ラストネタバレ解説『バッドボーイズ RIDE OR DIE』現代のマイアミを疾走するバッドボーイズ 考察&感想 | VG+ (バゴプラ)

ラストネタバレ解説『バッドボーイズ RIDE OR DIE』現代のマイアミを疾走するバッドボーイズ 考察&感想

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2024年6月21日(金)より全国劇場公開

ウィル・スミスがアカデミー賞で平手打ちをした事件は記憶に新しい。そのウィル・スミスの復帰作であり、ウィル・スミスの映画界での出世作である「バッドボーイズ」シリーズの最新作『バッドボーイズ RIDE OR DIE』が2024年6月21日(金)に全国劇場公開される。

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』は平手打ち事件で問題となった“有害な男性性”も取り上げられており、1990年代の懐かしさと2020年代の新しさを兼ね備える映画となっている。本記事では『バッドボーイズ RIDE OR DIE』のラストについてネタバレありで解説と考察、感想を述べていこう。なお、以下の内容は本編のネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の内容に関するネタバレを含みます。

『バッドボーイズ RIDE ORE DIE』の物語をネタバレ解説

濡れ衣を着せられたバッドボーイズ

プレイボーイだったマイクもクリスティンと結婚して身を固め、家族思いのマーカスは孫を持つようになり、“バッドボーイズ”ではなくなった2人。幸せの絶頂にいたところに予想外の報道が入ってくる。それは『バッドボーイズ フォー・ライフ』(2020)でマイクの息子アルマンドに射殺されたハワード警部が、麻薬カルテルから長年賄賂を受け取っていたというニュースだった。

ハワード警部の汚名を雪ぐべく、マイクとマーカスはハワード警部殺しの依頼人を知るアルマンドの護送を行なおうとする。しかし、アルマンドの護送の情報が漏洩しており、マイクとマーカスも容疑者として追われることになった。追ってくるのは警察関係者だけではなく、マイクとマーカスにかけられた賞金を目当てにギャングたちも現われる。そこにはかつてマイクが拷問した銃の密売人で肉屋のDJカレドやハイチ人の姿もあった。マイクとマーカス、アルマンドは元AMMOの同僚のドーンとケリーを頼り、署内の裏切り者を探すことになる。

マイクとマーカスは麻薬カルテルのリーダーが、かつてメキシコ系組織担当の特殊部隊に所属し、アルマンドの勢力の拷問によって警察を裏切ったマックグラスだということを突き止めた。そこに更なる不運が訪れる。マックグラスの部下がマイクとマーカスの家を襲撃したのである。マーカスの家は『バッドボーイズ2バッド』(2003)で登場した義理の息子で海兵隊のレジーがギャング15人全員を射殺するという対処を下したが、マイクの家ではマイクの妻のクリスティンとハワード警部の孫娘キャリーが誘拐されてしまったのだ。

裏切り者の正体

マックグラスはクリスティンとキャリーの身柄と引き換えに、アルマンドの身柄とハワード警部が残した証拠を差し出すように連絡してくる。その連絡にマイクは疑問を抱く。それはマイクがハワード警部の情報を伝えたのは上司で元恋人のリタだけのはずなのにもかかわらず、何故マックグラスが「ハワード警部が証拠を遺していた」という事実を知っていたかだ。

長年共に犯罪と戦ってきたリタが汚職警官だとは考えづらい。リタはマックグラスと手を組んでいたアルマンドの母のイサベルを射殺した人物でもある。そのリタの周辺で汚職に手を染めている可能性があったのはリタの恋人で市長候補のロックウッドであった。

ロックウッドは9.11以降、国境警備にマックグラスの組織を利用してテロリストの情報を吸い上げ、その見返りとして麻薬の取引を見逃していたのだ。この9.11以降のアメリカ警察の変化は『バッドボーイズ2バッド』でも登場した設定であり、アメリカがテロリストにどのような対応を取っているのか、そしてそれによってアメリカ社会がどのように変化したのかを如実に表した演出と言える。

マイクの抱えるもの

ドーンの技術により、ウッドロックの音声をもとにした合成音声で、クリスティンとキャリーの身柄が拘束されている場所が廃墟のワニ園だと突き止める。マイクとマーカスは飛行機でウッドロック共に行動し、アルマンドが水辺から、ドーンとケリー、リタがワゴン車で待機しているという体制でクリスティンとキャリーを救出しようとする。マイクはマックグラスの頭を照準に捉えるが、パニック発作が出てしまい引き金を弾くことが出来ない。

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』では、マイクは結婚して守るべきものが出た途端にパニック発作に苦しめられるようになる。パニック障害を抱えているマイクだが、マイクは弱みを周りに見せることができず、パニック障害を認められない。

「バッドボーイズ」シリーズのマイクとマーカスは違う形でマチスモ(男っぽさを誇示すること)を表現してきた人物だ。それは第1作のマイケル・ベイ監督の時代から続けたものだ。しかし、そのようなマチスモの男性キャラクターがかっこいいという時代は古くなり、「バッドボーイズ」シリーズはマイクとマーカスをどのように描くのかという問題にぶつかっていた。

マーカスの場合、マチスモの表象は父親らしさということだったが、マーカスは『バッドボーイズ2バッド』からアンガーマネジメントなどのセラピーに通っていることが示唆されており、マチスモの解決を目指していた。しかし、マイクはそれを冷笑する立場で、作品ごとに違う女性と付き合い、カッとなって殴り合いや銃撃戦になることが多い。アンガーマネジメントができず、マチスモなど有害な男性性を見せてしまうのは現実のウィル・スミスの事件に通じるものがある。

水中に潜んでいたアルマンドのもとにワニが寄って来たことで、救出作戦が露呈してしまい、バッドボーイズvsマックグラスの組織の銃撃戦が展開されていく。パニック発作に悩まされ続けるマイクは死んだはずのハワード警部の幻影を見て、「お前は悪くない」という言葉を貰う。その後、マーカスからの平手打ちも貰い、自分たちがバッドボーイズであることを再認識して銃弾が雨あられのように降り注ぐ中に飛び込んでいくのだった。

『バッドボーイズ RIDE ORE DIE』のラストをネタバレ解説

贖罪の旅

それぞれが壮絶な銃撃戦を繰り広げる中、アルマンドはキャリーの救出に動き出す。アルマンドにとって、キャリーは自分が殺したハワード警部の孫娘であり、キャリーから見ればアルマンドは祖父の仇である。アルマンドはキャリーから恨まれようとも、憎まれようとも戦い続け、満身創痍となる。

アルマンドにとって、この救出作戦は贖罪の旅だったのだ。アルマンドは母親イサベルの命令で多くの命を奪い、罪を犯してきた。『バッドボーイズ フォー・ライフ』のラストシーンでもアルマンドは、マイクの息子として罪を償う方法を模索していた。キャリーを守り抜いてワニ園から脱出するアルマンド。そこでハワード警部の娘のジュディ連邦保安官に拳銃を突きつけられるアルマンドだったが、キャリーの説得もあってアルマンドは見逃される。

贖罪の旅を行くのはアルマンドだけではない。それは父親のマイクも同じだ。マーカス以上に怒りっぽく、すぐに手が出る性格のマイクは“バッドボーイズ”としてすべてを暴力と殺人で片づけてきた。それが『バッドボーイズ RID OR DIE』では因果応報として降りかかってくる展開があり、ギャングに懸賞金をかけられた際にDJカレドやハイチ人に襲われるなどがその良い例だ。

その贖罪の旅において重要だったのが、過去からの復讐による悲劇とも言える『バッドボーイズ フォー・ライフ』でのハワード警部の殉職だった。ハワード警部は父親を早くに亡くしたマイクにとっては父親代わりであり、イサベルに惚れてしまったという自分の行ないが巡り巡ってハワード警部の死に繋がったのは、マイクの心に深い傷を残していた。そのハワード警部が幻影の中でも「お前は悪くない」と言ってくれたことがマイクの心を救ったのだと考察できる。

新たなる旅路

マーカスとクリスティンを人質に取られてしまったマイクは重大な選択を迫られる。マーカスはマイクの結婚式にて心臓発作で倒れて以降、自分は死なないと言い続けていた。それでも夢でハワード警部と出会った場所そっくりの海岸で人質に取られたことで、マーカスはここが自分の死ぬ場所だと怯えていたのである。しかし、マイクはマーカスの言葉を信じてマーカスの防弾チョッキを撃ち、マーカスが悶絶して倒れたところの隙を突いてマックグラスの頭を撃ち抜き、クリスティンとマーカスを2人とも救うのだった。

すべてが終わり、マイクとマーカスは家族でBBQを楽しんでいた。マイクはそこでこれまでとは異なり、エプロンをつけてグリルを担当することを買って出る。アメリカにおいてグリルは父親が担当することが多いポジションだ。これまではマーカスの家族の客人としてBBQに参加していたマイクが、家族としてBBQに参加するようになったのである。

ここで義理の息子のレジーからチキンを焼くスペースを分けてほしいと言われるが、マイクは最初、グリルを“男”の職場だとして断る。だが、その後、レジーがマーカスの家でギャング15人を制圧したことを思い出して、マイクとマーカスはレジーにグリルを譲るのだった。

「バッドボーイズ」シリーズの贖罪の旅の終わりはようやく見え始めた。しかし、マイクとマーカスの有害な男性性を捨てる旅はこれから始まるのである。マイク役のウィル・スミスは55歳、マーカス役のマーティン・ローレンスは59歳ともう“バッドボーイズ”の年齢ではなくなった。それでもバッドボーイズが成長していく旅路はまだ始まったばかりなのかもしれない。

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』ネタバレ考察&感想

求められる“バッドボーイズ”像の変化

1995年に公開された『バッドボーイズ』の影響は大きく、2023年に公開された『トランスフォーマー/ビースト覚醒』のスティーヴン・ケイプル・ジュニア監督は有色人種が主人公でもかっこいいヒーロー像を描けることに感動し、トランスフォーマーの1人のミラージュが変形する車両をマイクが運転していたポルシェ・911にしたほどである。

第1作『バッドボーイズ』の監督を務めたのは車を撮らせたら右に出る者はいないと呼ばれるマイケル・ベイ監督である。マイケル・ベイ監督と言えば過激なカースタントとセクシーな女性像、性に関するジョークでお馴染みだ。“マイケル・ベイ”節全開で撮られた『バッドボーイズ』は、現代にそぐわないジョークや演出なども出てくる。

それにも関わらず、マイケル・ベイ監督がメガホンを取った『バッドボーイズ』と『バッドボーイズ2バッド』から17年越しに、アディル・エル・アルビ&ビラル・ファラーがメガホンを取り『バッドボーイズ フォー・ライフ』が撮影された。『バッドボーイズ フォー・ライフ』は第1作目と第2作目を合わせた興行収入を越える4億ドルを叩き出した。その『バッドボーイズ フォー・ライフ』のスタッフが再集結して『バッドボーイズ RIDE OR DIE』は撮影されたのである。

その大ヒットの背景には、“バッドボーイズ”像の変化があると考察できる。『バッドボーイズ』と『バッドボーイズ2バッド』では、マイクとマーカスは暴力と殺人で事件を解決してきた。しかし、『バッドボーイズ フォー・ライフ』ではマイクが息子のアルマンドに生きて罪を償う道を示し、それまで常に今を生きる姿勢だった“バッドボーイズ”が過去の事件に悩まされる場面が描かれた。

変わるヒーロー像と変わらないヒーロー像

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』ではマイクは結婚して家族を持ち、これまでのプレイボーイ的なキャラクターではなくなっている。そして守るべきものが増えた途端にパニック発作に悩まされるなど、弱さを抱えた人物として新しく描写され直した。マイクは育ての父親とも言えるハワード警部の家族と、自分の実の息子のアルマンドの板挟みに遭うという苦悩が生々しく描かれている。

この弱さをさらけ出せないところがマイクをヒーローから人間にしている。そして、その有害な男性性と向き合い、その過程でハワード警部やアルマンドとの問題とも向き合うことが現代で求められているヒーロー像に当てはまり、求められている“バッドボーイズ”像の変化に合わさっているのだと考察できる。

その一方、『バッドボーイズ RIDE OR DIE』では冒頭でマイクがポルシェ992.1(911ターボS)で、スピード全開にして公道を荒々しく走り、それにマーカスが酔ってコンビニに寄りたがる場面などは往年の「バッドボーイズ」シリーズをよみがえらせてくれる作品となっている。

前述の通りマイク役のウィル・スミスは55歳、マーカス役のマーティン・ローレンスは59歳と“バッドボーイズ”の年齢ではない。それでも第1作の『バッドボーイズ』を観て育った世代が「バッドボーイズ」シリーズをブラッシュアップし続け、それによって新しい『バッドボーイズ』が制作され続けることに期待したい。

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』は2024年6月21日(金)より全国劇場公開。

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』公式サイト

マイケル・ベイ監督作『バッドボーイズ』と『バッドボーイズ2バッド』のツインパックは発売中。

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アディル・エル・アルビ&ビラル・ファラー監督作『バッドボーイズ フォー・ライフ』のBlu-rayとDVDは発売中。

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『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の音楽紹介はこちらから。

映画『ザ・ウォッチャーズ』のネタバレなしレビューはこちらから。

映画『ブルー きみは大丈夫』のネタバレ解説&考察はこちらから。

『マッドマックス:フュリオサ』のラストについての解説&考察はこちらの記事で。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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