『エレクトリック・ステイト』Netflixで配信開始
シモン・ストーレンハーグのグラフィックノベルを実写映画化した『エレクトリック・ステイト』が2025年3月14日(金) よりNetflixで独占配信を開始した。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) などで知られるアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟が指揮をとった注目作だ。
キャストも豪華メンバーが揃っている。ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016-2025) のイレブン役で知られるミリー・ボビー・ブラウンが主人公ミシェルを演じ、クリス・プラット、アンソニー・マッキー、キー・ホイ・クァン、ジャンカルロ・エスポジートらMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)でお馴染みの大物俳優達も出演している。
今回は、高い注目度の中で配信を開始したNetflix映画『エレクトリック・ステイト』のラストについて、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ずNetflixで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『エレクトリック・ステイト』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
Netflix映画『エレクトリック・ステイト』ネタバレ解説
配信までの紆余曲折
映画『エレクトリック・ステイト』はもともとユニバーサル・ピクチャーズの配給で劇場公開される予定の作品だった。しかし、その後ユニバーサルが劇場公開を取りやめたためにNetflixが配給の権利を獲得している。
本作にはアカデミー賞受賞作の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022) からミシェル・ヨーが出演する予定だった。だがスケジュールの都合により、同作でヨーと共演したキー・ホイ・クァンが出演することになった。
スタッフの交通事故など、製作にあたっては様々な紆余曲折を経て公開された作品で、撮影終了から2年後に配信されている。しかも、配信にあたっては批評家からの低評価のレビューが相次ぎ、IGNでは「皿洗いか夕飯の支度をしながら流し見するようなもの」という評価も出ている。
一般に配信される前から低評価が相次ぐという憂き目に遭った映画『エレクトリック・ステイト』。一体どんな物語だったのだろうか。
レトロフューチャーな1990年代
『エレクトリック・ステイト』はいわゆる“偽史もの”で、ロボット工学が現実よりも早く発展したレトロフューチャーな1990年代が舞台になっている。ロボットによる人類への反乱を経て、人間はこの戦争に勝利、米国内でロボットとの戦争が起きた後の時代、つまり“戦後”が本作の舞台だ。
戦況を状況を一変させたのはセンター社のイーサン・スケイトという人物で、ニューロキャスターと呼ばれる人間の意識をドローンと接続する装置を開発し、これによって人間がロボットと対等以上に戦えるようになった。そうして人類はロボットに勝利したのだ。
だが、ニューロキャスターの登場によって人間は意識を労働と娯楽に同時に振り分けられるようになり、戦争が終わってからも人間はニューロキャスターに依存することに。ロボットの代表であるミスター・ピーナッツがクリントン大統領(1993-2001在任)とイーサン・スケイトと条約にサインするシーンが印象的だ。IT企業のCEOが大統領と肩を並べて政治に干渉する時代も、『エレクトリック・ステイト』では90年代に到来したことになっている。
敗北したロボットたちはEXと呼ばれる砂漠地帯の収容地域に押し込められて生きることに。ミスター・ピーナッツは条約にサインした理由を、人間と同様の生存権を認めるという条件が含まれていたからだと明かしている。
だが、ロボットに生存権は認められても自由は認められていない。映画『エレクトリック・ステイト』では、主人公ミシェルの弟クリストファーの行方をめぐる物語と、クリス・プラット演じるキーツとアンソニー・マッキーが声を演じるハーマンの絆、そしてロボットの権利とセンター社の陰謀が交差していく。
『エレクトリック・ステイト』ラスト ネタバレ解説&考察
センター社のモデルは?
映画『エレクトリック・ステイト』の終盤では、センター社がクリストファーの特異な頭脳を使ってニューロキャスターのネットワークを維持していたことが明らかになる。ミシェルとクリストファーの家族が事故に遭った際に、アマースト博士とイーサン・スケイトは助かる見込みのなかったクリストファーの脳を利用したのである。
クリストファーの身体はセンター社にあり、ミシェルを訪ねてきたキッド・コスモの姿のロボットにはクリストファーの意識が接続されていた。センター社の襲撃によってEXが壊滅的なダメージを負った時、ロボット達も自由を求めてミシェルやキーツと共にセンター社を目指すことになる。
ロボットを敗北に導いたセンター社のニューロキャスターは、クリストファーの脳によって維持されているため、クリストファーを助け出せばニューロキャスターのネットワークを遮断することができる。そうなればロボットにとっての脅威はなくなり、自由を手にすることができるというわけである。
ちなみにセンター社はシアトルを拠点にしているが、現実においてはマイクロソフトやAmazonといったIT企業がシアトルに本社を置いている。マイクロソフトのビル・ゲイツもAmazonのジェフ・ベゾスも世界で最も裕福な資産家の一人で、イーロン・マスクと並んでドナルド・トランプに巨額の献金を行っている。
それぞれの正義
人間とロボットが共通の目的を共有する一方で、人間の側は一枚岩ではない。戦争の英雄だったブラッドベリはイーサン・スケイトがアマースト博士を殺したのを見て、ロボットとの戦いを放棄する。単に“戦いをやめる”、ヘッドギアを外してドローンから現実に戻るという描写は非常に良かった。
特に悪役を演じることが多いジャンカルロ・エスポジートが、主人公側の味方になる手段として“共に戦う”のではなく“戦いから降りる”という選択を取ったのも新鮮だった。ジャンカルロ・エスポジートが演じるキャラクターとして、ブッチャーことブラッドベリは非常にリスペクトに溢れる描き方がされていたように思う。
一方のミシェルはクリストファーと意識を接続して“内側”で再会を果たす。だが、クリストファーはセンターと共生状態にあり、センターを破壊して自分だけ分離することは叶わないということに気づいていた。
クリストファーはこのままセンターと共に生き続けさせられるならばミシェルに終わらせて欲しいと願い、ミシェルも世界を変えることを決意。何より、ミシェルは事故以来、クリストファーの死を受け止めて前に進むことができなかった自分を変える必要があったのだろう。
ミシェルはクリストファーと愛を伝え合い、現実に戻ってクリストファーに繋がれていた装置の電源を切ったのだった。これによりニューロキャスターはダウン。センターが支配する“戦後”が終わりの時を迎えることになった。
一方のキーツも、破壊されたロボットのハーマンに愛を伝えていた。MCUでピーター・クイルを演じるクリス・プラットとサム・ウィルソンを演じるアンソニー・マッキーの絆を描くMCUファンへのサービスシーンとも言える展開だ。
だが、ハーマンは死んでおらず、頭の中からさらに小さい20cmモデルのハーマンが登場。シーンによって大きいサイズのボディに乗り換えるハーマンの特性を活かし、より小さいサイズのハーマンがいるという逆転の発想に落とし込むアイデアだ。ちなみにハーマンの20cmモデルはカラーリングがアイアンマンっぽい。
ラストの意味は?
クリストファーとニューロキャスターの接続が切断されたことで、世界中のドローンがストップ。センター社が子どもを利用していた人体実験を行っていたとしてイーサン・スケイトは逮捕されることになった。ミシェルは世界に向けて、ニューロキャスターから脱却して本物の生活を取り戻すこと、生身の触れ合いに戻ること、ミシェルはもう一度世界をやり直すことを呼びかけている。
そして、ラストシーンではEX内のクレーンゲームのようにクリストファーのロボット=キッド・コスモが廃棄されているが、最後に犬が飲む水の水面にコスモの顔が映り幕を閉じる。つまり、クリストファーの本体は機能停止したが、その意識はコスモの体内で生きているということだろう。
最後に流れる日本語が聞こえてくる曲は、The Flaming Lips「Yoshimi Battles The Pink Robots」(2002)。ヨシミという空手の黒帯の実力を持つ女性がピンクロボット達と戦うという歌で、『エレクトリック・ステイト』の内容とリンクした歌詞になっている。
ちなみに「Yoshimi Battles The Pink Robots」は日本語バージョンというか関西弁バージョンがあるので、こちらもぜひ聴いてみてほしい。
映画『エレクトリック・ステイト』ネタバレ感想
子ども向け? 大人向け?
映画『エレクトリック・ステイト』は、シモン・ストーレンハーグの原作の世界観と印象的なショットを再現しつつも、大衆映画として完成させようという意図が感じられる作品だった。同じストーレンハーグ原作のAmazonドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』(2020) が大人向けの作品であったのに対し、『エレクトリック・ステイト』は子どもの視聴者も意識した作品だったように思う。
特に前半は子ども向けの作品として見ればそれほど悪くないのではと思えた。一方で、中盤以降は哲学的な問答も増え、大人向けの雰囲気が強くなった。ロボット同士、人類同士でも対立があることや、死を受け入れることなど、いくつかのテーマが混在するやや難解な印象もあった。
パンデミック以降の現実社会にも通じる「生身の触れ合いに戻ろう」というメッセージは分かりやすく、人間にもロボットにも共通する上手い落とし所だった。だが、総じて気楽に楽しめばいいのか、哲学的に見るべきなのか、観る側のマインドセットが難しい作品ではあった。
そんな中でも、ピーター・クイル役のクリス・プラット、ウロボロス(O.B.)役のキー・ホイ・クァン、サイドワインダー役のジャンカルロ・エスポジート、サム・ウィルソン役のアンソニー・マッキーと、MCUで活躍する面々が違う形で交わる様子は楽しかった。この辺りはルッソ兄弟ならではのキャスティング力だと言える。
ルッソ兄弟はこれから、映画『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』(共に原題)の監督を控えている。映画『エレクトリック・ステイト』を経て、今度はどんな作品を世に送り出すのか、今後にも期待しよう。
映画『エレクトリック・ステイト』はNetflixで独占配信中。
同じストーレンハーグ原作のAmazonドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』第1話のレビューはこちらから。
シモン・ストーレンハーグが監督したMVはこちらの記事で。
シモン・ストーレンハーグが『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』を描いた理由はこちらから。
『イカゲーム』シーズン3の情報はこちらから。