ニール・ブロムカンプ監督が『エリジウム』で描いた経済格差――地球の今と未来を映し出した“比喩”と“if”

ライター

“経済格差”を描いた『エリジウム』

公開から6年

ニール・ブロムカンプ監督が手がけた『エリジウム』(2013)の公開から、早6年が経過しようとしている。2011年の『第9地区』のヒットを受けて製作された、ニール・ブロムカンプ監督にとって二本目の長編作品だ。2154年を舞台にした『エリジウム』は、環境は汚染され貧しい人々が住む地球と、あらゆる病を治せる医療技術が確立した富裕層が移り住んだ宇宙コロニーに分断された世界を描いた。現実社会の経済格差を反映したこのプロットは、公開から数年が経過した今でも、私たちが住む実社会に当てはまる。今回は、『エリジウム』で物語の最大のテーマとして描かれた“経済格差”に焦点を当てて同作を振り返る。

『エリジウム』を生んだメキシコでの逮捕劇

逮捕、そして拉致…!?

『エリジウム』の製作過程には、ファンの間ではよく知られているあるエピソードがある。『エリジウム』の設定は、ニール・ブロムカンプ監督が経験したメキシコでの逮捕劇から生まれたというものだ。

それは『第9地区』でのデビュー前にまで遡る2005年のこと。ニール・ブロムカンプ監督は、ナイキのコマーシャル撮影の仕事で、アメリカ西海岸南部のサンディエゴを訪れていた。サンディエゴはメキシコの国境沿いに位置しているため、歩いて国境を越えることができる。仕事を終えた彼は、当時の上司の提案で、国境を越えたところにあるメキシコの観光都市・ティファナを訪れた。
ティファナでの夜を楽しんでいた一行だったが、路上を散歩していたところに、現地の警察官が現れる。警官たちは無言でニール・ブロムカンプ監督と彼の上司に手錠をかけ、二人を車の後部座席に押し込むと、そのまま車を発進して街の外へ出てしまったのだという。異国の警察に無言で拉致されるというのは、かなりの恐怖だ。
何も喋らず車を走らせる警官たちに対して、二人は仕事で使うために持参していた現金を差し出し、車を降ろしてもらえるよう懇願する。そして、900ドルを差し出したところで、ようやく警官たちは車を停め、二人を車からおろした。ようやく解放された二人だが、そこがどこなのか見当もつかない。歩き続けた二人は、そこがメキシコの貧困街だということに気づく。野犬が徘徊し、赤ん坊の鳴き声が響き、人々が焚き火をしていている集落を通り抜けると、ニール・ブロムカンプ監督の目に飛び込んできた光景は、地平線の先に燦然と輝くアメリカの街だったという。

メキシコとアメリカの光景を題材に

真っ暗なメキシコの集落と、光り輝くアメリカの街。国境を越えただけで、それまで自分たちがいた世界と180度異なる環境に立たされていたのだ。見えていない/見ていないだけで、貧困は厳然とそこに存在している。この経験の8年後、ニール・ブロムカンプ監督は、メキシコの風景とアメリカの光景に象徴されていた経済格差を、地球と宇宙コロニーという舞台に置き換えた。比喩表現というSFの持つ機能を最大限に活かし、『エリジウム』を完成させたのだった。

比喩だけではない“if”の物語

『エリジウム』が映し出す“未来”

だが、『エリジウム』は、ただ単に格差社会を比喩で描いただけではない。ニール・ブロムカンプ監督は、舞台設定を2154年の地球としている。この作品は、格差社会と環境汚染が進んだ未来の地球の物語だ。荒廃したロサンゼルスには、かつての繁栄の面影はない。地球に住む人々は、ボロボロの宇宙船に乗り込み、非合法な方法で宇宙コロニーを目指す。国境を越えるよりも遥かに困難な方法だが、彼らは貧窮する現状から抜け出そうとする“不法移民”というわけだ。地球全体が汚染され荒廃する未来がやってきた時、富裕層は地球を捨てて宇宙コロニーへと脱出する。人々は“富めるもの”と“それ以外”に分断され、今は豊かさを享受できている私たちも、“地球側”の人間になる未来がくるかもしれない――『エリジウム』は、そんな“if (もしも)”の物語をも兼ね備えている。

リアリティへのこだわり

“if”つまり“もしも”を描くのであれば、忘れてはならないのが、リアリティの追求だ。『エリジウム』はファンタジーではなく、あくまでも人類の未来を描くサイエンス・フィクションとして描かれた。

『エリジウム』では、荒廃した未来のロサンゼルスを表現するために、メキシコシティでの撮影を敢行。世界的に有名なゴミの集積場での撮影も行われた。主演のマッド・デイモンが「毎日服を捨てなきゃならなかった」と話すほど、劣悪な環境で撮影に臨んだのだ。

その他にも、リアリティを追求する為に、富裕層が使用するシャトルやスーツは、アルマーニなど、現実の高級ブランドにデザインを依頼している。フォルクスワーゲンが展開する高級車ブランド・ブガッティ製のシャトルも登場する。こうしたディテールによって、観客は現実から地続きの未来の物語として、この作品を捉えることができるのだ。なおニール・ブロムカンプ監督は、ブガッティには一度断られながらも熱心な交渉を続け、“未来のブガッティ”を映画に登場させることに成功したのだという。リアリティを追求するその熱意が伝わるエピソードである。

『エリジウム』という作品は、“比喩”と“if”というSFの機能を最大限に活用しながら、説得力を持たせる為にリアリティを追求した、ニール・ブロムカンプ監督渾身の一作だったのだ。

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– Source –
thelocationguide / METRO / Entertainment Weekly / NBCDFW.com

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