『アイアンハート』第5話ネタバレ解説
2025年6月24日(水) より配信を開始したドラマ『アイアンハート』は、『デアデビル:ボーン・アゲイン』(2025) に続くMCUドラマの最新作。映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の公開を7月25日(金) に控え、映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2023) に登場したリリ・ウィリアムズの物語が描かれる。
第4話から最終回第6話が同時配信された2週目のエピソードから、今回は第5話についてネタバレありで解説し、考察していこう。以下の内容はネタバレを含むため、必ずディズニープラスで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『アイアンハート』第5話の内容に関するネタバレを含みます。
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『アイアンハート』第5話ネタバレ解説
ホワイト・キャッスルの戦い
『アイアンハート』第5話「私のグリッチ」のエピソード監督は前回に続きアンジェラ・バーンズ。脚本は第5話と第6話を続けてクリスチャン・マルチネスが担当している。クリスチャン・マルチネスはドラマ『グッド・トラブル』(2019-2024) の脚本で知られ、DCユニバースでアニメ版『ブルービートル』でヘッドライターを務める予定となっている。
アイアンスーツと共に消えたAIナタリーは、ナタリーが生きていた頃の動画を見ていたが、スラッグにいとも簡単に捕まってしまう。流れている音楽はサンタナ「Evil Ways」(1969)。「邪悪なやり方を改めなきゃ」「君がいなければ家は暗く、考えは冷たくなってしまう」と歌われている。
リリは前回登場したゼルマ・スタントンと会っていた。場所はシカゴを含む中西部で展開されているハンバーガーチェーン、ホワイト・キャッスルだ。『ドクター・ストレンジ』(2016) のヴィランであったドルマムゥの絵も登場。ゼルマは「どんなに食らいついても勝てない」と説明しているが、同作でもストレンジはタイム・ストーンを使って無限ループを作り出し、“諦めさせる”という方法で勝利している。
今回の敵も宇宙で最も強力な存在かもしれないと忠告するゼルマに、リリはディメンションの支配者がなぜマントを人間に持たせるのかと疑問を呈する。この後の「地球に来るためかも」「食べるため?」というゼルマの発言は、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』で地球を食べにやって来るギャラクタスを想起させる。
また、ゼルマはパーカーの体の傷について、ドルマムゥを崇拝していたカエシリウスにも紫色の傷ができていたことを指摘。パーカーは上位の存在の操り人形に過ぎないのではないかと考察する。
リリは、パーカーはカエシリウスと違い魔術師ではなく、金と尊敬が欲しいただの人間だと反論するが、ゼルマは、敵は操り人形が欲しいだけであり、パーカーのような野心家は操りやすいのだと話す。金と尊敬が欲しい野心家は操りやすい……パーカーの言うことを聞いていたリリにそのまま返ってくる言葉である。
ゼルマが魔法には代償がつきものとしてパーカーを殺さなければいけないと進言する中、ブラッドきょうだいが到着。第5話のオープニングのロゴタイトルはホワイト・キャッスル風の『アイアンハート』ロゴになっている。
ブラッドきょうだいに苦戦するリリだったが、銃声で起動する腕時計の“エアバッグ”で二人を閉じ込めると、爆破のプロフェッショナルであるクラウンとはキッチンを舞台に「ボンバーマン」のようなバトルを繰り広げながらも手作りロケットで撃退。最後はスラッグが運転するトラックが相手だったが、ナタリーのアイアンスーツがトラックの荷台を脱出してトラックを破壊することに成功した。昨日の友は今日の敵、である。
ナタリーはAIだが傷ついていたと言い消えた後、リリがスーツで空に飛び立つ場面では、ストリートの路面に「BLACK LIVES MATTER」という字が確認できる。ブラック・ライブス・マターはアメリカでの相次ぐ黒人への暴力に抗議する形で広まった運動だ。文字がレインボーカラーになっているのは、セクシュアルマイノリティーと黒人の権利運動の連帯を示すものだ。
ジーク vs リリ
しかしリリは電撃に打たれて落下。電撃の主はサイボーグと化したジーク・ステインだ。ジークは父が力に執着した理由が分かったとして攻撃を繰り出してくるが、これではかつてのトニーとオバデインと同じ構図になってしまう。ジークの言う「僕らにはアラニスがいる」とは、二人が第2話の車中で一緒に歌っていたアラニス・モリセットのことだ。
リリがスーツでスキャンしたジークの身体には、「増強視床下部」「バイオメッシュ移植」「エネルギー変位ネットワーク」「静電リパルサー」といったタグが付いている。リリを恨むジークは、これまで父に似ないように必死だったが結局は似てしまったとしながらリリを追い詰める。
だが、ジークはトドメをさすことはできず、リリにシカゴから出ろと告げるのだった。ジークの中にもまだ優しさが残っていたのである。それに第4話のラストではパーカーは英語でリリの「頭」を持ってこいと言っており、ジークは文字通りアイアンスーツの頭を持ち去っている。
忘れていた思い出
スーツを破壊され、家に帰ったリリはついに母ロニーに全てを打ち明ける。ロニーはリリに「逃げ続けることはできない」として、なぜ大学でもシカゴでもスーツに執着して問題を起こすのかと尋ねる。これに対してリリは「私たちを守れるのはスーツだけ」と、リリにとってスーツが特別である理由を語り出す。
継父とナタリーが死んだときリリは何もできず、以来リリはスーツに囚われてきた。スーツを失った今、逃げるしかないというのがリリの考えだった。しかし、ロニーとナタリーはリリに一緒に戦うと申し出て、3人はゲイリーの自動車修理工場へ。AIナタリーがリリの記憶を再生しながら、リリのこの工場での思い出を振り返っていく。
8歳のリリは父に休むよう言われ、「メイ・ジェミソンが休んだと思う? 彼女は人種や性別の壁を壊すために忙しくしてた」 と言い返している。メイ・ジェミソンはシカゴ出身の宇宙飛行士で、初めて宇宙飛行を行った黒人女性として知られる。
ナタリーは「悲しい記憶を忘れようとすると良い思い出まで忘れる」と言い、Leon Bridges「Brown Skin Girl」(2015) を踊る父娘の映像を再生する。仮にリリが8歳で今が19歳、これが2015年の出来事だとしたら、『アイアンハート』の舞台は2026年以降だと仮定できる。
忘れていた良い思い出に触れ、リリはナタリーを厄介者扱いしていたことを謝罪。ナタリーが「最高の不具合(glitch=グリッチ)」であることを認め、リリはシカゴに残るために戦うことを決意する。継父が死んだ直後にMITに進学し、ワカンダへ行き、“外”を志向してきたリリだったが、この故郷とガレージにこそかけがえのない思い出があったことを思い出したのだ。
そしてロニーは、リリが継父からもらいながらスーツのために売り渡していた車を買い戻していたことを明かす。この車はプリムスと呼ばれる旧クライスラー社が展開していたブランドのものだ。リリはこの赤い車体を使って新しいアイアンスーツを作り出そうとする。
MCUの原点であるガレージ
一方のジークは、パーカーからリリを殺したことを疑われつつ、リリを逃がしたところを見ていたクラウンが助け舟を出してこれを乗り切る。ジークは自由にしてもらった見返りとしてリリを殺すという契約だったようで、正式にメンバーに加わることは拒否。さらにクラウンがリリと戦った時に聞いたスチュアートの死についてパーカーに疑問を突きつけると、マントに支配されたパーカーは全員をクビにして、今度はパーカーチームが解散することになる。
逆にチームアップできたのはリリの方だ。エグゼビアはリリからのヘッドホンのプレゼントに手紙が挟まっていたことに気が付く。手紙の表紙には「スター・トレック」の宇宙艦隊の記章が描かれている。ちなみにエグゼビアの部屋にはヒップホップグループのア・トライブ・コールド・クエストのドキュメンタリー映画『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ 〜ア・トライブ・コールド・クエストの旅〜』(2011) のポスターが確認できる。
リリはロニー、ナタリー、ゼルマ、エグゼビア、そして商売人の少年ランドンとガレージでアイアンスーツ作りに取り組む。実は、ガレージでモノづくりに臨むというコンセプトはMCUの原点にあったものだ。
書籍『マーベル・スタジオ:ジ・アート・オブ・ライアン・メイナーディング』(2025) では、後にマーベル・スタジオのデザイン部門のトップになるライアン・メイナーディングが映画『アイアンマン』(2008) のために最初期に描いたコンセプトアートは、ガレージでトニー・スタークがアイアンマン・スーツを作る場面であったことが明かされている。
このイラストは、メイナーディング自身の祖父がいつも家のガレージで発明品を作っていたことからインスピレーションを受けたという。父と共にその発明を手伝っていたというメイナーディングの思い出の光景は、むしろ『アイアンハート』の方で、シカゴの黒人コミュニティを舞台に再現されることになったと言える。
リリはエグゼビアへの手紙で「スター・トレック」のジェームズ・T・カーク船長の言葉を引用したらしい。「友について、これだけは言える。旅で様々な魂に出会ったが、彼女が一番人間らしかった」という言葉は、ナタリーのことを指しており、エグゼビアもこれを受け入れる。「認めたわけじゃないけど、大切な存在なのは分かる」という落とし所は、とても人間的なもので、AIについての議論が激化する中で一つの指針となるものかもしれない。
ちなみにロニーはこのシーンでMLB球団シカゴ・ホワイトソックスのユニフォームに着替えている。第1話ではもう一つのMLBシカゴ・カブスの応援団が登場していた他、第5話冒頭のホワイト・キャッスルではアイスホッケーのシカゴ・ウルヴズのファン向けの広告も見られた。また、がガレージの中にはNBAシカゴ・ブルズのブランケットもある。
赤い車体を使い新アイアンスーツを作るシーンで流れる曲はサンティ・ゴールド「Disparate Youth」(2012)。「先は見ないで、天気は荒れてる」「でも、進むなら一緒に」「ここに留まるなら私たちの手は固く結ばれる」「欲しいものはわかってる」「戦う価値のある人生だ」と歌われている。
パーカーの目的とまさかのラスト
『アイアンハート』第5話のラストでは、パーカーの最後の作戦が描かれる。パーカーはジークが改造を受ける際にコントロール権をパーカーに設定しており、ジークがパーカーの命令に逆らえない仕様にしていた。ジークの風貌といい、ヴィランの言いなりになってしまう設定といい、バッキー・バーンズを思い出さざるを得ない……。
この時点でパーカーの身体のヒビのような傷は頬まで広がっている。パーカーはジークを護衛として過去に従兄弟のジョンと一緒に訪れた豪邸に侵入し、父と向き合う。パーカーが襲撃して経営権を奪ってきた会社は父の企業が出資したスタートアップ企業だった。パーカーは12歳の時に富豪の父から捨てられており、個人的な復讐のために計画を進めていたのである。ちなみに原作コミックではパーカーはキングピンと働いていたことになっている。
パーカーの父は12歳で息子を捨てた理由を「負担だった」と話す。英語圏では「teen」が入る13歳(thirteen)からがティーンエイジャーという認識になるため、パーカーはティーンエイジャーにもなっていない頃に捨てられたということだ。親としての責任を果たさなかった父から「ビジネスの代償」を警告されながらも、パーカーは父を銃で脅して会社と家を“相続”。ついにパーカーはマントと共に野望を実現することになった。
そして第5話のラストシーンでは、リリの赤いアイアンスーツが完成。『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の時に近いデザインに仕上がっている。リリは新スーツのエネルギー問題を“魔法”で解決することに。ゼルマは「魔法には代償が伴う」と忠告を与えながら、「暗黒の主」のエネルギーを呼び出す。手から赤い光を出してゼルマが魔法を使う様子は、ワンダのそれにかなり近い。
ところが、儀式の途中でAIナタリーが消滅してしまい第5話は幕を閉じる。エンディングで流れる曲はセヴダリザ「Hubris」(2017)。詩的な歌詞で、「あなたのハートがそんなにハードでないフリをしてくれたらいいのに」と歌われている。
『アイアンハート』第5話ネタバレ考察&感想
リリが手に入れた戦う理由
『アイアンハート』第5話は最終回目前にして、ようやくリリ・ウィリアムズを取り巻く状況が良くなってきた。そのきっかけは、母に全てを打ち明けたこと、そしてナタリーの映像を通して避けてきた過去の記憶と向き合ったことだった。そうしてリリはシカゴに残る理由を見つけ、それがすなわち戦う理由となり、スーツを作る理由になった。
これまではリリは「作れるから」という理由でスーツを作ってきた。それは父が遺した言葉ではあったが、過去から逃れるように、父とナタリーを助けることができなかった過去を塗り替えるように、スーツが逃避の対象となっていたに過ぎなかった。
映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でもリリは立派に戦ったが、その戦いは他人の戦いであり、自らが目指した戦いではなかった。故郷に帰り、今リリはついに自分の戦いに挑もうとしている。
しかし、そんなリリを導いてくれたAIナタリーが消えてしまうという展開に。暗黒の主とは何者なのか、仲間を切り捨て全てを手に入れたパーカーはどうなるのか、そしてウィンター・ソルジャーのようになったジークの命運は……。
ドラマ『アイアンハート』はディズニープラスで独占配信中。
本記事の筆者が翻訳を担当した、500点以上のイラストと解説と共にMCUの歴史を辿る『マーベル・スタジオ:ジ・アート・オブ・ライアン・メイナーディング』は好評発売中。
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コミック『インビンシブル・アイアンマン:アイアンハート』は吉川悠の翻訳で発売中。
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