ネタバレ感想&解説『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』ラストの意味は? 原作との違いは? | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ感想&解説『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』ラストの意味は? 原作との違いは?

©U/SCS

『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』公開

人気アニメ『クレヨンしんちゃん』(1992-) の劇場版第31作目『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』が2023年8月4日(金) より劇場で公開された。「クレヨンしんちゃん」シリーズとしては初の3DCGを採用した作品だ。『バクマン。』(2015) の大根仁が監督・脚本を務め、CGは『STAND BY ME ドラえもん』(2014) や『シン・仮面ライダー』(2023) の白組が手がける。

さらに『しん次元!クレヨンしんちゃん』は、『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』(2020) 以来となる臼井儀人の原作漫画を原案にした作品でもある。そのため、主人公・野原しんのすけの服装は原作と同じ黄色と青のデザインになっているなど、いつものアニメとは違う姿のしんちゃんを楽しむことができる。

そして、『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』では、どんなテーマの物語が描かれたのか。今回はラストの展開とその意味についてネタバレ有りで解説しつつ、感想を書いていこう。なお、以下の内容は本編の重大なネタバレを含むので、必ず劇場で本作を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』の内容に関するネタバレを含みます。

『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』ネタバレ解説&感想

3DCGならではのロボットアクション

『しん次元!クレヨンしんちゃん』は3DCGを生かしたハイスピードのアクションシーンが満載で、ミサイルが縦横無尽に飛んでいくいわゆる“板野サーカス”を巻き寿司でやってのけるなど、新鮮味のある作品だった。

カンタムロボを使ったロボットアクションも見どころで、今回のメインヴィランである非理谷充(ひりや みつる)がカンタムロボと退治した時には、「見せてもらおうか、連邦軍の力とやらを!」というセリフも飛び出す。これはアニメ『機動戦士ガンダム』(1979-1980) でのシャア・アズナブルの「見せてもらおうか。連邦軍のモビルスーツの性能とやらを!」のパロディだ。

一方で、しんちゃんがカンタムロボを操作する時には、しんちゃんは『マジンガーZ』(1972-1974) のように頭の上に搭乗している。また、しんちゃんがカンタムロボを操作できるようになるための曲として深田恭子「キミノヒトミニコイシテル」(2001) がピックアップされている。大人にとっても懐かしい要素を散りばめられた作品だ。

非リア充の物語

一方で、今回の映画版「クレヨンしんちゃん」は社会的なテーマを扱おうともしていた。ヴィランの非理谷充の名前は音読みすれば「ヒリヤジュウ=非リア充」になる。友達もおらず、派遣労働に従事し、いわゆる“リア充”を嫌う人物として描かれる非理谷は、社会の転覆を企むヌスットラダマス2世によって社会に対する憎しみの力を増強されて怪物に変貌してしまう。

ヌスットラダマス2世は、現実世界に拒絶された人間を集めて負のエネルギーを集めていた。新ウイルスの蔓延、更なる少子高齢化の波、社会保障制度の崩壊を控え、この国の未来は真っ暗だというのがヌスットラダマス2世の主張だった。ヌスットラダマス2世は未来のないこの国を変えようとしていたが、一方で怪物化した非理谷は暴走を始める。

強大な力を持つ非理谷からしんのすけを助けたのは、みさえが歌った「キミノヒトミニコイシテル」と、ひまわりの超能力だった。非理谷としんのすけが力を得たのは、それぞれ暗黒の光と白い光を浴びたからだったが、しんのすけと一緒にいたひまわりもまた白い光を浴びて超能力を手に入れていた。

二人は兄妹での合体技で巨大化した非理谷を退けることになる。非理谷とは違い、一人ではなく大切な誰かと困難に立ち向かうことで、それを乗り越えられたということなのだろう。また、コミックス26巻に収録されている原作エピソードのタイトルは「しんのすけ☆ひまわりのエスパー兄妹」であり、二人の活躍が中心に描かれている。

¥564 (2024/05/27 05:30:33時点 Amazon調べ-詳細)

非理谷充の過去

しかし、モンスター非理谷が第二形態になり暴走を始めるとしんちゃんは非理谷に飲み込まれてしまう。ここからのパートはしんちゃんが非理谷の過去と向き合うパートだ。野原しんのすけの家庭は庭付きの一軒家と車をローンで買える程度には安定している正社員のひろしと、専業主婦として家事労働に従事するみさえ、そして不自由なく生活できるしんのすけとひまわりという、かつての日本では“平均的”とされた4人家族だ。

だが、非理谷の両親は共働きで非理谷はいつも家で一人カンタムロボのアニメを見ていた。友達もできず、孤独に暮らしていた非理谷少年は、自分の内側でしんのすけと出会うことによって初めて一緒に戦ってくれる“仲間”の存在を知る。

成長していく非理谷に対し、しんちゃんがいつまでも同じ姿なのは、現実においてもずっとアニメの中の5歳児である「クレヨンしんちゃん」という存在のメタファーだろう。幼少の頃に一人でテレビを見ていた子どもも、心の中のクレヨンしんちゃんを仲間だと思って、大人になってからも忘れないでほしい、そんなメッセージを感じ取った。

二つの毒玉

いじめっ子と戦う二人を最後に救ったのは、やはり、ひろしの靴下だった。予言では「悪臭を放つ二つの毒玉」が怪物にとどめを刺すとされていた。それがひろしの靴下のことだと気づいたみさえは、ひろしと共にそれをモンスター非理谷に投げ込み、しんのすけと非理谷青年はそれを使っていじめっ子を退治することに成功する。

孤独の身であった非理谷にしんちゃんという仲間ができ、親世代の助けを借りて困難を乗り越えるという展開だ。“毒親”という呼ばれ方をすることもある疎ましい存在としての親、それを「毒玉」という比喩を使って表現したのではないだろうか。毒もあるが、親は助けてくれる存在だと訴えかけているように聞こえた。

また、池袋教授らの、「世界を救ったのはサラリーマンの靴下」というセリフも、正社員で中間管理職の地位にあるひろしが、非正規労働者の非理谷を救うという構図を表現するものだ。高度経済成長を支えた日本のシステムを掲揚し直すようなメッセージが続いていく。

「しん次元」の解決策

ついに非理谷は元の姿に戻るが、非理谷の問題は解決されていない。社会自体が問題を抱えているからだ。それを乗り越えるために『しん次元!クレヨンしんちゃん』が提示した解決策は、「頑張る」だった。

非理谷は、「周りに人がいれば人は変われる」「やろうとしなかっただけ」「運命は自分で切り開くもの」「頑張れ」という言葉を次々と受け取る。唯一ヌスットラダマス2世は「それは違う」「この国に未来はない」「子ども達の未来はお先真っ暗」と正論を言うが、ひろし、池袋教授、ネギ子からは根性論しか出てこない。

理不尽な社会に生まれても頑張れ——それが今回の映画『しん次元!クレヨンしんちゃん』のメッセージだったのだろう。実際には社会が抱える問題に取り組む余裕のない人々のために、余裕がある人々が課題に取り組んだり、それによって政治を動かしたりと、状況を変えるためには単純ではないステップを踏んでいく必要がある。

頑張ればなんとかなる(なんとかなっていないのは頑張ってないから)という自己責任論に全振りした説教っぽい結論は、けれど野原ひろしのような人生を生きてきた人にとっては説得力を感じられるものなのだろう。本来、社会はもっと複雑で、問題解決を目指すのなら、非正規労働者と正規労働者の置かれている状況の違いや、資本家・企業の責任も語られなければならない。

この結論には、原作のエピソードが20年以上前の作品ということも影響しているかもしれない。原作ではヴィランが最後に「頑張れよ! 不景気に負けるなよ!」とひろしから声をかけられる。そこから更に20年間不景気が続くとはひろしも思っていなかったのだろう。

だが、今回の結論は、「クレヨンしんちゃん」がターゲットとしている層のリアルな感覚を描き出したものとも言える。これから生きていく現実とは乖離したメッセージを受け取った子ども達はどう生きていくのか、それを映画の外で教えるのも大人の役目だろう。

なお、今回『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』の監督・脚本を務めた大根仁は、映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の脚本も担当している。

次回は恐竜?

そして、『しん次元!クレヨンしんちゃん』のエンドロール後にはお待ちかねの次回予告のポストクレジットシーンがある。いつもの2Dアニメのしんちゃんが登場すると、複数の恐竜の姿が。2024年公開の「クレしん」映画が恐竜ものになることを示唆して幕を閉じる。次回もがっつりSF作品ということになりそうだ。続報に期待しよう。

映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』は2023年8月4日(金)より全国の劇場で公開。

『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』公式サイト

原作エピソードが収録されているコミックス第26巻は発売中。

¥564 (2024/05/27 05:30:33時点 Amazon調べ-詳細)

 

【ネタバレ注意!】ジブリ映画『君たちはどう生きるか』ラストの解説&考察はこちらの記事で。

【ネタバレ注意!】『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』ラストの感想&解説はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
お問い合わせ

関連記事

  1. ネタバレ解説『バッド・バッチ』シーズン3第14話 アイツが登場、いよいよ最終回へ あらすじ&考察

  2. 第2期9話/33話ネタバレ感想『呪術廻戦』五条悟の決断、覚悟、そして〇〇。勝負を決したのは…

  3. 最終回第12話ネタバレ感想!『SSSS.DYNAZENON(ダイナゼノン)』あらすじ・考察・解説~勇気を持つこと~

  4. 『ザ・ボーイズ』アニー役エリン・モリアーティ『もののけ姫』&ジブリへの愛を語る。好きな理由は「主人公が〇〇」