2005年に公開された「美女缶」
短編ドラマ「美女缶」は2005年4月に放送された『世にも奇妙な物語 〜2005春の特別編〜』に一編で、筧昌也が演出と脚本を手がけた作品だ。原作は筧昌也自身が手がけた約一時間の同名映画で、2003年に公開された2年後、『世にも奇妙な物語』でセルフリメイクされている。
原作映画では藤川俊生が主演を務めたが、『世にも奇妙な物語』版の「美女缶」では妻夫木聡が主演を務めている。相手役の藤川サキを演じたのは臼田あさ美で、TBS日曜劇場『御上先生』(2025) では養護教諭の一色真由美を演じた。
「美女缶」とは一体どんな作品だったのか、ここからはネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むのでご注意を。
以下の内容は、ドラマ「美女缶」の内容及び結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『世にも奇妙な物語』「美女缶」ネタバレ解説
「美女缶」から生まれたサキ
『世にも奇妙な物語』の「美女缶」では、主人公・内尾雄太が彼女の春子が出張に出かけた間に、“美女”達がゾロゾロ出てくる隣人の部屋に忍び込み、“美女缶”を見つける。缶の中身をお風呂場に入れると“美女”が生まれるという代物で、雄太はそうして誕生した藤川サキと時間を過ごすことになる。
主人公の内尾雄太を演じた妻夫木聡は当時20代前半だが、2003年には『ブラックジャックによろしく』で主演を務めている。また、「美女缶」が放送された3ヶ月後には、フジテレビの月9ドラマ『スローダンス』で主演を務めた。
雄太は缶から生まれたサキのことを欲求の捌け口にできると考えていたが、実際にはそうではなかった。ガイダンスによると、美女缶から生まれた人も普通の生きた人間として扱わなければならないという。
隣人宅を物色している時点で相当だが、雄太はそこそこ問題のある男性だ。サキを物のように扱おうとしたり、作ってもらったスパゲティに大量のチーズをかけたり、相手を思いやる気持ちがない。それでも、サキと過ごす中で雄太は相手に思いやりを持って接することを覚えていく。
だが、定職に就いていない雄太は、サキが欲しそうにしていたネックレスを買う踏ん切りがつかない。そんなある日、雄太はガイダンスのDVDを通してサキの品質保持期限が4月15日までであることを知る。サキの腰にもその期限が記されていることを確認すると、雄太はサキに寄り添って眠りにつくのだった。
まさかの事実
翌日は、カレンダーの描写を見るに4月12日になっている。4月12日は『世にも奇妙な物語 〜2005春の特別編〜』内で「美女缶」が放送された日である。3日後にはサキが消えてしまうことを知った雄太は思い切ってネックレスを買うことに。しかし、雄太が留守にしている間にサキはガイダンスのDVDを見つけてしまい、自分が美女缶から生まれた存在であることを知ってしまったのだった。
雄太が家に戻った時にはサキは家を出ており、ちょうどそこに雄太の本来の彼女である春子が出張から帰ってくる。そして雄太が着替えようとシャツを脱いだところで、雄太の腰に記された「4/12」という有効期限が映し出される。雄太もまた“缶”から生まれた存在だったのだ。
サキの腰の有効期限の下には「bj」と書かれていたが、雄太の腰には「bn」と書かれている。「bj」は「bijo(美女)」、「bn」は「binan(美男)」を指しているものと思われ、雄太は“美男缶”から生まれたと考察できる。
ラストの意味は?
雄太の期限の2015年4月12日はまさにこの日のことで、雄太にとっては最後の1日ということになる。「美女缶」の序盤では春子は「出張が入った」という理由だけで泣き出していたが、それは、短い期間しか雄太と一緒に居られないにもかかわらず出張が入ったからだった。
春子は美男缶で雄太を作り、雄太はそれを知らないまま設定通りの人間を生きていた。定職についておらずバイト先を探しているというのも、短い期間で同棲する相手の設定として都合が良かったのだろう。
春子にとっては雄太との別れの日だが、そうとは知らない雄太は家を飛び出し、雨の中で佇むサキを見つける。そして、ネックレスを手渡そうとしたところで時計の針の音が遅くなっていき、雄太に期限切れの時が訪れたところで「美女缶」は幕を閉じる。なんとも切ないラストだ。
『世にも奇妙な物語』「美女缶」ネタバレ感想&考察
4人の人物像が浮かび上がる見事な展開
『世にも奇妙な物語』の「美女缶」は、原作よりも短い作りながらもその魅力を最大限に詰め込んだ見事な作品だった。「美女缶」というタイトルも含めて“女性を消費しようとする男性の話”という前提を置き、最後にシンプルながら驚きのどんでん返しを見せる名作だ。
オチを理解した上で見直せば、春子の一つ一つのセリフや行動にも意味が見出せる。出張が入ったとして涙を流したり、バイト先を探しているという設定の雄太を心配したりする様子は、すべて期限付きの偽りの設定の中で生きる二人の関係の切なさを物語っている。
おそらくこの世界は「美女缶」と「美男缶」が一般的に流通している社会で、人々は期限付きの“製品”によって心を満たしているのだろう。隣人の男性・富岡が多くの“美女”を作り出していた一方で、春子は一途に雄太との生活を味わっていた。
一方の富岡も、当初の雄太とは違い“美女”達と良好な関係を築いていたということは、“美女”達を人間として扱っていたのだろうということも想像がつく。基本的には雄太とサキ、春子、富岡という4人の登場人物で描かれる物語だが、ラストの展開によってそれぞれの人物像が後から浮かび上がってくる優れた演出となっている。
加えて、世間的に“美男”とされる妻夫木聡を主人公に起用したことも、主人公が美男缶から生まれた製品だったというオチの説得力を強化している。消費社会と人間同士の関係を問うテーマ性と合わせて、やはり「美女缶」は名作だと言える。
その後はどうなった?
「美女缶」のラストのその後はどうなったのだろうか。雄太は期限切れで消滅したとしても、サキは期限の4月15日まで後3日残されている。サキは雄太の期限が切れたことで、雄太も自分と同じく美男缶から生まれた存在であったことを知るだろう。
するとサキには謎が生まれる。「あのアパートは誰のものだったのか」と。その問いは自然と美男缶で雄太を作った人のものだという答えに行き着く。残されたネックレスを手に、サキは二人で過ごしたアパートへ戻るだろう。
サキを作った雄太、そして雄太を作った春子。共に自分の寂しさを埋めるために美女缶/美男缶に手を出したわけだが、今は亡き雄太と過ごしたわずかな思い出という共通点で、サキと春子はつながっている。二人は残された3日間を共に過ごし、サキが消えた後も春子の元には雄太が初めて”他者”のために購入したネックレスが遺る。
「美女缶」のその後をここまで考えると、本作が短いストーリーの中で生み出した物語の豊穣さが分かるというもの。「美女缶」は最小限のストーリーでSFの想像力を最大限に生かした名作である。
なお、「美女缶」を手がけた筧昌也監督はその後も『仮面ライダーゼロワン』(2019-2020) の脚本を手がけるなど、活躍を続けている。『世にも奇妙な物語』では2011年の『21世紀21年目の特別編』に「PETS」で参加している。筧昌也監督の今後の作品にも注目しよう。
原作映画の『美女缶』はAmazonプライムビデオで配信中。
筧昌也監督が自ら執筆した小説版『美女缶』も発売中。
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