『劇場版ドクターX FINAL』公開
映画『劇場版ドクターX FINAL』が2024年12月6日(金) より劇場で公開された。本作は2012年から放送されてきた人気ドラマ『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』の初の映画化作品であり、完結編となる作品。人気キャラクターの蛭間重勝を演じてきた西田敏行の遺作でもある。
大門未知子役がキャリアで最大のハマり役になった米倉涼子にとっても、本作がシリーズのラスト作となるため、『劇場版ドクターX FINAL』には大きな注目が集まっている。上質なコメディドラマでありながら、社会派医療ドラマとしても世間に影響を与えてきた『ドクターX』は、どのような形で幕を閉じたのだろうか。今回は、そのラストをネタバレありで解説&考察し、感想を記していこう。
なお、以下の内容は本編の結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で『劇場版ドクターX FINAL』を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『劇場版ドクターX FINAL』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『劇場版ドクターX FINAL』ネタバレ解説
神津比呂人のモデルは?
映画『劇場版ドクターX FINAL』では、悪役として染谷将太演じる神津比呂人が登場。東帝大病院の会長になった蛭間に代わり病院長の座についた海老名を一瞬で蹴落として、新院長に君臨する。ドラマ『ドクターX』では、世間で話題になった様々な人物をモデルにしたキャラや発言が登場しているが、神津比呂人のモデルはイェール大学アシスタント・プロフェッサーの成田悠輔だろう。
経済学者の成田悠輔は「高齢者の集団自決」発言が強い批判を浴びたことが記憶に新しいが、神津比呂人も東帝大病院内のベテランドクターに「集団自決」してもらいたいと発言する。また、成田悠輔の弟は元クラウドワークス取締役副社長兼COOで起業家の成田修造で、神津比呂人に医療機器メーカーCEOの双子の弟・神津比呂人がいるという設定とも重なる。
神津比呂人は田中圭演じる森本光の地元の後輩で、森本を通して海外で困難な手術に成功した大門未知子のことを知る。そうして、『ドクターX』の主人公・大門未知子は神津比呂人の依頼を受けて、またも東帝大病院へと戻ってきたのだった。
森本が紐解いた大門未知子の過去
『劇場版ドクターX FINAL』の見どころの一つは、田中圭演じる森本が大門未知子に命を救われ、未知子の過去を辿る展開だ。森本は2012年に放送された『ドクターX』第1期に登場した外科医だが、その後、演じた田中圭が数々のドラマや映画で主演として引っ張りだこの売れっ子俳優となり、2017年の第5期と2021年の第7期で『ドクターX』に復帰している。
『劇場版ドクターX FINAL』では、大門未知子を尊敬する森本が広島県呉市を巡って、大門未知子の幼少期と研修生時代を知ることになる。ちなみに大門未知子が広島県呉市出身だと判明したのはドラマの最終シーズンになった第7期の第2話でのこと。履歴書がアップで映し出された時に出身地が明らかになっている。
研修生時代の大門未知子について語る河野明彦を演じたのは綾野剛で、田中圭と共に素晴らしい演技を披露している。研修生時代の大門未知子は落ちこぼれだったといい、大門未知子が今のようなスーパードクターになったのは、努力の結果だった。
ドラマシリーズ第5期では、大門未知子が失敗しない理由が、すべての患者に対して等しく準備を怠らず、手術時に起こりうるあらゆるリスクと対処法をノートにまとめているからだということが明らかになった。大門未知子は泥臭い努力の人だったということが、『劇場版ドクターX FINAL』でも改めて示されることになったのだ。
神原晶の危機
そして、大門未知子の師匠である神原晶が神津比呂人の前で脳梗塞により倒れてしまったことで事態は急転する。30年前、神原晶は神津比呂人と多可人が生まれてくる際に二人を取り上げるオペを担当していた。結果、多可人にだけ疾患が残り、比呂人は多可人の治療を大門未知子に頼んでいたが、治療は間に合わず多可人は脳死状態となってしまった。
神津比呂人は神原晶を憎み、目の前で倒れた晶を見捨ててその場を去ったことで、晶もまた意識が戻らない状態になってしまった。そして、大門未知子は晶を見捨てた比呂人に激怒することになる。『ドクターX スペシャル』(2016) で、愛人が目の前で倒れたのにその場を去ったビートたけし演じる黒須貫太郎に抗議した一件を思い出す展開だ。
もっとも、黒須の場合は神経麻痺でメスを握れない状態になっていたが、神津比呂人は凄腕の現役外科医であるにもかかわらず、救える命を見捨てようとした。それにより晶さんが意識不明の重体に陥っており、「目の前の患者を救うこと」をモットーにしてきた大門未知子にとって最悪の敵が現れたと言える。
『劇場版 ドクターX FINAL』ラストをネタバレ解説
最後のオペ
映画版『ドクターX』のラストでは、神津比呂人が乗る車が爆破され、比呂人は重傷を負ってしまう。神津比呂人は2年前から双子の弟の多可人に成り代わって活動していたが、出資していた会社への援助を打ち切ったことで恨みを買い、その会社の社長の赤川によって復讐されてしまったのである。
重傷を負った神津比呂人の治療を誰もが諦める中、大門未知子は脳死状態の双子の弟・多可人の臓器と腕を比呂人に移植する手術を敢行する。多可人は脳死状態になった時に自分の身体を比呂人のために使うことに同意する文書を残していたのだ。
神津比呂人と多可人の手術シーンは城之内、大間正子、加地、原守、森本が出席し、院長室から蛭間、海老名が見守る大団円。『ドクターX』ファンには嬉しい布陣で手術が進められるが、それでも神津比呂人は心停止に陥り、万事休す。ここで大門未知子は、なんと晶の心臓を比呂人に移植することを決める。もうこのあたりから涙が止まらなかったという人も多いのではないだろうか。けれど、晶さんを長年見てきた人なら、大門未知子の言う通り、「晶さんならこうする」と思ったはずだ。
ただし、まだ生きている患者の心臓を他者に移植することは、重大な医師法違反であり、倫理的・道義的にもやってはいけないことだ。そもそも心臓を取るということは患者が死ぬということであり、故意の殺人ということになる。
蛭間会長はこれを強く止めようとするが、その理由はこれまでのように病院の名誉を守ったり、自分の保身を図ったりするためではなかったように思える。今まで「メロンおじさん」と呼んできた晶を「晶ちゃん」と呼ぶようになった蛭間は、晶の死を見過ごすわけにはいかなかったのだろう。同時に、大門未知子が外科医として“死ぬ”ことも許せなかったはずだ。
晶の知られざる過去
それに、神津比呂人は神原晶の仇だ。晶に復讐した相手を晶の心臓を使って助けるという行為に大門未知子が至った理由は、晶と未知子が戦場で対応にあたった過去にあった。晶は、患者がテロリストだと言われても目の前の患者を助けると言い、輸血が足りなくなれば自分の血をその場で抜いて患者を助けていた。
患者を助けるためなら何でもする。晶の弟子だった未知子、晶との修行でスーパードクターになった未知子は、その晶の想いを汲んで晶の心臓を比呂人に移植したのだった。患者が誰であっても全ての患者に全力を尽くすという晶の姿勢は、確かにと大門未知子に受け継がれた。患者にお金があるか、偉い人であるかどうかに拘らず、全ての患者の手術で徹底した準備をしてきた大門未知子のルーツは、そこにあったのだ。
この回想シーンでは、「私、失敗しないので」という言葉は患者を安心させる言葉であると同時に、自分に言い聞かせるための言葉だということも明かされている。晶でも手術が怖いと思っていた、その事実と、大門未知子だって落ちこぼれの研修医だったという過去が重なる。
「ドクターX」と呼ばれるスーパードクターであっても、普通の人間と同じように感じ、努力している。映画版『ドクターX』は、最後にもう一度、大門未知子を“人間”として描き直したように思える。そして、「失敗しない」という言葉通りオペは成功し、神津比呂人は救われることになった。
蛭間と晶が残した言葉
このオペで大門未知子の医者としての命は絶たれたかに思われたが、このピンチを覆したのは蛭間重勝だった。蛭間はこのオペを「見ていない」と宣言。海老名に隠蔽するよう指示を出したのである。
これまで蛭間は、大門未知子の宿敵として体制維持と保身のために隠蔽を指示してきた。未知子やったオペを教授の手柄にすることも何度もあった。だが、今回蛭間は大門未知子を守るために隠蔽を指示したのである。フィナーレまで蛭間らしいやり方で魅せてくれる。最高の悪役である。
そして大門未知子は後日、晶が動画を残していたことを知る。晶は「やり残したこと」として、キューバでオペをした神津比呂人と多可人のことを挙げ、未知子に手術の続きをやってほしいと頼むのだ。晶は、医療の進歩によって将来的に二人を完治させられることを信じていた。そして、未知子が自分を遥かに超える医者になったとして、「大門未知子は私の誇りよ」と語りかけるのだった。
晶は多可人のことを諦めたわけではなく、いつか再手術できる日が来ると信じて延命していた。晶は、一度だって患者のことを見捨てていなかったのだ。絶対に患者を見捨てない、それもまた未知子が引き継いだ晶の教えであり、未知子がその教えを守った結果、晶を憎んでいた比呂人も救われたのである。
ドラマシリーズ第5期では、大門未知子自身がステージIIIの「後腹膜肉腫」を患ったが、オペの術式を詳細に記したノートを西山らに託して生き延びることになった。大門未知子は患者が自分であっても、最後まで見捨てなかったのである。晶から受け継いだイズムは未知子自身をも救ったことになる。
神津比呂人はこの晶の動画を観て、自分は生きていていいのかと疑問をこぼすが、大門未知子はこれを叱りつける。未知子はオペで比呂人と多可人の臓器に残った手術痕を見て、晶が懸命に二人を生かそうとしていたことを知っていたからだ。晶と多可人に生かされた比呂人は、未知子に礼を言い、未知子もこれに応えるのだった。
比呂人の右腕は多可人から完全に移植されたものだった。大門未知子がこの方法を選んだのは、比呂人が外科医としても生き続けるためのものだろう。ドラマシリーズの時から未知子はプロフェッショナルに対して、術後もその仕事を続けられる術式を選んできた。
『ドクターX スペシャル』では、未知子の右手を怪我させた黒須に晶は、メスを握れなくなることは外科医にとって「命を落とすも同じこと」と怒りを見せた。比呂人の命と右腕を守った大門未知子の判断からも、晶のイズムが読み取れる。
ラストの意味は?
晶がいなくなり、大門未知子は自らメロンを持って蛭間の元へ請求書を出しに行く。ここで加地がついに大門未知子に告白。だが、未知子はこれをスルーして去っていくのだった。ドラマ第7期では、未知子は最後の最後に野村萬斎演じる蜂須賀隆太郎と微妙な感じになったこともあったが、最後までマイペースを貫いている。
そして、未知子が蛭間に提示した請求額はわずか3万円。お金のことは晶さんに任せてきたため、相場が分からないのである。しかも城之内のギャラも含まれており、メロン代を引いたらマイナスになるような請求額だ。
未知子はドラマシリーズ第4期の最終話で上海の王超国際クリニックにヘッドハンティングされた際にも、報酬を「言い値で払う」と言われて300万円を提示している。この時は3億円を要求していると勘違いされて追い払われているが、やっぱり晶さんがいないと苦労しそうである……。
そして、もう一つの事実が明らかになる。城之内が銭湯のオフィスで晶の看護をしており、晶が生きていたことが示されるのだ。大門未知子は、神津多可人の利用危機メーカーで開発していると話していた人工心臓を晶に移植していたのである。
比呂人は、この人工心臓は多可人の脳の治療が可能になるまでの延命策だと話していたが、晶もまた、癌細胞を細胞研究所に預けて脳細胞の再生治療ができるようにいなる日を待っていた。「最後まで患者を見捨てない」という晶の教えを、大門未知子は晶に対しても守り抜いたのである。カッコ良すぎる。
「目の前の命を諦めない」という理念の基盤にあったのは、医療の進歩を信じて次に繋げるという「信じる気持ち」だ。それが「ドクターX」という作品に通底する信念だったと言える。
ちなみに大門未知子は無断で比呂人の人工心臓を盗んだことになるが、ドラマ版でも第4期で日本に数台しかないIREナイフを盗み出してオペを行っている。手癖の悪い人である。
そして、最後に城之内がお金を勝手に使うと言うと、晶の足が少し動く。晶の復活を示唆する明るいラストであり、その側にいるのが城之内というのも良かった。なぜなら、やっぱり大門未知子はオペをするために海外に飛んでいるからだ。
『劇場版ドクターX FINAL』のラストシーンでは、大門未知子は中東を訪れている。おそらくドバイだろう。そこの富豪にミソジニー発言を受けながらも、麻酔で眠らせ、警備兵たちから銃を突きつけられながらもオペに挑む大門未知子。どんな相手でも、どんな状況でも患者は見捨てない、“ドクターX”の姿がそこにあった。
エンドロールでは、これまでのドラマシリーズのカットが映し出される。そして、エンドロール後には2024年10月17日に逝去した蛭間重勝役の西田敏行への追悼の言葉が表示される。最後まで「ドクターX」ファンを笑顔にしてくれた名悪役だった。ご冥福をお祈りします。
『劇場版ドクターX FINAL』ネタバレ感想
フィナーレに相応しい名作
映画『劇場版ドクターX FINAL』は、12年間続いてきた「ドクターX」シリーズのフィナーレを飾るに相応しい作品だった。晶さんの心臓が移植されると決まってからの終盤は涙が止まらず、未知子が信念を貫いて晶まで守ったことが明らかになった時には改めて「大門未知子、カッコイイ」と、未知子を見守る海老名のような心境になってしまった。最後の黒いドクターウェアもダークヒーロー味があってカッコよかった。
『劇場版ドクターX FINAL』は『ドクターX』初の映画版ということで、派手に臓器や肢体を移植する展開が盛り込まれた。ドラマシリーズでこれをやってしまうと、逆にチープな感じもしてしまいそうだが、大門未知子のフィナーレを飾るオペとしては相応のアクロバットさだったように思う。
おかげで手塚治虫の名作漫画『ブラック・ジャック』のようなワクワク感と、倫理の瀬戸際に立つハラハラ感があり、医療ドラマとしても非常に楽しめる作品になっていた。一方で、ギリギリのところで“闇堕ち”を回避した人工心臓のアイデアも見事で、最後には観衆をホッとさせる大衆性も持ち合わせた傑作だったと言える。
続編はある?
では、本作で『FINAL』と銘打たれた『ドクターX』シリーズは、今後も制作される可能性があるのだろうか。『劇場版ドクターX FINAL』の公式パンフレットでは、監督の田村直己は「シリーズは終わるけれど、物語はずっと続いていく」「本当にこれでファイナル」と発言している。
大門未知子はこれからも自由気ままにオペをして人々の命を救っていくのだろう。だが、新作は作られないと考えてよい。大門未知子を演じてきた米倉涼子自身は2019年に低髄液圧症候群、2022年に急性腰痛症及び仙腸関節障害による運動機能障害を患ったことを発表している。米倉涼子は、アクションも多い大門未知子を演じることが難しくなってきたと各メディアで明かしている。
大門未知子自身も50歳手前という年齢であり、立場的にもそろそろ「頼もしいベテラン医師」という立場になりつつある。それは未知子を信頼する仲間が増えてきた結果ではあるのだが、弱きを助け体制に挑むという『ドクターX』のコンセプト上、転換期にあることは確かだ。
加地を主人公にしたスピンオフの『ドクターY』をはじめ、大門未知子以外の医者を通して『ドクターX』の世界観を広げていくというやり方もあるだろう。一方で、10年くらい経ったら、神原名医紹介所を引き継いで若い外科医を支える大門未知子の姿も見てみたい。
あるいは、ちょっとズルい考え方ではあるが、『劇場版ドクターX FINAL』が歴史に残るレベルの大ヒットを記録すれば、テレビ朝日が黙っていないだろう。TBSなら『TOKYO MER』に『ラストマイル』、フジテレビなら『踊る大捜査線』に『コンフィデンスマンJP』と、ドラマの映画化が鉄板となっている今、やっぱり『ドクターX』は手放せないという結論になってもおかしくはない。
だが、とりあえず今は、ハードな12年間を走り抜けた製作陣とキャスト陣を称えたい。いつかまた新たな『ドクターX』が観られる日を願いつつ。
映画『劇場版 ドクターX FINAL』は2024年12月6日(金) より劇場公開。
かどたひろしによるコミカライズ版『ドクターX』は幻冬舎から発売中。
『劇場版ドクターX FINAL』オリジナル・サウンドトラックは12月11日発売。
『劇場版ドクターX FINAL』西田敏行が演じた蛭間重勝の解説&考察はこちらから。
『劇場版ドクターX FINAL』で明らかになった神原晶の過去についての考察はこちらの記事で。
『劇場版ドクターX FINAL』で明らかになった大門未知子の3つの過去についての考察はこちらから。
加地秀樹と大門未知子の関係、『ドクターY』との繋がりについての解説&考察はこちらの記事で。
『劇場版ドクターX FINAL』での海老名敬とこれまでについての解説&考察はこちらから。
『劇場版ドクターX FINAL』に登場した染谷翔太演じる神津比呂人の考察はこちらから。
『ドクターX スペシャル』ラストのネタバレ解説&感想はこちらから。