『劇場版ドクターX FINAL』公開
映画『劇場版ドクターX FINAL』が2024年12月6日(金) より劇場公開され、大ヒットスタートを記録している。2012年に放送を開始したドラマ『ドクターX』が初めて映画化されると共に、『ドクターX』としては完結編を迎える。
今回は、『ドクターX』の屋台骨だった岸辺一徳演じる神原晶について考察していこう。晶さんはどうなったのか、そしてどんな道を歩んできたのだろうか。以下の内容は『劇場版ドクターX FINAL』の結末に関するネタバレを含むため、劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『劇場版ドクターX FINAL』の内容に関するネタバレを含みます。
『劇場版ドクターX FINAL』神原晶はどうなった?
神原晶の知られざる過去
映画『ドクターX FINAL』では、岸部一徳演じる神原晶の知られざる過去が語られた。晶がかつてキューバで医者をやっていたことは広く知られているが、その時代に晶は双子の比呂人と多可人に胎児手術を施していたことが明らかになる。
胎児手術とは、先天性の難病を抱える胎児が生まれてくる前に行う手術のことで、生まれてきた後の症状を軽減させることができる。しかし、双子の弟の多可人には疾患が残り、多可人は30年の間この疾患に苦しむことになる。
多可人が脳死状態になったことで比呂人は晶を責め立て、脳梗塞で倒れた晶を放置し、晶は意識不明の状態に陥ってしまった。『ドクターX FINAL』は、元祖ドクターXの過去を巡る物語でもあったのだ。
しかし、晶は多可人のことを諦めておらず、比呂人と出会った後に何者かに電話をかけている。この相手はおそらく多可人の主治医の進藤悠介だと思われる。ちなみに進藤悠介は、『ドクターX』で長らくナレーションを務めてきた田口トモロヲが演じている。
晶は主治医を進藤に引き継いだ後も、多可人のことを諦めていなかった。多可人が脳死状態になった時には進藤から連絡を受けて晶もすぐに駆けつけている。その晶の想いは、晶が残した動画を通して明かされることになる。
晶は、医療が進歩すればいつか多可人を根治させることができると信じていた。そして、多可人のオペを「外科医としてやり残したこと」と考えており、自分を超える外科医となった大門未知子に多可人のオペをやってほしいと依頼するのだ。
晶は、外科医として一番大事なこととして、「どんなに厳しいオペでも決して患者を見捨てない」という哲学を持っていた。晶はその原則を決して崩しておらず、いつか多可人のことも治すという思いを捨てていなかったのである。
未知子への影響
そんな神原晶の思いを継いだのが大門未知子であり、『劇場版ドクターX FINAL』では、二人が紛争地域でオペを行った時の出来事も描かれる。晶は患者がテロリストだと言われても目の前の患者のオペをして、輸血が足りないとなればその場で自分の血を抜いて患者を救っていた。
この教えは後に大門未知子と神原晶自身を救うことにもなる。ドラマシリーズの第5期では、未知子は難病を抱えた自分のオペについてあらゆるリスクを想定したノートを作り、それを他の医者たちに託した。どんな患者も見捨てない、それが自分自身であっても。その信念があったからこそ未知子は自分を救うことができたと言える。
また、未知子は『ドクターX FINAL』で「晶さんならそうする」と言って晶の心臓を比呂人に移植したが、晶には多可人の会社が開発した人工心臓を移植しており、晶もまた生き延びることになった。晶は医者として決して患者を見捨てなかった。その信念を持って育てた弟子によって、自分が患者になった時も見捨てられることなく生き延びることができたのである。
また、このオペは大門未知子が初めて神原晶に褒められたオペでもあり、「私、失敗しないので」を晶からスペイン語で「ジョ・ヌンカ・ファジョ(Yo nunca fallo)」として学んだ瞬間だった。晶は当時でもオペが怖いと話しており、「失敗しない」という言葉は自分に言い聞かせる意味があると明かしている。
『劇場版ドクターX FINAL』では、伊東四朗演じる毒島隆之介が再登場し、大門未知子の過去について語った。むしろ落ちこぼれだった大門未知子は、開業医だった父の友人・神原晶のもとで血反吐を吐くほど努力し、数々のオペをこなして“ドクターX”となった。生まれつきのスーパードクターなどおらず、不安を抱えながら、努力を重ねてヒーローになるという背景が、晶と未知子を通して描かれることになった。
神原晶の過去を考察
医師免許剥奪と「憧れの外科医」
ではここからは、神原晶の素顔について考察してみよう。これまで、神原晶の過去については『ドクターX スペシャル』(2016) やドラマシリーズの中で語られてきた部分もある。『スペシャル』ではビートたけし演じる黒須貫太郎とキューバの修行時代に出会っていたことが明かされた。
キューバ時代、黒須はマフィア関係の人物の手術を晶に投げ、晶はその手術に成功したが黒須が警察に情報を流したことで逮捕され、医師免許を剥奪されることになった。手術代も黒須が持ち逃げしており、「誰であっても患者を見捨てない」という晶の信念を利用された格好になり、後に晶は黒須を「人間のクズ」と呼んでいる。
その他にも、『ドクターY』第1期の第5話では、晶は外科医になった理由を未知子に聞かれ、「憧れの人がいたの」「本当に素敵な外科医だった」と語っている。医者を志すきっかけということなので、この“出会い”は大学入学よりも前の出来事と考えられる。
神原晶を演じた岸部一徳は、ドラマ『医龍-Team Medical Dragon-』(2006-) では野口賢雄を演じているが、その野口の若い頃を岸部一徳の息子の岸部大輔が演じている。このパターンが『ドクターX』でもできれば、若き日の神原晶を描かれることもあるかもしれない。
全共闘世代という背景
では、若き日の神原晶とはどのような人物だったのだろうか。神原晶はドラマ第7期が放送された2021年に73歳だったので、1948年ごろに生まれたということになる。この世代は全共闘世代であり、神原晶も学生運動が武力闘争にまで激化した時代に大学生だったと想像できる。
西田敏行演じる蛭間重勝は晶よりも一回り下だが、ピアノが趣味ということを除いては、出世争いや金儲けのことばかり考えていた。一方の晶は、オペラを愛し、猫に医療ドラマ『ベン・ケーシー』(1961-1966) からベンケーシーと名付けるなど、教養がチラ見えしている。スペイン語も話すことができ、語学堪能なインテリという印象だ。
ドラマシリーズで神原晶の同級として登場したキャラクター達も強者揃いだ。黒須貫太郎も大学卒業後にキューバに行き、医療特区に作られたクロス医療センターの病院長に成り上がっている。毒島隆之介は一時は東帝大学病院を追われたが、その後に理事長に就任している。その他にも晶の旧友には日本医師倶楽部会長の内神田景信もいる。
実際に、全共闘時代に学生だった面々には後に大物になった人物も多い。加えて、東帝大学のモデルは東京大学だと思われるが、東大紛争のきっかけとなったのは医局と医学部生(研修生)の間の闘争であり、この時代に東帝大学の医学部にいたということは、激動の学生時代を生き延びたということの証左でもある。
キューバと医療、晶の信念
神原晶が日本を出てキューバを拠点としたことの背景にも、全共闘世代であったことが影響していると考えられる。キューバは革命で成立した社会主義国家であり、その革命に多大な貢献をしたチェ・ゲバラは元医学生で、革命にあたっても軍医として活躍した。チェ・ゲバラはキューバの英雄であり、ゆえにキューバでは医療を重点においた政策が取られている。
キューバでは全ての市民が無償で医療を受けることができ、医師の海外派遣も積極的に行っている。社会主義の経済的平等の思想、全ての人に平等に治療を行うという理念は、確かに神原晶に受け継がれているように思える。
全共闘の闘争は、東大紛争の鎮圧、あさま山荘事件などを経て収束したが、この“敗北”を経験した神原晶は日本を捨ててキューバへ向かったのではないだろうか。そこで医療における平等の理念を追求し、大門未知子を育てたが、競争社会の中で未知子が存分に手術ができる環境を実現するために、高額請求をするようになっていったのだろう。それでも強い組織や金持ちにしか請求しないというところに、晶の信念が見える。
大門未知子を作った神原晶はどのように作られたのか、いつかその背景が明らかになることに期待したい。その日を待ちつつ、今は『劇場版ドクターX FINAL』の晶さんの姿を思う存分楽しもう。
映画『劇場版 ドクターX FINAL』は2024年12月6日(金) より劇場公開。
『劇場版ドクターX FINAL』オリジナル・サウンドトラックは12月11日発売。
かどたひろしによるコミカライズ版『ドクターX』は幻冬舎から発売中。
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