『エイリアン:ロムルス』アンディに注目
映画『エイリアン:ロムルス』は1979年に幕を開けた「エイリアン」シリーズの最新作。第1作目と『プロメテウス』(2012)、『エイリアン:コヴェナント』(2017) を手がけたリドリー・スコットが製作に加わり、リメイク版『死霊のはらわた』(2013) のフェデ・アルバレス監督が指揮を取る。
『エイリアン:ロムルス』で注目を集めているのは、デヴィッド・ジョンソンが演じたアンディというキャラクターだ。予告編やテレビCMでも一際存在感を放つアンディだが、「エイリアン」シリーズを通して見ても重要な位置付けのキャラクターになっている。
今回は、『エイリアン:ロムルス』に登場したアンディを中心に、「エイリアン」シリーズで重要視されているある要素について考察しよう。なお、以下の内容は『エイリアン:ロムルス』を含む「エイリアン」シリーズ全作のネタバレを含むので注意していただきたい。
以下の内容は、映画『エイリアン:ロムルス』を含む「エイリアン」シリーズの内容に関するネタバレを含みます。
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『エイリアン:ロムルス』を牽引したアンディ
『エイリアン:ロムルス』という映画のMVPを一人選ぶとすれば、デヴィッド・ジョンソン演じるアンディになるだろう。主人公レインに“弟”として寄り添う旧型のアンドロイドであるアンディは、序盤ではあまり役に立たず、レインの亡き父がプログラミングした親父ギャグを連発している。
レインは植民地のジャクソン星から抜け出し、ウェイランド・ユタニ社の管轄外である惑星ユヴァーガに移住することを目指す。しかし、ウェイランド・ユタニ社製のアンドロイドであるアンディは理想郷とされているユヴァーガでレインと共に暮らすことはできないことになっていた。しかもレインはそれをアンディに伝えないでいた。
一見アンディを大切にしているレインも、“ポンコツ”のアンディをどこか疎ましく思っていたのだろう。それが互いにケアを担い合っている相手だとしても、自分の人生を手に入れるためには下さなければいけない決断はあるというものだ。
また、炭鉱での事故でアンドロイドに両親を見殺しにされたというビヨンはアンディに執拗に嫌がらせを繰り返す。企業に支配された生活を送る若者たちもまた、アンドロイドという自分とは異なる存在を蔑んでいる様子が示されている。
状況が一変するのはアンディが研究施設ロムルス内に残されていたアンドロイドのルークのモジュールを体内に入れた後だ。アンディは身体能力を含む能力がアップデートされて、意識も鮮明になる。しかし、映画『エイリアン』に登場した悪のアンドロイドのアッシュと同じ型のルークに指揮下に置かれ、アンディは「レインを守る」という使命が書き換えられてしまうのだった。
これまで見くびっていた相手が自分の上位に立ち、生殺与奪の権を握られる恐怖。『エイリアン:ロムルス』ではそんな新しい恐怖が描かれている。一方で、「人間とエイリアンとアンドロイド」という構図は「エイリアン」シリーズを通して描かれてきたもので、人間の尊大さ、自分と異なる他者とどう向き合うかというクラシックなテーマを扱ってもいる。
そうして、『エイリアン:ロムルス』はデヴィッド・ジョンソンの見事な演技と共に、アンディを中心とした物語が展開されていく。最後には人間のレインがアンディに寄り添う形で、「私たち」のことを考えようと語りかけて共存の道を選ぶことになった。人間の傲慢さや驕りを捨てて共存を願うことは、人類を進化させて暴力を生み出す黒い液体への最大のカウンターと言える。
このように、「エイリアン」シリーズは人間vsエイリアンを描いているようでいて、実は人間とアンドロイドの関係を描く物語でもある。では、これまでの「エイリアン」シリーズでは、アンドロイドの存在はどのように描かれてきたのだろうか。第1作目から振り返ってみよう。
「エイリアン」が描いてきたアンドロイド
『エイリアン』のアッシュ
先ほど触れた通り、第1作目の映画『エイリアン』に登場したアッシュは明確にヴィランだった。ノストロモ号の科学主任のアッシュは、当初は人間だと思われていたが、白色の血を流したことでアンドロイドであることが発覚した。ウェイランド・ユタニ社の意向でエイリアンを連れ帰ることを目的としており、エイリアンとの遭遇も含め、全ての元凶がアッシュとその背後に控えるウェイランド・ユタニ社であった。AI技術が発達する前の1979年の時点では、アンドロイドは明確に人間の敵として描かれていたのである。
そして、アッシュの「完璧な生命体」というエイリアンに対する評価はその後のシリーズにも影響を与えるもので、誰がどんな意図でエイリアンを生み出したのかという謎にも繋がっていく。
ちなみにアッシュの型は「ハイパーダインシステムズ・120-A/2」とされており、『エイリアン:ロムルス』に登場したルークも同型だと思われる。続編では「古い型」とされているが、おそらく『ロムルス』ではアンディの方がより古い型で、故にルークがアンディを指揮下に置くことがたのだろう。このように、「エイリアン」シリーズではアンドロイドの「型」も意外と重要なポイントになってくる。
『エイリアン2』のビショップ
『エイリアン2』(1986) に登場するアンドロイドのビショップはアッシュよりも新しいバージョンのアンドロイドで、アッシュの暴走を「古い型の不具合」と言い切った。しかし、前作でアンドロイドに裏切られたエレン・リプリーはビショップを信じることができない。
リプリーが「アンドロイドだから」という理由でビショップに抱いていた差別心は、『エイリアン:ロムルス』でアンドロイドに両親を見殺しにされたビヨンがアンディに抱いていた感情に近い。そして、『エイリアン2』ではビショップは最後までリプリーと共に戦い、リプリーと視聴者のアンドロイドに対する偏見を解いていく。
ちなみにビショップは「ロボット」と呼ばれることを嫌い、「合成人間」を自称しているが、この演出は『エイリアン:ロムルス』でアンディが踏襲している。ビヨンとタイラーから移住の真実を聞かされる場面でアンディが「合成人間」と呼んでほしいと伝える場面がある。
『エイリアン3』でもビショップ
続く『エイリアン3』(1992) で登場するアンドロイドもビショップだ。共に冷凍睡眠に入っていた仲間たちを失ったリプリーは、ボロボロのビショップを再起動してエイリアンに関する重要な情報を得る。だが、損傷が激しかったビショップはリプリーに電源を切るよう頼み、リプリーもその願いを聞き入れている。人間とアンドロイドが合理性よりも情を優先し、最後の友情を結んだ瞬間だった。
なお、『エイリアン3』にはビショップを開発したとされる、ビショップと同じ見た目のマイケル・ビショップという人物が登場する。ウェイランド・ユタニ社から派遣されており、一応人間だと言ってはいるが、頭を鈍器で殴られても生きており、アンドロイド説もある。ここで微妙に示された「アンドロイドがアンドロイドを作る」というコンセプトは次作に受け継がれることになる。
『エイリアン4』のアナリー・コール
前作から200年後を舞台にした『エイリアン4』(1997) では、「実はアンドロイドでした」という展開が第1作目の『エイリアン』ぶりに採用された。リプリーのクローンであるリプリー8と共に戦う貨物船ベティの女性クルーのアナリー・コールが負傷した際にアンドロイドであったことが発覚するのだ。
しかし、第1作目と大きく異なるのは、コールは組織に対抗する正義のアンドロイドだったという点だ。コールはアンドロイドによって作られた「アンドロイド2世」で、アンドロイド2世は産業を救う存在だと思われていたが、人間がアンドロイド2世に命令されることを嫌って政府は2世アンドロイドをリコール(回収)していた。そして、コールは回収される前にエイリアンを利用する政府の計画を知り、それを阻止するためにベティに乗り込んでいたのである。
コールはこの行動を「プログラミングの結果」と説明している。『エイリアン:ロムルス』ではアンディもレインを守るようプログラミングされていたが、人間においては教育で身につけていく「理性」や「道徳」のような感覚に置き換えられる機能なのかもしれない。
一方、コールにそのプログラミングを施した者が何者なのかということは不明だ。コールがアンドロイドに作られたということは、そのプログラミングを施したのもアンドロイドかもしれない。仮に権力者の思惑を阻止しようとするアンドロイドがいるとすれば、その系譜を辿るのが『プロメテウス』以降の作品ということになる。
『プロメテウス』のデヴィッド
リドリー・スコットが『エイリアン』以来となる監督を務めた『プロメテウス』では、アンドロイドがこれまでになく中心的な役割を果たす。マイケル・ファスベンダー演じるアンドロイドのデヴィッドは、ウェイランド・ユタニ社の前身であるウェイランド社の創業者ピーター・ウェイランドから密かに命を受けて、ウェイランドをエンジニアに会わせるために行動していた。
デヴィッドはエンジニアが作り出した黒い液体を回収すると船員のホロウェイ博士に飲ませて死に追いやった。更に、ホロウェイと性的交渉を持った主人公のショウ博士がエイリアンを体内に宿すことに。人体を苗床としてエイリアンを繁殖させる実験はアンドロイドの手によって始まったのである。
『エイリアン:ロムルス』では、この黒い液体が登場し、ルークの命令によってアンディの最優先事項は黒い液体の回収に置き換えられてしまう。ルークはこの液体のことを「プロメテウスの火」と呼び、『プロメテウス』とのつながりを示唆している。
デヴィッドが間接的に生み出したエイリアンはエンジニアを殺し、ラストシーンでは“ディーコン”と呼ばれる尖った頭を持つエイリアンの成体がエンジニアの体内から誕生。このエイリアンがどうなったのかは不明だが、デヴィットが生み出したエイリアンが『エイリアン』に登場するエイリアンに繋がっていくのだとすれば、そのエイリアンから回収された『エイリアン:ロムルス』の黒い液体はデヴィッドからルーク、そしてアンディへと受け継がれたことになる。
ちなみに『プロメテウス』では、デヴィッドが古代語を習得して目覚めたエンジニアを会話するシーンも。アンドロイドは人類の起源と関わりのあるエンジニアとコミュニケーションが取れる存在であることも示されたと言える。
『エイリアン:コヴェナント』のウォルター&デヴィッド
同じくリドリー・スコット監督が手がけた『エイリアン:コヴェナント』では、デヴィッドと同じ見た目のアンドロイドであるウォルターが登場。デヴィッドのその後も描かれ、マイケル・ファスベンダーが一人二役を演じたことで注目を集めた。
ウォルターとデヴィッドは同じ見た目をしているが、ウォルターの方がバージョンアップされている。二人が対立した後、デヴィッドはウォルターの機能を停止したと思っていたが、新型のウォルターにバックアップ機能があることを知らなかった。
『エイリアン:コヴェナント』では、デヴィッドが完全なヴィランとして描かれる一方、ウォルターは人間側に立つ善のアンドロイドとして描かれる。同作で描かれたアンドロイドの光と闇は、『エイリアン:ロムルス』ではアンディの立場を切り替えることで表現されている。
デヴィッドは前作のラストでショウ博士と共にエンジニアの宇宙船を乗っ取った後、11年前にある惑星に到着。黒い液体を散布してエンジニアとこの星の生物を虐殺していた。さらにデヴィッドはここで黒い液体の実験を進め、ショウ博士まで実験体としてエイリアンを作り出すことに成功していた。デヴィッドはエイリアンを「完璧な生命体」と考えており、その思想は後に『エイリアン』のアンドロイド、アッシュにも引き継がれている。
一方で、デヴィッドが明確に他のアンドロイドと異なる点は、デヴィッドが人類を見捨てているという点だ。デヴィッドが住む惑星に人間を誘き寄せたのは、人体をエイリアンたちの苗床とするためだった。
デヴィッドは『プロメテウス』でウェイランドの死に遭遇し、自分の目的のために生きることになった。創造主のプログラミングから解き放たれたデヴィッドは、自らが創造主になることを選んだのである。
『コヴェナント』の冒頭では、若き日のウェイランドと生まれたばかりのデヴィッドが対話する。人類の起源を共に探りたいと語るウェイランドに対し、デヴィッドは「創造主を探す者/創造主が目の前にいる者」「人間に仕える者/仕えられる人間」「死なない者/死ぬ者」という不均衡な関係を指摘している。
この不均衡さが「エイリアン」シリーズを通して物語に深みを与えている要素だ。エイリアンという圧倒的な暴力に、不均衡な関係にある人間とアンドロイドが対立したり協力したりして立ち向かう。そのエッセンスをアンディというキャラと共に余すことなく取り入れたのが『エイリアン:ロムルス』という作品の魅力である。
なお、『コヴェナント』のラストではデヴィッドが生き延びて2,000人の入植民を乗せたコヴェナント号を乗っ取った。人間の胎芽が入ったキャビネットにエイリアン(フェイスハガー)の胚を入れ、会社には乗組員は死亡したと報告。会社の支配から自由な状態で宇宙を航行している。似た状況にあるアンディやコールとの遭遇に期待したいものだ。
筆者が推したいのは、デヴィッドがコールの開発者という説だ。コールを送り込み、デヴィッドが誕生させた「完璧な生物」であるエイリアンを生物兵器として利用しようとする軍(人類)を倒そうと考えたのではないだろうか。また、デヴィッド自身がアンドロイドをプログラムしてアンドロイド2世を生み出すことで、アンドロイドを人間の支配から逃れさせようとしていたのかもしれない。
アンドロイドについては説明されていない点も多く、まだまだ考察の余地がある。今後の「エイリアン」シリーズではアンドロイド側のストーリーも深掘りされていくことに期待しよう。
映画『エイリアン:ロムルス』は2024年9月6日(金) より全国の劇場で公開。
『エイリアン:ロムルス』オリジナル・サウンドトラックは配信中。
「エイリアン」シリーズはBlu-rayコレクションが発売中。
映画『エイリアン3』のその後を新たに描くオリジナル小説『
』( T・R・ナッパー著, 入間眞 訳)は9月4日(水)発売。『エイリアン:ロムルス』ラストのネタバレ解説&考察はこちらの記事で。
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