映画『ウィキッド ふたりの魔女』公開
小説『オズの魔法使い』(1900) に登場する“西の悪い魔女”と“北の良い魔女”を主人公に据えた映画『ウィキッド ふたりの魔女』が2025年3月7日(金) より日本の劇場で公開された。本作は2024年11月に米国で公開され、全世界興収約7億3,000万ドルという大ヒットを記録。第97回アカデミー賞では衣装デザイン賞と美術賞を受賞している。
高い期待の中で公開された映画『ウィキッド ふたりの魔女』はどんな物語だったのだろうか。今回はそのラストについてネタバレありで解説し、感想を記していこう。なお、以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ず本編を劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ウィキッド ふたりの魔女』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『ウィキッド ふたりの魔女』ネタバレ解説
エルファバとグリンダの出会い
映画『ウィキッド ふたりの魔女』は、そのタイトル通り、エルファバとグリンダ(当初の名はガリンダ)というオズの国に暮らす二人を主人公にした作品。ミュージカルで活躍してきたシンシア・エリヴォがエルファバ、シンガーのアリアナ・グランデがグリンダを演じた。
母が飲んだ緑色の薬の力で緑色の肌を持って生まれてきたエルファバは、長らく差別を受けて生きてきた。そんなエルファバは妹のネッサローズの付き添いで訪れたシズ大学に入ることになり、そこでガリンダとルームメイトになる。
エルファバが入学を認められたのは、魔法学部の学部長マダム・モリブルから魔法の腕を認められたからだ。将来はオズの国を支配するオズの魔法使いの大臣として仕えることができるだろうと期待をかけられたエルファバは、生まれて初めて自分の持つ力に自信と希望を抱いたのだった。
そこからジョナサン・ベイリー演じる転校生のフィエロ王子との恋、エルファバとガリンダの友情、ヤギのディラモンド教授をはじめとする動物たちへの迫害などが描かれ、物語はクライマックスへと向かっていく。
親友になったふたり
中でもハイライトは、魔女の帽子を被ったエルファバがスターダストで笑われていた時、ガリンダがエルファバに寄り添い、エルファバの踊りが皆に受け入れられたシーンだ。
エルファバ役のシンシア・エリヴォはナイジェリア系イギリス人で、歴史上においても白人の文化圏では黒人文化が許容されなかった歴史がある。しかし今ではヒップホップがポップカルチャーの一翼を担っており、大衆の中から“セカンドペンギン(二羽目のペンギン)”が現れれば状況は変わるということは証明されている。
そうしてエルファバの親友となったガリンダは、エルファバを人気者にしようと試行錯誤するが、このガリンダによる“プロデュース”はラストへの伏線になっている。それにしてもガリンダのお節介で無邪気で独善的なキャラクターはアリアナ・グランデの演技によって見事に表現されていた。
映画『ウィキッド ふたりの魔女』ラスト ネタバレ解説
オズの魔法使いの正体は?
映画『ウィキッド ふたりの魔女』のクライマックスでは、ガリンダがその名前を発音できなかったディラモンド教授へのトリビュートとしてグリンダに改名。ここでガリンダは『オズの魔法使い』でお馴染みの“南の良い魔女” グリンダの名前になったのだ。
エルファバはオズの魔法使いに招待され、グリンダと共にエメラルド・シティへ。そこでは、オズの魔法使いが誰も読めなかった魔法の書グリモリーを読み、オズに繁栄をもたらしたという物語が喧伝されていた。
エルファバはオズの魔法使いに自分の力を証明しようとグリモリーを読み、魔法の力で猿の兵隊に翼を生やす。ちなみに『オズの魔法使い』では西の悪い魔女が翼の生えた猿達を従えている。ここでマダム・モリブルとオズの魔法使いが翼の生えた猿達を「偵察部隊」「スパイ」と呼んだことで、動物達を道具にしようとしていた黒幕がこの二人であったことが明らかになる。
さらに、オズの魔法使いは魔法使いではなく、グリモリーを読むことができなかった。ゆえにエルファバのような強力な魔女が必要だったのである。『ウィキッド』のその後を描く『オズの魔法使い』でも、同様にオズの魔法使いがただの人間の老人であったことが明らかになる。
『オズの魔法使い』の主人公ドロシーは、カンザスから竜巻に乗ってオズの国へやってきた。ドロシーはオズの魔法使いに元の世界に戻してもらおうとして会いにいくのだが、オズの魔法使いも同じように竜巻に乗ってオズの国にやってきていた。オズの魔法使いは魔法使いだと勘違いされた状況を利用して王になったのだ。
『ウィキッド ふたりの魔女』では、オズの魔法使いは「共通の敵を作ること」が自分の故郷では有用だったという旨の発言をしている。それはつまり、私達が住む世界では「共通の敵を作り、危機を乗り越える」という営みが繰り返されてきたということである。
ちなみにマダム・モリブルは劇中で天候を操る姿を見せているため、おそらく魔法は使えるものと思われる。
ラストの意味は?
怒ったエルファバはグリモリーを持ち去り、オズの魔法使いとマダム・モリブルは兵士たちにエルファバを追わせる。猿の兵隊を率いるシーンのマダム・モリブル(ミシェル・ヨー)がカッコ良すぎる。
グリンダも指示を受けてエルファバを追うが、二人は互いに「あなたに幸せになってほしい」と言い合って対立してしまう。エルファバは誰からも支配されず自由になること、そして動物達への公正を求めていた。だが、グリンダはエメラルド・シティでの約束された生活を手放せずにいる。
二人は互いの幸せを願っているが共に道を歩むことはできない。それでもグリンダにはエルファバを喜んで送り出すことはできる。グリンダのカラーをエルファバに取り込もうとしていた「Popular」のシーンとは違い、グリンダはエルファバのファッションに合った黒いマントを着せてあげる。
エルファバが歌う「Defying Gravity」は、「重力から自由になる」という歌詞が「支配からの解放」という意味とダブルミーニングになっている。巨大なマントを翻すエルファバの姿と、エルファバ役のシンシア・エリヴォの歌声は圧巻。エルファバの力強さと、支配から解放された快感が表現された名シーンだ。
エルファバは魔法使い達と並ぶ力を手に入れることを宣言し、オズの国の西へと飛び去っていった。マダム・モリブルは国中にエルファバを「ウィキッド 邪悪な魔女」と喧伝し、エルファバと別れたグリンダはマダム・モリブルの抱擁を受けるのだった。
最後に画面には「つづく」と表示される。続編の『ウィキッド:フォー・グッド(原題)』は2025年11月21日に米国で公開される予定だ。
映画『ウィキッド ふたりの魔女』ネタバレ感想&考察
自由を手にしたエルファバ
映画『ウィキッド ふたりの魔女』では、エルファバがいわゆる“西の悪い魔女”になるまでの物語が描かれた。ここからは『オズの魔法使い』のストーリーとも交差していくのだが、『ウィキッド』続編のネタバレをしない範囲で感想と考察を書いていこう。
エルファバは強大な力を持って生まれたが、人と違う見た目のために差別を受けてきた。怒りが生じたときに魔法の力が発動するが、マダム・モリブルとオズの魔法使いはそれを利用としようとしていた。
民衆は見た目でエルファバを遠ざけ、権力者はその力を利用しようとした。エルファバはそうした他者からの束縛から解放される道を選んだ。同時に動物達が受ける抑圧を受け入れること、自分が加害の側に立つことも拒否している。
「邪悪」というレッテルを貼られても、自由と公正を選び、権力の傘下に入ることを拒否したエルファバ。ラストシーンでの力強い姿は観ていて涙が止まらなかった。エルファバはようやく自由を手にしたのだ。
グリンダとエルファバの違い
一方、グリンダはエルファバと共に行くことを選べなかった。思えばグリンダは人を助けたがっていたが、いつもどこか独りよがりで、その動機は「良いことがしたい」という自らの欲求に根ざしていた。グリンダは誰かのために動いているようでいて、自分のために行動している節があったのだ。
“人気者だけど浅はかさがあり、偏見や独善性が抜けていない世間知らず”というグリンダのキャラクターは、アリアナ・グランデの見事な演技によって表現されていた。中盤まではエルファバを助けるグリンダが目立つ場面も多かったが、最後にはそれが逆転してエルファバにスポットライトが当たる展開になっており、助演キャラとしてのグリンダの強さが際立っていた。
グリンダはエルファバのようにシステムから抜け出すことはできなかった。強い魔法の力を持っていたかどうかが二人の違いだ。自由と公正を求めて権力に抗うエルファバの姿に自分を重ね合わせた人も多いだろう。だが、多くの人はグリンダのように自分が所属する組織の中で折り合いをつけて生きていくことを迫られる。
学校ではカリスマだったグリンダも、社会=エメラルド・シティに出れば選択を迫られる。グリンダを会社員、エルファバを個人事業主として見れば、その選択にも納得がいく。私達のような弱さを抱えていたのはむしろグリンダの方だったのだ。
ちなみにアリアナ・グランデの名誉のために書いておくと、アリアナ・グランデはフェミニストであり、トランスジェンダーの若者を支援する基金を設立するなど、マイノリティの権利保護活動に取り組んでいる。
映画『ウィキッド ふたりの魔女』でシンシア・エリヴォはアカデミー主演女優賞に、アリアナ・グランデはアカデミー助演女優賞にノミネートされており、ふたりの演技は高い評価を受けた。続編ではどんな仕上がりになっているのか。公開を楽しみに待とう。
映画『ウィキッド ふたりの魔女』は2025年3月7日(金) より全国公開。
『ウィキッド ふたりの魔女』のオリジナル・サウンドトラックは発売中。
ラストのグリンダの選択について、演じたアリアナ・グランデがその背景を語っている。詳しくはこちらの記事で。
『ウィキッド ふたりの魔女』のカメオについてはこちらの記事で。
『ウィキッド ふたりの魔女』続編の情報はこちらの記事で。