『ジョーカー2/ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』公開
2019年に公開された映画『ジョーカー』の続編、『ジョーカー2』にあたる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が2024年10月11日(金) より日本の劇場で公開された。トッド・フィリップス監督、ホアキン・フェニックス主演、そしてハーレイ・クイン役でレディー・ガガが出演することになった本作は、日本でも初日の興行収入で第1位を記録すスタートを切っている。
『ジョーカー2』の見どころはたくさんあるが、その内の一つが、公開前から予告されていたハービー・デントの登場だ。『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』ではハービー・デントはどのように描かれ、『ジョーカー2』の後のゴッサムにどのような影響を与えるのだろうか。ネタバレありで解説&考察してこう。
なお、以下の内容は『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』終盤のネタバレを含むので、注意していただきたい。
以下の内容は、映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ジョーカー2/ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のハービー・デント
アーサーを追い込むハービー
『ジョーカー2』/『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』に登場したハービー・デントはイングランド出身の俳優ハリー・ローティーが演じる新任の検事で、アーサー・フレックが『ジョーカー』で起こした事件を担当することになる。ハービー・デントは前作に登場したソフィーやゲイリーといった証人に的確な質問を繰り出し、アーサー/ジョーカーを追い込んでいく。
「バットマン」シリーズにおけるハービー・デントといえば、1942年に生まれた著名なヴィランである“トゥーフェイス”の本名として知られる。ハービー・デント元は真面目な検事だったが顔の左半分に傷をつけられ、二つの人格を持つようになる。以降はコイントスに人の命運を委ねるのがお決まりで、個性豊かなゴッサムのヴィランの中でも掴みどころのないキャラクターとして人気を集めている。
『ジョーカー2』/『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のユニークな点は、後に二つの人格を持つトゥーフェイスになるハービー・デントが、「アーサーには二つの人格があった」と主張する弁護側と論陣を張るという展開だ。もう一つの人格である“ジョーカー”の責任にしようとアーサー側に対し、ハービーはそれを否定する立場に立つのである。
監督が明かしたあのシーンの意図
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の終盤をハービー・デント視点で見ると、法廷でアーサーの自白を引き出し、有罪を勝ち取ったことになる。「世紀の裁判」と言われた法廷で若くして勝利を勝ち取ったハービーだが、同時にジョーカー支持者によるテロの被害を受けることになる。
裁判所の壁が爆破された後のシーンでは、ハービーは負傷し、顔の左半分が血で覆われているように見える。トゥーフェイスの誕生を思わせる演出だが、まだバットマンが存在しないゴッサムの街で、早くも若きトゥーフェイスが誕生してしまったということなのだろうか。
米Entertainment Weeklyからこのシーンはトゥーフェイスのオリジンを描いているのかと聞かれたトッド・フィリップス監督は、「ええ、もちろんです」と答えている。「ある出来事がなぜ起きるのか、現実的な答えを示したかったんです」と、あのシーンを入れた理由を語っている。
ハービー・デントは伝統的に顔に硫酸をかけられてトゥーフェイスになるという設定が多かったが、トッド・フィリップス監督はより現実的なオリジンを設定したかったようだ。同時に、上記は『ジョーカー2』にトゥーフェイスが登場したことを認める発言でもある。「ジョーカー」の世界におけるトゥーフェイスは、ゴッサムに解き放たれたということである。
ハービー・デントとは誰か
これまでの実写版ハービー/トゥーフェイス
トゥーフェイスことハービー・デントについては、これまでも何度か実写作品に登場している。映画『バットマン フォーエヴァー』(1995) でトミー・リー・ジョーンズが演じたバージョンは広く知られる。このバージョンは原作コミックと同じく顔の左半分に硫酸をかけられて傷を負い、ヴィランになっている。この時はジム・キャリー演じるリドラーと手を組んだ。
映画『ダークナイト』(2008) でもアーロン・エッカート演じるハービー・デント/トゥーフェイスがヒース・レジャー演じるジョーカーと共に登場。高潔な検事であるハービー・デントをバットマン/ブルース・ウェインもゴッサムの希望として捉えていたが、ジョーカーの策略により婚約者を殺されると共に顔の半分に火傷を負い悪に堕ちてしまった。
『ダークナイト』では当初、バットマンとジム・ゴードン警部補と協力してジョーカー摘発に向けて動いており、やはりトゥーフェイスになる前のハービー・デントは正義の検事という印象が強い。ブルースの少年期とヴィラン達のオリジンを描いたドラマ『GOTHAM/ゴッサム』(2014-2019) では検事としてハービー・デントが登場し、ブルースの両親のウェイン夫妻殺しの犯人捜査に関わったが、同作ではトゥーフェイスにはならなかった。
ドラマ『GOTHAM/ゴッサム』の製作総指揮と脚本を手がけたジョン・スティーヴンスは、同作でハービー・デントがトゥーフェイスにならなかった理由について、米Cinema Blendに明かしている。曰く、これまでの作品ではハービーがトゥーフェイスになるのはバットマンがすでに存在している時だという事実から逃れることができず、ヴィランになるための適した理由が見つけられなかったからだという。
それを踏まえると、トッド・フィリップス監督が『ジョーカー2』でバットマンが存在しない時点でジョーカー事件をきっかけにしてトゥーフェイスを誕生させたことは、これまでの壁を打ち破る采配だったと言える。では、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のトゥーフェイスは、そもそもどんな存在として創造されたのだろうか。
俳優が受けていた意外な指示
『ジョーカー2』/『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』でハービー・デントを演じたハリー・ローティーは1996年生まれ。ドラマ『インダストリー』(2020-) でのロバート・スピーリング役で知られる。27歳で新たなハービー・デントを演じたハリー・ローティーは、米Varietyのインタビューで、トッド・フィリップス監督からは過去の実写版ハービー・デントを見返すのを避けるよう指示を受けたと明かしている。
2022年秋に『ジョーカー2』のオーディションを受けたハリー・ローティーは、役が分からないまま自己紹介の動画を送り、その数週間後にはトッド・フィリップス監督からハービー・デント役のオファーを受けたという。ハービー・デントのバッググラウンドについては自身で構築したといいうが、トッド・フィリップス監督からはハービーが自分の利益のためにこの裁判を利用したいと考えていると教えられたとしている。
これまでの高潔な検事という印象とは少し違い、『ジョーカー2』ではジョーカー事件を利用して名声と地位を得ようとする若く貪欲なハービー・デントが描かれたということである。ミュージカルとして構成された本作の中でも、ハービーは歌わない。現実主義的なハービーはどのようにして、そしてどんなトゥーフェイスになるのだろうか。
ハービー・デントの今後は?
『ジョーカー2』/『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で誕生したトゥーフェイスは、今後どうなっていくのだろうか。ハービー・デントがジョーカー裁判から大きな影響を受けたことは確かだ。ハービーは裁判で勝利したが、ジョーカー支持者によるテロがニュースを賑わせ、その後、アーサーには私刑が下されることになる。
この二つの出来事は、法律が犯罪者を裁くと信じていたハービーにとって大きな転機になったのではないだろうか。そして、ハービー・デントに残ったのは顔の傷だけだった。最後まで歌わず、裁判をショーにすることを拒否したハービーだったが、法律では大衆に影響を与えられないという現実を前に、ジョーカーの“二面性”と“ショー化”を取り入れることにしたのかもしれない。
ハービー・デントが、二つの顔を持ち判断をコインに委ねるというエンタメの権化のようなヴィランになる道は、ジョーカー事件によって整えられたと考えられる。『ジョーカー』ではすでに後にバットマンとなるブルース・ウェインが紹介されている。ジョーカー事件の混乱の中でブルースの両親が殺され、ブルースがバットマンになる道も整えられた。
ジョーカーは去ったが、ゴッサムのプレイヤー達は揃いつつある。若きトゥーフェイスやハーレイ・クインの今後が単独作品で描かれることにも期待したい。それまでは、トッド・フィリップス監督が作り出した新しいゴッサムの街を、目を凝らして観ておこう。
映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は2024年10月11日(金)より全国の劇場で公開。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』特典付きオリジナル・サウンドトラックは発売中。
ハーレイ・クインを演じたレディー・ガガが劇中で歌った楽曲などを収録したアルバム『ハーレクイン』は、特典付きで予約受付中。
前作『ジョーカー』は4K ULTRA HD&ブルーレイセットが発売中。
Source
Entertainment Weekly / Cinema Blend / Variety
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