臓をもらっていなければ、イノが妻のために臓器を売ってお金を作ることができたのではないかと後悔しているのだ。
フロントマンが語った真相
シーズン2第4話では、ファン・イノはソン・ギフンに少し本当の話をする。イノの妻は妻が急性肝硬変で肝臓移植が必要になり、検査の過程で妊娠が判明、妻は死んでも赤ちゃんを産むと主張していた。イノはこの話を現在進行形のように話しているが、2015年大会の前の出来事なので、10年ほど前の話だと思われる。
イノの妻は移植用の肝臓が見つからず病状が悪化、限界まで借金したが足りず、付き合いの長い取引先から援助を申し出られて少し借りたら賄賂だということになり職場から追い出された、というのが事の全容だったらしい。ジュノは母に賄賂を受け取ったのは兄さんの意思だと語っていたが、イノからすれば藁をもすがる思いで金を借りたのだろう。
だが、警察にとっての「付き合いの長い取引先」というのは、一般の企業の取引先とは意味合いが異なるはずだ。例えば監視対象になっている反社会的勢力、警察が癒着してはいけない検察や政治家がイノに擦り寄ってきたということだったのかもしれない。
イノは、クビになった組織が警察であることを伏せて、若い頃に全てを捧げた場所だったと話している。今では、イカゲームが最後の希望だとも。イカゲームでもらえる金が、人の命の代償だったとしても、その金で妻と子どもを助けたいとイノは話すのだ。
ジュノはシーズン2第2話でイノの妻の墓参りをしているため、妻は既に亡くなっていることが明かされている。イノがギフンに話した身の上話は、2015年大会時点のイノの正直な思いだったのだろう。
フロントマンは今回のイカゲームで「オ・ヨンイル」という偽名を使っていた。ちなみに韓国語で「ヨン」は「0」、「イル」は「1」を意味し、苗字の「オー(O)」と合わせて「O01=001」になるというヒントになっている。
オ・ヨンイルという名前を名乗っている時のフロントマンは、2015年大会の当時を追体験する遊びの最中にいるのだろう。ゲームの流れを裏でコントロールしてはいるが、再び生きている実感を得られるゲームの中に引きこもっていると見ることもできる。
警察からの転落、そして「最後の希望」
シーズン1第5話では、フロントマンことファン・イノのプロフィールが登場している。これを見れば、イノは1976年生まれで、2015年の第28回大会の時には満39歳、2024年の第36回大会の時点で満48歳を迎えていることが分かる(韓国には数え年で年齢を数える習慣があったが、2023年に廃止されている)。
プロフィールからはファン・イノが1995年に警察学校に入り、4年後の1999年に卒業したことも読み取れる。ドラマ『梨泰院クラス』(2019) で主人公のパク・セロイが警察学校に入学できず転落を経験したのとは逆に、イノは順調に警察としてのキャリアを積んでいたことも示されている。
それでも、弟に腎臓を譲り、妻の肝臓移植が必要になるという家族の不幸が続いた結果、ファン・イノは転落してイカゲームに参加することになった。シーズン1では、フロントマンがゲームの「平等」にこだわる場面も登場する。
それは、運営スタッフが密売のために臓器の摘出を元医者のプレイヤーに手伝わせ、その見返りとして次のゲームの情報を与えていると知った時のことだ。フロントマンは、不平等と差別に苦しんできた人々が公平に戦える最後のチャンスがイカゲームであり、その原則を破ったとして運営スタッフを射殺している。
この考え方は元プレイヤーとしての意見であるのと同時に、生き残った勝者の生存者バイアス(生き残れなかった人達の立場を鑑みなくなること)がかかった考え方でもある。それでも、順調だった人生に突如降りかかった家族の不幸、忠誠を誓い働いてきた組織も国もそれを助けてくれないという状況を前に、イノにとってイカゲームは「最後の希望」となったのだろう。
フロントマンが生まれた背景
無意味な勝利
米Netflix公式が運営する情報メディアのTUDUMでは、ファン・ドンヒョク監督がフロントマンの心境に触れている。曰く、フロントマンは「私に何が変えられるというのだ?」と、諦めの境地にいるというのだ。
「最後の希望」としてイカゲームの2015年大会に参加したファン・イノは見事優勝を果たすことができたが、妻と子どもは死んでしまったのだろう(子どもは生まれた可能性もあるが、少なくともイノは死んだと思っている)。金を得たが意味はなく、イカゲームに参加したことで、むしろ最後に妻と過ごす時間を失ったのかもしれない。
イカゲームに勝利しても現実を変えることができなかったファン・イノは、自分には何も変えられないという結論に至り、イカゲームのフロントマンになったのだと考えられる。養母にも弟にも会いに行かず、妻の墓参りもせずに現実から逃避してしまったのだ。
そこまで予想できる根拠は、『イカゲーム』シーズン1で主人公ソン・ギフンが同じ経験をしているからだ。ギフンは糖尿病を患う母を置いてイカゲームに参加し、金を手に入れて帰ってきた時には母は部屋で一人で死んでしまっていた。
そうした経験を経て、シーズン2ではギフンもイカゲームに囚われ、イカゲームへと舞い戻った。ファン・ドンヒョク監督はシーズン2のラストで敗北したギフンが、それでもゲームを終わらせられると信じるか、屈服してフロントマンのような人間になるか、それがシーズン3のポイントになると明かしている。ギフンはイノが来た道を辿っているようにも見えるのだ。
イ・ビョンホン最大の挑戦
ファン・ドンヒョク監督は、『イカゲーム』シーズン2は「フロントマンがマスクを外して始まり、自分自身に戻って再びマスクをつけて終わる」と説明している。フロントマンを演じたイ・ビョンホンが素顔で出ずっぱりだった『イカゲーム』シーズン2は、ほとんどフロントマンのためのシーズンだったと言っても過言ではない。
フロントマンを演じたイ・ビョンホンは、シーズン2で明かされたファン・イノの過去についてのディテールが演技に役立ったとTUDUMに明かしている。シーズン2の準備にあたって、イ・ビョンホンは何度もファン・ドンヒョク監督と対話を重ねたという。
「彼はなぜこうした行動を取るのか?」「なぜこうしたことを言うのか?」「このキャラクターの複雑さをどれほど表現したいのか?」といった問いかけを重ねて、キャラ作りを行なっていったというのだ。フロントマン、ファン・イノ、そしてギフンに名乗ったオ・ヨンイルという三つの顔を演じたイ・ビョンホンは、「この三つの側面をそれぞれ異なるニュアンスで演じ分けるということは、俳優として最大の挑戦であり、同時に最高に楽しいことでもありました」と語っている。
ファン・ドンヒョク監督が「ギフンとフロントマンの対決の第2章」と呼ぶシーズン3では、どんな決着が描かれるのか。イ・ビョンホンの演技と共に目が離せない。
ドラマ『イカゲーム』シーズン2は2024年12月26日(木) よりNetflixで独占配信中。
Source
TUDUM
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