『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』大澤博隆さんによるあとがき公開! | VG+ (バゴプラ)

『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』大澤博隆さんによるあとがき公開!

『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』(Kaguya Books)、4月27日発売!

60年以上の歴史を持つ日本SF作家クラブの会員たちが、創作を始めたきっかけや続ける秘訣、作家としての社会との関わり方について語り尽くした、日本SF作家クラブ編『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』(Kaguya Books/社会評論社)。
4月27日の発売開始に先駆けて、第21代日本SF作家クラブ会長で人工知能研究者の大澤博隆さんによるあとがきを公開いたします。

社会評論社
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『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』あとがき

大澤博隆

ゲラを読み終えて心底「こんな本が欲しかったなあ!」と思いました。そんな本です。

私は日本SF作家クラブの第二十一代会長ですが、これまでプロ作家として活動した経験が一切ない、初めての会長です。とはいえ、物語を読むことは好きでしたし、趣味で小説や漫画、ゲームを作ったりもしていました。ですが、プロとして活動する、ということについては、ついぞできていない人間です。

本書ができるまでの経緯を少し、お話しさせて下さい。

私はロボットや人工知能の研究をしている研究者です(専門はヒューマンエージェントインタラクションという、人と意図を持つ人工物との相互作用の研究ですが、まあ、ロボットやAIを研究していると思っていただければ大丈夫です)。子供の頃は小説や漫画でSFを読んでいましたし、今も大好きです。

ロボットやAIの研究に進んだ人の中には、私も含めて、SFの影響を受けた人がいました。そうした影響を調査するため、二〇一八年から何人かの研究者とともに、SFと科学技術の関わりを研究する、というプロジェクトを始めました(本書でSFプロトタイピングについて解説いただいている宮本道人さんは、その時の仲間であり、今も同じ慶應SFセンターで研究をしています)。

その調査のため作家の長谷敏司さんにご協力をお願いしたとき、SFに関して調査をするならば、ぜひクラブに加入したほうが良い、というお話を受け、私で大丈夫かなあと思いつつ、入会しました。その後、プロジェクトとしてやるなら理事になって欲しい、という依頼を受け理事になり、気づいたら前会長の池澤春菜さん(声優として有名ですが、SF書評や小説家としても活躍されており、また、別名義では以前から脚本や小説も書かれていたマルチタレントな方です)から、会長をやらないか、というお話が来ました。

なので私は、たぶん歴代の会長の中で、もっともみなさんに近い人間です……いや、もし少しでも小説を書かれて発表されている方がおられたら、むしろ私よりもみなさんのほうが、作家に近いと思います。

池澤さんからお引き受けした際に一つ言われたのが、二〇二三年にクラブが六十周年をむかえるということでした。無理のない範囲で、記念のイベントができれば良いなあ、という話がありました。

日本SF作家クラブは、かつて創立五十周年の際に、当時の瀬名秀明会長や東野司会長がアンソロジーを組んだり、子供向けのエッセイ集を作ったり、記念イベントを行ったり、様々な企画を行ったことがあります。例えば、人工知能学会という学会と共同で、学会誌にショートショートを載せたこともありました。これは私自身が人工知能学会側の編集委員として担当したこともあります。

当初、作家としての実績のない私には、そうした多数の関係者を動かすような大型の企画は正直難しいと思いました。しかしよくよく考えると、作家でない私にしかできないこともあるかもしれないな、と思い始めました。

六十周年というのは、人間でいえば「還暦」にあたります。還暦はお年寄りのためのお祝い、というイメージが強いですが、本来は干支の一周を意味しており、「生まれ変わり」という意味があります。なので、この年はクラブの「生まれ変わり」の年とも捉えられます。

日本SF作家クラブが誕生した一九六三年と、六十周年を迎えた二〇二三年は、何もかもが違います。現在は出版環境も激変しており、一方、インターネット環境は普及し、作品を発表する場所は増えました。生成AIのように、物語の執筆を手助けし、あるいはその一部を置き換えるほどの驚異的な技術も登場してきています。かつて著名な作家たちがショートショートを載せた広告雑誌のような媒体は極めて少ないですが、一方で、作家自身が専門家と共同で作品を作るSFプロトタイピングのように、作家の想像力を別の形で取り入れる試みが次々と出ています。

クラブもこうした流れに呼応するように、様々な改革を近年行ってきました。文芸団体としては極めてデジタル化されていますし(Slackというコミュニケーションツールを使いこなしています)、行動規範(コード・オブ・コンダクト)のような、ハラスメントを避けるための枠組みも積極的に設置しました。業界団体として、核の脅威からインボイス制度、生成AIまで、様々な問題に対する声明を発表し、あるいは海外のSF作家団体たちとの交流も行っています。SFプロトタイピングについても、作家を守るための調査を行ったりしています。

しかし、SFコミュニティにおける様々な流れや改革は、外にうまく伝わっていない気がしていました。SFに関わっているという話をクラブ外の企業の方や研究者の方にするとき、SF作家として名前が出てくる方々は、既に名前を確立した、著名な方々です。そうすると、どうしても二十年くらいのギャップができてしまいます。今SFで起こっている様々な新しい流れや、作家たちの環境がうまく反映されていない、と思うことは結構ありました。

なので、六十周年のここを新しいスタート地点と考え、こうした時代に「創作に関わりたい」という人を応援するような企画ができるのではないか、と考えました。

過去ではなく、未来を向く人たちを応援する本。それが、この本です。

本書で意識したことの一つは、新しい作家たちの声を掲載することでした。本書で登場する作家たちは、キャリアの長い作家たちと比べると有名ではありませんが、しかし今の時代の想像力を反映し、次世代につなぐ作家たちです。そうした作家たちの声を聞きたいと思い、二〇二三年の日本SF大会でSFと科学技術、出版と創作、SFと社会を巡る対談を調査研究として企画しました。この対談が、本書の母体となりました。

その一方で、創作は、作家だけで生まれるわけではありません。

編集者、翻訳者、校正者、デザイナーのような人々が、作家の作品を手助けしています。さらには、アート、研究、コンテスト企画者、近年ではSFプロトタイピングのように、創作の想像力は様々な形で広がっています。そうした人たちに光を当てることも、また重要だと思いました。

本書作成にあたって解説・コラムをいただいた大森望さん、門田充宏さん、宮本道人さん、近藤銀河さん、小谷知也さんは、そうしたロールモデル(目指したい役割を切り拓く人たち)です。さらには本書で様々なコラムを執筆いただいているVG+さんも、新時代のロールモデルとなる会社でしょう。

ということで、素晴らしい本ができたと思います。少なくとも作家になりたい人は、この本を読んだほうがいいよ!と自信を持ってお届けできる本です。

そして作家になる人以外にとっても、この本は手助けになると思います。物語をつくる人がどこを大事にしているのか、この本を読めばそこを理解できると思います。研究組織や企業と作家をつなぐとき、わりとトラブルが起きることもありますが、相手を知る一番のコツは、相手の大事にしているポイントを知ることですからね。

というか、欲を言えば、私が会長になる「前」に、こういう本が読みたかったな!

そうすればたぶん、もっとうまく勘所を押さえて、作家クラブを運営できたと思うんですが。

誰か、この本を昔の私、いや、せめて二年前の私に送ってくれないかなあ……。

大澤博隆(おおさわ・ひろたか)
慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻博士課程を修了、工学博士。慶應義塾大学理工学部管理工学科准教授/筑波大学システム情報系客員准教授。慶應義塾大学および筑波大学のHAI研究室主宰者。人とエージェントの関係性を広く研究するヒューマンエージェントインタラクションの研究が専門であり、機器の擬人化、ゲームを用いた社会的知能の研究、サイエンスフィクションおよび想像力と知能の研究に幅広く従事している。共著として『人狼知能:だます・見破る・説得する人工知能』(森北出版)、『人とロボットの〈間〉をデザインする』(東京電機大学出版局)、『AIと人類は共存できるか』(早川書房)、『信頼を考える リヴァイアサンから人工知能まで』(勁草書房)、『SFプロトタイピング: SFからイノベーションを生み出す新戦略』(早川書房)など。
2022年10月より、日本SF作家クラブ第21代会長を務める。

 

日本SF作家クラブ編『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』は2024年4月27日発売!
ご予約はお近くの書店のほか、Amazonhonto などオンライン書店にて。

 

SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて
編者:日本SF作家クラブ
刊行日:2024年4月27日
価格:1,900円(税込2,090円)
発行:Kaguya Books
発売:社会評論社
サイズ:A5・164頁

目次
〈第一部〉 作家のリアルとそこで生きる術
「SF作家のリアルな声」揚羽はな・大澤博隆・粕谷知世・櫻木みわ・十三不塔・門田充宏・藍銅ツバメ
「SF作家になるには」大森望
「戦略的にコンテストに参加しよう さなコンスタディーズ 2021-2023」 門田充宏
〈第二部〉 フィクションとの向き合い方
「え? 科学技術とSFって関係あるんですか? 本当に?」 宮本道人
「SFと科学技術を再考する」 茜灯里・安野貴博・日高トモキチ・宮本道人・麦原遼
「〝社会〟の中でフィクションを書く」 近藤銀河・津久井五月・人間六度・柳ヶ瀬舞
「過去に描かれた未来  マイノリティの想像力とSFの想像力」 近藤銀河
〈コラム〉小説にかかわるお仕事
編集者・翻訳者・校正者・デザイナー・『WIRED』編集者小谷知也さんインタビュー

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