ネタバレ解説&感想 映画『フロントライン』ラストの意味は? モデルになった人々、実際の展開を考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想 映画『フロントライン』ラストの意味は? モデルになった人々、実際の展開を考察

© 2025「フロントライン」製作委員会

映画『フロントライン』公開

2025年6月13日(金) に公開された映画『フロントライン』は、2020年2月に起きたダイヤモンド・プリンセスでの新型コロナウイルスの集団感染を題材にした物語を関根光才監督、増本淳脚本で描き出した作品。主演を小栗旬が務め、松坂桃李池松壮亮窪塚洋介、森七菜、美村里江、桜井ユキという豪華キャスト陣が集結している。

あれから5年、映画『フロントライン』では日本中が注目したあの出来事はどのように描かれたのだろうか。今回は、そのラストに注目してネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『フロントライン』の結末に関するネタバレを含みます。

映画『フロントライン』ネタバレ解説

事実に基づく物語

映画『フロントライン』で中心的に描かれるのは災害派遣医療チーム・DMAT(Disaster Medical Assistance Team)だ。DMATの発足は2005年で、阪神淡路大震災の反省から結成された。2004年には東京都が東京DMATの運用を開始しており、これをモデルケースとして厚労省が全国版に発展させる形で発足した。

ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染が発生したのは2020年2月頭のこと。同年1月16日に日本で最初の感染者が確認されると、2月にかけて世界各国で次々と感染者が確認され始めた。マスクが世界的に品薄となる中、ダイヤモンド・プリンセス号は1月20日に横浜から出港し、25日に香港で下船した乗客の感染が2月1日に確認された。

ダイヤモンド・プリンセス号が横浜に戻ったのは2月3日。2月1日には、ダイヤモンド・プリンセス号は寄港した那覇港で検疫を受けていたが、乗客の発熱が報告され、横浜港で再度の検疫が行われることになった。

検査の結果、船内で10名の感染者が確認され、ダイヤモンド・プリンセス号は2月7日から14日間の検疫、つまり隔離が行われることになった。感染者は日々確認され、最終的に3,711名の乗客の内、感染が確認されたのは634名にのぼった。

映画『フロントライン』では、映画向けに時系列や人物の行動などに改変を加えてはいるものの、実際に起きた出来事に基づいた物語が展開されていく。

中心となる7人の登場人物

映画『フロントライン』では、主に7人の人物が中心的に描かれる。主人公は小栗旬が演じる結城英晴で、普段は医者として活動しているがDMATの出動を要請され、指揮官として神奈川県庁から横浜港のダイヤモンド・プリンセス号内の仙道へ指揮を行う。

窪塚洋介演じる仙道行義が担うのは、船内に乗り込んで現場を指揮する役回りだ。時には結城とぶつかりながらも未知のウイルスと対峙する。一方で結城は、松坂桃李が演じる厚労省の官僚・立松信貴に感染者の受け入れについて調整を依頼し、仙道と結城の間に立つ中間管理職のような役割を担うことになる。

小栗旬といえば、「踊る大捜査線」シリーズの鳥飼誠一や『信長協奏曲』(2014) のサブロー/織田信長役、『日本沈没 -希望のひと-』(2021) の天海啓示役など、型破りだったり、体制の中にあっても体制に一矢報いるような役の印象が強い。だが、映画『フロントライン』では、現場と官僚の間に立って“調整の調整”を行うような難しい役回りのキャラを演じている。

DMAT隊員の医師である真田春人を演じたのは池松壮亮。『シン・仮面ライダー』(2023) での主演が記憶に新しいが、2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』では豊臣秀吉役を演じ、織田信長役の小栗旬と再び共演する。

男性中心のメンバーの中で、存在感を見せるのが森七菜演じるダイヤモンド・プリンセスのクルー・羽鳥寛子だ。英語ができる寛子は、夫が感染し妻が精神的に追い詰められるブラウン夫妻らに寄り添い、DMAT隊員にはできないケアを乗客に施していく。

桜井ユキ演じるテレビキャスターの上野舞衣が上司の指示もあり、世間の不安と怒りを煽るような報道に徹する一方、美村里江演じる乗客の河村さくらがSNSを通してクルーの努力を世間に知らせる一幕も。DMATと結城は、ウイルスだけでなく世論との対峙も迫られることになる。

六合医師の元ネタは?

映画『フロントライン』では、ダイヤモンド・プリンセスに乗船した六合医師がDMATの対応を批判する動画をYouTubeに投稿したことで大きく世論が動く。この展開は、現実で岩田健太郎医師が船内の隔離が十分に行われていないという旨の動画を投稿したことをベースにしている。

映画『フロントライン』ではDMATの隊員である真田は事実ではないと怒り、家族に差別にさらされることを懸念していた。すでにDMATでは多くの辞退者も出ている。それでも仙道と結城は世間体よりも目の前の人を救うことを優先するが、真田は、隊員の家族の心配は誰がするのかと訴えかけるのだった。

映画『フロントライン』の特筆すべき点は、「ケアラー(ケアをする人)のケアは誰がするのか」という問題を扱ったことだ。本作が制作されて公開されること自体が、当時人知れず戦った人々へのケアの役割も果たしていると言える。

結城は真田の言葉と、感染したクルーが苦しんでいる姿を見たことを受け、記者の上野と対話することを選ぶ。結城は、完璧は難しくても目の前の状況で出来る限り最善の判断をしてきたと話し、徐々に報道の姿勢に疑問を持ち始めていた上野はその言葉を受け止め、乗客のありのままの声を届けることを選ぶのだった。

世間でも、ダイヤモンド・プリンセス号に乗ったという別の医師が六合の発信への反論をSNSに投稿し、流れが変わり始める。この投稿は高山義浩医師がFacebookに投稿した内容をベースにしている。

その後、六合医師は船内の状況が改善されたとして動画を削除するが、これも現実の出来事に即した流れである。この「改善」について、後に仙道は「防護服の脱衣所を1メートルずらした」と説明している。

映画『フロントライン』ラストをネタバレ解説

藤田医科大学岡崎医療センターへの大輸送

映画『フロントライン』のクライマックスは、愛知県に実在する藤田医科大学岡崎医療センターへ乗客・乗員を運ぶシーンだ。岡崎医療センターで受け入れられたのは無症状の陽性患者と同行していた濃厚接触者(感染者の家族)である。

開業前の新設されたばかりの病院で、ダイヤモンド・プリンセス号の最後の要隔離者を丸々受け入れるという作戦。岡崎医療センターが厚労省からの要請を受けて受け入れを決め、地域住民への説明を経て受け入れを開始することになった。

横浜のダイヤモンド・プリンセス号から愛知県の岡崎医療センターまでは自衛隊と警察がエスコートし、片道5時間の道のりをバスで移動している。バスの中で7名が発症するなど混乱の中で患者らの受け入れを実行。現実では合計で128名を受け入れて、二次感染者を出さないまま全員を退所を実現している。

このクライマックスのシーンでは、岡崎医療センターの中堅医師・宮田を演じる滝藤賢一の演技が見事だった。滝藤賢一は、『フロントライン』の前週に公開された『見える子ちゃん』にも出演しているが、両作で真逆と言ってもいい演技を見せ、共に世界観の構築に大きく貢献している。

突然7人の発症者を受け入れることになり、宮田は真田に怒りを見せながらも、これからコロナ対策について知恵を借りることになるだろうと認める。当時は多くの人が理不尽に襲いくるウイルスに対してやり場のない怒りを抱きながら、それでも手を取り合って戦うしかないと覚悟を決めたのである。

立松の葛藤と結城の言葉

ダイヤモンド・プリンセスを降りた後の緊張感のある長距離移動をクライマックスに設定したことは正解だったと言える。ここでは、厚労省からお願いしたことだからと病院まで同行した立松の官僚としての葛藤も描かれた。

海外から来た幼い兄弟の兄が、陽性反応が出た弟と一緒にいたいと訴え、立松は両親の許可をとった上でこれを病院に認めさせた。官僚らしい調整能力と言えるが、そのあとで立松は結城に対して、自分は「判断」を他人に委ねていると悩みを打ち明ける。

だがそれも官僚の仕事である。選挙や政治活動を通して市民が決めたことを実行に移すこと、その中で現場の要請と法律の制限の間を調整すること……。立松は、自分は善意につけこんで責任を回避していると卑下するが、結城は機械的に動くのではなく、現場の人々の感情を慮って最善を目指す立松のことを評価していた。

そんな官僚にこそ、行政を率いてほしいと、結城がかけた「偉くなれよ」という言葉は、「踊る大捜査線」シリーズでいかりや長介演じる和久さんが織田裕二演じる青島にかけた言葉と重なる。同シリーズでは小栗旬が演じた鳥飼は偉くなる前に暴走してしまった。40代を迎えた小栗旬が30代の松坂桃李に、焦らず上を目指すよう諭す役を演じる立場になったことも感慨深い。

ラストの意味は?

映画『フロントライン』のラストでは、乗客全員の下船が完了し、寛子にはブラウン(妻)から夫の容態が良くなったことを伝える感謝のメッセージが届く。一時は夫を旅に誘ったことを後悔していたが、日常の小さな出来事に幸せを見出すことの大切さを知ったと語るのだった。コロナ禍で多くの人が味わった感覚だ。

一方、仙道はすでにクラスターが発生した北海道の老人施設に向かっていた。『フロントライン』の終わりは世界的パンデミックと緊急事態宣言に伴う自粛生活の始まりだ。仙道はダイヤモンド・プリンセス号での対応で出来た立松とのパイプを頼り、対応を急ぐ。ダイヤモンド・プリンセス号で得られた知見は、確かに活用されている。

映画『フロントライン』では、ダイヤモンド・プリンセス号を最後に下船したのは船長であったことも伝えられている。この船長とはイタリア人のジェンナーロ・アルマ船長で、2020年3月1日に下船。約1ヶ月にわたって乗船していた。後日、同船長にはイタリアのマッタレッラ大統領から功労勲章・コンメンダトーレ章が授与されている。

また、ラストでは登場人物の行動の改変や、船内指揮所など演出上マスクをしていない場面でも実際にはDMATの隊員がマスクをつけていたことなどにも触れられている。時系列にも改変を加えているとしており、例えば、六合医師のモデルとなった岩田医師が動画を投稿したのは2月19日のことだが、岡崎医療センターへの移送は19日未明から始まっている。

映画『フロントライン』ネタバレ感想&考察

各キャラのモデルになった人は?

映画『フロントライン』は、日本で初の集団感染とされているダイヤモンド・プリンセス号の集団感染と、その対応にあたったDMATに焦点を当てた作品だ。その中で、目の前の命を救うための最善を目指す登場人物たちの葛藤と苦悩を名優たちが演じ切った。

特に小栗旬は、中年の中間管理職という役まわりで新境地と言える演技を見せていた。ポーカーフェイスの立松を演じた松坂桃李もまた、冷静さの中に熱さを持った魅力的な官僚を演じている。

また、『フロントライン』は、2024年に公開された『劇場版TOKYO MER 〜走る緊急救命室〜』と同様に、コロナ禍で辛い思いをした医療従事者に捧げるような一作でありながら、スポットライトが当たりにくい船のクルーや、マスコミ側の人間の葛藤にも焦点を当てていた。

なお、結城のモデルは神奈川DMATの阿南英明、仙道のモデルはDMAT事務局次長の近藤久禎、立松のモデルは厚生労働省医政局の堀岡伸彦、真田のモデルは浜松医料大学医学部附属病院の高橋善明、羽鳥寛子のモデルはダイヤモンド・プリンセスのクルーだった和田祥子とされている。立松のモデルとなった堀岡伸彦はその後、厚労省から文科省に出向し大学病院の改革などに取り組んでいる。

現実の悪い部分も

映画『フロントライン』は、現場で戦った人々とそれを支援した人々にスポットライトを当て、歴史に刻む役割を果たしたと言える。恐怖と不安から生まれる患者と医療従事者への差別は、様々な分野で起きる差別と重ね合わせて考えることもできる。

一方で気になる点もある。結城と仙道が持ち前のマッチョさで、医療に携わる者が逃げてはいけないという主張を行なっていた点だ。これは正論ではあるが、実際には現場や本部で対応にあたった人間の多くが男性で(少なくとも映画ではそう描かれていて)、家族のケアという仕事が女性に任されていたから成り立つ構造になっていた。

途中、DMATに戻ることを諦めた看護師のように、自分の子どものケアも医療従事者としての対応も求められる立場の人には冷たい態度だ。それは自ずと指揮系統と現場が男性中心になっていく要因の一つになる。これは作劇上の演出というより、日本社会の姿がそのまま描かれた結果と言える。

一方で、そのあたりの想像力が足りない点は、結城と仙道が似ている部分なのだろう。当該看護師に電話で家族を優先するよう助言していた真田は、二人とは違う感性を持っていた。そんな真田だから、結城に「ケアラーのケア」の問題を突きつけることが出来たのだ。

類似ジャンルに属する「TOKYO MER」では、シングルマザーの医療従事者を仲間たちがサポートする展開もあった。『フロントライン』では、真田によるフォローはありながらも、男性以外のキャラがクルーやマスメディア、乗客という立場でしか深堀りされなかったことは、実際の日本社会を題材にした作品の限界とも言える。

とはいえ、様々な制約がありながらも、コロナ禍初期の共通体験として記憶される18日間の出来事を129分にまとめた手腕は見事だった。過度にドラマティックな演出は避けてドキュメンタリーとしての一面を保ちながらも、巧みな画作りや俳優陣の素晴らしい演技によってエンターテインメント作品としても強度の高い作品になっていたように思う。海外の人々や後世の人々が観たときにどのような反応になるのか、当時を知る“私たち”以外からの受け止められ方にも注目したい。

映画『フロントライン』は2025年6月13日(金) より全国公開。

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【ネタバレ注意】『ドールハウス』ラストの解説&考察はこちらから。

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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