ネタバレ考察『ジョーカー2』ハーレイ・クインはなぜ革新的なのか。過去作との違いとは【ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ】 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察『ジョーカー2』ハーレイ・クインはなぜ革新的なのか。過去作との違いとは【ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ】

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『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』ハーレイ・クインに注目

映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開されている。ホアキン・フェニックス演じるジョーカーことアーサー・フレックと、レディー・ガガ演じるハーレイ・クインことハーレイ・クインゼルが共演。トッド・フィリップス監督が『ジョーカー』(2019) で始めた物語へのアンサーを出す。

今回は、『ジョーカー2』にあたる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』に登場したハーレイ・クインに注目したい。『ジョーカー2』はミュージカル映画として制作されているが、ハーレイを演じたレディー・ガガが見事な歌唱を見せ、それでなく、これまでにないハーレイ・クイン像を提示してもいる。

『ジョーカー2』のハーレイ・クインはこれまでとどう違ったのか。過去の映画作品でのハーレイ・クインの描かれ方と共に見ていこう。なお、以下の内容は本作の結末に関するネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の内容に関するネタバレを含みます。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』ハーレイ・クインはどう描かれたか

ジョーカーファンのハーレイ・クイン

『ジョーカー2』では、ハーレイ・クインはアーカム・アサイラムに捕えられたジョーカーことアーサー・フレックの前に登場し、看守を買収しながらアーサーに近づいていく。ハーレイは、ジョーカー事件を題材にしたドラマを20回観た、アーサーと同じ地区の出身だと言って、アーサーの気を引いていく。

映画の鑑賞会の夜には火を放ち、アーサーと脱獄もどきのショーを繰り広げる。しかし、ここで歌われる歌は「If My Friends Could See Me Now」という曲で、「もしも友達が今の私を見てくれたなら」と歌われる。この曲は1966年のブロードウェイミュージカル『スイート・チャリティー』の一曲で、下流階級から上流階級への玉の輿を実現した女性の心情が描かれている。

この時点でハーレイが見ているのはアーサーではなく「ジョーカーと一緒にいる私」であり、そこにあるのは同じ境遇にいたかつての友人達へのプライドだ。それでも、アーサーは初めて人から必要とされていることに喜びを覚え、ハーレイに夢中になっていく。

主導権を握るハーレイ・クイン

ジョーカーとハーレイ・クインがメディアからも注目を集める中、アーサーの弁護士であるメアリーアン・スチュワートはアーサーが夢中になっているハーレイについて調べ、ハーレイの発言が嘘に塗れていることをアーサーに伝える。ハーレイの両親は健在で、ハーレイの出身はアーサーとは異なるという。更にハーレイは精神医学の学位を持っており、父が高名な医者であることから、アーサーが捕えられているアーカム・アサイラムには自由に出入りできる状態だという。自分のオリジンについて嘘をつくというのは、ジョーカーの十八番を奪うやり方だ。

ハーレムは“ジョーカー”に近づくため、嘘を重ねていたのである。この事実を知る前にハーレイと身体を重ねたアーサーは、面会でハーレイに嘘について追求するが、ハーレイは返す刀でアーサーの子どもを妊娠したと明かす。ハーレイの言葉が嘘か本当か分からないまま、『ジョーカー2』ではハーレイが主導権を握ってストーリーが進められていくのだ。

レディー・ガガ演じるハーレイ・クインは歌う曲でもアーサーを惑わせていく。アンソニー・ニューリーとレスリー・ブリッカスがミュージカル『地球を止めろ 俺は降りたい』(1961) のために書いた「Gonna Build a Mountain」、アーサー・シュワルツ作曲・ハワード・ディーツ作詞で作られたミュージカル映画『バンド・ワゴン』(1953) の挿入歌「That’s Entertainment」が特に印象的だ。

「Gonna Build a Mountain」では「山を築こう」と歌い、自由を得た後のジョーカーとハーレイの将来について誘惑する一方で、「That’s Entertainment」では「これがエンターテインメント」と、“ジョーカー”を主軸とするショーを続けようと呼びかける。ハーレイにとってジョーカーはあくまで自分の欲求を満たすための存在でしかない。“偶像”とは、そういうものだ。

ショーに引っ張り出されたジョーカー

ハーレイ・クインはアーサーの無罪を勝ち取ろうとしていた弁護士を解任させるよう仕向け、アーサーは“ジョーカー”としてのショーを展開していく。しかし、アーサーは最後には自分はジョーカーではないということを認め、ただのアーサー・フレックでしかないと公判で証言することになる。ハーレイはこれに酷く失望し、アーサーの元を離れることになる。

『ジョーカー2』の終盤では、『ジョーカー』でお馴染みの階段でアーサーとリーが再会する。けれど、リーがここに居たのはアーサーに別れを告げるためだった。リーはジョーカーは存在せず、自分はただのアーサー・フレックだと認めたアーサーを突き放す。アーサーにとってリーは初めて自分を愛してくれた人だったが、リーが愛したのはアーサーではなくジョーカーだった。

トッド・フィリップス監督は、リーの登場からこの階段のシーンに至るまで、リーが一度もアーサーを「アーサー」と呼んでいないことを指摘している。アーサーはハーレイが妊娠したと言っていた子どもについて尋ねるうが、ハーレイはこれを無視して「これがエンターテインメント」と歌うのだった。

ジョーカーではなくなったアーサーが「話をしよう」と呼びかけ、ハーレイ・クインがそれを無視して歌うこのシーンは『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の中でも象徴的なシーンだ。ハーレイが愛しているのは、エンターテインメントの中に存在するジョーカーという虚像だけ。誰にも止められない新たなヴィランとしてのハーレイ・クインが誕生した瞬間だ。

演じたレディー・ガガとトッド・フィリップス監督が新たに生み出したハーレイ・クイン。近年の実写版のハーレイ・クインは、ジョーカーに依存する状態から自由になっていく過程が描かれており、もう一度ハーレイとジョーカーを出逢いから描くという作業には難しさもあっただろう。

ここで今一度、これまでの実写映画におけるハーレイ・クインの描かれ方を振り返ってみよう。少しずつ構築されてきたハーレイ・クイン像をおさらいすると、レディー・ガガ/トッド・フィリップス監督のハーレイ・クイン像の革新性が分かるはずだ。

これまでの実写ハーレイ・クイン

現代の実写版ハーレイ・クインといえば、マーゴット・ロビーが演じてきたDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)版ハーレイ・クインが有名だ。『スーサイド・スクワッド』(2016)、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020)、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021) と3作品、5年にわたってスクリーンに登場している。

3作ともマーゴット・ロビーが演じているが、それぞれデヴィッド・エアー監督、キャシー・ヤン監督、ジェームズ・ガン監督によって描かれており、ハーレイのキャラクターには異なるアプローチが取られている。

『スーサイド・スクワッド』:ジョーカーありきのハーレイ

ヴィランチームの活躍を描いた『スーサイド・スクワッド』では、ジョーカーを愛する定番のハーレイ・クインが描かれた。作品自体もジャレッド・レト演じるジョーカーが救世主として描かれており、ハーレイを助けるために暗躍する。

この作品ではハーレイ・クインはアーカム・アサイラムで働く精神科医だったが、囚人だったジョーカーを愛して脱獄を手助けし、悪に堕ちたというオリジンが明かされている。つまり、ジョーカーがハーレイ・クインを生み、ジョーカーがハーレイを救うというストーリーになっているのだ。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』:脱ジョーカーのプロセス

ハーレイ・クインを中心とした女性キャラクター達のシスターフッドを描いた『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』では、ジョーカーと別れた後のハーレイの姿が描かれた。ジョーカーなしで仲間達と自由を掴むハーレイの姿は、その先進性が高く評価された。

一方で、同作で流れていた曲の歌詞ではしょっちゅうジョーカーと思われる人物の存在に触れられている。その内容は「あんたはいらない」「暗殺リストの中の道化師」「バイバイ、私は自由」といったジョーカーを突き放すものだったが、この時点ではまだジョーカーから完全に切り離されたハーレイ・クインの姿は描かれていなかったと言える。

映画『ハーレイ・クイン』で流れた音楽の解説はこちらの記事に詳しい。

『ザ・スーサイド・スクワッド』:ジョーカー不在のハーレイ

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』でプロセスが描かれた後、完全に自由になったハーレイ・クインの姿が描かれたのは『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』でのことだ。この作品ではジョーカーに関する要素が一切登場しない。

また、『スーサイド・スクワッド』でハーレイの背中に彫られていた「Property of Joker(ジョーカーのモノ)」というタトゥーは、『ザ・スーサイド・スクワッド』では「Property of No One(誰のモノでもない)」に書き換えられている。同作では敵に捕えられた際にも自力で脱獄するなど、完全に自由になったハーレイ・クインの姿が描かれている。

「ジョーカーは存在しない」が生んだ強さ

このように、ハーレイ・クインは21世紀に入ってからマーゴット・ロビーと様々なクリエイターによってポップカルチャーにおける地位を確立してきた。DCEUの5年間は、“ジョーカーのおまけ”ではない、最も自由なヴィランとしてDCユニバースに君臨するまでの5年間だったと言える。

アニメやコミックでも、近年はバイセクシャルであるハーレイ・クインはジョーカーよりもポイズン・アイビーとのカップリングが描かれることが多い。ジョーカーとのストーリーも続いているが、ハーレイは既にカリスマ男性に依存するステレオタイプな女性ヴィランではなくなっている。

その中で、トッド・フィリップス監督は“虚構を愛するハーレイ・クイン”を生み出した。一方的にアーサーを好きになり、ステージへと引きずり出してショーをさせ、それが望む男ではないと分かれば去っていくという自由さ。“脱ジョーカー”どころではない、自分の中の“ジョーカー”を物差しとして、ジョーカーと目された人間すらも突き落とす奔放さ。「ジョーカーは存在しない」という『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の結論と見事に結びついた行動原理だ。

また、『ジョーカー2』では“ジョーカーによってハーレイ・クインが創られる”というこれまでの設定をある意味で踏襲している。しかし、その“ジョーカー”は存在しなかった、と結論づけることで、同時に“創造主不在のハーレイ・クイン”をも誕生させている。非常にアクロバットかつスマートなやり方だ。

ジョーカーが存在しないからこそ、ハーレイ・クインはジョーカーに支配されることなく、“自分の中のジョーカー”によって無敵になれる。ハーレイはおそらく次にジョーカーを継ぐであろうアーカムの若い囚人にも近付くかもしれない。そして、その時に再び主導権を握るのはハーレイ・クインの方だろう。

こうして、ジョーカーさえ操れるレディー・ガガのハーレイ・クインが誕生した。エンターテインメント/虚構を愛する真の道化師は、まだゴッサム・シティに残っている。

映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は2024年10月11日(金)より全国の劇場で公開。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』公式

ハーレイ・クインを演じたレディー・ガガが劇中で歌った楽曲などを収録したアルバム『ハーレクイン』は、特典付きで予約受付中。

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『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』特典付きオリジナル・サウンドトラックは発売中。

前作『ジョーカー』は4K ULTRA HD&ブルーレイセットが発売中。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』ラストのネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

『ザ・スーサイド・スクワッド』でのハーレイ・クインについての解説はこちらの記事で。

トッド・フィリップス監督が明かしたラストでのアーサーの心情についてはこちらから。

『ジョーカー2』に登場したハービー・デントの背景についての解説&考察はこちらの記事で。

本作でオリジンが描かれたキャラクターのまとめはこちらから。

 

前作でホアキン・フェニックスが語ったアーサーの幼少期についてはこちらから。

『ジョーカー』吹き替え声優のまとめはこちらから。

『ジョーカー』で流れた曲のまとめはこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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