アメコミヒーロー映画とスーツ 【クリエイター達の挑戦】 | VG+ (バゴプラ)

アメコミヒーロー映画とスーツ 【クリエイター達の挑戦】

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アメコミヒーロー映画とスーツ【クリエイター達の挑戦】

ヒーロー映画におけるスーツの役割

今やSF映画界の王者になりつつあるアメコミヒーロー作品。そこに登場するヒーロー達をヒーローたらしめるアイテムが、変身するときに着用するスーツだ。最後まで原作のスーツが登場しなかった「ウルヴァリン」シリーズ、老いたバットマンというキャラクター設定に合わせたスーツが登場した『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)など、アメコミヒーロー映画とスーツを巡る議論は一心同体。フィクションを実写化するという作業の中で、必ず向き合わなければならない難題だ。

映画の命運を握るアイテム

多くのヒーローは、原作のスーツを着た姿で世間に知られている。アメコミヒーロー映画ではヒーロー役に抜擢された俳優がそのスーツに身を包んだ姿によって、適役であったかどうかの最終的な評価を受けるのだ。そして、ここで重要になるのが、そのスーツの造りである。どんなに良い役者を起用したとしても、スーツの造りがチープであれば、原作ファンや役者のファンからのバッシングは免れない。そんな観点から、今回は映画や演者の命運をも左右する存在である、コスチュームデザイナーの姿に迫ろう。

スーパーマンのデザイナーが語るスーツ制作の現場

ザック・スナイダー監督の盟友デザイナー「マイケル・ウィルキンソン」

オーストラリア出身のコスチュームデザイナー、マイケル・ウィルキンソンは『ウォッチメン』(2009)、『マン・オブ・スティール』(2013)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』、そして『ジャスティス・リーグ』(2017)と、数々の大作でヒーロースーツのデザインを手がけてきた。熱心なアメコミヒーロー映画ファンの方は、ウィルキンソンがこれらの作品を手がけたザック・スナイダー監督の盟友であることは既にご存知だろう。

スーツ制作に大切なことは監督との信頼関係

ウィルキンソンはスナイダー版スーパーマンの制作にあたって、複数のインタビューでその難しさを語っている。重厚なトーンを基調とするザック・スナイダー監督の世界観で求められるのは、21世紀の現実社会に存在していてもおかしくない、リアルとフィクションの調和が取れるスーツ。スーパーマンではお馴染みの「赤いパンツ」が、スナイダー版スーパーマンで取り去られている理由はそこにある。原作のデザインをベースにしながら、監督の意見を取り入れることからスーツ造りは始まる。監督とデザイナーの間のコミュニケーションと信頼が第一に求められることを考えれば、ザック・スナイダー監督が信頼を置くウィルキンソンとタッグを組み続けるのもうなずける。

フィクションとリアルを繋ぐヒーロースーツ

そして、一度スーツのイメージが固まると、ウィルキンソンが「信じられないほど緻密」と語るスーツ制作が始まる。スーパーマンのように、役者の身体にフィットさせるスーツを制作する場合、まずは演者の身体を3Dスキャンし、実寸大のモデルを制作する。これだけでも時間と費用がかかる作業だが、次に、この等身大モデルにフィットするスーツを造りだしていく。
多くのアメコミヒーロー映画では、登場するスーツの素材は、異世界や他の惑星などで採取されているなど、現実には存在しない新しい素材という設定になる。撮影にあたってレザーをスーツの素材として使用することになったとしても、それが”レザー”に見えてはいけない。フィクションとリアルの狭間をいく絶妙なバランス感覚がクリエイターには求められる。ここに、SF作品のスーツづくりの難しさがあるのだ。

オスカーデザイナー、CGクリエイター、それぞれの苦悩と成功

アカデミー賞受賞の大物デザイナーでも直面する困難

アカデミー賞衣装デザイン賞の受賞経験があるデザイナーのアレクサンドラ・バーンは、『マイティ・ソー』(2011)、『アベンジャーズ』(2012)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)など、多くのマーベル映画でヒーロースーツのデザインを手がけてきた。スーツの制作工程は、大ベテランの彼女をして、「膨大な共同作業」と言わしめる。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の制作過程では、主人公スター・ロードが使用するホルスターの仕様を変更する為に、実に9名の制作スタッフと複数の部署に確認をとる必要があったという。バーンはこう振り返る。

銃のデザインが完成するまでは、銃の大きさが分からないでしょ。するとズボンの側面は銃のデザインが決まるまでは完成させられない。コスチューム制作においては、ほんの小さな要素であったとしても、多くの手続きとコミュニケーションを必要とすることもあるの

by アレクサンドラ・バーン

ヒーロースーツのデザインという仕事は、華やかさだけでは成り立たない。しかし、そんな地道な共同作業の積み重ねが、感動を呼ぶ大作を生み出しているのだ。

日本人クリエイターが乗り越えた壁

『アイアンマン3』(2013)でCGモデリングを担当したのは、日本人CGクリエイターの成田昌隆氏。前述の作品群とは違い、同作のスーツ制作においてはCGでの作業がメインとなる。成田氏は、”いかにかっこ良く見せるか”を重視して作成されたデザイン画を、実際にCG映像として機能させることの苦労を語っている。スーツのメカニカルな部分を描くにあたって、工学的な整合性を取ることも求められたという。計算し尽くされた物理的制約の中では、実物でのコスチューム制作以上の挑戦を要することもあるだろう。全てのアイアンマンを違和感なく、そしてクールに見えるように動かすCG職人の技が、36ものスーツを登場させるという前人未到の作品を完成させたのである。

ヒーローのスーツを通して見えること

このように、スーツを着る人がいれば、着せる人もおり、作る者もいる。各々の直面する苦難に種類の違いはあれど、アメコミヒーロー達の姿に真剣に向き合った結果がスクリーンに映しだされ、観る者に感動を与える。現実には存在しない世界を創造し、人々を思考実験の世界に誘う機能がサイエンス・フィクションの醍醐味の一つである。ならば、圧倒的な知名度を誇る原作に対し、視覚的なアダプテーションを施して映像化されるアメコミ映画においては、「想像」を「現実」に召喚するクリエイター達の挑戦と工夫もまた、見所の一つなのだ。

Source
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