実写版映画『リロ&スティッチ』公開
2002年公開の同名アニメを実写映画化した『リロ&スティッチ』が2025年6月6日(金) より全国の映画館で上映されている。ディズニーでは同年3月に公開された『白雪姫』以来の実写化作品で、21世紀に公開されたアニメ長編では初めての実写化作品となる。
実写版『リロ&スティッチ』で監督を務めたのは、A24が米国での配給権を獲得した『マルセル 靴を履いた小さな貝』(2021) で知られるディーン・フライシャー・キャンプ。『モアナと伝説の海』(2016) にも携わったクリス・ケカニオカラニ・ブライトが脚本を手がけた。
23年ぶりに描き直された『リロ&スティッチ』はどんな物語になったのだろうか。今回は、原作との違いとラストの展開に焦点を当てて解説&考察していこう。以下の内容は結末までのネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、実写映画『リロ&スティッチ』の内容及び結末に関するネタバレを含みます。
Contents
実写版『リロ&スティッチ』ネタバレ解説
原作との違いは?
映画『リロ&スティッチ』は、破壊本能をプログラミングされ、兵器として生まれてきたエイリアンのスティッチが、ハワイ州のカウアイ島で出会った少女リロとの絆を育んでいくという物語。実写化にあたってベースの設定には大きな改変はなく、一方で実写で見るにあたってリアリティーが持てるような修正が加えられている。
大きな改変は、リロの姉ナニに関するものだ。ナニが仕事とリロの世話の両立に手を焼いている点はアニメ版と同じだが、実写版ではナニは海洋生物学の勉強をするためにカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)に進学しようとしていたことが明かされる。
カリフォルニアに10の分校を持つカリフォルニア大学(UC)は、高度な研究に取り組める大学群だ。23の分校を持ち、多くの地元の人々が通うカリフォルニア州立大学(CSU)群は比較的授業料が安価だが、UCは学費もそれなりに高い。だが、ナニは優秀な成績を収めて授業料免除を勝ち取っているという。
しかし、両親の死によってナニはリロの世話をしなければならなくなり、カリフォルニアの大学に行って海洋生物学を学ぶという夢は絶たれてしまっていた。ちなみにUCSDは海洋研究の機関として全米でも有名である。
この設定により、実写版のナニにはリロの“母親代わり”以上の主体性がもたらされている。家族としてとどまることだけが正解ではない、というテーマが付け加えられているのだ。
また、リロについても原作で少し表現されていた他者の変化や感情に気づく観察力・感受性の高さがより強調して描かれている。保護施設の犬たちが怯えていることに勘づいたり、コブラが福祉局の人間ではないと見抜いたり、ナニがお別れの話をしようとしている時に自分のピザを食べずに皿の縁をなぞっていることに気づいたり、相手の感情に対して敏感であることが示唆されている。
キャストにも注目
また、原作からの改変で公開前にも話題になっていたのは、スティッチを捕まえるために銀河連邦から派遣されるジャンバとプリークリーが人間の変装ではなく、人間への変身をして地球に潜入するという点だ。カウアイで多くの人と触れながらも正体がバレないという設定のリアリティーラインを守るため、ジャンバはザック・ガリフィアナキスが演じ、プリークリーはビリー・マグヌッセンが演じた。二人の掛け合いも実写版『リロ&スティッチ』の魅力だ。ちなみにビリー・マグヌッセンは実写版『アラジン』(2019) にはアンダース王子役で出演している。
リロ役のマイア・ケアロハとナニ役のシドニー・アグドンはオーディションで選ばれた新鋭だが、スティッチの声はアニメ版のクリス・サンダースが続投している。クリス・サンダースはアニメ版の監督・脚本を務め、その後も『ヒックとドラゴン』(2010) や『野生の島のロズ』(2024) など、アニメ長編を手掛け続けている。
実写版オリジナルキャラクターのトゥトゥは隣人としてナニとリロを助けている。トゥトゥを演じたエイミー・ヒルはアニメ版でナニが職を求めて訪ねるハセガワ・リンを演じていた。同じくオリジナルキャラである福祉局のケコアを演じたのはアニメ版『リロ&スティッチ』でナニの声を演じたティア・カレルだ。アニメ版のナニが20年経って福祉局で働いていると捉えると感慨深い。
また、実写版でコブラ・バブルスを演じたコートニー・B・ヴァンスは、「ミッション:インポッシブル」シリーズでCIA長官のエリカ・スローンを演じたアンジェラ・バセットの夫で、議長の声を演じたハンナ・ワディンガムはニーリー提督役を演じた『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025) でエリカ役のバセットと共演している。
デイヴィッドを演じたのも新鋭のカイポ・デュドイトだが、元はカヒアウ・マチャドが演じると報じられていた。しかし、肌の色が明るい俳優の起用が立て続けに発表されたことと、マチャドが過去にSpotifyやInstagramで人種差別的な発言をしていたことが分かり、リキャストされている。
スティッチ、バブルス、ジャンバの改変
実写版『リロ&スティッチ』には、他にも特筆すべき改変がある。一つは、スティッチという名前の由来が描かれたことだ。これまで、スティッチという名前には明確な由来が設定されていなかったが、実写版『リロ&スティッチ』では、スティッチが車のシートを破いてしまい、「縫う(Stitch)」ことが必要になってしまったとナニが発言したことで、リロがその言葉を気に入ってスティッチという名前が付けられている。
二つ目の注目の改変点は、コブラ・バブルスが現役のCIA捜査官として設定されたことだ。原作アニメのバブルスは、かつてエイリアンから地球を守った経験もある元CIAという設定だったが、実写版では「最後の砦」を自称する現役のCIAとしてエイリアンのスティッチを追い、福祉局に潜入するという流れに変更されている。これにより、あくまでバブルスはスティッチを追う人間として物語に絡むことになる。
三つ目は、原作アニメでヴィランの役割を担っていたガントゥが登場しないことだ。これにより、実写版ではジャンバが悪役を担うことになった。ジャンバは途中でプリークリーを切り捨てると、単独でスティッチの捕獲に乗り出すのだ。
アニメ版ではリロはスティッチがエイリアンであったことを知ってスティッチを突き放したが、実写版ではジャンバがスティッチはリロを盾にするためにリロにすり寄ったと指摘したことで二人の間に距離が生まれている。スティッチはリロのためにもすっかり悪役となったジャンバに投降し、クライマックスを迎える。
実写版『リロ&スティッチ』ラストをネタバレ解説
リロ&スティッチ vs ジャンバ
実写版『リロ&スティッチ』のラストは、アニメ版から大きく改変されている。アニメ版ではリロがガントゥの宇宙船に捕まった状態で、スティッチ達はジャンバの宇宙船でガントゥを追いかけたが、実写版ではジャンバの船の中が決戦の舞台になる。
スティッチはリロとナニにもう迷惑をかけまいとジャンバと共に宇宙に帰ることを決めたが、それを放っておこなかったのはリロだった。リロはジャンバの宇宙船に乗り込んでおり、スティッチと協力してジャンバの退治に成功。しかし、宇宙船は海に墜落してしまうのだった。
ちなみにジャンバがスティッチを連れ帰ろうとするシーンで、ジャンバはスティッチを元に「627号」を造り出すと宣言している。627号はアニメ『リロ&スティッチ ザ・シリーズ』(2003-2006) に登場した、スティッチから善の心を取り除いたような存在で、沖縄を舞台にしたアニメ『スティッチ!』(2008-2009) にも登場した。
一方、リロとスティッチがいなくなっていることを知ったナニ、トゥトゥ、デイヴィッドは、CIAとしての正体を明かしたコブラ・バブルスに助けを求める。だが、バブルスは既にプリークリーを逮捕しており、CIAの組織として対応しようとしていた。
それではナニ達のオハナ(家族)がバラバラになってしまう。「私が守るのはアメリカ国民だ」と主張するバブルスに、トゥトゥが「じゃあ私たちは何なの!?」と返すやり取りが秀逸だ。ハワイのカウアイ島に住む先住民はアメリカ政府が守る対象ではないのか、という指摘が言葉の裏に感じ取れる。そうしてバブルスはナニ達を助けることになる。
ナニの救出シーン
リロとスティッチは海に落ちるが、スティッチは水が弱点で泳ぐことができない。リロは懸命にスティッチを助けようとするが、スティッチはリロを生かすために自ら手を離して沈んでいくのだった。
駆けつけたナニはリロを助け出すが、リロはナニにスティッチを助けるように懇願する。アニメと同じく「家族は何があってもいつもそばにいる」という標語が用いられるが、英語では「Family means nobody gets left behind or forgotten.」と言っている。「left behind」は直訳すると「後ろに置いていく/置き去りにする」という意味で、この言葉は沈んだスティッチを置いて去っていいのかという問いに直結する。
ナニはスティッチの元へ向かうと、意外と体重があるスティッチを抱えて海底を歩き、浜辺を目指す。実写版『リロ&スティッチ』のスティッチはCGで再現されているが、海中のシーンはそのずっしりとした質感が伝わってくる。
陸地に連れ戻されたスティッチは意識を失っていたが、最後はトゥトゥの提案で車のバッテリーを繋ぎ、電気ショックの要領で意識を取り戻す。そしてスティッチは、ジャンバとの戦いで家が崩落する際に飲み込んでいたリロの家族写真を吐き出して、リロとスティッチのオハナは再び一つになったのだった。
実写版のラストの展開は、スティッチの生死をかけた緊張感のある展開になっていた。その上で、議長がやって来てスティッチの地球への滞在を「追放先を地球とする」ことで認める展開はアニメ版と同じだ。バブルスが過去に議長と出会っていたという件は実写版ではカットされているが、みんなでナニの家を改修するシーンは原作通りに挿入されている。
ナニの道と保険制度
そして、実写版『リロ&スティッチ』のラストにはもう一展開用意されていた。福祉局のケコアは隣の家に住むトゥトゥとその孫のデイヴィッドの家にリロを預けることを提案。そもそもリロがナニと離れなければならなくなったきっかけは、ジャンバがスティッチを追う際にリロが海で溺れ、その時の医療費を支払わなければならなくなったからだ。
世間的にも広く知られているように、アメリカの医療費は高額だ。その上、日本のように国民皆保険の制度がないため、自分で民間の保険に入る必要がある。個人に保険加入を義務付けるオバマケアによって民間の保険への加入は促進されたが、制度を利用できるかどうかは個人の努力に依るところも大きい。
第一次トランプ政権ではオバマケア自体を廃止する試みもあったが、共和党内からも反対が出て失敗。2019年からは保険未加入者への罰金だけが廃止された。ちなみにハワイ州は全米で唯一雇用主に医療保険の提供を義務づけているが、職を失ったナニはこのセーフティーネットからこぼれ落ちる存在になっている。
ナニは福祉局のケコアから保険に入るよう言われていたが、職探しと育児のドタバタで保険加入の手続きを行う暇などなかった。そして、ある日突然襲いかかった事故。
保険のない状態で医療費を払うことは難しく、リロは州の保護下(おそらく里親制度)に入ることで医療費は州が負担することができる(おそらく医療給付制度のメディケイドを使用する)——それがケコアの提案だった。
その上で、二人が離れ離れにならないように、隣のトゥトゥの家に里親になってもらうというウルトラCを提案したのだ。それに、ナニにはUCSDで海洋生物学を学ぶという道もある。リロといなければと主張するナニに、トゥトゥは自分を大事にすることも責任の一つだ告げるのだった。
アニメ版の『リロ&スティッチ』のラストは、結局ナニは「オハナ/家族」という標語の下でリロとの生活に縛られることになっていたし、地域社会や福祉は役に立たず、核家族だけで助け合って生きていかなければならない、という見方をすることもできた。
bだが、福祉局も知恵を絞り、地域社会で個人の夢を支え、貧困から抜け出す手助けをすることも、またこの島に住む「オハナ」を助けることになる。感動的なラストで見過ごされていたナニの幸せと将来に焦点を当てることで、「Nobody gets left behind or forgotten.=誰も置き去りにしないし、忘れない」という「オハナ」が持つ意味がより説得力を持つラストになっているのだ。
ラストの意味は?
実写版『リロ&スティッチ』のエンディングでは、ナニはUCSDに進学。サンディエゴの学生寮に移り住むことになる。サンディエゴはアメリカ本土ではハワイから最も近い都市だという点もポイントなのだが、それ以上のサプライズが用意されていた。
リロとナニがリモート通話で簡単に繋がれるという点は、原作が公開された2002年にはなかった発想だ。その上で、ナニはプリークリー達からもたらされたワープ装置を使ってリロに直接会いに行く。SFガジェットが姉妹の絆を救う展開だ。
だが、宇宙のテクノロジーを地球で使っていることがばれてはいけない人がいる。いつの間にかリロの家に入り浸っているコブラ・バブルスである。
バブルスはアニメ版のエンディングでもナニの家で映画を見たりしている様子が描かれていたが、実写版のラストでもプリークリーと一緒にテレビを見ており、トゥトゥから「帰る前にリロの様子を見ておいて」と指示されている。プリークリーも含む新しい家族の形だ。
リロとスティッチ、そしてナニは、こっそりベッドの中で一緒に眠り、スティッチが「おやすみ、姉妹達」と呟くところで実写版『リロ&スティッチ』は幕を閉じる。エンドクレジットのラストでは、オハナの手型を残したボードにスティッチはもちろん、プリークリーやバブルスの手型も加わっている。「オハナ」をより大きく、広く定義した実写版『リロ&スティッチ』を象徴する写真になっている。
実写版『リロ&スティッチ』ネタバレ感想&考察
新たなテーマ「クレアナ」
アニメ映画『リロ&スティッチ』は、元々ハワイの貧困をテーマの一つとして扱っていたが、実写版では保険という制度や大学進学というライフチェンジを絡めることでリアリティーが増す演出が加えられていた。さらに「オハナ」を神聖なものとせず、壊れる時もあるが、それでも良いものなのだという結論を導き出していた。
オハナ=家族という概念によって人が縛られてしまうなら、それは必ずしも良いものとは言えない。家族であればこそ互いを尊重し、外に出ていくことも応援できるのだとすれば、家族も悪くないと思えてくる。
実写版では「責任」のハワイ語である「クレアナ」という言葉が繰り返し使われた。オハナにはクレアナも伴うが、それが全てナニに背負わされるべきではない。地域社会と行政がクレアナを分担し、ナニは自分自身の人生に対するクレアナも担う——。この辺りは現実を生きる人々との乖離を生まないための見事なアップデートだったと言える。
描かれたハワイの現実
最後にナニが島を出るという展開は、同じ文化圏を舞台にしている『モアナと伝説の海』との共通点も感じられた。ポリネシアの人々は外の世界を志向するのだというメッセージは、両作に通底しているものかもしれない。
一方で、ハワイの経済が観光業に大きく依存しており、キャリアを積んでいく上では島を出なければならないという状況は現実にも存在している。原作と同じくナニが仕事を求めて訪れる場所は、カフェであったりホテルであったり、サービス業ばかりだ。
原作でナニがやろうとしたライフガードは、サーフィンのインストラクターというサービス業に変更されており、さらにリロが遊び場にしていたのは観光客しか立ち入れないエリアだった。この辺りはハワイが抱える経済構造の課題を、目を逸らさずに描いた結果だろう。
実写版『リロ&スティッチ』は、モフモフのスティッチの魅力を余すことなく描き直すと共に、リロとナニの姉妹の物語を拡大して描き出し、さらに地域社会や福祉、保険制度、ハワイの経済ときちんと向き合った真摯な作品だったと言える。新たなディズニー実写化の成功例が誕生した。
続編はある?
気になるのは実写版『リロ&スティッチ』に続編があるのかどうかというところだ。日本公開時点で続編の話は出ていないが、本作で登場しなかったガントゥ大尉や、今回ヴィランとして描かれたジャンバなど、続編で使えそうなキャラは豊富に存在する。
そもそも「リロ&スティッチ」はOVAやアニメシリーズで数々のエピソードが作られており、ストーリーだけで言えば続編に困ることはないだろう。特にジャンバが言及した627号を登場させることは十分に考えられる。
実写版『リロ&スティッチ』の世界興収は日本公開時の時点で6億3,780万ドルを超えており、2025年のハリウッド映画で最初の10億ドル突破を狙える位置にある。これまでディズニーの実写化映画では続編が作られたのは『ライオン・キング:ムファサ』(2024) だけだが、果たして……。
実写映画『リロ&スティッチ』は2025年6月6日(金) より公開中。
実写版『リロ&スティッチ』サウンドトラックは発売中。
アニメ『リロ&スティッチ』はブルーレイ+DVDセットが発売中。
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