映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』フランクに注目
MCU「スパイダーマン」シリーズの第4弾となる映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』が2026年7月31日(金) より、日米同時公開を迎えた。新たに映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021) のデスティン・ダニエル・クレットン監督が指揮をとった本作は、全米公開初日の興行収入が歴代最高となる1億6,800万ドル(約264億円)を記録する大ヒットとなっている。
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の魅力の一つは、いつにも増して様々なキャラクターが登場する点だ。それによってスパイダーマンとしての使命をまっとうするピーター・パーカーの奮闘の日々が彩られることになるのだが、中でも注目を集めているのが、ジョン・バーンサル演じるパニッシャーことフランク・キャッスルである。
ドラマシリーズで愛されてきたパニッシャーは、映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』ではどのように描かれたのか、そして、フランクの過去には何があったのか。今回はその背景を本作のネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容は、映画の結末とドラマシリーズの内容に関するネタバレを含むのでご注意を。
以下の内容は、映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』パニッシャー/フランクはどうなった?
スパイダーマン×パニッシャー
映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』では、序盤からパニッシャーことフランク・キャッスルが登場。皆の記憶からピーター・パーカーの存在が消えた後もニューヨークの街を守るために戦うスパイダーマンの前に現れ、暴走戦車をめぐって二人は小競り合いを起こす。
パニッシャーもスパイダーマンも戦車を止めようとしているのだが、街中で重火器をぶっ放すパニッシャーをスパイダーマンは見過ごさない。自分を犠牲にしながら街の破壊と人々が傷つくのを防ごうとするスパイダーマンと、手段は選ばず戦車を止めようとするパニッシャーの違いが序盤から鮮明に描かれるのだ。
同時に、このシーンではパニッシャーが悪人ではないということも示される。パニッシャーは自身の正義に則って独自に正義を遂行する、いわゆる“ヴィジランテ(自警団)”だ。より善くあろうとするスパイダーマンのような“ヒーロー”とはやり方は異なるものの、ヴィランとは一線を画す存在だ。
なお、2026年5月にディズニープラスで配信されたスペシャルドラマ『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』では、フランクは新たな生き方を見つけ、自らの正義に従って生きていくことを決めている。詳しくは後述する。
フランクの過去とスタテン島
ジーン・グレイによるダメージ・コントロール局襲撃、そしてMJが危険に晒されたことによって、ピーターはフランクを頼るという選択をとる。前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) ではドクター・ストレンジを頼ったが、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』では、フランクがピーターに手を差し伸べることになる。
『ブランド・ニュー・デイ』でフランクは、「地雷」と呼ぶトラップで囲まれた船の中で暮らしており、ジーン・グレイに狙われるMJを匿うことを渋々受け入れる。捻くれたところがあるMJとは意外と気が合うようだが、その背景にはフランクが前向きに生きられなくなった過去がある。
この場面では、フランクが過去に妻と子どもを失ったことが示唆され、フランクはピーターと自分の違いについて、自分には選択肢がなかったと吐露する。ドラマシリーズで描かれたように、元軍人のフランクは、イラクやアフガニスタンでの従軍後に妻・娘・息子がギャングの銃撃戦に巻き込まれて殺害されている。
それからギャングに私的制裁を加えるパニッシャーとなったのだが、家族の死の背景にはより大きな陰謀があり、パニッシャーの物語は主に過去を清算するための戦いだった。自らの選択で世間と大事な人から忘れられることを選んだピーターに対し、フランクは自分のようになるなと反面教師の役割を担うのだ。
また、この辺りからスパイダーマンとパニッシャーの間の“スタテン島での借り”に言及され始める。MCUでスパイダーマンとパニッシャーが接触している姿が描かれるのは『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』が初めてであり、スタテン島での出来事はまだどこでも描かれていない。
だがどうやら、スパイダーマンがスタテン島でパニッシャーの命を助けたという出来事があったらしく、フランクは終始バツが悪そうにしている。なお、スタテン島とは、ニューヨーク市の五つの行政区の一つで、『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』の監督を務めたレイナルド・マーカス・グリーンの出身地でもある。
vs ハルク、ジーン・グレイ
映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』では、ジーン・グレイがハルクを利用して再びダメージ・コントロール局を襲撃すると、単独で乗り込んだスパイダーマンをパニッシャーが援護する。これはMJに促されての行動だったが、フランクはドラマ『パニッシャー』(2017-2019) でMJと近い年頃のエイミーという少女と絆を育んだ経緯がある。劇中では10年ほど前のことになると思われるが、エイミーが成長していたら今頃……と、フランクはMJにその姿を重ね合わせたのかもしれない。
そしてパニッシャーはスパイダーマンとともに暴走するハルクとの戦いに挑むことになる。実は、ドラマ版のフランクはスーパーパワーを持つ相手と戦った経験がほとんどないのだが、映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』では、スパイダーマン、ハルク、ジーン・グレイと、錚々たるスーパーヒューマンと対峙している。なお、これまでにパニッシャーが唯一戦ったスーパーパワー持ちは、おそらくデアデビルことマット・マードックのみだった。
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』のラストでは、パニッシャーはスパイダーマンを守るためにジーン・グレイを狙撃する準備に入る。敵をパニッシュ(罰)することでしか目的を達成することができないのがパニッシャーの辛いところだ。
最終的にパニッシャーが放った銃弾はジーン・グレイを庇ったスパイダーマンが受け、スパイダーマンは重傷を負うことになる。背中から大量の血を流すスパイダーマンを悲壮な形相で抱き抱えて運ぼうとするフランクの姿には胸が痛む。けれどそれは、スパイダーマンが序盤にパニッシャーへ忠告した「罪のない人を傷つけることになる」という言葉が現実になったものだった。
友達になった二人
ジーン・グレイの尽力もあって一命を取り留めたスパイダーマン。病室ではマスクが取られており、ここでパニッシャーはスパイダーマンの正体を知ったようだ。
実はこの流れ、ドラマ『デアデビル』(2015-2018) シーズン2の最終回と少し似ている。このエピソードでは、パニッシャーはヤミノテ(ハンド)と戦うデアデビルを別のビルの屋上からスナイパーライフルで援護。この時デアデビルはマスクがない状態で戦っており、『デアデビル:ボーン・アゲイン』で二人が再会した際にはフランクはマットがデアデビルであると知っていることが明かされた。『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』でも、フランクはそうやってスパイダーマンを助けられると考えたのだろう。
フランクは意識を取り戻したピーターに、珍しく素直に謝罪。さらにピーターの行動について「これまでにも本物の勇気というものを見てきたが、あれは別格だった」と称賛する。他者を助けることを弱さではなく勇気だと評価したことは、“パニッシャー”にとって大きな転換点だ。
そして涙を見せたフランクをピーターが笑うと、フランクは「お前みたいな友達は初めてだ」と言い、ピーターは「僕たち友達だね」と返す。孤独を抱いてきたフランクとピーターが互いに「友達」と呼べる相手を持つことができたのだ。
振り返れば、フランクにとっての「友達」といえば、『パニッシャー』のヴィランとなったビリー・ルッソだった。戦場で生死の境をともにかいくぐった二人だったが、フランクはビリー・ルッソの裏切りに直面することになった。友人に裏切られ、家族を失い、復讐の鬼となったフランクが見つけた、ピーター・パーカーという新しい友達。涙なしには見られないシーンである。
その後、ピーターを病室から出すために、フランクはスパイダーマンのマスクをかぶって大衆の注目を集める。パニッシャーが他者を罰する以外のことをやっている。いや、あれもピーターを傷つけた自分自身への罰だったのだろうか?
ここからは、パニッシャーことフランク・キャッスルのドラマシリーズでの描かれ方を見ていこう。以下の内容はドラマシリーズのネタバレを含むので、未見の方はご注意を。
以下の内容は、ドラマ『パニッシャー』、ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』、スペシャルドラマ『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』の内容に関するネタバレを含みます。
これまでのパニッシャー/フランクは
『デアデビル』と『パニッシャー』での復讐劇
映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』で存分に魅力を発揮してくれたパニッシャーことフランク・キャッスル。少々様子がおかしいおじさん枠として多くの支持を集めているが、その過去は、とてもとても暗い。
ABC制作のマーベルドラマシリーズ、〈ザ・ディフェンダーズ〉サーガにて、ドラマ『デアデビル』シーズン2で初登場を果たしたジョン・バーンサルのパニッシャー。カトリック教徒という背景から殺しはやらないデアデビルに対し、パニッシャーは容赦なく敵を殺しまくる。
弁護士でもあるデアデビルことマット・マードックは司法で裁けない悪をデアデビルとして裁いていたが、そもそも司法を信用しておらず、守るものもないパニッシャーにはブレーキがない。『デアデビル』シーズン2では逮捕され、マットに弁護を受けながらもキングピンことウィルソン・フィスクの助けを得て脱獄したこともある。
フランクはかつて海兵隊としてイラクやアフガニスタンで従軍していたが、アフガニスタンのカンダハールでは汚れ仕事をやらされていた。フランクの家族はその違法な作戦の隠蔽工作の一環として殺害されたこと、そして戦友の裏切りも明らかになり、ドラマ『パニッシャー』シーズン1では、フランクはその復讐のために邁進した。
『パニッシャー』シーズン1のラストではFBIとの取引で過去の記録が全て抹消され、ニューヨークを離れていたが、シーズン2ではエイミー・ベンディックスという少女との出会いを機にニューヨークへ舞い戻った。エイミーもまた権力者たちの思惑に巻き込まれた犠牲者だった。
エイミーとは衝突しながらも、彼女を守るために奮闘したフランク。事件を解決に導くと、最後にはCIAに勧誘されるが、これを断ってニューヨークでの自警活動を再開させた。おそらく、それ以来約10年にわたってニューヨークでの自警活動を続けているものと思われる。
ちなみにMCUではその後、CIAによるヴィジランテたちのリクルート活動が本格化した。もしあの時、フランクがCIAに入っていたら、フランクもニュー・アベンジャーズの一員になっていたかもしれない。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』での復活
MCUドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1の第4話では6年ぶりに再登場。キングピンことウィルソン・フィスクがニューヨーク市長に就任すると、パニッシャーのロゴが自警団狩りのアイコンとして使用され、真相を探るべくマットはフランクのもとを尋ねた。
この時のフランクは血だらけの手で懸垂をして、ピルを酒で流し込んで嘔吐するという、見ているこちらが心配になる荒れっぷりを見せていた。一方で、フランクはパニッシャーの模倣犯が出現していることを把握していた。
マットは友人の死をきっかけにデアデビルとしての活動を辞めていたが、フランクは「活動したければ活動しろ」とマットを焚き付けた。フィスク市政の誕生により法律が歪んでしまった世界で、フランクはマットの中の“デビル”を呼び起こす重要な役割を担った。
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』では、フランクはピーターを突き放すような態度を見せたが、マットに対しては自分の側に引きずり込もうとしているようにも見えた。年長者としてのピーターへの気遣いと、似た者同士だと見做したマットへの求愛は、どちらもフランクという人をよく表している行動だ。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1の最終回では、フランクはカレンからの連絡を受けてマットのヘルプに参上。マットと恋仲にもなったカレン・ペイジは、逃亡生活を送っていたフランクを支えた人物だ。カレンからの頼みを断らなかったフランクの姿には、やはり善性があることが見てとれた。
『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』で見つけた道
その後、フランクは自警団取締の特殊部隊に特攻を仕掛けて捕まるが、脱獄に成功。スペシャルドラマ『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』では、ギャングを壊滅させて家族のための復讐を成し遂げた後に孤独を抱えるフランクの姿が描かれた。
さらにフランクの復讐により裏社会の権力者たちが死に、街の治安は悪化の一途を辿っていた。目的を失い自ら命を絶とうとしていたフランクだったが、今度はフランクに家族を殺された人物から懸賞金をかけられることになる。パニッシャーが罰される側になったのだ。
同時に、『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』ではフランクにはもはや海兵隊時代の自分というアイデンティティしか残されていないということも示された。トニー・スタークには会社があったし、マット・マードックには弁護士業があった。けれど、フランク・キャッスルからパニッシャーを取れば何者でもなく、海兵隊としての過去しか残らないのである。
フランクが立たされたこの辛い状況は、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』のピーター・パーカーと重なる部分がある。これまでのスパイダーマンといえば、フォトグラファーとして新聞社にスパイダーマンの写真を売るなどして生計を立てていたが、MCUではピーターの“表の仕事”は描かれない。
ピーターが確立しているのは皆に愛される“親愛なる隣人”、スパイダーマンとしてのアイデンティティであり、それ以外にピーターを構成する要素はMJとネッドとの過去の思い出だけなのだ。コードネームを背負い、過去にすがって生きる。そんな二人が出会い、“現在”を生きる友人になったのは、とても尊いことに思える。
『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』では、フランクは敵を追うよりも小さな命を守ることを優先し、感謝される。この経験を経て、前を向くことを決めたフランクは、自分の復讐のためではなく、被害を受けた他者のために悪人に“罰”を与える存在になった。『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』でのフランクの粗暴ながらも前向きな雰囲気は、これらの出来事を経て生まれたものだったのだ。
パニッシャー/フランクの今後はどうなる?
気になるのは、パニッシャーことフランク・キャッスルの今後について。フランクは今後も引き続き自警活動を続けていくのだろう。どうせまたピーターとは小競り合いを起こすだろうが、いざという時には共闘することになるだろう。願わくば、互いの正体も知っていることだし、たまにはフランクが大好きなコーヒーをピーターと一緒に飲んだりもしてほしい。
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』のラストで、フランクはピーターに「お前は良い奴だな。お前みたいな友達は初めてだ(You’re a good kid. Never had a friend like you.)」と言った。裏を返せば、マットは「ピーターみたいではない友達」ということなのかもしれないので、またマットとの絡みもぜひ見たい。
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』は、すでにシーズン3への更新が決定している。『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』でのフランク人気を受けて、同作への登場や、新たな単独シリーズの制作が進むことになるだろうか。
また、「スパイダーマン」シリーズでは、スパイダーマンが直近2本の映画でデアデビル、パニッシャーと共演した。となれば、コミック的には次はデッドプールとの共演が望まれるところ。そしていずれはスパイダーマン、デアデビル、パニッシャー、デッドプールというはちゃめちゃなカルテットの実現にも期待したい。
映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』は2026年7月31日(金)より日米同時公開。
MCU「スパイダーマン」誕生から三部作完結までの道のりを多数のコンセプトアートとインタビューで紐解く「ジ・アート・オブ スパイダーマン」シリーズはKADOKAWAより発売中。
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