『名探偵コナン 隻眼の残像』毛利小五郎に注目
映画『名探偵コナン 隻眼の残像』が2025年4月18日(金) より全国の劇場で公開された。アニメ『名探偵コナン』(1996-) の劇場版最新作で、毛利小五郎と大和敢助、諸伏高明ら長野県警を中心とした物語が描かれる。
劇場版で毛利小五郎が活躍を見せる機会は、劇場版第2弾の『名探偵コナン 14番目の標的』(1998)、第14弾の『名探偵コナン 水平線上の陰謀』(2005) などに限られてきた。だが、『名探偵コナン 隻眼の残像』では、いつもと違う毛利小五郎の真剣な表情をたっぷり楽しむことができる。
今回は、『名探偵コナン 隻眼の残像』で描かれた毛利小五郎の活躍について、結末までのネタバレありで解説し、小五郎と敢助&景光らとの共通点についても考察してみよう。以下の内容は重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『名探偵コナン 隻眼の残像』の内容及び結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『名探偵コナン 隻眼の残像』毛利小五郎はどうなった?
警察時代の小五郎にスポットライト
映画『名探偵コナン 隻眼の残像』は毛利小五郎を起点として物語が動き始める。冒頭の小五郎は相変わらず早い時間から酒を飲んで過ごしているが、世間では証人保護に関する法律の改正が進められている。そんな時、小五郎が刑事時代にコンビを組んでいた鮫谷浩二から小五郎に電話が入るのだ。
毛利小五郎の刑事としての過去は映画『名探偵コナン 14番目の標的』で描かれた。かつては警視庁捜査一課強行犯係に所属しており、刑事時代の小五郎は目暮警部とのコンビで事件を解決していたことも明かされている。
『名探偵コナン 隻眼の残像』では、「ワニ」と呼ばれていた鮫谷が新たに刑事時代の小五郎の相棒として紹介されている。『14番目の標的』では白鳥が、小五郎は所轄(東京の本部である警視庁ではない警察署)時代に目暮とタッグを組んでいたと明かしていたが、鮫谷は警視庁時代の同僚とされている。
鮫谷は現在、警視庁刑事部刑事総務課の改革準備室に所属しており、証人保護プログラム関連の法改正に伴う捜査を行なっていた。その過程で重要参考人として浮上した大和敢助と面識のある人物として、かつての同僚である毛利小五郎と会うことにするが、10ヶ月前に敢助を襲った犯人から殺されてしまったのだった。
警察では、“警官殺し”は特に重い罪として捜査が行われる。映画『名探偵コナン 隻眼の残像』での毛利小五郎は、かつての仲間を殺した犯人を追って長野まで足を運ぶ。「遊びじゃねぇんだ」を合言葉にコナンを遠ざけ、長野県警のメンバーと共にいつになく真剣な表情で捜査に臨む小五郎の姿が描かれる。
射撃の小五郎
『名探偵コナン 隻眼の残像』でのコナンは、公安の降谷零と風見裕也と連絡を取り合いながら、長野県警と動いている毛利小五郎の邪魔をしないように動いている。偶然を装って小五郎達と合流しようとするものの、小五郎に無理強いすることはせず、旧友を亡くした小五郎の心情を慮っているように思える。
犯人の策略で雪崩が迫り来る場面では、コナンがボンベを蹴って敢助がそれを撃って別の雪崩を起こす装置を起動させようとする。敢助もなかなかの射撃の腕前を見せるが、雪崩を見て失った左目が疼き、最後の一発が撃てない状況に陥ってしまう。
ラストでは、その時に敢助の代わりに銃を撃ってボンベに当てたのは小五郎だったのでは、とコナンが指摘する。『名探偵コナン 14番目の標的』では、刑事時代の小五郎は射撃の名手であったことが明かされている。小五郎は民間人なので本来は銃を撃ってはいけないが、緊急事態で咄嗟に敢助の代わりに銃を撃ったのだろう。
『14番目の標的』でも小五郎が銃を撃とうとする場面があるが、白鳥刑事から断られ、代わりにコナンが発砲して、後に誤操作だったことにしてことなきを得た。作中では小五郎と新一の銃の腕前が同じレベルであることも示唆されている。『隻眼の残像』の射撃シーンでは、コナンがボンベを打ち上げる役で銃を撃てる状態になかったことも、小五郎が銃を撃つ流れになった理由の一つだろう。
ついに映画の本編でも披露されることになった小五郎の射撃の腕前。『名探偵コナン 隻眼の残像』では、クライマックスでも小五郎が活躍を見せることになる。
クライマックスでの活躍
そして犯人を突き止めた小五郎、コナン、長野県警の面々はクライマックスで推理を披露。まずは大友隆の正体が鷲頭であったことを指摘し、この場面は毛利小五郎が謎解きの中心になる。ただし、このシーンの直前にコナンが公安を通して大友のデータを調べており、蘭は新一からのメールを受け取っていることから、小五郎が披露した推理自体はコナン/新一からもたらされたものだと思われる。
次に小五郎は林篤信が真犯人だという推理を披露する「現場検証」を取り仕切る。今は探偵になった毛利小五郎だが、ここでは警察のような立ち回りを見せている。小五郎は旧友の鮫谷が警察に潜入していた「隠れ公安」であり、故に事件に巻き込まれたと推測。鮫谷に関するこの推理は、小五郎自身がたどり着いたものであるような気がする。
林を追い詰めていくシーンは、小五郎、コナン、長野県警、公安が結託した圧倒的有利なシチュエーションに。頼りない小五郎の姿はなく、スラリとした長身で現役の刑事達と並び、堂々とした姿を見せている。
林が天文台の巨大な車両を盗んで逃げようとする中、コナンは灰原哀と協力して林の運転を妨害。小五郎は風見の銃を奪って発砲して車両に命中させ、車両を止めてみせたのだった。間違いなく毛利小五郎のカッコいいシーンベスト級のカットでありながら、コナンと小五郎の協力プレーが見られた最高の場面だった。
毛利小五郎の信念を共有する刑事達
過去にも描かれた小五郎の信念
実はこのラストの毛利小五郎の判断の裏には、小五郎の信念が隠れている。小五郎ほどの射撃の腕があれば、犯人の林を撃つこともできたはずだ。林は、上原由衣を人質にして危険な運転をしている殺人犯、しかもかつての同僚の命を奪った警官殺しでもある。
だが、小五郎には信念がある。『名探偵コナン 14番目の標的』では、10年前に刑事だった小五郎が人質に取られた妻・妃英理の脚を撃ち、敢えて人質の足を負傷させることで犯人から解放させようとしていたことが明らかになった。犯人を殺さずに人質を解放するというのが小五郎の目的だったのだ。
さらに『14番目の標的』では、小五郎はヘリポートから落ちかけた犯人を助け、「死なせやしねぇ」と発言した。犯人を殺さずに捕まえるというのが小五郎の信念なのだ。
映画『名探偵コナン 水平線上の陰謀』でも、かつて父を殺した人物と心中しようすると犯人に対し、小五郎は最後まで諦めずに対峙した。放っておけば二人の殺人犯が船と共に沈み、自分は無事に脱出できるという状況でも、小五郎は逃げる機会を捨ててまで犯人を生かして捕まえることにこだわった。
その小五郎の信念と行動は、もはや探偵としての職業領域を超えており、やはりその背景には警視庁の刑事として働いてきた時に培われた信念があると言える。
敢助、景光、そしてコナン
映画『名探偵コナン 隻眼の残像』のラストでは、現役の警視庁捜査一課の刑事である佐藤美和子と高木渉が、警察でありながら罪を犯した林に対して、警察学校で学んだ訓示を暗唱する。犯人が公安警察であった『隻眼の残像』では、警察としての在り方がテーマの一つになったが、毛利小五郎と同じ信念を共有する刑事は少なくない。
今回活躍を見せた長野県警の大和敢助は、アニメシリーズ「県警の黒い闇」編で、銀行強盗事件で出頭しようとしていた被疑者を敢助の上司・武田が射殺、敢助が「あんたら刑事は被疑者を殺害しても構わないと思ってるんじゃないだろうな!?」と武田に激怒したことを高明が明かした。
また、警察学校編では、『隻眼の残像』にも登場した室伏高明の弟・景光が降谷零たちと共に犯人を追い詰め、死のうとする犯人を止めて景光は「犯した罪はしっかり償ってもらいますから」と告げた。この犯人は高明と景光の両親を殺した人物であり、親を殺した相手であっても死なせないという、小五郎の信念に通じる景光の姿勢が描かれた。
また、アニメ第304話「揺れる警視庁 1200万人の人質」では、犯人を撃とうとした佐藤を高木が止め、『隻眼の残像』のラストで二人が暗唱した言葉を「いつも佐藤さんが言ってる」こととして、佐藤に告げている。
この「犯人を殺さない」という一部の刑事達の信念は、コナンも共有している。例えば、映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(2022) では、コナンは犯人に復讐を誓うエレニカのグループと交渉し、警察を傷つけないと約束させた上で犯人を捕まえるために共闘、最後にはエレニカが家族を殺された復讐のために犯人を撃とうとしたが、コナンは身を挺してそれを阻止した。
その後、コナンは「これ以上悲劇を増やさないために」と言って、エレニカ達に爆発物から渋谷を守る策への協力を要請する。この「悲劇を増やさない」という考えが、コナン達を復讐から遠ざけている一因なのかもしれない。
今回の『名探偵コナン 隻眼の残像』のポストクレジットシーンでは、敢助の死を偽装する際にコナンが由衣に偽装についてあらかじめ知らされていたことが明かされる。高明は、このコナンの行動について、コナンが由衣を悲しませたくなかったからだと推察し、それが警察とも公安とも異なる点だと語った。
『隻眼の残像』では警察組が活躍を見せたが、同時に探偵の“心”にもスポットライトが当てられた。そして、警察としての信念と探偵の心の両方を持っている人物が毛利小五郎であり、その近くで数々の事件を解決してきたコナンは、その小五郎からの影響も受けているはず。今後も小五郎とコナンが信念と心を大切にしながら事件を解決していく姿を見守っていきたい、本作はそんな風に思わせてくれる作品だった。
映画『名探偵コナン 隻眼の残像』は2025年4月18日(金) 劇場公開。
劇場版 『名探偵コナン 隻眼の残像』オリジナル・サウンドトラックは2025年4月16日発売で予約受付中。
漫画『名探偵コナン』最新刊の107巻は4月18日発売で予約受付中。
『名探偵コナン 14番目の標的』のBlu-rayは発売中。
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