ネタバレ解説&感想『ドクターX スペシャル』ラストの意味、ビートたけし演じる黒須の狙いは? ドラマとの繋がりを考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想『ドクターX スペシャル』ラストの意味、ビートたけし演じる黒須の狙いは? ドラマとの繋がりを考察

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『ドクターX ~外科医・大門未知子~ スペシャル』はどうなった?

ドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子~』は2012年に放送を開始したテレビ朝日系の人気ドラマ。米倉涼子演じるフリーランスの天才外科医・大門未知子が、腐敗した大学病院を舞台に痛快な活躍を見せる医療ドラマで、「私、失敗しないので。」というキャッチフレーズは広く世間に知られる言葉になった。

10年以上に渡りテレビ朝日を代表する人気ドラマの一つとして君臨してきた『ドクターX』だが、2024年12月7日(金) に公開される『劇場版 ドクターX FINAL』で完結を迎える。今回は、『ドクターX』の完結を記念して、2016年に放送されたシリーズ唯一のスペシャルドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子~ スペシャル』について、ネタバレありで解説していこう。

『ドクターX ~外科医・大門未知子~ スペシャル』はドラマシリーズの第3期と第4期の間に位置するストーリーで、ゲストとしてビートたけし、橋爪功、橋本マナミ、岸本加世子らが出演している。大学病院を飛び出した大門未知子には、どんな試練が待ち受けていたのだろうか。

ネタバレ注意
以下の内容は、『ドクターX ~外科医・大門未知子~ スペシャル』の内容に関するネタバレを含みます。

『ドクターX スペシャル』ネタバレ解説

ビートたけし演じる黒須の狙い

『ドクターX スペシャル』では、大門未知子と師匠でありエージェントでもある神原晶は石川県金沢市を訪れている。第3期のラストでは晶が重病に冒されたが大門未知子がオペで救い、大門未知子は晶が銭湯のロッカーに隠していた資金を使って宇宙旅行へ行ってしまった。ゆえにお金がないという設定になっており、ビートたけし演じるクロス医療センター院長の黒須貫太郎に雇われることになる。ちなみに『ドクターX スペシャル』の時点で大門未知子は40歳を迎えている。

クロス医療センターは国が認可した医療特区に設置されており、新薬を開発し、先進的な内科的治療を行うことが目的となっている。そのため、手術を行う外科医の大門未知子とは相性が悪いはずなのだが、黒須はある目的のために大門未知子を引き入れていた。

『ドクターX スペシャル』の患者はHey! Say! JUMPの伊野尾慧演じる氷室光二郎で、4回転半ジャンプ=クワッドアクセルを成功させた有名フィギュアスケーターということになっている。ちなみに現実でクワッドアクセルが披露されたのは、2022年に米国のイリア・マリニンが成功させた例しか存在しない。

黒須が大門未知子を雇った目的は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症を患った氷室に新薬での治療を行うためだった。まず氷室にクロス医療センターに転院してもらうために、スーパードクターの大門未知子を引き入れたのだ。

大門未知子の“失敗”

黒須は大門未知子に内科的治療がダメだった場合に氷室のオペを行うという約束を取り付けようとするが、これを断られる。そして、黒須はおでん屋の人物に大門未知子を襲撃させ、大門未知子は手術に必要な右腕を骨折してしまうのだった。

氷室との記者会見で大門未知子は、怪我を負うという医者としての「失敗」を認め、その後行方をくらましてしまった。神原晶も心配して探していたが、大門未知子は襲撃された時に助けてくれたマタギの赤木源の元で山暮らしをしていた。

マタギというのは山間部で狩猟をして生活をする人々のことだ。“一匹狼”の大門未知子は、狼が怪我をした時のように群れを離れて静かに回復の時を待っていた。大門未知子は源の息子の草太とも親交を深めていたが、ある日赤木から病院に帰るように言われる。手術が成功せず妻を失った赤木は、自信を失っていた大門未知子に、自分しか救えない命を救うよう告げた。

草太と別れるシーンは涙もの。演じた高村佳偉人の演技が見事だ。ちなみに高村佳偉人はドラマ『ACMA:GAME』(2024) で中学生時代の主人公・織田照朝を演じている。それにしても、大門未知子が神原名医紹介所の人々以外の人間に寄り添ってもらい、復活するというエピソードはかなり貴重だ。

H4見出しa黒須と晶の過去

クロス医療センターに戻った大門未知子は、ビートたけし演じる黒須からその理念を説かれる。黒須は元々外科医だったが、内科に転身して製薬会社と結託するようになっていた。また、黒須は神原晶がキューバで修行をしていた仲間だったが、晶にマフィアの手術を押し付け、晶はそれが理由で医師免許を剥奪され、さらに黒須はその手術の報酬を持ち逃げしていた。

『ドクターX スペシャル』の冒頭では、黒須と不倫関係にあった衆議院議員の一ノ瀬愛子が黒須と口付けを交わした直後に倒れてしまう事件が起きた。これを救ったのは大門未知子だったが、黒須は手術をせずにその場から逃げ出していた。手術をせず、晶の前から逃げ、愛人の前から逃げてきた黒須に対し、大門未知子は「私は手術して生かすから」と告げる。

このシーンで黒須は右手の震えを隠していることが分かる。部屋に入る際も右手でドアの鍵を開けるのに難儀しており、何らかの疾患を抱えていることが示唆されている。また、黒須はこのセンターに100億円の国家予算がついていることも明かしており、序盤で晶が提示した大門未知子の報酬1億円も難なく払うつもりだったものと考えられる。

『ドクターX スペシャル』ラストをネタバレ解説

いつもと違う大門未知子

そして、『ドクターX スペシャル』はクライマックスへ。練習していた氷室が吐血、その場にいた大門未知子がオペを担当する。麻酔科医は城之内博美、助手は加地秀樹と原守という安心の陣営。ちなみにこの『スペシャル』では大門未知子は右手を骨折した際に「最も信頼する外科医」として氷室に加地を推薦している。喧嘩してばかりの大門未知子と加地だが、医者としては互いの腕を信頼しあっていることが分かる。

そして、“ファン枠”で海老名も登場。元々氷室は第3期の舞台となった国立高度医療センターの金沢分院で手術を受ける予定だったが、黒須が大門未知子を使って転院させたため、海老名は蛭間総長の命を受けて氷室を連れ戻しにきたのだ。ちなみに海老名が完全に“大門側”に立つことになったのはこの『スペシャル』からであり、第4期以降はすっかり大門未知子のファンとしてコミカルな立ち回りを見せるようになった。

黒須は意外にも大門未知子の手術を止めず、失敗すれば外科の限界ということで氷室に内科治療ができると語る。注目したいのは、「失敗したら」という発言が出てもなお、大門未知子がいつものように「私、失敗しないので」と言わないことだ。

この前の黒須と対峙したシーンでも、「私は手術して生かすから」という新しい名言を放っている。すでに自分の医者としての失敗を認めており、怪我からの復帰間もない大門未知子は、いつもと違って自信満々に失敗しないと言い切ることをしない。これも珍しい大門未知子の姿だ。

黒須の助け舟

大門未知子は、術後も氷室がクワッドアクセルを飛べるように手術に「バルーン肺動脈拡張術」を取り入れる。ちなみに血管にバルーンを入れる作業は加地に任せており、ここでも大門未知子が加地の腕を買っていることが読み取れる。

大門未知子は体温を下げて血液の循環を止めるが、その許容時間のタイムリミットが来てしまう。循環停止を続ければ脳障害が残る可能性があるという中で、黒須は水素ガスを使うよう助言する。水素ガスを使うことで、再灌流障害(血流を再開した時に生じる障害)を防ぐ効果があり、循環停止の時間を延長することができるというのだ。

助言した黒須の顔を見て、晶は笑みを見せている。あの日キューバで自分を売って逃げた黒須が、外科医としての魂を取り戻そうとしている、そんな風に見えたのかもしれない。

無事に手術を終えた大門未知子は、氷室に「クワッドアクセル、失敗するんじゃないよ」と語りかける。手術室を出て右手を眺める大門未知子は、自分の復活を確信したことだろう。そして、復帰までの期間を支えてくれた赤木親子への感謝も噛み締めていたのかもしれない。

黒須がメスを握らない理由

そして恒例の晶さんによる高額請求。晶は、手術費、口止め料、そして大門未知子への慰謝料を含み3,000万円を黒須に請求する。愛弟子を怪我させたことへの怒りが滲み出ている晶は、「外科医なら分かるだろ、メスを握れなくなるのは、自分の命を落とすのも同じこと」と黒須に告げるが、そこには黒須のせいで医師免許が剥奪されてメスが握れなくなった自分のことも含まれているのだろう。

一方で、この言葉は黒須にも刺さっている。大門未知子はおでん屋でにいた黒須を訪れ、手術のアドバイスに礼を述べるが、目的はもう一つあった。黒須が右手でおでんを食べるのに苦労していることを確認すると、黒須が橈骨(とうこつ)神経麻痺であることを指摘するのだった。

黒須は神経麻痺によってメスが握れなくなったこと、5回もオペをしたが失敗したことで外科医を嫌い内科治療を推進していたのだ。ちなみに演じるビートたけし自身も1994年のバイク事故以降、右半身の一部に麻痺が残っている。

大門未知子は手術をしようかと提案するが、黒須は「俺以外の外科医は信用しない」と言う。『ドクターX スペシャル』では、怪我をした大門未知子が加地に手術を任せようとする場面もあった他、第5期で自身が病に冒された時には、西山を執刀医に指名し、加地、原、森本の執刀を受けた。自分以外の外科医にも信頼をおくところが大門未知子と黒須の最大の違いなのだ。

「外科医にとっての一番の喜びは、目の前の患者を救うこと」という名言も飛び出しつつ、大門未知子はここでようやく「やってあげようか? 私、失敗しないので」といつものフレーズを口にする。しかし、この申し出を黒須は「これからは薬の時代だ」と言って断るのだった。黒須は新薬でいつか自分の麻痺を治せる時代が来ると信じているのかもしれない。それはつまり“失敗する外科医”の尻拭いをするということであり、黒須もまた医者としての信念は持っていると言える。

『ドクターX スペシャル』のラストでは、赤木親子や神原名医紹介所の面々がテレビ越しに復活した氷室光二郎のクワッドアクセルを見届ける。氷室はテレビインタビューで大門未知子への礼を述べるのだが、その背後では、鮨「小春」の女将である金沢春美が黒須と口付けを交わしていた。

金沢春美は冒頭で晶に口付けしていたが、結局、すれ違った黒須の愛人になったということのようだ。男も女も信じないと嘆く晶の振込みであがった大門未知子は、麻雀の牌を持って「私、失敗せんさけね」と、「私、失敗しないので」の金沢弁バージョンを披露して『ドクターX スペシャル』は幕を閉じる。

『ドクターX スペシャル』ネタバレ感想

黒須を通して描かれたピンチ

これまでの大門未知子の強みは、フリーランスであるがゆえ、大学病院をクビになっても場所や国を変えて手術を続けられるという自由さにあった。だが、『ドクターX スペシャル』では手を怪我して物理的にメスを握れなくなるというピンチを迎えた。

そして『ドクターX スペシャル』は、他者に救われ、他者を信じる大門未知子の意外な一面を見られるという意味で重要なエピソードだ。特に加地を「最も信頼している外科医」と氷室に紹介したことは特筆に値する。

ビートたけしの名演も光り、黒須は晶さんが医師免許を剥奪されたという重大な事件の背後にいた人物として不足のない大物に仕上がっていた。晶のキューバ時代についての重要なヒントを残しつつ、師弟が「メスを握れなくなる」という共通のピンチを経験する演出になっている。

後のドラマシリーズとの繋がり

『ドクターX スペシャル』は今見返すと、後のシリーズに繋がる要素もある。わかりやすいところでは、直後に放送された第4期で、生瀬勝久演じるクロス医療センター総合内科部長の黄川田高之が東帝大学病院の総合内科部長に就任している。黄川田はこの時に初めて東京に出たという設定になっている。

また、大門未知子が失敗しない理由は、第5期で明らかになる通り、どんな患者が相手でも等しく事前の準備を怠らず、あらゆるパターンを想定していたからだった。『ドクターX スペシャル』で大門未知子は、クワッドアクセルを成功させるまで血の滲む努力をした氷室に対する敬意を表明しており、「失敗しない」の背景に努力があることを示唆する演出になっている。

ドラマの最終シリーズになった第7期では、大門未知子は10年ぶりに再会したフリーランスの看護師・那須田灯から「すっかり良い人になっちゃったんですね?」と言われている。一匹狼だった大門未知子も仲間を気に掛けるようになったということだが、『ドクターX スペシャル』での他者への信頼を見せる大門未知子の姿と重なる部分がある。

一方、第7期では大門未知子は蜂須賀隆太郎から「外科医は目の前の患者一人しか救えない」と、外科医の限界を指摘される。『ドクターX スペシャル』では大門未知子は黒須に「目の前の患者を助けるのが外科医の喜び」と発言したが、内科医療はより多くの人々を救えると話した黒須の理論を再び突きつけられることになったのだ。

一方、大門未知子は外科治療を信頼しなかった蜂須賀に「ヘタクソなオペ見すぎたんじゃない?」と、黒須のことを重ねるようにして同情している。そして最後には、「一人を救うことで、その一人が未来で救う多くの人の命を救うことになる」という理論を展開し、大門未知子は黒須&蜂須賀の理論を乗り越えていく。

『ドクターX スペシャル』での物語を含む様々な経験と出会いを経て、大門未知子は最終作となる『劇場版ドクターX FINAL』でどんな姿を見せるのだろうか。その最後の姿は、劇場で見届けよう。

映画『劇場版 ドクターX FINAL』は2024年12月6日(金) より劇場公開。

『劇場版 ドクターX FINAL』公式サイト

かどたひろしによるコミカライズ版『ドクターX』は幻冬舎から発売中。

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『劇場版ドクターX FINAL』オリジナル・サウンドトラックは12月11日発売。

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【ネタバレ注意!】『劇場版ドクターX FINAL』ラストの解説&感想はこちらから。

 

『踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件』ラストのネタバレ解説&感想はこちらから。

『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』ラストのネタバレ解説&感想はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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