アメコミヒーロー映画とスーツ 【マーベルヒーロー達のスーツ事情】 | VG+ (バゴプラ)

アメコミヒーロー映画とスーツ 【マーベルヒーロー達のスーツ事情】

© MARVEL / © Twentieth Century Fox Film Corporation.

アメコミヒーロー映画とスーツ、SF映画界の王者になりつつあるアメコミヒーロー映画

今や年間10本以上のアメコミヒーロー映画が製作され、上映されるほとんどの作品が興行的な成功を収めている。2010年代から、「アメコミヒーロー」というジャンルがSF映画における王者の地位を獲得しつつあるのだ。

アメコミヒーロー映画におけるスーツの役割

そんなアメコミヒーロー映画にとって、なくてはならないアイテムの一つが「スーツ」だ。多くのキャラクターは、現実世界における私たちと同じように、普段はさえない日常を生きているが、スーツを身にまとうことで「スーパーヒーロー」になることができる。アメコミヒーロー映画を語るにあたって、切っても切り離せない存在である「スーツ」。今回は、マーベル作品で登場したヒーローたちのスーツ事情に迫っていく。

大量投入!惜しみなく使われるスーツたち、アメコミヒーロー映画史上「最多スーツ記録」を持つアイアンマン

アメコミヒーロー映画の歴史上、作中に一番多くスーツを登場させているのがアイアンマンだ。「アイアンマン」シリーズおよびマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)作品には、累計で実に数十体ものアイアンマンのスーツが登場している。

圧巻は、「パワードスーツ依存症」を患ったアイアンマンことトニー・スタークの苦悩を描く『アイアンマン3』(2013)。日本人クリエイターの成田昌隆氏がCGモデリングの責任者として参加したこの作品では、新旧合わせて36体ものスーツが惜しげもなく登場し、世界中のアメコミファンが歓喜したことは記憶に新しい。

シリーズ三作目というタイミングで、これまでの集大成的な意味も込められた演出であった。このアメコミヒーロー映画史上「最多スーツ記録」は、MCUの記念すべき第1作目のキャラクターとなり、人気ヒーローの座に就いたアイアンマンだからこそ打ち立てられたと記録と言えるだろう。

もったいない!ヒーロースーツは一作品につき一度切り!?

「アントマン」シリーズでアントマンことスコット・ラングを演じるポール・ラッドは、『アントマン・アンド・ザ・ワスプ』(2018)の撮影中、米国・大手ケーブルテレビ局のHBOによる自閉症を持つ人々を支援するチャリティ番組に、当時未発表であった最新のスーツ姿で登場。これは、撮影が行われていた現場でQ&Aコーナーを行うという設定のコメディショー(いわゆるコント)。ポール・ラッドは番組の中で、

(ネタバレに厳しい) マーベルがスーツを着て撮影することを許可してくれました!

by ポール・ラッド

と、興奮気味に視聴者に語りかけている。更に、ポール・ラッドは番組中に、

(製作陣は) 全てのマーベル映画でスーツのデザインを新調しているんです。

と述べ、マーベルでは一つ一つの作品ごとに、それぞれのキャラクターのスーツが作り直されていることが明らかになった。

実際に、アントマンが他のマーベルヒーローと共に登場した『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)では、アントマン一作目のものとも『アントマン・アンド・ザ・ワスプ』のものとも異なるスーツを着用していることが確認できる。第一線を走るマーベルらしいこだわりは、スーツの扱い方からも見えてくるのだ。

黄色いスーツはNG?ウルヴァリンのスーツ事情、原作版スーツを必要としなかったヒーロー「ウルヴァリン」

一方で、コミック原作のスーツ姿が映画内で一度も登場しなかったキャラクターも存在する。映画「X-MEN」シリーズにおいては、X-MENのスーツを着用したウルヴァリンだったが、アメコミ好きなら誰でも知っているあの黄色いコスチュームを着たウルヴァリンの姿は、ヒュー・ジャックマンの「ウルヴァリン引退」まで、とうとう映画作品には登場しなかった。

黄色いスーツが登場しなかった理由

『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)、『LOGAN/ローガン』(2017)を手がけたジェームズ・マンゴールド監督は、ヒュー・ジャックマンが17年間演じ続けたウルヴァリンに、原作でお馴染みの黄色いスーツを着せることをしなかった理由は、まさにそのキャラクター性にあるとしている。マンゴールド監督は、ヒーローとして活動を行う際に黄色いスーツを着ることがあるとすれば、自己顕示的な理由に他ならない、と説明。また、ウルヴァリンというキャラクターについてこう語っている。

ウルヴァリンは、あらゆるヒーローの中で最もナルシズムとかけ離れたキャラクターです。

by ジェームズ・マンゴールド

つまり、映画内のウルヴァリンは、17年の歳月をかけ、ヒュー・ジャックマンによって独自に形成されたキャラクターであり、映画シリーズ内に黄色いスーツを登場させなかった理由は、そこにあったのだ。

ウルヴァリンというキャラクター

実は映画の撮影にあたって、黄色いスーツは用意されていた。『ウルヴァリン:SAMURAI』のエンディングとして、黄色いスーツの入ったケースがウルヴァリンに手渡されるシーンまで撮影されていたのだ。しかし、制作側の最終的な判断でカットされ、そのままスーツはシリーズに登場することはなかった。重厚なストーリーとヒュー・ジャックマンの演技力に裏打ちされた高い完成度の前には、そうした演出に「頼る必要がなかった」と言っていいだろう。

こうした判断とは裏腹に、マンゴールド監督自身は、ぜひあの黄色いスーツをヒュー・ジャックマンに着てもらいたかった、と語っている。ヒュー・ジャックマン自身も、このコスチュームを着ることには興味があったとされている。

ファンも含めた人々の心に渦巻く「欲望」によって実現する可能性があった「黄色いスーツ」という「過剰な演出」。それは、超人的な回復力を持つがゆえに様々な困難に直面し、そして乗り越えてゆくミュータントの生涯を、実写映画という舞台装置の上で描き切った脚本・演出と、それを17年間に渡ってたった一人で演じ切ったヒュー・ジャックマンの演技力によって、封印されたのだった。

実在しないが人々の心に宿っているキャラクター達を、実写化する時に誰が演じるかという問題は、いつの時代にも大きな論争を巻き起こす。これと同じく、実在しないヒーロー達のスーツの扱いを巡る裏事情は、枚挙に暇がない。

Source
Screen Rant.com / Mynavi Corporation.

VG+編集部

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