『屋根裏のラジャー』感想&考察 イマジナリの存在意義とは ネタバレ解説 | VG+ (バゴプラ)

『屋根裏のラジャー』感想&考察 イマジナリの存在意義とは ネタバレ解説

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空想上の友達〈イマジナリ〉が私たちに教えてくれたこと

『かぐや姫の物語』(2013)や『思い出のマーニー』(2014)でプロデューサーを務めた西村義明が立ち上げ、『メアリと魔女の花』(2017)を世に送り出したスタジオポノック。そのスタジオポノックが『もののけ姫』(1997)や『千と千尋の神隠し』(2001)など数々のジブリ作品で中核的な役割を担ってきた百瀬義行を監督に迎え、新たに生み出したアニメ映画『屋根裏のラジャー』が2023年12月15日に公開された。

空想上の友達、イマジナリのラジャーを主人公とした『屋根裏のラジャー』は、A.F.ハロルドの児童小説『ぼくが消えないうちに』(2016)を原作にしたアニメ映画だ。イマジナリに命を吹き込む声優には寺田心、仲里依紗、山田孝之、寺尾聰など豪華な声優陣が揃っている。そしてイマジナリを生み出す人間たちの声優陣も豪華だ。

そのような豪華な声優とスタッフによって生み出された『屋根裏のラジャー』は、現実の私たちに何を伝えてくれたのだろうか。本記事では『屋根裏のラジャー』で語られるラジャーたちイマジナリの存在意義について考察していこう。なお、本記事は『屋根裏のラジャー』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『屋根裏のラジャー』の内容に関するネタバレを含みます。

忘れられていくイマジナリたちと忘れてしまう子供たち

忘れないこと、守ること、泣かないこと

鈴木梨央演じるラジャーを生み出した少女のアマンダは本屋の一人娘。母一人、子一人で暮らしているが、その生活ももう終わりを告げる。本屋は閉店することになり、アマンダは亡き父親との思い出にすがるように寺田心演じるラジャーとの空想の世界にふけっていく。空想の世界に逃げ込むアマンダのことを安藤サクラ演じる母親のリジーは心配するも、リジーが読んでいる本や会話から新たな職探しでリジーは手一杯だと容易に考察できる。

そのようなアマンダの唯一無二の親友がラジャーだ。ラジャーはアマンダと「忘れないこと、守ること、泣かないこと」を約束したアマンダと同い年くらいの少年の姿をしたイマジナリで、年齢は3か月と3週間と3日と短い。生まれてから出会った月日は短いが、ラジャーとアマンダとの関係は深く、アマンダの空想を通して見る世界は虹のように鮮やかだ。

その美しい日々を壊していくのがイッセー尾形演じるミスター・バンティングだ。ミスター・バンティングの正体は子供のイマジナリを捕食し、その子供の心を殺しながら生きながらえてきた存在だ。かつて、子供だったミスター・バンティングは自身のイマジナリの少女と別れることを恐れた結果、子供から夢と希望を搾取しながら生きながらえる大人になってしまったと解説されている。ミスター・バンティングは忘れられると消滅してしまうイマジナリたちから都市伝説的な存在として恐れられていた。

そのようなミスター・バンティングに目をつけられてしまったアマンダとラジャー。ミスター・バンティングはラジャーに他のイマジナリとは違う何かを感じ取り、執拗に狙ってくる。アマンダとラジャーが喧嘩した翌日を狙うようにして現れたミスター・バンティングは、スーパーマーケットの駐車場でラジャーを捕食しようとし、そこからアマンダとラジャーが逃げた結果、アマンダは交通事故に遭ってしまった。

空想ではなくなった死

アマンダが救急車で運ばれ、図らずも無理やりアマンダと引きはがされてしまったラジャー。体が消えはじめるラジャー。そのとき、ラジャーの頭に過ったのは「アマンダの死」だった。アマンダが死んだことで、誰にも認識されなくなったイマジナリは消える。ラジャーはそのように考えて怯えていた。

この時点から物語の視点がアマンダの空想を通して見る世界から、消滅の危機に晒されているラジャーの視点に移っている。そうして町の様子を見てみると落書きなどが目立ち、意外と廃墟や空き家が多いことにも気付く。これまではアマンダの美しい空想の世界を見てきた観客たちに、現実のアマンダを取り巻く環境を見せてくるものだと考察できる。

アマンダ視点ではミスター・バンティングが連れている腐りかけたイマジナリの存在などを信じてくれないなど母親のリジーはアマンダを軽く見ている印象を受けるが、実際のアマンダは現実から目を背けて空想の世界に逃げ込んでいる子供なのだ。

母親のリジーは夫を急に亡くし、経済的に苦しい状況にある。子供のアマンダがどうにかできることではないが、アマンダの方がリジーとの関係を拒絶しているとも考察できる。イマジナリとしてアマンダの空想を肯定し続けたラジャーだったが、ここではじめてアマンダが拒絶し続けていた現実に直面する。

ジンザンとエミリとの出会い、そしてラジャーの戦い

消えゆく恐怖に怯えるラジャーの目の前に現れるのが山田孝之演じる猫のイマジナリのジンザンだ。ジンザンの存在はイマジナリと現実を繋ぐものとして重要な架け橋となっている。ジンザンはイマジナリが消えない安全な想像力に満ちた世界「図書館」にラジャーを連れて行ってくれるだけではなく、ジンザン自身が幸福な家ではない生まれのイマジナリなのだ。

ジンザンを生み出した子供は闇に怯え、夜に恐怖していた。そして眠る自分を見守る存在として眠らないジンザンを生み出したのだと解説されている。この告白をきっかけにイマジナリは幸福な空想の産物だけではなく、辛い現実から一瞬の安らぎを得るためにも生み出されることが明らかになってくる。

図書館を取り仕切る仲里依紗演じるエミリもそのようなイマジナリの一人だ。エミリは病気で病院から出ることができずに亡くなった子供のイマジナリで、外に出て自由に駆け回りたいという空想から空をモモンガのように滑空し、飛行機のパイロットのようなゴーグルをつけた元気な少女として生み出された。

そのようなエミリとジンザンが、ラジャーと共にミスター・バンティングと対峙した際に「忘れられるのと、奪われるのは違う」と言い切るのが重たい。忘れられたら消える存在、消えたら忘れられる存在。そのような存在であるイマジナリだが、イマジナリは子供たちが独り立ちするまで子供たちを肯定し、守ってくれる存在なのだ。だからこそ、イマジナリを生み出す環境を奪ってはならないし、イマジナリが奪われた子供たちが暮らす街は荒んでいると考察できる。

本当の「忘れないこと、守ること、泣かないこと」

『屋根裏のラジャー』の物語が進んでいく中で、ラジャーもまた、ジンザンやエミリと似たイマジナリだと明らかになる。ラジャーの生まれた3か月と3週間と3日前とは、アマンダの父親の命日だった。

そして「父親を忘れないこと、一人になった母親を守ること、辛い姿を見せないために泣かないこと」という3つの約束を守るために、父親を失ったばかりのアマンダを肯定してくれる存在として生まれたのがラジャーだった。それこそミスター・バンティングが他のイマジナリと違うと執着していた理由だと考察できる。

ラジャーは自分の生まれた理由を知り、そして消えることを覚悟して親友のアマンダのために病院に向かう。ラジャーはイマジナリの本当の目的のために、病院へと向かう。イマジナリと子供は絶対に別れることになる。しかし、その別れは幸せなものでなければならない。子供は空想上の親友に背中を押されて大人になる。そして空想上の親友が教えてくれた夢や希望を叶えるべく、現実に向き合うのだと考察できる。

ミスター・バンティングは自分こそ子供を現実に向き合わせる存在だと思っているが、それは違う。子供たちは大人になる過程で空想や夢を捨てるわけではない。空想や夢の世界に逃げ込むことなく、空想や夢と共存する方法を学んでいくのが大人になるということなのだと考察できる。ミスター・バンティングはそれが出来なかった。その結果、ミスター・バンティングは他人の夢や希望を捕食しないと衰えていく存在になってしまったと考察できる。

こんな時代だからこそ必要な『屋根裏のラジャー』

夢を持ち続ける必要性

世界はパンデミックを経験し、今もなお紛争が続いている。ミスター・バンティングのような存在も跋扈しているのが現実だ。イマジナリを奪われた子供の心にはぽっかりと穴が開き、そして心は衰弱して死んでいく。それは大人も同じだ。夢や希望を絵空事だと切り捨てず、それと共存しながら現実と向き合うことが大事なのだと考察できる。

どんなに冷笑され、嘲笑されようとも夢や希望を捨ててはいけない。それを捨てた瞬間に世界は荒んでいく。綺麗ごとばかりの世の中ではないが、それでも夢や希望を捨てずに現実と向き合わなければならない。アマンダは母親のリジーがかつてのイマジナリであるレイゾウコと再会したのを見て、大人になっても夢や希望を持ち続けられると知ってラジャーと最後の冒険に出たのだと考察できる。

これからアマンダにはきっと苦しいことが続くことは容易に考察できる。父親が開いた本屋は潰れ、経済的にも決して良い状況とは言えない。交通事故の後遺症もあるかもしれない。父親の喪失の痛みもある。それでも、辛いときにはラジャーが心のどこかにいて、背中を押してくれる。そうしてアマンダは前に進み続けることができるのだと考察できる。

こんな現実だからこそ、『屋根裏のラジャー』のように純粋に普遍かつ不変のメッセージである「夢を持ち続けること」を説く映画が必要なのだと考察できる。『屋根裏のラジャー』は忘れていた冒頭では童心をよみがえらせ、そして鑑賞後には大人の世界へと優しく後押ししてくれる映画だと考察できた。

『屋根裏のラジャー』は2023年12月15日(金)より全国劇場公開。

『屋根裏のラジャー』公式サイト

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『屋根裏のラジャー』のキャスティングの考察はこちらから。

スタジオポノック短編集『ちいさな英雄』はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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