ネタバレ解説&感想 Netflixリブート版『新幹線大爆破』ラストの意味は? パニックで揺れる心理について考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想 Netflixリブート版『新幹線大爆破』ラストの意味は? パニックで揺れる心理について考察

(C)Netflix

樋口真嗣監督最新作『新幹線大爆破』Netflixで配信開始

1975年に公開され、国内外で高い評価を獲得した『新幹線大爆破』をリブートしたNetflix版『新幹線大爆破』が、2025年4月23日(水)に配信開始された。監督を務めたのは『シン・ゴジラ』(2016)や『シン・ウルトラマン』(2022)でメガホンを取った樋口真嗣だ。

出演者には草彅剛やのん、斎藤工など日本映画を代表する名俳優が出演している。樋口真嗣監督作品をあまり観ない人や、1975年版『新幹線大爆破』を観たことがない人でも、出演俳優に注目して観てみるのも良いだろう。

今回は、そんな高い注目度の中で配信を開始したNetflixリブート版『新幹線大爆破』について、ネタバレありで解説し、考察、そして感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ずNetflixで本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『新幹線大爆破』の内容に関するネタバレを含みます。

Netflixリブート版『新幹線大爆破』ネタバレ解説

困難を極めた制作現場

1975年に公開された佐藤純弥監督作『新幹線大爆破』は、高倉健や千葉真一、宇津井健など豪華なキャストが集結したもので、国内外で高い評価を獲得した。特に「新幹線の速度が時速80 km以下になった場合に自動的に爆発する」という設定は好評で、ヤン・デ・ボン監督作、キアヌ・リーヴス主演『スピード』(1994)の設定のモチーフにもなった。

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1975年版『新幹線大爆破』が制作された時期は三菱重工爆破事件など、連続企業爆破事件が発生していた時期でもあり、安全をうたい文句にしていた当時の国鉄は撮影協力に難色を示した。そうして、撮影が難航した1975年版『新幹線大爆破』だったが、リブート版『新幹線大爆破』も別の理由で制作は難航したという。

もととなった1975年版『新幹線大爆破』の製作会社は東映だ。しかし、2025年のリブート版『新幹線大爆破』は100%Netflixによる出資で制作されている。その理由について、監督の樋口真嗣はAV watch「樋口真嗣の地獄の怪光線」第39回で以下のように述べている。

こんな手間ばかり食うだけでなく人心を惑わす不埒で罰当たりな企画を面白がってやりましょうと乗っかってくれるような日本の映画会社は一つもなかったんですよ! 感謝ですよもう! 夢を叶えてくれたんですよ! しかも観ていただければわかっていただけるかと思いますが過去イチの規模です。

国内外で高評価を獲得していた『新幹線大爆破』。今回はJR東日本の協力も得られたが、日本の映画会社は及び腰になっていたようだ。そこで手を差し伸べたのが統計学上、売れると確信すれば金に糸目を付けぬと言われるNetflixだった。もしかすると今後の日本映画の大作の制作は配信サイトが主流になっていくのかもしれない。

樋口真嗣が監督を務めた『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』、同じくシン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバースの庵野秀明監督作『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』(2021)や『シン・仮面ライダー』(2023)はAmazonプライムが権利を獲得している。噂されている『シン・ウルトラマン』と『シン・仮面ライダー』の続編も配信サイトであるAmazonプライムで公開される日が近いのかもしれない。

完全なリブートではなく、1975年版『新幹線大爆破』の続編

注目すべきポイントとして挙げられるのは、リブート版『新幹線大爆破』が完全な1975年版『新幹線大爆破』のリブートではないという点だ。リブートなのに、リブートではない。ここだけ読むと混乱してしまうかもしれないが、その理由は犯人が最初に仕掛けたデモンストレーションの爆破の際に理解することが出来る。

新幹線統括本部長の吉村慎之介は東青森駅での爆破事件を受け、「まるで109号事案じゃないか」と発言している。この109号事案とは、東京発博多行きの新幹線「ひかり109号」に爆弾が仕掛けられた事件を意味している。1975年版『新幹線大爆破』ではデモンストレーションとして同じように海道の夕張線を走る貨物5790列車が爆破された。

つまり、リブート版『新幹線大爆破』の世界では潰れた町工場の社長・沖田哲男と、その元社員であり集団就職で沖縄から来た青年・大城浩、過激派崩れの古賀勝の3人によるテロ事件が実際に起きていたことになる。リブート版『新幹線大爆破』は1975年の「ひかり109号」事件が起きた50年後の世界を描いているのだ。

50年の時を経て、新幹線の性能も向上し、新幹線を取り巻く社会背景も大きく変化した。その時代の変化こそ、2025年のリブート版『新幹線大爆破』の魅力ではないだろうか。犯人も要求金額が500万ドルから約70倍の1000億円になり、要求先も国民全員に変更されている。

Netflixリブート版『新幹線大爆破』ラスト ネタバレ解説&考察

50年前の警察の敗北

1975年に発生した『新幹線大爆破』の事件、通称“109号事案”を一言で表すならば、警察の敗北だろう。109号事案では警察と国鉄が沖田と大城、古賀の起こしたテロ事件に対処した。それでは、109号事案における警察の勝利とは何だったのだろうか。

国鉄の勝利、それは乗客の救出に他ならないだろう。109号事案では犯人の逮捕が進まない警察に業を煮やした国鉄職員たちによって爆弾は解除、ひかり109号の乗客たちは何とか救助された。しかし、警察は違った。

警察は大城を追跡中に事故死させてしまい、古賀の足を撃ち逮捕寸前に迫ったが、古賀は自らダイナマイトで命を絶った。そして主犯格とも言うべき沖田は物語の最後、500万ドルを手にして国外逃亡する寸前でスナイパーにより射殺されている。つまり、警察たちは犯人の逮捕という目的を達成できず、全員を死なせてしまったのだ。

だが、国民に「犯人を皆殺しにしてしまいました」などという法治国家にあるまじき失態を知られるわけにはいかない。そのため、当時現場に駆り出されていた小野寺勉を「テロリスト古賀勝を射殺した英雄」としてまつりあげ、あのときは仕方なかったという形で収めたのだ。

その歪な英雄像は小野寺勉の人生に影を落とすようになる。妻を9年前に亡くした小野寺勉は自分が本当の英雄だと錯覚しはじめ、周囲に新幹線の安全を守ったのは自分だと吹聴するようになってしまう。そして、その虚構を子供である小野寺柚月に暴力という形で押し付けはじめたのだ。

正義の政治

勧善懲悪の作品ならば、犯人全員死亡というのはある意味でハッピーエンドになるのかもしれない。それに対して、1975年版『新幹線大爆破』は犯人側の動機にも当時の日本社会の負の側面の影響があり、犯人に同情の余地があった。

法治国家として、犯人たちを法で裁く。それができなかった時点で警察側は敗北しており、その敗北を誤魔化そうとした結果が50年後のリブート版『新幹線大爆破』につながっていると考察できる。それを表すように加賀美裕子衆議院議員の秘書である林広大は政治についてこう語っている。

「政治ってのはね! 人の道の上で踏ん張って美しい理想を実現するためにあるんだ!」

テロリストを銃ではなく法の下で裁く。それは現実的ではないし、美しい理想かもしれない。それでも、人々は美しい理想を叶えるために瀬戸際で踏ん張っている。それが嘘と偽善の醜い現実でもがく法治国家としてのあるべき姿なのだ。

小野寺柚月の「生きていてもしかたないのに」という台詞、古賀勝の息子、古賀勝利の父親への想いや「せめてオスならば」と言われてきた柚月への同情など、リブート版『新幹線大爆破』での道徳観の揺らぎは、109号事案での警察の敗北を受けて描かれたものだと考察できる。

そして、2人のテロリストに対抗するように、佐々木健太郎総理補佐官は後半では人命救助に奔走し、諏訪茂内閣官房長官は無茶な作戦を承認する。これこそ、JR東日本新幹線総合指令所の総括指令長である笠置雄一の語る「正義の政治」だったと考察できる。50年前の警察の敗北に、50年後の人々がリベンジしているのだ。

樋口真嗣監督はシン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバースで政府を正義の味方として描くことが多かった。それは今回のリブート版『新幹線大爆破』でも同じであったが、そこには正義の政治を行なってほしいという想いがあるためだと考察できる。

そういった意味では、高市和也たちJR東日本の人々もヒーローであり、リブート版『新幹線大爆破』はシン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース第5作『シン・新幹線大爆破』と呼んでも良いのかもしれない。

JR東日本の鉄道人としての誇り

かつて1975年版『新幹線大爆破』では国鉄が「安全です国鉄は」と訴えかけるCMを放映していたため、撮影に難色を示した。それに対して、JR東日本は自社の運営する公共交通機関が安全だからこそ、リブート版『新幹線大爆破』を引き受けたと考察できる場面が多々存在する。

高市和也たちをはじめとする60号の車掌や運転士たち、JR東日本新幹線総合指令所の総括本部など、絶対に乗客を安全に目的地に連れていくという強い意志がそこかしこで感じられる。それは道徳観にも表れ、現場の人間たちの人命救助への熱い想いは政府や官僚らも動かしていく。救助成功後もすぐに運休からの復帰に動いている姿は超人的だ。

彼らの姿は前述のようにヒーローのようだ。このようにJR東日本の職員たち全員をヒーローとして描いたからこそ、JR東日本は撮影に協力したのではないだろうか。リブート版『新幹線大爆破』には、JR東日本の鉄道人としての気高い誇りがあったと考察できる。

Netflixリブート版『新幹線大爆破』ネタバレ感想

樋口真嗣監督が見せる日本映画の「現場」の本気

『シン・ゴジラ』のときもそうだったが、樋口真嗣監督は現場の人々を描くときに光るものがある。それを見ていると世の中を動かしているのは政治家や官僚だけではなく、作業員といった現場の人々なのだと痛感させられ、その仕事の誇りを実感し、その美しさに感動させられる。樋口真嗣監督作品にはそのような展開が多い。

リブート版『新幹線大爆破』が見せてくれる現場はもう一つある。それは日本映画の現場の本気だ。若者の洋画離れが騒がれているが、それでも洋画は映画業界で優勢を誇っている。日本映画のランキングも上位はほとんどアニメ映画で、実写の日本映画は劣勢だと言われることも多い。

しかし、リブート版『新幹線大爆破』は日本映画の現場のスタッフたちが本気を出せば、このような映画を創れるということを証明する映画ではないだろうか。『ゴジラ-1.0』(2023)で山崎貴監督も見せてくれたが、樋口真嗣監督もリブート版『新幹線大爆破』で日本映画の現場のスタッフやVFXの本気、底力を見せてくれた。今後の樋口真嗣監督作品に期待が高まる。

リブート版『新幹線大爆破』は2025年4月23日(水)よりNetflixにて独占配信。

リブート版『新幹線大爆破』

Source
AV watch

樋口真嗣監督作品『シン・ウルトラマン』のラスト解説&考察はこちらから。

樋口真嗣監督作品『シン・ウルトラマン』登場人物はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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