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ロボット映画の新たなクラシック!パシフィック・リムをおさらい
久しぶりの大物オリジナル作品『パシフィック・リム』
全世界のロボットファンを虜にした映画『パシフィック・リム』(2013)。2018年4月には続編『パシフィック・リム アップライジング』が公開されるなど、SF界でも確固たる地位を築き上げた。続編やリメイク、原作を持つ作品の実写化作品が大半を締めるようになってきたSF映画界の中で、久しぶりのオリジナルシリーズ誕生。一作目を手がけたギレルモ・デル・トロ監督が生んだ会心の大物ルーキーだったと言える。日本アニメへの敬意を込めて日本語で「Kaiju」と呼ばれる巨大モンスターたちと、個性的で魅力的な巨大ロボットたちとの戦いは、世界中を熱狂の渦に巻き込んだ。
ロボット映画のクラシックへ
今やロボット映画の「クラシック」とも呼べる域に到達しようとしている『パシフィック・リム』。今回は第一作に登場したロボットを振り返る形で、作品の醍醐味やこだわりをおさらいしてみよう。そもそも、『パシフィック・リム』に登場するロボットは、巨大怪獣討伐の目的で制作され、イェーガーと呼ばれる。劇中で香港のシャッタードーム(基地)に残存していた4体のイェーガーは、アメリカのジプシー・デンジャー、オーストラリアのストライカー・エウレカ、中国のクリムゾン・タイフーン、そしてロシアのチェルノ・アルファだ。今回は、この中でも異彩を放っていたチェルノ・アルファに注目してみたい。残された唯一の第一世代イェーガー、その名の由来やデザインの秘密に迫る。
Cherno Alpha, el Jaeger ruso de “Titanes del Pacífico”. Estreno 11 de julio, sólo en cines. pic.twitter.com/3DfHPcDOr5
— WB Pictures Ar (@WBPictures_Ar) 2013年3月26日
チェルノの名前とデザインの秘密
意外な名前の意味
現存する最古のイェーガー、チェルノ・アルファ。ロシア籍の機体だ。ロシアで「チェルノ」というと、どうしても旧ソ連で大規模な原発事故が起きたチェルノブイリ(Chernobyl、現ウクライナ)を思い浮かべるかもしれない。イェーガーの動力は原子力を採用しており、チェルノの頭部デザインも原発を想起させる。しかし、「チェルノ」という単語は、ロシア語で「黒」を意味する。「一番目」を意味する「アルファ」と合わせて、「チェルノ・アルファ」は、ー「黒い一号機」という意味になる。制作当初は、スラヴ神話の「黒い神」を意味する「チェルノボーグ」とも呼ばれていたという逸話もある。いうほど黒くはない気もするが、いずれにせよ機体と同じ重厚なイメージを与えるための命名だったのだろう。
原発+ザク!?チェルノのデザインに隠された秘密
エフェクト・アート部門のディレクターを務めたアレックス・イェーガーによると、チェルノのイメージは、ズバリ「歩く原発」。顔は機体の中央=胸部に位置しており、頭部に見えるのは冷却塔だ。怪獣の「オオタチ」、「レザーバック」との海上戦では、チェルノがダメージを受けると、パイロットのアレクシスが「水が原子炉に入る!」と、原子炉の心配をしている場面も見られる。また、チェルノのデザインについては、デル・トロ監督が「めざましテレビ」に出演した際に、「機動戦士ガンダム」シリーズのザクにインスパイアを受けたことを明らかにしている。原発とザクという意外な組み合わせで生まれたのがチェルノだったのだ。
I think GDT likes the 18″ Cherno Alpha. Cherno is his favorite Jaeger and mine too. #pacrimfacts pic.twitter.com/8sLAbXT7L1
— NECA (@NECA_TOYS) 2014年7月24日
実は〇〇人!?ロシア人キャラクターを演じた俳優たち
カイダノフスキー夫妻の正体
チェルノに乗り込むのは、ロシア人夫婦のサーシャ・カイダノフスキーとアレクシス・カイダノフスキー。夫婦ならではの息ぴったりのコンビネーションが10年選手の機体を支えているという設定。しかし、サーシャを演じたのはカナダ人俳優にしてプロレスラーのロバート・マイエ。アレクシスを演じたのは同じくカナダ人のヘザー・ドークセン。赤の他人でありながら、意識を同期させて戦う歴戦の英雄夫妻を演じる必要がある。オーディションからこの役を勝ち取ったというドークセンは、Movie Webの独占インタビュートで以下のように語っている。
私たちは、殺陣とスタントのコーディネーターと一緒に、振り付けをみっちりやる必要があったわ。実はダンスの振付師も付いてたのよ。二人の動きがシンクロしてることを確認するためにね。
by ヘザー・ドークセン
赤の他人同士のカナダ人がロシア人夫婦を演じる、なんとも不思議な話ではある。しかし、役者魂を見せた二人が、カイダノフスキー夫妻という魅力的なキャラクターを誕生させたのであった。
In honour of opening weekend for #PacificRimUprising, let’s #FlashbackFriday to @Legendary‘s #PacificRim, when I was transformed into half of the Russian team defending the world from Kaiju, beside @Robert_Maillet. Thanks @RealGDT for the ride! pic.twitter.com/HCCevsrNza
— Heather Doerksen (@HeatherDoerksen) 2018年3月24日
なお、二作目の『パシフィック・リム アップライジング』には、ヴィクトリアという名のロシア人訓練兵が登場。ヒロインのアマーラ・ナマーニと対立しながらも互いに成長を見せていく重要な役割だ。同作で唯一登場するロシア要素なだけに、前作のカイダノフスキー夫妻を連想した方も多かったのではないだろうか。ヴィクトリアはロシア人の設定だが、演じたのはウクライナ人のイヴァンナ・ザクノ。15歳の頃から子役として主にウクライナ国内のテレビシリーズで活躍していた。2015年のカンヌ国際映画祭では、ロシア連邦によるウクライナ人政治犯収監への支援を表明するなど、若くして政治的なスタンスも明確にしている。そんな二十歳のザクノでも、いきなり人気作の続編に大抜擢されるとは、ハリウッドらしさが垣間見える。
少し話は逸れたが、チェルノ・アルファ一つ考察するだけでも、これだけ多様な情報が出てくるのだ。「ロシア的なもの」を、単にロシア系で固めるのでは芸がない。ザクにカナダにウクライナまで、様々な国の要素が取り入れられ、多種多様な俳優が起用されていることが、同作が世界中でヒットしている大きな要因だろう。今後、同シリーズでどのような多様な面々と出会えるのか、今から楽しみにしたい。