2002年公開の映画『リロ&スティッチ』
ディズニーのアニメーション映画『リロ&スティッチ』は、2002年に米国で、2003年に日本で公開された作品。ディズニーとしては『アトランティス 失われた帝国』(2001) に続く作品で、世界興収は2億7,300万ドル超を記録し、『ターザン』(1999) 以来となる大ヒット作品となった。
『リロ&スティッチ』はその後もOVAの『スティッチ!ザ・ムービー』(2003)、アニメ『リロ・アンド・スティッチ ザ・シリーズ』(2003-2006)、OVA『リロ&スティッチ2』(2005)、沖縄を舞台にしたアニメ『スティッチ!』(2008-2009) が公開されるなど、21世紀最初のディズニーアニメの人気シリーズとしての地位を確立した。2025年には、満を持して実写映画『リロ&スティッチ』が公開。日本でも6月6日(金) より劇場公開を開始している。
今回は、その原点であるアニメ映画『リロ&スティッチ』について、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末までのネタバレを含むため、必ず本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、アニメ映画『リロ&スティッチ』の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『リロ&スティッチ』ネタバレ解説
宇宙からやって来たスティッチ
映画『リロ&スティッチ』は、ハワイで暮らす少女リロと宇宙からやって来たエイリアンのスティッチとの出会いを描いた作品だ。いわゆるファーストコンタクトもののSF作品であり、けれど互いに居場所がないと感じている二人の交流が中心に描かれる。
ジャンバ・ジュキーバ博士によって生み出されたスティッチは、違法な遺伝子実験の結果生まれた忌避される存在であり、銀河連邦軍から無人の惑星に追放されそうになっていた。破壊本能をプログラムされているスティッチは船から逃げ出し、地球へやって来る。そんな時、ペットの犬をもらおうと保健所を訪れていたリロと出会うのだ。
ハワイ州のカウアイ島で暮らすリロは、5歳のネイティブハワイアン。エルヴィス・プレスリーのファンだが、ちょっと変わった趣味を持っていることから友人達とは距離がある。両親を事故で亡くし、姉のナニと暮らしているが二人の間には喧嘩が絶えない。
ナニは唯一の家族であるリロの世話をしながら家計を支えるために働いている。そんなナニに、家庭訪問にやって来た福祉局のコブラ・バブルスはリロを施設に預けるよう助言。リロは生活を改善しようと努力するが、リロとスティッチのコンビが大暴れを繰り広げたことでナニは仕事をクビになり、なかなか再就職することができない。
スティッチもスティッチで、自分を捕まえに来たジャンバ・ジュキーバ博士と蚊の研究に取り組むお目付け役のプリークリーから逃れるためにリロを盾に使っている。それでも、ナニと親しいデイヴィッドも加わり、リロとスティッチ達はハワイ語で「家族」を意味する「オハナ」として日々を過ごすことになる。
貧困を描いた『リロ&スティッチ』
だが、失業したナニは福祉局によりリロの面倒を見られないと判断され、二人は引き離されることになる。映画『リロ&スティッチ』は、家族をテーマにした物語でありながら、貧困を扱った作品でもあるのだ。
ハワイは裕福な人々が住んでいるというイメージもあるが、アメリカの他の州と同じように貧困も確かに存在する。ハワイは観光資源には恵まれている一方で、経済は観光業に大きく依存している。
筆者がハワイに住む友人から聞いた話では、ハワイに別荘を買う外国人(日本人も含む)は少なくないが、それによって雇用が生まれるわけではないという問題もある。そういう人は年に数回しかハワイを訪れないため、消費もそれほどもたらされるわけではない。
一方で、観光業は盛んであるため、ハワイでは物価の上昇が続いており、賃金上昇率が物価のそれに追いついていないという苦しい現実がある。こうしたハワイが構造的に抱える問題を反映したのが『リロ&スティッチ』だ。ナニもまた仕事を探すが八百屋やカフェ、ホテル、ライフガードなど、観光に関係のあるビジネスしか当たる宛がないという現実も描かれている。
可哀想なスティッチ
スティッチは絵本『みにくいアヒルの子』を読み、自分が異質な存在であることに気づくと共に、家を出ることを決意。スティッチのルーツについては、短編「スティッチはこうして生まれた」で描かれている。ジャンバ・ジュキーバ博士は、無敵のモンスターを作り出すために凶暴なモンスターを集めてスティッチを作ったことを明かしている。
リロという盾を失ったスティッチはジャンバとプリークリーに見つかり、追いかけっこを繰り広げる中でリロとナニの家は爆散してしまう。ちょうどナニが通りに面した小売店で職を手に入れた時だった。
リロの留守中に事件が起きたことで、福祉局のコブラ・バブルスは即座にリロをナニから引き離すことを決定。バブルスがナニに「妹と離れて困るのは君の方だろう」と言うのは、暗にナニがリロに対して支給される福祉関係のお金を当てにしていると指摘しているのだろう。
ところが、バブルスの車から逃げ出したリロはスティッチと共に銀河宇宙連邦軍のガントゥ大尉に捕まってしまう。なんとかスティッチは逃げ出すが、リロは宇宙船で連れ去られてしまう。この直前にリロから突き放され、ナニからもジャンバからもボコボコにされるスティッチはかなり可哀想だ。
ナニはいつも喧嘩していたリロとの別れに泣き崩れるが、スティッチは「オハナはカゾク、カゾクはナニがあってもいつもソバにいる」と言い、連邦から見放されたジャンバとプリークリーと共にリロを助けることに。クライマックスではジャンバとガントゥの宇宙船によるドッグファイトが繰り広げられる。
『リロ&スティッチ』ラストのネタバレ解説
火山の意味
映画『リロ&スティッチ』のラストでは、SFらしい宇宙船ファイトに。ジャンバの宇宙船から流れるクラクション音は、映画「アントマン」シリーズに登場するバンのクラクション音としても知られている。元はメキシコ民謡の「La Cucaracha」という曲で、曲名の意味は「ゴキブリ」である。
スティッチはまさにゴキブリのような動きで敵船を這ってたリロの元にどり着くが、ジェットの炎で焼かれて地面に落とされてしまう。それでもガントゥの任務はスティッチもを捕まえることだ。スティッチは地球にやって来た時に轢かれたタンクローリーを奪い、火山に突入。ガントゥが追ってきたところで爆発を起こしてガントゥの宇宙船に飛び乗ることに成功して見せる。
『リロ&スティッチ』の舞台となったハワイのカウアイ島は火山活動によって生まれた島だ。スティッチが看板を破壊する「ハワイ火山国立公園」は実際に存在する場所で、世界遺産にも登録されている。
コブラ・バブルスの正体は?
無事リロを助け出したスティッチは「カゾクはソバにいる」と伝えて二人は和解。宇宙船が爆発する中で、敵であったガントゥも助ける優しさも見せる。
それでもスティッチを直接捕まえに来た銀河連邦議長によってスティッチは捕らえられるが、ここで議長は「626」と呼ばれていたスティッチが破壊衝動を持たずに理性を持って話をしていることに気が付く。お別れを言いたいというスティッチの願いを聞き入れると、スティッチが地球で家族=オハナを見つけたことを知るのだった。
そんな中、スティッチ達を助けたのは福祉局のコブラ・バブルスだった。バブルスはリロがスティッチを保健所で購入したという事実を提示するよう助言する。実はバブルスはかつてCIAで働いており、1973年にニュージャージーで議長と出会っていた。
日本語で「ニュージャージー」となっているセリフは英語で「ロズウェル」と言っている。ニューメキシコ州のロズウェルといえば、1947年に米軍の気球が墜落し、それがUFOであるという説が広まった(俗に言うロズウェル事件)ことから、ドラマ『ロズウェル – 星の恋人たち』(1999-2002) など、様々なSF作品と陰謀論の題材となった。
1973年にロズウェルで事件があったことは知られておらず、「1973年のロズウェル」というのは『リロ&スティッチ』のオリジナル設定だろう。バブルスは「エイリアンはルールを大事にする」というポリシーを逆手に取ってスティッチはリロのものだということを証明する。
これを受けて議長は地球を追放先とし、リロとナニはスティッチの後見人に指名され、二人は銀河連邦の保護下に置かれることに。ジャンバとプリークリーも地球に置いていかれ、後のアニメシリーズのメンバーが揃うことになる。
そしてバブルスは、CIA時代に宇宙人から地球を救ったことを明かす。蚊を守るために人間を生かしておかなければならないと説得したという。この言説は、序盤でスティッチを島ごと破壊するという議長の提案をプリークリーが拒否する理由として持ち出したものだ。バブルスのハッタリは今でも宇宙人の通説となっていたのである。
ラストの意味は?
『リロ&スティッチ』のエンディングでは、地球に残ったスティッチ、ジャンバ、プリークリー、リロ、ナニ、デイヴィッド、バブルスは協力して家を建て直している。屋根の上には宇宙船を思わせる形のスティッチ用の小部屋も新設されている。
すっかり破壊本能がおさまったスティッチは、すれ違う赤ちゃんとキャンディーとミルクを交換したり、ナニとリロにお弁当を作ったり、リロの見送りをしたり、誕生日ケーキを作ったり、デイヴィッドと共にファイヤーダンスのパフォーマンスをしたりと平和な日々を過ごしている。
最後のスティッチがリロ達とフラダンスを踊っている場面には「Marrie Monarch Festival」という看板が掲げられている。メリー・モナーク・フェスティバルは実際に毎年ハワイ島で開催されているフラダンスのお祭りだ。
つまりリロとスティッチは一緒にカウアイ島を飛び出しており、その後に登場する写真ではテネシー州にある故エルヴィス・プレスリー邸を訪ねていることも分かる。写真の額縁に書かれている「Graceland(グレイランド)」とは、プレスリー邸がある敷地の名前である。
また、エンドクレジットでは私服でサングラスを外したバブルスがスティッチ、ジャンバ、プリークリー、リロと一緒にポップコーンを食べながらテレビを観ているシーンも。すっかり家族のような付き合いをするようになったらしい。
バブルスは七面鳥のある食卓の写真にも登場するが、これはサンクス・ギビングの食事会だろう。11月にあるサンクス・ギビングの大型連休は、アメリカでは家族と一緒に過ごす時期である。おそらくバブルスも独り身で家族がいなかったのだろう。孤独に生きてきたバブルスも、両親を失ったリロとナニ、宇宙からやって来たスティッチ達と新たなオハナになったという、なんとも温かいエンディングだ。
エンドクレジットではアヒル達に「みにくいアヒルの子」を読み聞かせするスティッチなど、心温まる写真がたくさん登場する。そして、最後はリロとナニが両親と写っている写真にスティッチの写真が継ぎ足されている様子が映し出されて『リロ&スティッチ』は幕を閉じる。
流れるエルヴィス・プレスリーの曲
『リロ&スティッチ』のエンディングの間、流れている曲はワイナーノの「Burnin’ Love」。エルヴィス・プレスリーが1972年に発表した曲を『リロ&スティッチ』のためにカバーした楽曲だ。
エンドロールではA-Teens「Can’t Help Falling in Love」が流れる。こちらもプレスリーが1961年に発表した曲で、A-Teensによるカバーバージョンが『リロ&スティッチ』に合わせて公開された。日本ではHi-STANDARDがカバーしたことでも知られている曲だ。
『リロ&スティッチ』ではリロがエルヴィス・プレスリーのファンという設定になっているが、エルヴィス・プレスリーは生前ハワイを愛していた。ハワイを舞台にした『ブルー・ハワイ』(1961) という映画に主演したことでも知られ、世界同時中継された1973年のライブ「アロハ・フロム・ハワイ」は歴史に残るライブとして記憶されている。
『リロ&スティッチ』ネタバレ感想&考察
モンスターじゃなくなったスティッチ
映画『リロ&スティッチ』は、これまでのディズニーアニメ長編とは異なる暴れん坊が主人公で、そのパートナーとなるリロも同様の性質を抱えているという異質な作品だった。その異質さが受け入れられ、その後もシリーズが作り続けられる長寿シリーズになった。
そのやんちゃさゆえに、公開時にはリロがナニから隠れるために乾燥機に入るシーンもあった。ディズニープラスでの配信に際して、子どもが真似しないようにという配慮だろう、そのシーンの乾燥機は棚に描き変えられている。
孤立していたリロは天涯孤独のスティッチと出会い、スティッチは少しずつ変化していく。リロが好きなエルヴィス・プレスリーの音楽を受け入れ、自然と戯れることを覚えていくのだ。スティッチの破壊衝動は大都市と結び付けられているようで、だからスティッチはリロの部屋で本を組みててサンフランシスコの街を作って破壊する。
ハワイ州カウアイ島の自然の中で過ごすことで、その破壊衝動から離れ、オハナという大切にできる存在を見つけたスティッチ。前出の短編「スティッチはこうして生まれた」では、ジャンバ博士は、スティッチはオハナを見つけたからもうモンスターではないと告げている。生まれ持った特性と向き合いつつ、助けてくれる家族と過ごすことで、スティッチは生きていける場所を見つけたのである。
一方でこの短編でジャンバは「お前だけでもこうなってくれてよかった」とし、スティッチの「先輩たち」は破壊本能を抑えられないと明かしてもいる。そう、本来「626号」と名付けられていたスティッチには、625種類の“試作品”が存在し、アニメ『リロ&スティッチ・ザ・シリーズ』などで登場することになる。
また、ジャンバが造った新たな試作品628号ことリロイが登場する映画『リロイ&スティッチ』も2006年に制作されている。これらの作品は当時ディズニーチャンネルで放送されるかビデで発売され、現在はディズニープラスで配信されている。
実写版『リロ&スティッチ』と『モアナ』
そして、23年の時を経て『リロ&スティッチ』はついに実写化。日本では2025年6月6日(金) より全国の劇場で上映を開始した。実写版でリロを演じるマイア・ケアロハは、800人を超えるオーディションから抜擢されたハワイ出身の俳優だ。原作とは異なりエスニシティも尊重した配役となっている。
実写版の監督を務めたのはディーン・フライシャー・キャンプ。脚本を『モアナと伝説の海』(2016) にも携わったクリス・ケカニオカラニ・ブライトが手がけた。『モアナと伝説の海』も2026年に実写版の公開を予定しているが、同シリーズの成功も『リロ&スティッチ』の下地の上にあると言っても過言ではない。
『モアナと伝説の海』は現在のハワイやニュージーランドを含むポリネシア諸島を舞台にしており、ハワイ神話に関連する要素も登場する。モアナの声優はハワイ先住民の血を引くアウリイ・クラヴァーリョが演じており、時代は違えど両作は同じ文化圏の物語だ。
2024年11月に公開された『モアナと伝説の海2』は全世界興収が10億ドルを突破した。「モアナ」がディズニーの新たな主力フランチャイズとなったタイミングで、ハワイの“先輩”である『リロ&スティッチ』の実写版が公開される。
2025年に入ってからハリウッドは不況が続いているが、「モアナ&リロ&スティッチ」が流れを変えてくれるだろうか。ハワイ勢のヒットをきっかけに「リロ&スティッチ」シリーズの再始動や、実写版の続編が制作されることにも期待したい。
実写版『リロ&スティッチ』は2025年6月6日(金) より全国でロードショー。
『リロ&スティッチ』はブルーレイ+DVDセットが発売中。
実写版『リロ&スティッチ』サウンドトラックは発売中。
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