祝『ドクター・スリープ』映画化! 『ショーシャンク』『スタンド・バイ・ミー』、4編中3編が実写化されたスティーヴン・キング『恐怖の四季』の本当の凄さ

Viking

48本目の実写化作品『ドクター・スリープ』

ホラー界の巨匠スティーヴン・キング原作の新作映画『ドクター・スリープ』の日本公開が2019年11月29日に迫っている。『ドクター・スリープ』は、スティーヴン・キング原作小説の内、劇場公開された映画だけで48作品目となる。2019年9月21日には72歳の誕生日を迎えたが、次々とホラー・SF作品を世界に送り出していく姿勢は変わらない。

初の非ホラー中編集『恐怖の四季』

そんなスティーヴン・キングの作品の中でも、日本で1982年に『恐怖の四季』のタイトル (日本語版は「ゴールデンボーイ」「スタンド・バイ・ミー」の副題で上下巻) で出版された中編集は、映画界にも大きなインパクトを残した。原題は単に「四季」を意味する『Different Seasons』だったが、ホラー作家としてのスティーヴン・キングのイメージが先行してか日本語版には『恐怖の』という枕詞が付された。この邦題とは裏腹に、『恐怖の四季』は、それまでホラー小説家として名を知らしめてきたスティーヴン・キングにとって、初となるホラー色の薄い中編集だった。

4分の3作品が映画化

『恐怖の四季』には各季節に対応した4つの作品が収録されているが、その内、なんと3作品が実写映画化されている。「刑務所のリタ・ヘイワース——春は希望の泉」『ショーシャンクの空に』(1994) として、「ゴールデンボーイ——転落の夏」は、後に映画「X-MEN」シリーズの監督として知られることになるブライアン・シンガーによって『ゴールデンボーイ』(1998) として映画化された。最も早く映画化されたのは「スタンド・バイ・ミー——秋の目覚め」『スタンド・バイ・ミー』(1986) のタイトルでロブ・ライナーが映画化し、アカデミー賞脚色賞にもノミネートされた。「マンハッタンの奇譚クラブ——冬の物語」は唯一映画化されていないが、2012年ごろから映画化の話が出ている。

『恐怖の四季』から映画化された作品は、それぞれ名作として映画ファンから親しまれているが、それでも同作は“四季”をモチーフにした一冊の本であるということを忘れてはいけない。いわば一枚のコンセプトCDアルバムのようなもので、4作品を通して読むことで、より味わい深さが増すつくりになっているのだ。

ネタバレ注意
以下の内容は、小説『恐怖の四季』、映画『ショーシャンクの空に』『ゴールデンボーイ』『スタンド・バイ・ミー』の内容に関するネタバレを含みます。

「刑務所のリタ・ヘイワース」が提示した“希望”

『ショーシャンクの空に』として映画化された「刑務所のリタ・ヘイワース」の原題は、「Rita Hayworth and Shawshank Redemption」。「リタ・ヘイワースとショーシャンクの贖い」という意味のタイトルだ。「希望の春」がテーマになったこの作品は、映画版と小説版ではエンディングが異なっている(なお、原作ではアイルランド系のレッドを黒人のモーガン・フリーマンが演じたことも話題となった)。

映画版では、モーガン・フリーマン演じるレッドが、無罪を主張し脱獄したアンディとメキシコで再会して幕を閉じる。だが小説版では、レッドはアンディを追いかけてメキシコへ向かうが、「希望を失ってはいけない」というメッセージが打ち出されて幕を閉じる。レッドがアンディと再会できたかどうかは分からず、希望が叶うことではなく、「希望を持つこと」それ自体の重要性を強調して物語を閉じるのだ。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない、味わい深い余韻を残し、読者を次の物語に案内する導入部分となるのが「希望の春」だ。

「ゴールデンボーイ」の救いのなさ

刑務所に収監された中年男性たちが主人公になる「刑務所のリタ・ヘイワース」に対して、「ゴールデンボーイ——転落の夏」は、少年野球チームのエースで勉強もよくできるゴールデンボーイ=エリート少年を主人公にした作品だ。映画版も小説版も、英題は「Apt Pupil」、つまり「優等生」という意味のタイトルである。

優等生だったトッド少年はナチスが働いた残虐行為の研究に熱中していく。近所に住む老人・デンカーがナチスの残党であると知ったトッドは、デンカーの弱みを握り、ナチス時代の残虐行為を話して聞かせる強要する。映画版では、後に「X-MEN」シリーズでマグニートを演じるイアン・マッケランがデンカーを演じた。「X-MEN」のマグニートはユダヤ系という設定だが、イアン・マッケランは『ゴールデンボーイ』ではナチスの残党を演じていたのだ。

さて、「ゴールデンボーイ」における原作と映画版の最も大きな違いは、やはりそのエンディングである。映画版では、トッドは彼の狂気に気づいた教師を「同性愛者だと言いふらす」と脅し、自身の身を守ることに成功する。小説版では、トッドは逃げ切れなくなり、銃の乱射事件を起こした末に死亡する。どちらも非常に後味の悪いエンディングだ。映画版では“少年による銃乱射”というシーンを挿入することは困難だったのだろうが、“大人を脅して逃げ切る”という映画版のエンディングは、よりトッドをより邪悪な存在に仕立てあげることになった。

『恐怖の四季』という作品の流れで考えると、中年の服役者達が希望を見つける「刑務所のリタ・ヘイワース」に続いて登場するストーリーが、エリート少年が転落していく夢も希望もない「ゴールデンボーイ」なのだ。人間の美しい部分とおぞましい部分を読者に突きつけながら、『恐怖の四季』は「秋の目覚め」に突入する。

「スタンド・バイ・ミー」が突きつけた現実

秋の作品に該当する「スタンド・バイ・ミー」は、名作ジュブナイル映画『スタンド・バイ・ミー』として生まれ変わったが、原題は「死体」を意味する「The Body」。4人の少年たちが30キロ先の森の奥にあるという死体を探す旅に出る。映画では表現がマイルドになっているが、4人の少年はそれぞれネグレクトや直接的な暴力など、程度の差はあれ家族から虐待を受けている子ども達だ。似た境遇の仲間同士、冒険を通して特別な絆を紡ぎ出していく。

「スタンド・バイ・ミー」もやはり、映画と小説でエンディングが異なる。少年期に起きる事件自体はほとんど同じ流れなのだが、4人の子ども達のその後は大きく異なる。映画版では1人が逮捕、1人が死亡という結果だが、小説版では主人公のゴーディを除く3人共が死亡している。生き残ったゴーディは大人になり、作家として成功する。ゴーディと共に苦しい境遇を抜け出しながらも、その正義感ゆえに亡くなったクリスに想いを寄せるシーンで映画は幕を閉じる。

だが、実は小説版のラストには、故郷に戻ったゴーディが大人になったいじめっ子のエースを見かけるシーンが挿入される。中年男性になったエースが酒場に入っていく様子が描かれるのだが、ゴーディだけがこの街、この境遇から抜け出せたことを強く印象付けるシーンとなっている。主人公のゴーディは努力の結果、幸せな人生を掴み取るのだが、亡くなった3人の仲間とかつてゴーディがいた世界で今を生きるエースの存在が、物語にやり切れなさを残す。

「マンハッタンの奇譚クラブ」で描かれた強さと優しさ

最後に収録された「マンハッタンの奇譚クラブ——冬の物語」は、会員達が話を聞かせ合うマンハッタンのクラブでのお話。原題はそこで語られるストーリーの内容をとって「呼吸法」を意味する「The Breathing Method」となっている。1930年代に世間からの強い風あたりの中で、非嫡出子を産むと決意したシングルマザーの物語だ。

彼女の出産が近づいた頃、病院に向かうタクシーが交通事故を起こし、彼女の首と胴体は切断されてしまう。それでも、彼女は出産を支援してくれた医師に教わった呼吸法を忘れていなかった。彼女は首と胴体がない状態で子どもを出産し、身寄りがない彼女のために医師と看護婦は彼女の埋葬代を負担した。この物語でも、善意の人々に助けられながらも母親は死んでしまう。だがその子どもは生き延び、母のように強い気持ちを持った大学教授に育つという結末だ。

なお、首と胴体がバラバラになった状態での出産シーンがメインとなっているせいか、「マンハッタンの奇譚クラブ」は長らく映像化されることはなかった。だが、2012年にブラムハウス・プロダクションと『ドクター・ストレンジ』(2016)の監督として知られるスコット・デリクソンが同作の映画化を目指しているとの報道がなされている。これが実現すれば、4作品を収録した中編集で全作品が実写映画化されることになる。

もちろん、それはそれで快挙なのだが、やはり注目すべきは『恐怖の四季』に収録された作品が、いずれも社会のグロテスクさや人間の脆さ、そしてその対極にある強さと優しさを複雑に交差させた物語だという点だ。様々な属性のキャラクターを登場させ、勧善懲悪でもない完全なハッピーエンドでもバッドエンドでもない物語の中を歩ませることで、各作品の副題にも採用されている人間の「希望」や「堕落」を描き出している。

スティーヴン・キングの名著『恐怖の四季』、原題『Defferent Seasons』を読むことで、『ショーシャンクの空に』『ゴールデンボーイ』『スタンド・バイ・ミー』という一本一本の映画を観るだけでは感じることのできないメッセージや、一冊の本としての味わい深さを知ることができるのだ。

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