『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』 感想&考察 次世代のファミリー映画 ネタバレ解説 | VG+ (バゴプラ)

『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』 感想&考察 次世代のファミリー映画 ネタバレ解説

©2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 ©遠藤達哉/集英社

『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』に続く新しい国民的アニメの誕生か

2019年より「少年ジャンプ+」で連載が開始されたホームコメディ『SPY×FAMILY』。東西冷戦下の世界を舞台にスパイと殺し屋、超能力者がお互いに素性を隠して偽りの家族を演じる物語は「少年ジャンプ+」初の大ヒット作となった。2022年にはテレビアニメシリーズが始まり、2023年には東京都の帝国劇場でミュージカルが公演された。その劇場版である『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』が2023年12月22日に公開された。

東のオスタニアと西のウェスタリスの冷戦関係、先の大戦の存在に秘密警察などホームコメディには似つかわしくない用語が続くが、偽りの家族を演じていく上で「血はつながらなくとも本物の家族になれる」というテーマは読者の心に響いた。『SPY×FAMILY』は2023年に第52回日本漫画家協会賞コミック部門大賞を受賞するなど国民的な存在へと駆け上がっていくが、その一方で作中の舞台設定が現実の惨状とリンクしてしまう点もある。

本記事では『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』の感想と考察をしていこう。なお、本記事は『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』の内容に関するネタバレを含みます。

星〈ステラ〉を目指して家族旅行へ

オペレーション梟〈ストリクス〉の危機

コードネーム「黄昏」としてスパイの任務をこなすロイドと、「いばら姫」として殺し屋稼業に精を出すヨル。そして、ロイドと「世界平和」のために国家統一党総裁ドノバン・デズモンドに近づくべく、星(ステラ)を集めるアーニャ。しかし、上層部の意向で偽りの家族をつくる理由であるオペレーション梟(ストリクス)の担当者交代という危機が訪れる。そうなればアーニャは孤児院に戻され、フォージャー家は一家離散だ。

何か成果を挙げればオペレーション梟(ストリクス)の担当者交代は避けられるかもしれない。そんなアーニャのもとに星(ステラ)獲得のチャンスがやってくる。それは調理実習で、審査員のイーデン校校長から最優秀賞をもらうことだった。ロイドはかねてより集めていた情報から校長の好物はメレメレだと知っており、その中でも校長が特に好物としている「瓦礫と絆亭」のメレメレを再現すべく、「瓦礫と絆亭」のある雪国フリジスへの旅行を計画する。

メレメレは『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』に登場するオリジナルのお菓子で、生クリームとコケモモなどのフルーツを使ったオレンジタルトのような食べ物だ。「瓦礫と絆亭」のメレメレにはマクナリー産のサクランボのリキュールが必要不可欠らしく、サクランボのリキュールを探すためだけにロイドは「ミッションインポッシブル」シリーズのトム・クルーズのような芸当を披露していた。

「チョコレート強盗団」との出会い

雪国フリジスへ向かう列車の中、アーニャはトイレで置き忘れた鍵を見つける。そして、未来予知ができる愛犬ボンドが見た未来から、この鍵が「お宝」を入れたカバンの鍵だと知る。それを知ったら最後、アーニャの「わくわく」は止まらない。アーニャは好奇心からカバンを開け、その中身のチョコレートを見つけてしまう。そして手が滑り、そのチョコレートを食べてしまうのだった。

そこに受け取り役の2人の工作員ドミトリとルカがやってくる。チョコレートの中身は西国情報局対東課〈WISE〉が血眼になって探している東西情勢のバランスを崩壊させかねないマイクロフィルムだったのだ。そのマイクロフィルムを狙っているのはWISEだけではない。それは雪国フリジスに根城を構えるスナイデル大佐の派閥だ。

アーニャからチョコレート強盗団と呼ばれるスナイデル大佐の派閥は所謂タカ派、主戦論者と言える派閥だ。かつて航空機が激戦を繰り広げた雪国フリジスで航空戦艦を創り上げ、オスタニアとウェスタリスとの戦争を「マイクロフィルムをアルゴ共和国に渡すこと」で煽ろうとしている。

スナイデル大佐は情け容赦のない軍人という一面だけではなく、グルメな一面も持っている。その舌は食べたお菓子の砂糖の種類と量まで言い当て、その鼻はWISEきっての変装術の持ち主であるロイドの変装を見破るほどだ。そして、お菓子を目の前にしたときは子供からそれを奪うなど、料理に関しては子供っぽい一面を持つ。

隠し切れないもの

イーデン校校長の大好物であるメレメレを再現すべく、「瓦礫と絆亭」を訪れたフォージャー家だったが、肝心の最後のメレメレはスナイデル大佐に奪われてしまう。「瓦礫と絆亭」のメレメレを再現するためにフォージャー家は材料を集めることになる。そこでは射的ゲームで跳弾を利用して一気に的を倒すロイドや、照れてロイドを怪力で殴り飛ばしてしまうヨルなど、各々が隠しても隠し切れない才能を見せている。

ロイドがオペレーション梟(ストリクス)の終了を、アーニャがフォージャー家の一家離散を危惧しているとき、ヨルもまた別のものを危惧していた。ロイドとヨルの関係性は「妙齢の女性は結婚していないとおかしい」という東西冷戦下ならではの世相を反映した偽装結婚だ。それでもロイドが同じWISEのスパイであるフィオナと密会しているのをうっかり見てしまい、ヨルは「自分は見限られたのではないか」と不安にかられていたのであった。

同僚から聞いた3つの不倫の特徴である「出張が多くなる」「服の好みが変わる」「贈り物が増える」「雪国フリジスへの旅行」「雪国での防寒着」「口紅が合わず痒いと言っていたため、贈った新しい口紅」にヨルは見出していたのであった。そして苦手なアルコールを使ってまで問いただすヨル。ロイドはヨルのあふれ出す疑念を払拭するために、ヨルの酔いをさまし、それから説明をする羽目になった。

○○○の神さま

ロイドの思考とボンドの未来予知を読み、サクランボのリキュールのある場所を突き止めたアーニャ。自分がロイドのオペレーション梟(ストリクス)の足手まといとなっていると考えたアーニャは、ボンドを連れて泊まっていたホテルを抜け出してサクランボのリキュールを買いに走る。一方、ヨルは自分の弟ユーリとの思い出から、「アーニャはロイドと一緒に居たいのではないか」と独断専行が多いロイドを諭す。

アーニャがサクランボのリキュールを買いに走った結果、アーニャは「チョコレート強盗団」ことスナイデル大佐の一派に捕まってしまうのだった。抵抗したボンドが噛み千切った服から、アーニャを誘拐したのはスナイデル大佐の一派だと突き止めるロイド。ロイドは駅前の広場に展示されていた雪国フリジスの英雄である撃墜王「レッキーとブランドンの飛行機」を使ってスナイデル大佐の航空戦艦を追うのだった。ヨルはその車輪部分に忍び込む。

スナイデル大佐はアーニャにマイクロフィルムの秘密が漏れた以上、アーニャを殺すしかないと考えていた。そして、アーニャからマイクロフィルムを奪取するため、アーニャの「うんこ」をスナイデル大佐の派閥全員が待つことになる。ここからアーニャの見る世界に「うんこの神さま」が登場するなど、「うんこ」という発言が連発される。このことと客層から『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』はある意味で「クレヨンしんちゃん」シリーズの系譜だと考察できる。

回収されていく伏線たち

ロイドとスナイデル大佐、ヨルと秘密兵器のサイボーグ「タイプF」との戦いではこれまでの『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』で描かれてきたものが回収されていく。ロイドの変装をスナイデル大佐が見破るのはグルメ故の鼻の良さだ。そして銃撃戦になったときには、ロイドは跳弾を計算して一発で複数人の軍人を倒している。

胸の中まで弾薬庫になっているタイプFとの戦いでは、弾丸をナイフで躱しながらヨルは戦い、その中でタイプFを囲むように口紅で円を描いている。そして口紅の半分は油で出来ていると言い、口紅の線を導火線として火をつけるのだった。

全身火薬庫のようなタイプFはそれによって大爆発する。現実ではリップクリームをコットンに沁み込ませると着火剤になると言われているが、現実的に口紅がそう簡単に着火剤になるとは思えない。それでも作中の演出としてはこれまでの物語が回収されていって面白い展開であった。

次世代の「クレヨンしんちゃん」シリーズになる?

国民的キャラクターになれるのか

「うんこの神さま」やアーニャの顔芸など、ファミリー層に向けての演出が多かった『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』。内容面でも冒頭から各キャラクターが抱える秘密がわかりやすく描かれるなど、深夜帯に放送されていたアニメ『SPY×FAMILY』が深夜帯を見られない子供たちにも受け入れられるように調整されていると考察できる。

更にアニメシリーズから続投する形でOfficial髭男dismや星野源がテーマソングとして作品を彩り、幅広い層へのアプローチがなされているとも考察できる。他にも、入場者特典『SPY×FAMILY CODE: White Film Files』の内容面では子供に向けた間違い探しや迷路、クイズなどが盛り込まれている。

その一方でヨルの血みどろの演出や、性描写を匂わせるロイドの任務など子供向けにしては刺激が強い部分もある。しかし、「クレヨンしんちゃん」シリーズも「子供に見せたくない番組」に選ばれるなど過激な部分もあるため、その点はもしかしたら現代の子供たちにとっては平気なのかもしれない。

現実とのリンク

『SPY×FAMILY』が国民的な作品になる上で問題点を挙げるとすれば、先に大戦が発生し、そこかしこに紛争の火種を抱えた東西冷戦下が舞台という点だろう。特に『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』ではガザ地区での空襲を思わせる場面が見受けられた。

雪国フリジスは先の大戦で航空機の激戦区となった地域である。駅前には撃墜王のレッキーとブランドンの航空機が飾られている。そのような雪国フリジスで暮らす「瓦礫と絆亭」の主人が店名の由来を語るが、その内容は現在のガザ地区を想起させるものだ。空襲で町は瓦礫と化し、家族を失い、食料も無いなかで孤児が瓦礫の下からようやく食料を見つけ出したのが店名の由来だ。「瓦礫と絆亭」の主人はあの飢えを二度と味わいたくないという思いから店を開いたという。

その思い出話にロイドも自分の過去に想いを馳せていた。ロイドは『SPY×FAMILY』本編でも空襲に怯えて眠りについた夜や、瓦礫となった街を思い出している。WISEのメンバーの中にはそのような戦時下を経験したものが多くおり、『SPY×FAMILY』本編で過激派の学生グループがテロ行為をしようとしていたとき、WISE側は戦時下の悲惨な経験を語っていた。

『SPY×FAMILY』がはじまった当初はウクライナやガザでこれほどの惨劇が起きるとは思ってもいなかっただろう。しかし、現実に起きてしまった。物語と現実の悲惨な出来事がリンクしてしまうのは東西冷戦下を舞台にしている以上避けられなかったことだと考察できる。この問題は『SPY×FAMILY』が国民的なアニメとなる上で避けては通れない問題だとも考察できる。

映画第2弾はある?

入場者特典が400万名分用意されているということは、単純計算で1人のチケット代が2000円だとすると、東宝は『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』の興行収入がおよそ80億円程度になるものだと考えていることが考察できる。それに加えて、Official髭男dismや星野源などのテレビアニメ『SPY×FAMILY』から続くミュージシャンの起用により既存のファンを維持しつつ、ファミリー層の獲得にも努めている『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』。

『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』が東宝の見込み通り、80~100億円程度の興行収入を得られたとすればアニメ第3期と共に映画第2弾の制作も見込めるだろう。東宝は2023年11月3日に公開された『ゴジラ-1.0』で世界興行収入100億円を得ており、更なるブーストとしてモノクロの『ゴジラ-1.0/C』を用意していた。『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』にも何か追加のブーストとなる入場者特典などが用意されていると考察できる。今後の『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』の展開に期待していきたい。

『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』は2023年12月22日より全国劇場公開。

『劇場版SPY×FAMILY CODE: White』公式サイト

コラボレーションした『ウィッシュ』のラスト解説はこちらから。

同時期に公開されたアニメ映画『屋根裏のラジャー』で描かれるラスト解説はこちらから。

同じく東宝の『ゴジラ-1.0』のラスト解説はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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