2011年公開の映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』
トム・クルーズ主演の映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011) は、大人気シリーズ「ミッション:インポッシブル」シリーズの第4作目。前作『ミッション:インポッシブル3』(2006) から5年ぶりに公開された作品で、タイトルからナンバリングが外れたシリーズ初の作品でもある。
一方で、ブラッド・バード監督が指揮を執った本作からは、サイモン・ペッグ演じるベンジー・ダンが現場にまわり、ジェレミー・レナー演じるウィリアム・ブラントが初めて登場するなど、その後のシリーズにも影響を与える要素も大きい。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』では、どんな物語が描かれたのか、今回はラストの展開を中心に解説し、考察と感想を記していこう。
なお、以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ネタバレ解説
IMFなしでの任務
映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の冒頭では、トム・クルーズ演じる主人公のイーサン・ハントはロシアのモスクワで服役している。前作『ミッション:インポッシブル3』のラストではジュリアと結婚して幸せを掴んだはずだったが、なんとジュリアは殺されてしまったという。
毎回ハッピーエンドを迎えても、次作では困難な状況に立たされるのがイーサンという人間だ。イーサンはIMFによって刑務所から脱獄させられ、新たな任務に挑むことになる。IMF=Impossible Missions Forceというのはイーサンが所属していた米国の諜報機関のことで、現実には存在していない。劇中でもCIAのような政府公式の組織とは違い、表向きは存在していないということになっているので、政府は都合が悪くなれば切り捨てることができる。
イーサンに託された任務は、「コバルト」というコードネームの人物と、コバルトに渡されるはずだったファイルを追うこと。コバルトに渡されるはずだったファイルは、IMFエージェントのトレヴァー・ハナウェイが奪取作戦に失敗し、サビーヌ・モローという殺し屋に奪われてしまっていた。
イーサンはファイルの中身がロシアの核発射コードであることを知り、コバルトの正体はカート・ヘンドリクスという核戦争を求める過激派であることを突き止める。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』におけるイーサンは、核戦争の阻止という任務に挑むのだ。
イーサンはコバルト・核のコード・サビーヌという三つのターゲットを追うことになるが、コバルトの正体を追ってクレムリンに潜入した際に、米露間の核戦争を起こそうとしたコバルトによってクレムリンが爆破されてしまう。その狙い通りにロシア政府がアメリカ政府の関与を疑ったため、米政府はIMFを解散して爆破事件への関与を否定することになる。
つまり、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ではイーサンはIMFのバックアップのないまま任務に挑むことになる。サブタイトルの「ゴースト・プロトコル」とは、問題が生じたときに組織及びエージェントを幽霊(ゴースト)のように存在しないものとして扱う取り決め(プロトコル)を意味しており、ゴースト・プロトコルが発動した状態で不可能な任務(ミッション:インポッシブル)に挑むイーサンの姿が描かれる。
イーサンの3人の仲間
そこで助けになるのが『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でイーサンと行動を共にする3人の仲間だ。ポーラ・パットン演じるジェーン・カーター、サイモン・ペッグ演じるベンジー・ダン、ジェレミー・レナー演じるウィリアム・ブラントである。
ジェーンは、IMFエージェントのトレヴァー・ハナウェイと共にコバルトの正体を追う任務についていたが、サビーヌ・モローにハナウェイを殺され、モローにコードを奪われてしまっていた。今回の主要メンバーでは唯一今回限りのキャラクターだ。
ベンジーは前作『ミッション:インポッシブル3』にも登場したが、当時はIMFの技術職についており、ノートパソコン内の情報分析等でイーサンを助けていた。あれから5年が経過し、『ゴースト・プロトコル』のベンジーはエージェントとなり現場に出向くようになっている。そんな中でIMFは解体されてしまうのだが、それでもベンジーはイーサンと共に不可能な任務に挑むことを決めている。
そして『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の鍵となる人物がIMF分析官のウィリアム・ブラントだ。IMF長官についていた時に襲撃に遭って長官が殺され、イーサンと共に行動することになる。ベテランエージェントのイーサンから現場で助言を受ける姿が印象的だ。
実はブラントは以前、前作で結婚したイーサンとジュリアの護衛を務めていた。しかし、ある日二人は襲撃され、イーサンは殺されたジュリアのために犯人達を皆殺しにし、モスクワの刑務所に入ったとされていた。そしてブラントは、自分が護衛を務めていたことを打ち明けられずにいたのだった。
ドバイでの任務
映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のハイライトの一つは、ドバイのブルジュ・ハリファ・ビルでの任務だ。地上828mの超高層ビルで窓をつたって移動し、ロープ一本で窓を駆け降りていく危険なスタントも、トム・クルーズ自身が演じている。
ブルジュ・ハリファ・ビルでは、ヘンドリクスの部下であるウィストロムとサビーヌ・モローが核のコードとダイヤモンドを交換する取引を行う手筈となっている。そこで、イーサンがヘンドリクスとウィストロムになりすまし、ジェーンがモローになりすまして双方のミーティングに出席する作戦を選ぶことに。
その作戦のために、イーサンが窓をつたってサーバールームに侵入。エレベーターと監視カメラを操ってモローを本来とは違う階に誘導し、ダブルなりすまし作戦は順調に準備が進められていく。ところが、ウィストロムと共にビルのロビーに現れたのは、核関係のセキュリティーを設計した暗号の専門家だった。ウィリアム・ブラントは分析官なので、顔を見ただけで関係者を特定できるという特殊能力もある。
専門家が現れたことで、イーサンは偽のコードで騙すのは難しいと判断し、発射コードのコピーを作ってヘンドリクス側に掴ませることを提案。ブラントは取り乱すも、より重要なことはヘンドリクスを捕まえることだというイーサンの説得によって最後はブラントが折れている。
強いリーダーシップを持つイーサンにも意見できるのがブラントの魅力ではある。一方でこの後モローを殺してしまったジェーンに激怒する場面もあり、『ゴースト・プロトコル』でのブラントは、世界の危機に対しては感情を露わにするというキャラ設定になっている。
そして、イーサン&ウィリアムがコンビで任務に就く姿を見れるのも嬉しいポイントだ。二人がモローから先に核のコードを手に入れ、それを元にコピーのコードを作るという作戦。ポイントになるのはブラントのレンズ型カメラだ。ブラントが瞬きをすると写真が撮影され、ジェーンがウィストロムに引き渡すスーツケース内のプリンターからコードが印刷されるという仕組みになっている。
ウィストロムがケースを開く前にコードの写真が印刷され、ジェーンの方は取引成立。しかし、イーサンの方はブラントのレンズが見破られてしまい、モローとは戦闘に。ジェーンがモローを窓から蹴落として場は収まるが、ウィストロムの方は砂嵐の中でイーサンから逃げ切り、最後にはウィストロムの正体はマスクを被ったコバルトことヘンドリクス本人であったことが分かる。
ちなみにサビーヌ・モローを演じたのはレア・セドゥで、本作で国際的な知名度を獲得した。その後、「007」シリーズでボンドガール/ボンドウーマンを務め、ゲーム『DEATH STRANDING』(2019) のフラジャイル役でも注目を集めた。
ブラントの過去
コバルトことカート・ヘンドリクスに核の発射コードが渡ったまま手がかりを失うという窮地に立たされたイーサン。しかし、冒頭で一緒に脱獄させた情報屋のボグダンを通して、インドの富豪が所有するロシアの軍事衛星が使用されるという情報を得る。そうして、映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のラストはインドのムンバイが舞台になる。
インドに向かう前、イーサンは分析官のはずなのに凄腕であるウィリアム・ブラントの素性を疑い、イーサンとブラントは互いに秘密を抱えたまま最後の任務に挑むことになる。だがブラントは、ジェーンとベンジーには自分が抱える過去について語っている。
かつてブラントはクロアチアで護衛の任務についており、その任務は護衛対象に気づかれてはいけないという極秘任務だった。3日後にセルビアの暗殺部隊が夫婦を狙い、ブラントは悪い予感がして夫婦に知らせた方がいいという気がしたが、命令に従い伝えることはなかったという。
護衛対象の夫がジョギングに出た際にブラントはそちらについていったが、戻った時には部下は倒され、護衛対象の妻は消えていたという。後日その妻は死んだという情報が入り、生死と向き合うことに耐えきれなくなったブラントは現場を退いて分析官になったのだった。そして、その時の護衛多少の夫婦というのがイーサンとジュリアだったのである。
ブラントが抱える苦悩は、警告すべきだったのに警告をせず、イーサンの妻を死に至らしめたという自責の念だった。イーサンが核のコードのコピーを渡すと言ったときにブラントが強く警告した背景には、その経験もあったのかもしれない。
一方のジェーンも、仲間を殺したサビーヌ・モローを殺して復讐を果たしたことで苦悩を抱えることになっていた。イーサンも妻を殺した部隊を殺したと聞いていたジェーンは、気が晴れたかと尋ねるが、イーサンは「死んだ人は戻らない」と答えるのだった。『ゴースト・プロトコル』では、こうしてイーサンが初めてチームを組む相手と任務の中で対話していく。
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ラストをネタバレ解説
ブラントのスタントとBMW
イーサン達の作戦は、富豪のブリッジ・ナスが所有する軍事衛星を乗っ取って核の発射を阻止すること。ブリッジ・ナスを演じたのは映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008) などでも知られるインド出身の俳優アニル・カプールだ。
ブラントはいつもならイーサンがやるような“飛び込み”ミッションにも挑戦。磁力で浮いた状態で任務をこなす姿は、『ミッション:インポッシブル』(1996) 第1作目でのイーサンの代名詞とも言える宙吊りスタントを想起させる。パーティーのシーンでは先輩のイーサン・ハントは完全にウィリアム・ブラントにスタントシーンを譲っている。
イーサン達はブリッジ・ナスを脅して軍事衛星にアクセスするためのコードを手に入れたものの、ヘンドリクスに先を越されており、核弾頭は発射されてしまう。それでも、もう不可能だと思われたミッションであっても、最後まで諦めないのがイーサン・ハントだ。
イーサンは立体駐車施設でヘンドリクスが持っていた核の発射制御装置を入手。立体駐車場でヘンドリクスごと落下したスーツケースをいち早く手に入れるため、イーサンはエアバッグを信頼して車ごと落下する方法を選んでいる。実は『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』からはBMWが映画のオフィシャルパートナーとなっており、このシーンでイーサンが使う車も含めて本作では見どころの場面でBMWが使用されている。
核弾頭の着弾が目前に迫る中、イーサンは制御装置を起動。同時にヘンドリクスが破壊していた中継装置をベンジー達が復旧させることに成功して核弾頭の無効化に成功したのだった。ブラントがヘンドリクスの部下のウィストロムと戦っている場面では、ベンジーが発砲してブラントを助ける場面も。ベンジーは現場のエージェントとして見事な活躍を見せている。
ちなみに停止した核弾頭はサンフランシスコにあるトランス・アメリカ・ピラミッドをかすめて海に落ちている。続編『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015) では、トランス・アメリカ・ピラミッドが一部破損したことの責任を問われることになる。
イーサンは、ずっと自分を付け狙っていたロシアの諜報員アナトリー・シディロフをムンバイに呼んでいた。ロシアの核弾頭と核制御装置に関する後始末を頼むためだろう。アナトリーは敵だと思っていたことを反省し、イーサンのために病院を手配することを申し出たのだった。
ラストの意味は?
映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のラストでは、ヴィング・レイムス演じるルーサー・スティッケルが登場。今回はカメオ的な出演だったが、トム・クルーズと並んで「ミッション・インポッシブル」シリーズでは皆勤賞のキャストだ。
イーサンはルーサーにブラント、ベンジー、ジェーンを紹介。次作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』ではイーサン、ルーサー、ブラント、ベンジーが共闘することになる。
ルーサーが去った後、イーサンは十分な装備も情報も組織もない中でやり遂げられたのはチームのお陰だと話す。組織なき戦いは次作でも続いていくことになる。イーサンにとっては、4人のチームだけでやり遂げた今回の任務が一つの指針となったことだろう。
3人にはイーサンから次のミッションが渡されるが、ウィリアム・ブラントだけはそれを受け入れない。やはりブラントにはクロアチアでイーサンに警告を与えられず、イーサンの妻を死なせてしまったことが引っかかっていたのだ。それをようやく正直に明かしたブラントだったが、イーサンは妻のジュリアは生きており、死は偽装だったことを明かす。
IMFはモスクワの刑務所にヘンドリクスの一味がいると睨んでおり、イーサンは志願して刑務所に入っていたという。つまり、イーサンは最初からヘンドリクスを追っていたのである。ジュリアを守るためにジュリアが生きていることは極秘にしていたが、イーサンはそれをブラントには明かした。信頼の証でもあるが、ブラントが抱える罪悪感を拭うためでもあったのだろう。
なお、映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018) では、ジュリアが死んだことにする、つまり“ゴースト”とすることはルーサーがイーサンに教えた技であったことをルーサーが明かしている。
ルーサーはジュリアの動向について知っていたということであり、イーサンがその事実をブラントに伝えたということは、イーサンがブラントのことをルーサー並みに信用するようになったということである。
イーサンは、ブラントが自分の護衛をしていたという情報を、インドでの任務の後に記録を見て知ったという。そしてイーサンは、自分が生きている限りジュリアには危険がつきまとうのだから、ジュリアを守るのはブラントの仕事ではなく自分の仕事だと語る。かっこいい。
二人はわだかまりを解消すると、ブラントは任務の携帯を受け取って去っていく。これでブラントも正式にIMFのエージェントだ。そして、イーサンは幸せそうに街を歩くジュリアの姿を遠目に見て、二人はアイコンタクトを交わす。イーサンには次の任務が言い渡され、映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』は幕を閉じている。
映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ネタバレ感想&考察
イーサンxブラントを描いた貴重な作品
映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』は、「コード」と「ケース」が複数登場するため、少々ややこしい部分もあった。それに核弾頭も加えて、スパイものではお馴染みの要素を詰め込んだ作品であり、ロシア、ドバイ、インドと次々に舞台を変えていくゴージャスな作品でもある。
ハイライトは、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のホークアイ役でお馴染みのジェレミー・レナーが、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントのサイドキック的存在としてデビューを果たしたことだろう。ウィリアム・ブラントは強い正義感を持ちながら罪悪感に苛まれるという良いキャラで、スピンオフがあってもおかしくないくらい魅力的なキャラだ。
ウィリアム・ブラントは次作でもメインキャラクターとして登場するが、それ以降はジェレミー・レナーのカムバックは叶っていない。2025年5月8日に配信されたYouTube番組Happy Sad Confusedのインタビューでは、ジェレミー・レナーは娘との時間を優先するために「ミッション:インポッシブル」シリーズの続投を諦めたと明かしている。
現状、イーサンとブラントのコンビが楽しめるのは『ゴースト・プロトコル』と『ローグ・ネイション』だけで、その意味では両作は貴重な作品と言える。一方、その後もメインキャラとしてシリーズに登場するサイモン・ペッグ演じるベンジー・ダンのエージェントデビューも見事だった。ジェーンも含めて『ゴースト・プロトコル』で組まれたチームは今後も見たいと思わせるチームだった。
「ミッション:インポッシブル」最新作は『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が2025年5月17日(土) より日本で先行上映される。2023年に公開された『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の後編にあたる作品で、タイトルには「ファイナル」と入っているが、これがシリーズの最終作になるかどうかについては、トム・クルーズは「映画を観てのお楽しみ」と語っている。いったいどんな結末が待っているのだろうか。
映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は2025年5月17日(土)から22日(木)まで先行上映。23日(金) より全国で公開。
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』は4K ULTRA HD + Blu-rayセットが発売中。
シリーズ6作品を収録した『ミッション:インポッシブル 6 ムービー・コレクション』4K ULTRA HD + Blu-rayセットは発売中。
続編『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』ラストのネタバレ解説&感想はこちらの記事で。
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