DEVILMAN crybabyの主人公は飛鳥了。“大衆”と“個人”を描いた新デビルマン | VG+ (バゴプラ)

DEVILMAN crybabyの主人公は飛鳥了。“大衆”と“個人”を描いた新デビルマン

via: © Go Nagai-Devilman Crybaby Project

45年の時を経て蘇ったデビルマン

海外ではシーズン2待望の声も

2018年1月にNetflixでの世界同時配信が始まった『DEVILMAN crybaby』。『ピンポン THE ANIMATION』(2014)、『夜は短し恋せよ乙女』(2017)などを手がけた湯浅政明監督による、伝説的SF大作漫画『デビルマン』(1972)の初の完全アニメ化だ。公開直後から国内外で大きな反響を呼び、海外では『デビルマンレディー』(2013)などの派生作品を用いたシーズン2の製作にも期待の声が上がっている。原作公開から45年もの時を経て、世界中の人々の心を掴んだものとは何だったのだろうか。インターネットであらゆるコンテンツに触れられるようになった時代において、尚も人々を惹きつけるその魔力を解剖してみよう。

原作デビルマンと新デビルマン、それぞれの時代背景

永井豪の原作漫画『デビルマン』の連載がスタートしたのは1972年。ベトナム戦争の真っ只中で、連合赤軍によるあさま山荘事件や日本赤軍のテルアビブ空港乱射事件が発生、殺伐とした空気が世間を覆っていた。45年の時を経た今、我々は無法地帯となったインターネット上に自我の半分 (もしくはそれ以上) を預け、ヘイトスピーチが溢れる現代に生きている。『DEVILMAN crybaby』が描き出した世界観 (とりわけSNSに関する描写) は、現実以上に現実的で、視聴者たちは強烈な“思い当たるフシ”を目の当たりにする。デビルマンは、他でもない私たちの物語だと痛感するのだ。

ネタバレ注意
以下の内容は、アニメ『DEVILMAN crybaby』の内容に関するネタバレを含みます。

デビルマンの主人公は飛鳥了!

永井豪と湯浅監督が認める

2017年3月、「AnimeJapan2017」で対談した永井豪と湯浅監督は、この場で初めて、デビルマンの主人公が飛鳥了であることを確認した。熱血漢の不動明に対して、冷静に読者と不動明を物語の深部に誘い込む飛鳥了。物語が進行するに連れて、その隠された秘密が明らかになっていく。飛鳥了は『デビルマン』の連載開始当初、物語の序盤に死ぬ予定のキャラクターであったため、同時進行で制作されていたテレビアニメシリーズには登場していない。物語が進むに連れて、どうしても飛鳥了を外せなくなり、永井豪は飛鳥了がこの物語の主人公であることに気づいたという。作中で飛鳥了が知らず知らずのうちに物語を誘導していく展開は、原作者にとっても予想外のものだったのだ。

「crybaby」の正体とは

『DEVILMAN crybaby』では、そうした展開は全て前提条件として描かれているため、初めて意識的に飛鳥了が物語の軸として描かれた作品となった。地上波では決して放送できないであろうラスト3話を締めくくる最終回、つけられたタイトルは「泣き虫」だった。英語版では、本作のタイトルにも冠された「crybaby」となっている。アルマゲドンの後、全てが滅びた地球上で、不動明を抱えた飛鳥了は泣きじゃくる。声を担当した村瀬歩の熱演シーンだ。原作漫画のラストシーンでもその目から涙をこぼしているように見えるが、同時に全てを受け入れているようにも見える。本作で描かれているのは、自らのわがままが高じて、大事なものを全て失い、愛と哀しみという感情を知った“crybaby”だ。湯浅監督版デビルマンが2018年に甦らせた飛鳥了は、“crybaby”という作品のテーマとなったキャラクターなのだ。

『DEVILMAN crybaby』で描かれたもの

21世紀にアダプテーションされたデビルマン

『DEVILMAN crybaby』は、単に原作を忠実にアニメ化するということ(=トランスレーション)ではなく、先に触れたような現代社会の状況を踏まえた作り変え(=アダプテーション)がなされた作品だ。45年を経て、より個人にスポットライトが当てられ、発言権を与えられた21世紀——改めて身勝手な“飛鳥了”に焦点を当てた思惑はどこにあるのだろうか。

「飛鳥了」とは誰なのか

確かに、ヒーローとしての不動明の真っ直ぐさは、視聴者に感動を与えるものだ。トラウマ的な経験を経て全てを焼き尽くす不動明に共感した人も多いだろう。一方で、飛鳥了がさらけ出した独善性に対してはどうだろう。私たちの誰もが不動明の強さを持ち合わせているわけではないが、誰もが飛鳥了の愚かさを心に抱えているのではないか。『DEVILMAN crybaby』で描かれる醜い大衆は、現実社会の人々の姿に重なり、それを滅ぼさんとする個人としての飛鳥了の傲慢さや独善性は、それを見ている他でもない“私”の姿に重なる。

恐怖に踊らされる大衆としての“人間”と、自分の中の“悪魔”。飛鳥了の存在自体がその対比を生み出す。対極にありながらも、私たちの心を蝕む両者。逆説的だが、その両者の存在こそが、それらを焼き払うことができる「人間でも悪魔でもない」デビルマンというヒーローを作り出したのだ。

『DEVILMAN crybaby』公式サイト

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