2016年公開の映画『信長協奏曲』
2016年に公開された映画『信長協奏曲』は、石井あゆみの同名漫画を実写ドラマ化した『信長協奏曲』の映画版。月9初の時代劇SFとして注目集めたドラマの続編にして完結編であり、興行収入約46億円という大ヒットを記録した。
『信長協奏曲』は、高校生のサブローが突然戦国時代にタイムスリップしてしまい、見た目がそっくりな本物の織田信長から入れ替わることを依頼され、信長として戦国の乱世を生きていくという物語。実写版で主演を務めたのは小栗旬で、サブローと本物の信長の一人二役を演じた。
フジテレビでの小栗旬といえば、『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』(2010) と『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012) で鳥飼誠一を演じている。2014年に実写版『ルパン三世』でルパンを演じた後に『信長協奏曲』で信長を演じることになった。また、本作を指揮した松山博昭監督は同じフジテレビ製作の「ミステリと言う勿れ」シリーズの監督も務めていいる。
今回は、映画『信長協奏曲』で描かれた展開について、ネタバレありで解説&感想を記していこう。以下の内容は結末までのネタバレを含むため、本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『信長協奏曲』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『信長協奏曲』ネタバレ解説
ドラマでの『信長協奏曲』
ドラマ『信長協奏曲』では、サブローは戦国時代に渡り織田信長となった後、数々の史実の出来事を実現させていく。だが、高校生だったサブローは歴史に詳しくなく、その行動が歴史を辿っているということを知らない。
現代で育ったサブローは平和で自由な世の中を目指すために、楽市楽座と関所廃止といった信長実行した政策を展開していく。“未来人”であり、変わり者である信長は、妻・帰蝶から「うつけ(怠け者)」と呼ばれる一方で、因習に囚われることのない発想でチームを率い、実力主義で外様を家臣に登用した史実と同じように家臣を揃えていく。
余談だが、『信長協奏曲』には、どこか2010年代にブームを巻き起こしたヤンキーものの香りもある。同じフジテレビで制作されたSFの「東京リベンジャーズ」にも通じるものがある。映画『信長協奏曲』では、サブローはリーゼントっぽい髪型を見せている。
一方で、本物の信長は明智光秀を名乗り、顔を隠して信長に仕えることに。明智光秀は素性がバレないように覆面で顔を隠しているが、理由は病気を患っているからということにしている。実際に信長は病弱だったという説もある。
礼儀作法が求められる交渉ごとなど、サブローが苦手な局面では二人は入れ替わることも。「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」という歌を残したことや、比叡山焼き討ちといったサブローらしくない出来事は本物の信長=明智光秀が行ったことになっている。
サブローは妻の帰蝶や家臣達との絆を深めていくが、ドラマの終盤には何人かにその正体に気づかれることになる。その中心にいたのは後に豊臣秀吉となる羽柴秀吉だ。秀吉は幼い頃に本物の信長が初陣(吉良大浜の戦い)で放火したことで家族を失い、信長を恨んでいた。秀吉は本物の信長=明智光秀と、それになりすますサブロー=信長の両方を陥れるために策略を巡らせる。
ドラマ版のラストでは、池田恒興(つねちゃん)が明智光秀が本物の信長であることを知りサブローを追い出したが、サブローは浅井家との戦いに舞い戻り、織田家を救った。そうして妻の帰蝶も池田恒興もサブローが偽物と知りながら信長として受け入れることになる。一方で明智光秀と羽柴秀吉はサブローを陥れるために手を組み、映画版へと続いていった。
ちなみに少々無粋な考察ではあるが、歴史に照らし合わせると高校生のサブローがタイムスリップしたのが1558年頃(弟・信行の死)で、本能寺の変が1582年の出来事なので、映画『信長協奏曲』のサブローは40歳前後ということになる。
教科書の意味
映画『信長協奏曲』では、天王寺の戦い(1576年)と本能寺の変(1582年)が大きな二つの出来事として描かれる。だが、その前段階でサブローが織田信長の運命を知ってしまうという展開も待っている。
その情報は、古田新太演じる松永久秀からもたらされることになる。松永久秀は日本史の教科書をサブローに読ませ、サブローは間もなく信長が死ぬという運命を知る。この日本史の教科書はドラマ第1話でサブローがタイムスリップした際に持っていたものだが、サブローは教科書を落としてしまい、その後、転々として松永の手に渡っている。
ちなみに松永久秀もサブローと同じく未来から来た人物だ。ドラマでは西田敏行演じる斎藤道三も未来から来た人物で、同じように教科書に目を通していた。
しかし、道三は娘の帰蝶を信長に託し、サブローが自分で未来を切り拓いていけるように、教科書の本能寺の変に関する頁を破っていた。そのため、映画『信長協奏曲』でも、サブローは信長の死に関する詳細な情報を知ることはできない。
天王寺の戦い
帰蝶に、未来から来たこと、間もなく自分は死ぬことを告げたサブローだったが、秀吉は石山本願寺との天王寺の戦いで明智光秀に謀反を起こすよう吹き込んでいた。しかし、松永久秀が謀反を起こして石山本願寺側に情報を漏らしたことで、逆に明智光秀は窮地に立たされることになる。
ここでサブローは光秀を助けるために出兵。光秀を助けるために3,000の兵を率いて駆けつけ、信長が足を撃たれて負傷したというのは史実である。そうしてサブローに助けられた明智光秀=本物の織田信長は、自分こそが本物であり、サブローは偽物だという考えを改めるのだった。
元々原作の『信長協奏曲』は、サブローと明智光秀の二人が“協奏曲”を奏でるように信長を作り上げていくような作品だった。ドラマではサブローと光秀の対立関係の方が目立っていたが、映画でようやく二人は“和解”を迎えることになったのである。
それに納得いかないのが、信長への復讐を誓っている羽柴秀吉だ。サブローが京都の本能寺で帰蝶と結婚式を挙げることを決め、滋賀の安土城から本能寺に向かう一方、秀吉は帰蝶の周囲に部下を送り込んで人質とし、明智光秀に信長を討つよう脅しをかける。
サブローは安全のために帰蝶のことを徳川家康に頼む一方で、帰蝶は大阪に捕えられている者がサブローと同じくスマホを持っているという情報を知り駆けつける。そこで捕えられていたサーファーは、確かに未来から来た人物で、「ウィリアム・アダムス」と名乗るのだった。
ウィリアム・アダムスは江戸時代に徳川家康に仕えたイギリス人で、三浦按針という日本名を持っていた。サツマイモを日本に伝えた人物としても知られ、家康の外交顧問として日本の造船技術に大きな影響を与えた人物とされている。
日本の歴史に詳しいウィリアム・アダムスは、織田信長が明智光秀に本能寺で殺されるということを帰蝶に伝える。帰蝶が本能寺に急ぐ中、明智光秀は史実通りに本能寺に進軍。「本能寺の変」を迎えることになる。
映画『信長協奏曲』ラストのネタバレ解説
本能寺の変
映画『信長協奏曲』では、原作でまだ描かれていない結末が描かれる。サブローは明智光秀に討ち入られるが、光秀は帰蝶が人質に取られていたこと、今は光秀の家臣が帰蝶を保護していることを明かすと、自身が家臣や帰蝶に愛されていたサブローを妬んでいたことを明かす。
光秀/信長が最初にサブローに成り代わってほしいと頼んだ理由は、織田家の後継争いから逃げるためだった。生まれつき体が弱かったという信長は、「太陽に憧れた」といい、けれど自分がなすべきはサブローに信長の名を託すことだったと認め、サブローに信長としての天命を果たすよう告げるのだった。
思えばドラマのサブローは当初、逃げ癖があるという設定で、信長も同様に後継争いから逃げ出した。だが、最後には信長/光秀がサブローに逃げるよう告げており、最初と最後で展開が反転することになった。
サブローは「信長になれて良かった」と言い残して光秀と別れると、光秀は秀吉に殺されることになる。しかし、秀吉は光秀が命懸けで守ろうとしたものを全て奪うと宣言し、秀吉は生き延びた信長を“謀反人・明智光秀”として討伐するよう家臣に指示するのだった。
明智光秀が織田信長を討ち、その後すぐに羽柴秀吉が明智光秀を討ったという、いわゆる「三日天下」の政変は、明智光秀(織田信長)が織田信長(サブロー)を逃し、羽柴秀吉が明智光秀(織田信長)を討ち、明智光秀(サブロー)を討つという展開に描き直されたということである。
山崎の戦い
帰蝶も秀吉軍に狙われ、サブローは身を隠すことに。歴史は変えられないと落胆するサブローは、けれど「信長としての天命を果たせ」という光秀の言葉を思い出し、歴史を全うすることを決める。
歴史は変わらなくても、想いは未来につながるというのがサブローの考えだ。明智軍と秀吉軍が激突した戦いは「山崎の戦い」と呼ばれ、天王山を舞台としていたことから、決戦を意味する「天王山」の語源となった。
池田恒興がサブローから頼まれていた結婚指輪を帰蝶に渡す一方で、サブロー/明智光秀は史実通りに羽柴秀吉に捕えられる。サブローは最後に誰かを失い傷つかなくて良い世の中をつくろう、自分がダメでも皆で作ってほしい、自分が死んでも未来に繋げてほしいと秀吉に伝える。サブローは恨みの連鎖をここで止めたのだ。
そして、未来を知っているサブローは、平和な時代は必ず来ると宣言して秀吉に首を落とされるのだった。こうして秀吉は天下人となり、秀吉が62歳で亡くなった後は徳川家康が江戸幕府を開き、265年にわたる天下泰平の世を築くことになる。
ラストの意味は?
首を落とされたサブローだが、目を覚ますと、なんと現代の世に戻っていた。飛行機の音もしており、正真正銘の現代だ。後日、サブローは普通の生活に戻り、テレビでは暴力団組長の松永久秀が恐喝の疑いで逮捕されたというニュースが流れている。秀吉に殺された松永もまた、死んで現代に戻ったということだろう。斎藤道三は1972年からタイムスリップしていたため、元の時代に戻ったものと思われる。
そこにウィリアム・アダムスからの手紙が届き、ウィリアムが帰蝶に助けられ、その後家康に仕えたこと、サブローが首を斬られた後に遺体が消えたことが明かされる。
史実の明智光秀は打ち首になった後、頭を持ち去られたという説もあ流。光秀ということにされて殺されたサブローの遺体が消えたという設定は、その説との接続できるものなのかもしれない。
そしてサブローの遺体が消えたことから、帰蝶はサブローが未来に帰ったのだと見当をつけ、動画でメッセージを残していた。そこで帰蝶は、サブローが去った後も、皆が必死に戦い、秀吉が天下を取り、家康が後を継ぎ、戦のない世の中がやってきたと話す。
戦国時代が終わったのだ。帰蝶は平和を願うサブローの願いが歴史を作った、願いが皆に届いたから今があると語る。
この帰蝶の言葉は現代にも通じる。たった一人の平和への願いでは、世界や歴史は変えられないと思えるかもしれない。だが、その願いが周囲の人々に伝わることで、皆が理想を抱いてより良い世界を目指して行動することができる。
そしてサブローは、帰蝶の薬指に、恒ちゃんが届けてくれた指輪を見つける。帰蝶は、同じ時代を生きてくれてありがとうとサブローに礼を伝えるのだった。
映画『信長協奏曲』のラストは、サブローがタイムスリップした場所に立っている木を見に行くシーンだ。サブローはそこで、皆の「殿」という声を聞く。そして、サブローが道を歩いていく後ろ姿で『信長協奏曲』は幕を閉じている。
映画『信長協奏曲』ネタバレ感想&考察
秀吉のその後は?
映画『信長協奏曲』は、ドラマ版に続きサブローの物語を完結させる作品だった。信長の死と戦国時代の終焉まで描かれており、シリーズとして完全な完結を迎えたと見てよいだろう。原作漫画は2025年6月時点で22巻まで刊行されているが、連載が休載に入っておりまだ完結していない。実写版が先に完結したという稀有なケースだ。
実写版ではサブローと明智光秀を中心にキャラクターの改変も見られたが、映画版で原作の要素を取り入れるような工夫も見られた。何より演じたキャストが素晴らしく、サブローと明智光秀の一人二役を演じた小栗旬、帰蝶役の柴咲コウ、池田恒興役の向井理、羽柴秀吉役の山田孝之らが、IFの世界の歴史的人物を新たな解釈で演じて見せた。
特にヴィランとして印象的な活躍を見せた秀吉は、これまでのフィクションにおける秀吉とは一味違った魅力を持っていた。そんな秀吉も、最後にサブローから受けた言葉を信じ、天下泰平の世を目指したのだろう。
そもそも秀吉は自分の村を焼いた明智光秀への復讐を最大の目的に置いていたが、それを果たしたことで天下が転がり込んできた。そこで終わりというわけにはいかず、天下人として家臣達と共に政治に転じることにしたのだろう。
秀吉は帰蝶も殺すと言っていたが、ビデオメッセージで分かる通り、そうはしなかったようだ。あるいは、恒ちゃんこと池田恒興やシバカツこと柴田勝家、そして徳川家康らが帰蝶を守ったのかもしれない。ちなみに信長の死後に柴田勝家は信長の妹のお市と結婚している。
ちなみに続編がないことは分かっているが、スピンオフがあり得るとしたら、濱田岳の家康を主人公とした作品が見てみたい。あるいは山田孝之の豊臣秀吉か……。ただし「協奏曲」要素がなくなるため、アダムスのように時折現れる未来人との交流が挟まれる形の時代劇になりそうだ。
帰蝶については歴史資料が乏しく、史実においてはその後どうなったのかは定かではない。だがそうした空白部分も「もしも」の力で埋め合わせてくれるのが歴史改変SFの楽しいところだ。人気漫画から時代劇SFという異色の月9作品、そして大ヒット映画へと展開した『信長協奏曲』。原作漫画の今後の展開にも注目しよう。
映画『信長協奏曲』はBlu-rayが発売中。
ドラマ『信長協奏曲』はAmazonプライムビデオで配信中。
原作漫画『信長協奏曲』は22巻まで発売中。
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