映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』公開
2024年10月11日(金) より公開された映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は2019年に公開された映画『ジョーカー』の続編。トッド・フィリップス監督と主演のホアキン・フェニックスが、新たにハーレイ・クイン役を演じたレディー・ガガと共に前作への一つの“答え”を提示する。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』ではまさかのラストが待っていたが、本シリーズは一体何を描く作品だったのだろうか。今回は、「ジョーカー」シリーズが蒔いた種について、ネタバレありで解説と考察をしていこう。以下の内容は『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の結末に関するネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の内容および結末に関するネタバレを含みます。
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『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は誰のオリジンを描いたのか
映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のラストでは、主人公アーサー・フレックが公判で自らがジョーカーではなくただのアーサー・フレックであると認める。信者たちは失望し、ハーレイ・クインことリーはアーサーのもとを去った。
アーサーには心の平穏が訪れたかに思われたが、ラストシーンでは、アーサーは名も知れぬ囚人の若者に「報いを受けろ」と言われて刺殺されてしまう。これは、前作『ジョーカー』でアーサーがマーレイ・フランクリンにやったことの反復になっている。
アーサーは報いを受け、『ジョーカー2』は幕を閉じる。トッド・フィリップス監督は、最後のアーサーの決断について、ジョーカーとして振る舞っても「何も変わらない」と思い至ったからだと説明している。
アーサーの死を持って「ジョーカー」シリーズは幕を閉じたように思われる。しかし、同時にDCコミックスの世界に存在する様々なキャラクターをゴッサムの街に生み落としてもいる。「ジョーカー」シリーズは「バットマン」に登場するヴィラン達のオリジンを描くシリーズだったとも言えるのだ。
ここからは、『ジョーカー』と『ジョーカー2』で誕生したと思われるキャラクターを振り返ってみよう。
「ジョーカー」でオリジンが描かれたキャラクター達
トゥーフェイス/ハービー・デント
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で登場した検事のハービー・デントは、コミックではトゥーフェイスというキャラクターになる人物だ。トゥーフェイスは映画『バットマン フォーエヴァー』(1995) ではトミー・リー・ジョーンズが、『ダークナイト』(2008) ではアーロン・エッカートが演じたことでも知られる。
『ジョーカー2』のハービー・デントは新任検事ながら、裁判で冷静にアーサー・フレックを追い詰めていった。しかし、結審の際にジョーカー支持者が起こしたと思われる爆破に巻き込まれ、負傷した。この時、顔の左半分が血で覆われていることが分かる。
トゥーフェイスは「二つの顔」という意味の名前通り、顔の左半分を負傷したことで二つの人格を持つようになるキャラクターだ。トッド・フィリップス監督は、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』がトゥーフェイスのオリジンを描いていることを認めている。あの爆破で傷を負ったハービー・デントは、あの後、トゥーフェイスになるのだ。
前途ある若手検事あるハービー・デントは“ジョーカー”のショーに巻き込まれ、民衆は法廷を無視し、アーサーは法律ではなく私刑で裁かれることになった。ヴィランたるトゥーフェイスが生まれるオリジンとしては十分すぎる内容だ。
ハービー・デントについての考察はこちらの記事に詳しい。
ハーレイ・クイン/ハーレイ・クインゼル
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』でリーと呼ばれているハーレイ・クインは、ジョーカーを愛する人物として登場する。しかし、リーはアーサーのことを愛していたのではなく、アーサーが存在しないと明言した虚像の“ジョーカー”を愛していた。
『ジョーカー2』におけるハーレイ・クインは、アーサーと同じ地元の出身である、両親の家に放火してアーカム・アサイラムに来たと嘘をついていた。実際には父は高名な医者であり、リー自身も精神医学を学んでいた。アーカム・アサイラムには自由に出入りできる状況であることが発覚するのだ。
自らの出自を偽るというのは、『ダークナイト』のジョーカーを思わせるやり口で、その後リーは妊娠したとアーサーに告げるが、それも本当かどうか分からない。『ジョーカー2』のハーレイ・クインはジョーカーのお株を奪うトリックスターとして存在感を示している。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、ハーレイ・クインは、“ジョーカー”ではないことを認めたアーサーから去っていく。空想上のジョーカーを愛し、エンターテインメントを生きられないアーサーを切り捨てる堂々たるヴィランっぷりを見せている。
ラストの時点でリーは何の罪も犯していないため逮捕されることはなく、ハーレイ・クインは世に放たれたことになる。レディー・ガガ演じる新たなハーレイ・クインの物語は今後も続いていくだろう。
『ジョーカー2』におけるハーレイ・クインの詳細な解説はこちらの記事で。
ジョーカー/???
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、“ジョーカーの死”が描かれたようにも思われるが、最後のシーンを見直せば、新たな物語の始まりに過ぎないことが分かる。アーサーは前作でジョーカーが誕生した時と同じシチュエーションで、けれど今度は逆の立場で囚人の青年に刺されることになった。
ジョーカーは偶像であるからこそ、アーサーが死んだとしても別の誰かが成り変わることができる。信者を裏切った“偽ジョーカー”となったアーサーに報いを受けさせたあの青年は、あのラストの後には新たなジョーカーとして祭り上げられるのではないだろうか。
実はこの青年はアーサーの腹部を繰り返し刺した後、倒れゆくアーサーの背後でナイフを口元に当てている。ナイフを舐めているようにも見えるのだが、ナイフは三日月の形に動いており、この青年が口元に“笑顔の形の傷”を彫った可能性もある。ヒース・レジャー演じる『ダークナイト』版ジョーカーと同じように。
思えばアーサーには虐待を受けていたバックグラウンドを含め、確固たるオリジンがあった。しかし、ジョーカーといえばオリジンが不明確で理不尽な存在というイメージが強い。集団の怒りと暴力、そして混乱から生まれたジョーカーが『ジョーカー2』のラストで誕生したと見ていいだろう。
バットマン/ブルース・ウェイン
忘れてはいけないのは、前作『ジョーカー』で登場したブルース・ウェイン少年だ。同作では、アーサーがブルースと会い、執事のアルフレッドから追い返されるシーンがある。また、アーサーが事件を起こした直後に起きた暴動の中で、ブルースの両親が銃撃され、殺害されている。
「バットマン」シリーズでは、ブルースは両親を殺されたことで街のギャングに復讐を誓い、ゴッサムを良くするためにバットマンとして活動することになる。また、街の有力者であったブルースの父トーマス・ウェインの死によって、ゴッサムのパワーバランスが崩れてドン・ファルコーネら裏社会のヴィラン達が台頭することになる。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』にはブルースは登場しなかったが、アーサーが起こした事件を機にブルースはバットマンになる道を歩むことになるだろう。また、前作ではアーサーがブルースの父トーマス・ウェインの隠し子であった可能性も示された。アーサーとブルースは歳が離れた兄弟かもしれなかったが、アーサーがジョーカーになることを拒否して死んだため、ジョーカーとバットマンが兄弟という設定は免れることになった。
一方で、ブルースとアーサーが兄弟だったとすれば、互いの父が残した罪が社会にジョーカーという偶像を生み落としたと見ることもできる。アーサーに感化された囚人の青年が本当のジョーカーになるのであれば、血の繋がりはないにせよ二人はオリジンを共有していると言える。トッド・フィリップス監督の「ジョーカー」シリーズは、コインの表裏のような存在であるバットマンとジョーカーのオリジンが同時に描かれた稀有なシリーズだったのかも知れない。
『ゴッサム』以来の作品に
以上のように、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で幕を閉じた「ジョーカー」シリーズは、ゴッサムの街に新たなヴィラン達とバットマンを産み落とした。バットマンとヴィラン達のオリジンを描いた作品という意味では、ドラマ『GOTHAM/ゴッサム』(2014-2019) と近いものがある。
ドラマ『ゴッサム』では、若き刑事ジム・ゴードンを主人公に、ブルースの両親が殺されてからバットマンが誕生するまでのゴッサムの街を描いた。ゴッサムの街が混乱に陥ると共にヴィラン達が台頭する様子が描かれ、ペンギンやリドラー、キャットウーマンらのオリジンが描かれた。
「ジョーカー」では“ジョーカー”という偶像を求める社会と共に、そこから突き抜けた個人が新たなスーパーヴィランになる流れをも描いた。今後、ハーレイ・クインらの物語は描かれることになるのか、まだまだ目が離せない。
映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は全国の劇場で公開中。
ハーレイ・クインを演じたレディー・ガガが劇中で歌った楽曲などを収録したアルバム『ハーレクイン』は、特典付きで予約受付中。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』特典付きオリジナル・サウンドトラックは発売中。
前作『ジョーカー』は4K ULTRA HD&ブルーレイセットが発売中。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』ラストのネタバレ解説&考察はこちらの記事で。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が切り開いた新しいハーレイ・クイン像の解説はこちらの記事で。
『ジョーカー2』に登場したハービー・デントの背景についての解説&考察はこちらの記事で。
トッド・フィリップス監督が明かしたラストでのアーサーの心情についてはこちらから。
前作でホアキン・フェニックスが語ったアーサーの幼少期についてはこちらから。
『ジョーカー』吹き替え声優のまとめはこちらから。
『ジョーカー』で流れた曲のまとめはこちらの記事で。