アメコミと猫【ヒロイン編~二人の”キャット”とアメリカ女性史~】 | VG+ (バゴプラ)

アメコミと猫【ヒロイン編~二人の”キャット”とアメリカ女性史~】

via: © 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.

アメコミが描く日常と現代アメリカ

土地に根ざしたカルチャー

今やSF映画として王道ジャンルの仲間入りを果たしたアメコミ。その一方では、他のSFジャンルとは違い、アメリカ国内の世相を反映するという土地に根ざした特殊な成長を続けている。例えば、2009年に米国内でのペット関連の消費高が450億ドルに達すると、マーベルはすかさず「ペット・アベンジャーズ」を結成。これまで個別に登場していたスーパーアニマル達を結集させ、アメコミファンとペット愛好家を喜ばせた。

アメリカは動物大好きな国!?

「ペット・アベンジャーズ」では、ペット好きなお国柄とアメコミというサブカルチャーが分かりやすい形でミックスされた。しかし皆さんは既に、アメリカの動物好きが作品に影響を与えた例を目にしてきているはずだ。アメコミでは、コウモリ男のバットマンや、イタチの仲間であるクズリをモデルにしたウルヴァリン、黒豹をモチーフにしたブラックパンサー、極めつけは動物と会話ができ、能力をコピーできるアニマルマンに至るまで、動物を題材としたヒーローが数多く登場する。
そんな中でも、猫を題材としたアメコミキャラクターは、どういうわけか女性キャラクターが多い。クリエイターたちは、猫を通してどのような女性像を描いてきたのだろうか。今回は、「猫」をコンセプトにしたアメコミヒロインの姿に迫る。

多様性を体現したキャットウーマン

女性キャラクター=猫?

猫のアメコミヒロインと聞いて最初に思い浮かべるキャラクターは、キャットウーマンではないだろうか。コミックでの初登場は、『バットマン』第1話が発表された1940年。バットマンの生みの親であるボブ・ケインが、1930年代にアメリカのセックスシンボルであった女優のジーン・ハーロウをモデルとして創造した。ケインは、男性である主人公のバットマンに対して、“理解しがたい相手”として「女性/猫」を置いたとしている。

女性の社会進出とキャットウーマン

登場時には単に“ザ・キャット”と呼ばれていたキャットウーマンだったが、80年代後半、女性の社会進出が進むにつれて脚光を浴び始める。1989年には初の冠コミックシリーズ、『キャットウーマン』が連載されると、「One Year Later」シリーズではバットマンと恋人関係になり、出産からの職場復帰 (活動再開) が描かれた。

描き出された多様性

2004年には、アフロアメリカンの父を持つハル・ベリー主演で映画『キャットウーマン』が公開された。かつて、1960年代の『バットマン』テレビシリーズでも、アフリカ系アメリカ人のアーサー・キットがキャットウーマンを演じている。2012年公開の『ダークナイト ライジング』では、アン・ハサウェイがキャットウーマンを演じ、2014年に放送を開始したドラマシリーズ『GOTHAM/ゴッサム』には、後にキャットウーマンとなる少女、セリーナ・カイルが登場。親に捨てられストリート・チルドレンとして育ったバックグラウンドが描かれた。2015年には、コミックシリーズでキャットウーマンは両性愛者であることも明らかにされている。
キャットウーマンは、登場時には“女性”の象徴としての“猫”を被らされたわけだが、アメリカ社会の歩みとともに、多様性を獲得してきたキャラクターなのだ。なお、2018年1月より放送が開始されたドラマ『ブラックライトニング』では、テレビドラマ史上初となる黒人女性のLGBTヒーロー・サンダーが登場している。これもキャットウーマンが積み上げてきた歴史があってのことだろう。

ブラックキャットが訴えた問題とは?

やっぱり女性キャラクター=猫?

DCコミックの猫ヒロインがキャットウーマンなら、マーベルコミックの猫ヒロインはブラックキャットだろう。ブラックキャットの生みの親であるマーヴ・ウルフマンは、スパイダーウーマンの敵役として女性キャラの創作を模索しており、アニメ『呪いの黒猫』(1949)からヒントを得てキャットウーマンを創り出した。バットマンと恋人の関係になってゆくキャットウーマンに対して、ブラックキャットはスパイダーマンと恋仲になってゆく。
女性キャラの創出が猫と結びつき人気男性キャラクターの恋人となる、バットマンと同様の流れを辿っている。1940年に登場したキャットウーマンに対し、ブラックキャットが登場したのは1979年。しかし、ヒロインとしての活動やヒーローと恋人になっていくストーリーは、ブラックキャットの方が先駆的に描かれている。類似した設定が多いが、どちらが先とは言い切れないDCとマーベルの関係をよく表していると言える。

ブラックキャットのキャラクター像

さて、ブラックキャットの本名であるフェリシア・ハーディというキャラクターは、映画『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)に登場する。女優のフェリシティ・ジョーンズが、フェリシアという名のキャラクターを演じているのだ。作中でスパイダーマンの恋人であるグウェン・ステイシーが死亡してしまう展開は、スパイダーマンの新恋人としてのブラックキャットの登場を予期させた。結局、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズが打ち切りとなったことで、映画版ではブラックキャットの登場は叶っていない。
何度も実写化されているキャットウーマンとは違い未だ実写化されていないブラックキャットだが、フェリシアがバイセクシャルである事実が公表されたのは、キャットウーマンよりも早かった。マーベルユニバースにおけるパラレルワールドを描いた「MC2」シリーズでは、彼女はブラックキャットを引退し、職場の女性と恋人の関係を築いている。「アメイジング・スパイダーマン」のコミックシリーズでは、スパイダーマンことピーター・パーカーがメアリー・ジェーンと結婚したことに嫉妬し、ピーターの親友であるフラッシュ・トンプソンと付き合い始めるなど、恋愛に関する描写が多いのもブラックキャットの特徴だ。

性被害を訴えた勇気ある作品

2002年に始まったコミックシリーズ、「Spiderman/Black Cat: The Evil That Men Do」では、ブラックキャットの過去をリライトする試みが行われた。全6巻のシリーズだが、フェリシアが闘い続けるのは、大学時代に彼氏から受けたデートレイプ被害の経験だ。事件のフラッシュバックや加害者への復讐心に揺れ動くフェリシアは、兄から性的虐待を受けていた経験を持つフランシス・クラムらとの出会いを通して、その経験を乗り越えようとする。作中には、「研究によると、4~9人に1人の女性が性的暴行の被害を受けています」というナレーションが入る。男性が中心の読者層であるアメコミ作品で性暴力被害を描いたこのシリーズは、勇気ある試みだったと言える。

アメコミというジャンルは、現代アメリカの代弁者でもある。キャットウーマンもブラックキャットも「女性=猫」という安易な発想から生まれたが、その安易さもまた、当時のアメリカ社会の姿であった。そして現在もアメコミが映し続けるのは、今のアメリカ社会の姿である。アメコミの中の猫を追って見えた光景を、今後も追い続けていこう。

Source
©2018 Oath Inc. / © Advocate / © 2018 The Mary Sue, LLC / © of Batman-Online.com / © 2013 Chasing Amazing.

VG+編集部

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