日本ガイシの企業広告に十三不塔「至聖所」 YOUCHANのイラストと共に日本経済新聞に掲載 | VG+ (バゴプラ)

日本ガイシの企業広告に十三不塔「至聖所」 YOUCHANのイラストと共に日本経済新聞に掲載

日本ガイシがSF小説を用いた広告展開

大手セラミックメーカーの日本ガイシ株式会社による新しい形の企業広告が、2022年10月18日(火)付の日本経済新聞朝刊文化面に掲載されました。「いいミライを、つづろう。」と題されたこの広告では、既に発表されている日本のSF短編小説の一場面をピックアップ。そこに描かれている未来を日本ガイシの技術と共に読み解くことで、SF作家のアイデアが現実のものになる可能性に想像を巡らせる内容になっています。

今回選ばれたSF小説は、SF作家・十三不塔さんの「至聖所」です。本作は、人間の記憶をデジタル映像に変換して復元することが可能になった2084年の京都を舞台に、記憶から作られるデータの〈修復家〉である角南が、若くしてこの世を去った天才アーティスト・異相きあろの生前の記憶を追うという物語です。脳波測定と体性感覚誘発電位から得たデータ信号を深層ニューラルネットワークへ翻訳し、人間の記憶をデジタルデータに変換して持ち運ぶことができるようになった未来が描かれています。今回の広告ではこのSF小説が描く世界を日本ガイシの技術で読み解き、「ありそうなミライ」の可能性を探究しています。

今回のもう一つの注目ポイントは、SF・ミステリ小説の装画などで知られるYOUCHANさんによる描き下ろしイラストが掲載されていることです。一枚のイラストの中で十三不塔さんの「至聖所」の世界観を再現しつつ、記憶がデジタルデータとして修復されていく様子が表現されています。今回のプロジェクトのために描き下ろされた特別な一枚をお見逃しなく。

十三不塔「至聖所」は、2022年5月に刊行された日本SF作家クラブ編『2084年のSF』(早川書房) に収録されています。小説の全編はこちらで読むことができるので、未読の方、今回の広告で作品に興味を持たれた方は、ぜひ本書を手に取って読んでみてください。

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なお、今回の日本ガイシの企業広告制作にあたっては、株式会社日本経済社の起案に基づき、SF企業のVGプラス合同会社がSF作品とSF作家のコーディネートを手掛けました。また、小説の設定と該当する技術との関連については、一般社団法人日本SF作家クラブが確認を行いました。

 

作家コメント到着! 十三不塔が見た「いいミライ」

VGプラスでは、今回日本ガイシのSF広告に起用されることになった「至聖所」の作者である十三不塔さんにコメントを頂きました。作品に込めた想いや、自身のSFアイデアを現実の技術で読み解く今回の企画を経て感じたことを語って頂いています。

――「至聖所」では“記憶の修復”、“記憶の映像化”というSFアイデアをベースに、二人のアーティストを巡る物語が進んでいきます。着想を得たきっかけや、この物語を書こうと思った経緯を教えてください。

十三不塔:「至聖所」は、いわゆる聖地巡礼というムーブメントから発想しました。ドラマやアニメの舞台のモデルとなった場所にファンが詰めかけるという現象があります。また古来からのお伊勢参りやお遍路など聖地を巡るという営みを人間は続けてきました。故人の思い出を偲ぶ墓参りもある種の巡礼でしょう。であれば、もっとダイレクトに記憶にアクセスできる巡礼があってもいいのではないか、そんなふうに思い至りました。「至聖所」というワードはエジプト考古学者の河江肖剰さんのYouTubeチャンネルで初めて耳にしたときから、いつか作品のタイトルにしたいと決めていました。

――本作では技術が社会に浸透した様子とその経緯が分かりやすく示されています。小説の中で、未来の技術やガジェットについて解説を入れることにこだわりや特別な意図はありますか?

十三不塔:わたしには科学の素養はありません。ただ、科学の歴史には興味があります。過去から現在のパースペクティヴを振り返ると未来への予想図がぼんやりと浮かんできます。理数系の方でなくともパラダイムシフトしていく人間の意識や社会をわくわくしながら想像することさえできれば、魅力的な未来がおのずと描けるようになると思います。

――今回の日本ガイシさんの広告プロジェクトでは、現実の技術でこのSFアイデアが現実になる可能性が示されました。作家としてはどのようなお気持ちでしょうか。

十三不塔:日本ガイシさんの広告プロジェクトで取り上げて頂き光栄なのはもちろんですが、自分の作品に楽しい漸近線が引かれたようで「なるほど」と新鮮でした。執筆時にアドバイスを頂きたかったくらいです。フィクションでしかない作品に科学的な知見によってサポートが与えられるというのは心強いものですし、またとない幸福な出会いでもあります。SFプロトタイピングというアイデアが一過性のもので終わらず、先端技術を扱う企業と作家のコラボレーションがますます盛んになることを願っています。余談ですが、愛知県に住んでいるわたしはしばしば日本ガイシホールを利用するので、その点でも一方的に愛着のある企業です。

――“記憶の修復”が出来るようになったら、どんなことに使ってみたい/使われてほしいですか?

十三不塔:犯罪の捜査などにも使えそうですが、やはり個人的には幸福な子供時代の記憶を鮮明に保存しておきたいです。作中で描いたようにもう会うことのできない死者の記憶や、死者の眼から見た自分の記憶なども貴重な精神的遺産となるでしょう。たとえば死んだ祖父にとって孫のわたしはどんな存在だったのか知りたいですね。さらにこの技術が発達すれば、早逝してしまった家族などだけでなく、人より寿命の短いペットの記憶なども再現できるかもしれませんね。死を免れない我々にとってこれらの技術は慰めになるだけでなく、根本的な死生観を変える可能性もあります。

――最後に、「至聖所」をビジュアル化されたYOUCHANさんのイラストの感想を教えてください。

十三不塔:YOUCHANさんのイラストには感激しました。記憶というものの移ろいやすさ、儚さがとても美しく描出されていると思います。ギターを抱えた異相きあろは作者のイメージを超える存在感があります。また独特の繊細なタッチから来るスピード感はSFにぴったりなうえ、昔ながらの童話めいた温かみも感じさせてくれます。是非多くの人に触れて頂きたいです。

 

今後の展開にも注目

SF小説を現実の最先端技術と共に読み解くことで、「ありそうなミライ」が見えてくる気がします。本記事で紹介した広告は、2022年10月18日(火) 付の日経新聞朝刊文化面に掲載されていますので、ぜひ紙面でお楽しみください。

SF小説を用いた広告の新しいカタチを示した今回の広告プロジェクトは、今後も展開される予定です。次はどんな作品と技術がピックアップされるのか、お楽しみに!

なお、日本ガイシは2022年10月18日(火) から10月21日(金) まで幕張メッセで開催される国際展示会 CEATEC®️に出展しています。日本ガイシの技術について更に知りたい方は、こちらの特設サイトもチェックしてみてください。

十三不塔「至聖所」を収録した日本SF作家クラブ編『2084年のSF』は早川書房より発売中。

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YOUCHANの作品集は『YOUCHANイラストレーション集成 1998-2018』が発売中。

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VG+編集部

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