『室井慎次 生き続ける者』大ヒット公開中
映画『室井慎次 生き続ける者』が2024年11月15日(金) より全国の劇場で公開された。10月に公開された『室井慎次 敗れざる者』の後編にあたる本作では、「踊る大捜索線」シリーズの最新作として柳葉敏郎演じる室井慎次の最新の物語が描かれる。
今回は、『室井慎次 生き続ける者』での登場が予告されていた小泉今日子演じる日向真奈美について考察してみよう。以下の内容は本編のネタバレを含むので、『室井慎次 生き続ける者』を劇場で鑑賞してか読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『室井慎次 生き続ける者』の内容に関するネタバレを含みます。
『室井慎次 生き続ける者』日向真奈美はどうなった?
日向真奈美がカムバック
前作『室井慎次 敗れざる者』では日向真奈美の娘とされる杏が登場。『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』(1998) と『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』(2010) に登場した日向真奈美が獄中で出産していたことが明かされた。
杏の父は『THE MOVIE 3』で日向真奈美の脱獄を主導した須藤圭一で、医療刑務所のカウンセラーとして収監されていた日向真奈美と関係を持っていた。獄中で生まれた杏は両親が収監されているため、東京の里親のもとに預けられていたが、里親が面倒を見切れなくなって室井の元へ送られたのだった。
『室井慎次 生き続ける者』では、小泉今日子演じる日向真奈美がアーカイブではない新規映像で登場。14年ぶりの「踊る」シリーズ復帰となった。日向真奈美は月に一度、娘の杏と面会しており、「攻撃される前に攻撃しろ」という“教育”を施していた。杏はその洗脳とも呼べる呪縛をタカと室井との対話によって乗り越えていく。
日向真奈美の計画
だが、日向真奈美はより大きな計画を動かしていた。警視庁の桜章太郎は、室井家の近くでレインボーブリッジ事件の犯人の遺体が見つかったことも、杏が室井家にやってきたことも日向真奈美の計画だったのではないかと考察するのだ。
日向真奈美は、無期懲役で服役している現在もファンサイトが作られるなど神格化されていた。『THE MOVIE 3』の時点でも日向真奈美の釈放に際して信者が旧湾岸署の周辺に集まっていたが、青島俊作が日向真奈美の殉教を阻止。青島が狙ったわけではないだろうが、“警察に助けられる教祖”の姿が世間に晒されたことで、日向真奈美の神格化には歯止めがかけられたかに思われた。
しかし、ジョーカーが称揚される時代だ。ネットの時代を背景に日向真奈美はカムバックを果たしたのだろう。レインボーブリッジ事件を起こした犯人グループである瀬川吉雄と国見昇は日向真奈美の信者になっており、日向は犯人グループを仲間割れするよう洗脳していた。日向真奈美が国見に瀬川を殺させ、室井の家の近くにその遺体を埋めさせたというのが桜の見立てだ。
それだけではない。日向真奈美は里親を困らせるように杏を洗脳し、相談された里親には室井に預けるように助言した。この桜の予想は当たっていると思われる。伏線となる演出が『敗れざる者』の中に登場するからだ。
「ある方」の伏線
前作では杏は里親から預かった現金と手紙を持っており、里親の手紙には「ある方の助言」で秋田で犯罪孤児を育てている人物がいると知ったと記されていた。この「ある方」というのが日向真奈美その人だったのだろう。
手紙には、娘にお金を渡して室井の元へ行かせるように言われたとも記されていた。助言者が日向真奈美だという前提がなければ、ここでいう「娘」というのは里親にとっての娘=杏だと受け取れるが、助言者にとっての娘=杏という意味だった可能性もある。
いずれにせよ、日向真奈美は娘を洗脳して室井家に送り込み、レインボーブリッジ事件の犯人グループを洗脳して遺体を室井家の近くに送り込んだ。桜はその動機を「今の室井さんは幸せに見える」と予想した。日向真奈美が自身を逮捕した青島を狙わなかった理由は、今の青島が幸せそうに見えなかったからだろうか。
日向真奈美の今後はどうなる?
日向真奈美の願い
『室井慎次 生き続ける者』では、事件は解決し、杏も室井の夢を引き継ぐことになった。だが、日向真奈美の件については何も解決しておらず、ラストで青島が登場したことと合わせて考えても、今後のシリーズで日向真奈美が登場する可能性は高い。
日向真奈美は『THE MOVIE 3』で旧湾岸署の爆発と共に死のうとした際に「私が死に、たくさんの私が生まれる」と発言した。そして、『THE MOVIE』でも『THE MOVIE 3』でも死刑になることを望んでいたが、その願いが叶えられることはなかった。「室井慎次」二部作では日向真奈美は杏を自分のように育てようとしたが、その計画は失敗に終わっている。
一方で獄中から室井を苦しめるという狙いは達成しており、日向真奈美は今後も獄中から警察関係者を苦しめる愉快犯的な計画を遂行していくのではないだろうか。あるいは娘の杏に狙いを定める可能性もあるだろう。日向真奈美が、「死んでたくさんの私を生む」ことを目的とせず、生きている主体として行動することになれば、それはそれでかなり厄介だ。
日向真奈美と対極の存在
「踊る大捜査線」シリーズには、犯人に同情できるバックグラウンドを置かないというルールがあった。幸せそうな室井を狙う日向真奈美について、桜に「邪悪な者」と言わせた演出にはその精神が垣間見られる。
そして、ルールは破るためにある。そのルールから逸脱したのが『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012) の鳥飼誠一、久瀬智則、小池茂だった。特に鳥飼には警察の改革を願う被害者遺族というバックグラウンドが与えられ、視聴者が同情し得る動機が設定された。
その件をあまりクローズアップしないという配慮は見られたが、結果的に室井は警察を辞めて犯罪孤児の支援を行っており、犯人の思想がシリーズのメインキャラクターの生き方を変えた例と捉えることもできる。鳥飼の行動は世間からも同情を買ったのではないだろうか。
一方で日向真奈美は、常人には理解できない動機を持つ悪の権化のような存在であり、悪の“純度”が高い。ゆえに鳥飼は日向が殉教しようとした時には、悪は排除されるべきとして見殺しにしようとした。日向真奈美と鳥飼誠一というヴィラン(悪役)「踊る」シリーズの中でも突出した存在だが、真逆のキャラクターでもある。
『室井慎次 生き続ける者』では最後に「The Odoru Legend Still Continues」という文字が登場した。日向真奈美と鳥飼誠一の二人は、刑務所にいながらも世間に影響を与える強力なヴィランとして警察の前に立ちはだかることになるかもしれない。真逆の二人が共闘することになったら……怖すぎる。
映画『室井慎次 生き続ける者』は全国の劇場で大ヒット公開中。
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