映画『見える子ちゃん』公開
泉朝樹の漫画『見える子ちゃん』(2018-) を実写映画化した『見える子ちゃん』が2025年6月6日(金) より全国の劇場で公開されている。『映画 怪物くん』(2011)、『残穢 -住んではいけない部屋-』(2016)、『決算! 忠臣蔵』(2019) などで知られる中村義洋が監督・脚本を手がけ、『すずめの戸締まり』(2022) で主人公・鈴芽役の声を演じた原菜乃華が主演を務める。
『見える子ちゃん』はもともと作者がTwitterに投稿した漫画がバズり、複数社からのオファーを経て、KADOKAWAが運営するComicWalkerでの連載を勝ち取った作品。2021年にはアニメ化され、2022年にはスマホアプリのゲームも発表されている。
満を持して実写化された『見える子ちゃん』はどんな作品になったのだろうか。今回はラストの展開を中心にネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『見える子ちゃん』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『見える子ちゃん』ネタバレ解説
原作からの改変も
映画『見える子ちゃん』は、98分とコンパクトな構成でありつつ、アニメの第1期の内容をほとんどカバーするストーリーとなっていた。一方で、実写化にあたってオリジナルキャラの登場も含め、いくつかの改変がなされている。
特に原作で主人公・四谷みこが見る“化け物”は“霊”のように描かれている他、登場キャラの髪の色なども現実的な表現に直されている。総じて狐の怪などの“化け物系”の設定は省かれており、シンプルに、ある日突然お化けが見えるようになった高校生としての四谷みこの物語が描かれる。
前半の日常パートはゆったりしているが、同じく霊が見える二暮堂ユリアと、新しく赴任してきた教員の遠野善の登場によって物語が動き始める。善には強力な霊が憑いており、その霊はみこの親友である百合川ハナにも取り憑き、ハナは意識不明となってしまうのだ。
豪華なキャスト陣
映画『見える子ちゃん』の魅力の一つは、独自の解釈でキャラクター達を生まれ変わらせた豪華キャストによる演技だ。最も原作に近い雰囲気を残しているみこ役の原菜乃華、同じく原作のキャラの雰囲気を残して演じたハナ役を演じた『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(2023) の久間田琳加を始め、キャスト陣が非日常の中の日常を見事に表現している。
最もハマり役だったのは、なえなのが演じるユリアだろう。インフルエンサーとして活躍してきたなえなのだが、『見える子ちゃん』で映画初出演。原作では癖の強い金髪キャラであるユリアを、その特徴や魅力を残しながらリアリティラインを越えない絶妙な演技を見せている。
ストーリーのキーパーソンとなる遠野善を演じたのは、SixTONESのメンバーである京本大我。こちらも独自の解釈で善を演じつつ、幼い頃から母との困難な親子関係を抱えているという難しい役どころを見事に表現している。副校長に車を出す許可をもらうシーンは、これまで誰かの許可をもらいながら生きて来たという善の背景がよく分かる描写になっている。
映画オリジナルのキャラクターでは、山下幸輝が権藤昭生を演じた。原菜乃華、なえなのとは『【推しの子】』(2024) に続く共演となった。『見える子ちゃん』では微妙に引っかかるところがあるような、ないような、個性的な昭生の役を繊細に演じ、ラストのサプライズを演出している。
荒井先生薬の堀田茜、みこの母・透子役の高岡早紀、父・真守役の遠藤賢一は流石の演技力。何より朗らかな遠藤賢一が見れたのは良かった。
向き合うこと
こうした豪華キャストで制作された映画『見える子ちゃん』のコンセプトは、お化けが見えてしまうみこが、それを見て見ぬふりをしてやり過ごそうとするが、親友のハナが取り憑かれることで、徐々に向き合わざるを得なくなっていくというものだ。原作でもお化けに対して“スルースキル”を披露するみこという設定がメインにあり、そのコミカルな前提の上で物語が展開されていく。
「目を逸らすのをやめて向き合うこと」というのは、多くの作品で語られてきたテーマだ。昭生も「自分にできることをやるんだ」とみこを励ます。まるで「スパイダーマン」の「大いなる力には大いなる責任が伴う」という標語のように、みこもまた「持つ者」として「持たざる者」のために行動することを求められるようになる。
同じく「見える」ユリアが、知識はありそうだが実はみこよりも見る力が弱いという設定も、自然とみこにサイドキック(ヒーローものなどで主人公を支える相棒)を与える形になっている。みこは、ハナを助けるために善に取り憑いた霊を神社で祓おうとして、『見える子ちゃん』はクライマックスを迎える。
映画『見える子ちゃん』ラストのネタバレ解説
目を逸らすこと目を逸らすこと
映画『見える子ちゃん』のラストでは、遠野善に憑いていた霊は死んだ母親であったことが明らかになる。幼い頃から善を束縛していた母は、死んでもなお善に取り憑き、善に近づく女性を苦しめていたのである。
みこはハナに憑いていた霊を祓えた実績がある神社へ行き、なぜか巫女姿で登場したユリアの助けもあり、善と母を切り離すことに成功。あまりに霊の力が強かったからか、善の母の霊は神社の鳥居を跨いで侵入してこようとするが、神社の不思議な力によって退治されたのだった。
怨念のようなドス黒い霧は晴れ、残ったのは善の母の霊だけ。この時、善には母の霊が見えている。だがここでみこが選んだ道は、「目を逸らす」ということだった。ここまで向き合うことを求められてきたみこだったが、時にはスルーすべきこともある。
生きている私たちは、この先も自分の足で立って生きていかなければならない。いつまでも去った者に束縛されていては、自由に生きられない。目を逸らすべきものだってあるのだというメッセージと、みこの「スルースキル」が見事にマッチした展開だ。
善自身もこのみこの行動に応え、みこの「ハトだ」という言葉に「あれはシジュウカラです」と返す。シジュウカラはスピリチュアルな意味では「自由」を象徴する鳥とされることもある。善とみこは、この時期は巣立ちの時期であると話し、暗に善が母から離れる時であることを示唆している。
父・真守の真実
こうして善は母の霊から解放され、ハナも復活。みことユリアの会話から、みこの父・真守は既に死んでいたという衝撃の事実が明らかになる。みこの父は冒頭から登場していたが、思い返すとみこの弟も母も父・真守の声に反応していなかった。
一人で喋り続ける朗らかな父ということで片付けられること、母が働いていて父が家にいるという家庭も今では当たり前であること、みこは母のことも無視していること、これらの条件がうまく視聴者をミスリードしている。
思えば食卓で母だけ食事をとっていないようにも見えたが、母はノートパソコンを広げていたため食事をその横に置いていたのだが、父の前に食事が置かれているように見えるという工夫もあった。それでも、母が働いていて父が家にいるのなら娘が料理をしているのはなぜか、という微かな違和感も仕込んできている辺りが巧い。
みこは、一年前に父が心筋梗塞で亡くなる前に、父がプリンを勝手に食べたことで喧嘩し、父のことを無視してしまっていた。みこはそれを後悔していたが、父・真守もまたそのことを後悔し、地縛霊となっていたのだろう。
最後に真守の霊はみこにプリンのことを謝るが、みこはこれに応えない。父を許してしまえば成仏してしまうと考えたのかもしれない。一方で、みこは父の助言通りに母に謝罪し、母娘は仲直りを果たす。
ここでも、みこは死者から目を背けながらも、生者と向き合うことで前に進んでいる。だが今回は、父の霊にずっと家にいてほしいという前向きな気持ちから生まれた行動だったように思える。そしてみこは、父の得意料理であったレバニラを母に作ることを約束するのだった。
なお、みこが神社に守られた理由は、父といつもお守りしていた神社だったからという背景も明かされている。原作ではみこが狐の怪に守られるという設定を改変した格好だ。
ラストでまさかの感動展開。思わず涙してしまった人も多かったのではないだろうか。みこの父に関する設定は原作通りで、さらにこの後、映画『見える子ちゃん』オリジナルのオチが待っている。
ラストの意味は?
映画『見える子ちゃん』オリジナルのオチは、オリジナルキャラクターである昭生に関するものだ。昭生も、みこ&ユリアと同じく霊が見える側の人物として登場していたが、実は昭生もまた霊だったのである。
そもそも本作の舞台は原作と同じく女子校だったが、多くの男子生徒が映り込んでいた。これらの男子生徒は、かつてここが男子校だった時代に崩落事故に巻き込まれて死んだ生徒達の地縛霊だったのだ。
地縛霊とは、その土地に因縁があって取り憑いている霊のこと。だからユリアが神社に向かった時も、昭生は学校の門から外に出ることが出来なかった。「昭生」という名は「昭和生まれ」を意味しており、「冗談はよしこちゃん」など、古い言い回しをしていた。
昭生は霊の男子達に「女子クラスと一緒だからって浮かれるな」と注意していたが、よく考えれば男子と女子でクラスが別という学校はあまり聞いたことがない。霊として登場していた男子生徒達はどこか昭和っぽい装いを見せているなど、ヒントは散りばめられていたのである。
ユリアは最初から昭生が霊であることを知っていた。昭生が口だけであまり活躍しないのも霊だからしょうがないと受け入れていたのだろう。また、写真部のメンバーはユリア以外は男子であり、このことからユリアはやっぱり霊以外に一人も友達がいなかったことも読み取れる。それでも、ラストではユリアはカエデに声をかけられ、他の生徒にも受け入れられている。
エンディングで流れる曲はBABYMONSTER「Ghost」。エンドロールではキャスト達のダンスも披露される。小さい頃はダンス教室に行かせてもらえなかったが、自由になった善キレキレダンスがエモい。
映画『見える子ちゃん』ネタバレ考察&感想
映画『見える子ちゃん』は、前半の日常コメディ展開から中盤の対霊のチーム戦を経て、ラストでは感動と驚きの展開が待っていた。前半は映画館で見るには退屈に感じるところもあったが、ラストのオチに向けて散りばめられたヒントやミスリードがあったことを知れば、2周目は目を凝らして見たくなるような仕掛けが凝らされていた。
みこの父・真守や昭生がなぜ普通の見た目をしていたのかという疑問も浮かぶが、昭生が言っていたように、恨みや欲がない霊は怨霊のようなオーラを持っていないのだろう。善の母が黒い姿と普通の姿の二段階で現れたのもそうした設定を踏まえてのことだと考察できる。
すでに述べた通り、映画『見える子ちゃん』は俳優陣の演技が見事だった。アニメ化に際して話題になった性的な部分を強調した描写は実写版にはなく、その代わりに、現代の学校生活の日常がうまく描かれていた。近年のホラーブームを支える若年層にとって親近感が湧く作品に昇華されていた印象だ。
気になるのは続編があるかどうかということだが、原作漫画は継続しているものの、アニメ版は4年が経過しても2期が放送されていない。転校生の一条みちるの登場など、映画続編の題材になり得る設定は揃っているだけに、今回の映画『見える子ちゃん』の興行成績が一つの指標になるだろう。ホラー映画は一般にリピート率が高いと言われるが、『見える子ちゃん』のリピート率にも注目だ。
映画『見える子ちゃん』は2025年6月6日(金) より劇場公開。
原作漫画『見える子ちゃん』は最新刊12巻まで発売中。
映画『見える子ちゃん』オリジナル・サウンドトラックは発売中。
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