1985年公開の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
ロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルの共同脚本、ロバート・ゼメキス監督、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮で制作されたSF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、タイムトラベル映画の代表的な作品として知られる。マイケル・J・フォックスが主演を務めた本作は、1990年公開の『PART3』まで三作品が公開された。
ロバート・ゼメキス監督最新作『HERE 時を越えて』が2025年4月4日の日本公開を控える今、改めて映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』について解説しながら感想を記していこう。なお、以下の内容は重要なネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ネタバレ解説
「スティーブン・スピルバーグ プレゼンツ」
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、「スティーヴン・スピルバーグ プレゼンツ」という表記から幕をあける。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はスピルバーグ作品と勘違いされがちだが、本来はロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルによる作品である。
当時20代だったロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルは、本作が公開される5年前の1980年から制作元を探し続けていた。コロンビア・ピクチャーズに断られ、ディズニーに断られ、そしてスティーヴン・スピルバーグの元にこの企画を持ち込んだ。
スピルバーグはこの企画を大変気に入ったが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に取り掛かる前にロバート・ゼメキスは『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984) を制作。無名の監督がスピルバーグの力で売れたという印象が付かないように、一つの結果を残して『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を制作したのである。
ちなみに『ロマンシング・ストーン』の音楽を手がけたアラン・シルヴェストリは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズを含む全ゼメキス作品の音楽を手掛けている。最新作『Here 時を越えて』の音楽を手掛けたのもアラン・シルヴェストリだ。
一方で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の企画が実現したのはスティーヴン・スピルバーグの力に拠るところが大きいことも事実。冒頭の「スティーヴン・スピルバーグ プレゼンツ」の背景には、こうした経緯があったのだ。
なお、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の製作を担当したのはスピルバーグのアンブリン・エンターテインメントで、配給会社はユニバーサルとなっている。その後、テーマパークのユニバーサルスタジオの看板アトラクションにもなった本作は、コロンビアとディズニーから難色を示された後、スピルバーグによってユニバーサルにもたらされた作品だったのである。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』誕生の経緯とスティーヴン・スピルバーグが果たした役割については、こちらの記事が詳しい。
ドクと日本の過去
1985年を舞台とする『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒頭では、ドクの部屋で古いヒル・バレー新聞の切り抜きが映るが、字幕は「ブラウン屋敷跡が団地に」と表示される。新聞からは、ブラウン屋敷が火事で崩落したこと、跡地が宅地開発業者に売却されたことが読み取れる。
ブラウンというのはクリストファー・ロイド演じるドクの本名で、この新聞ではドクがかつては豪邸に住んでいたことが示されている。1955年にタイムスリップする『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の中盤では、過去の世界のドクは新聞で示されていた豪邸に住んでいる。
また、このシーンではトヨタが決算期バーゲンを行っているというラジオCMが聞こえるのだが、1985年は日本の資本が次々と海外に進出していた時期だ。主人公のマーティもトヨタの車に憧れ、カシオの腕時計を身につけ、アイワの音楽プレーヤーを使用している。
同時に日本の企業が海外企業を買収し、日本からの観光客や海外出張のサラリーマン達が海外で幅を利かせていた時期であり、図に乗った日本人を疎む空気もあった。40年以上が経過した今では、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』から漏れ出る“調子の良い日本”のバイヴスも、すっかり「別の世界線」の出来事のように感じられる。
そして、あまりにも有名なマーティがスケボーで学校に向かうシーンで流れる曲は、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「パワー・オブ・ラヴ」(1985)。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のために書き下ろされた曲で、映画のヒットと共に同曲も全米1位のヒットを記録している。
なお、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で流れる音楽は全曲こちらの記事で解説している。
明るい音楽と共に、マーティはドタバタながらも変人と言われるドクや恋人のジェニファーといった周囲の人々に恵まれているような雰囲気が紹介されている。しかし、家に帰ると大人になっても高校時代の同級生で今は会社の上司であるビフ・タネンにいびられている父ジョージの姿がある。
そんな家庭だからか、マーティは理由も言わずに深夜に来てくれと言うドクの依頼を断らない。ドクことエメット・ブラウン博士は乗用車のデロリアンを改造し、時速140キロに達するとタイムトラベルができるタイムマシーンを発明。犬のアインシュタインを1分後にタイムトラベルさせて成功を証明するのだった。
マーティが過去に行った理由は?
ドクは1955年11月5日にタイムトラベルの理論を思いついて以来、30年間を費やしてタイムマシーンを完成させていた。タイムマシーンの燃料はプルトニウムで、冒頭のニュースで報じられていた「原子力研究所でのプルトニウム紛失事件」は、ドクがリビアの過激派と取引をして起こした事件であったことが明らかになる。ちなみにこのシーンは今観るとギョッとするくらいに“リビアの過激派”がステレオタイプな描かれ方をしている。
ドクは25年先の未来に行こうと考えていたが、そこに偽物の爆弾を掴まされたリビアの過激派が現れ、ドクは射殺されてしまう。逃げようとしたマーティはデロリアンに乗り込み、その時点で設定されていた時代へとタイムスリップしてしまうのだった。
この直前にドクは帰りの分のプルトニウムを積んでいないことに気づいており、マーティは片道燃料でタイムスリップしてしまったことになる。そして、設定されていた時代は、ドクがタイムトラベル理論を思いついた時の思い出話をする際に入力していた1955年11月5日だった。
レーガン大統領の件の意味
マーティがタイムスリップした先の1955年では、自宅があったライオン・エステートの土地は開発前で、止まっていた時計台の時計も動いている。劇場ではロナルド・レーガン主演の「バファロウ平原」が上演されている。マーティがレーガンの名前に反応しているのは、1985年時点ではレーガンは米国の大統領を務めていたからだ。
ロナルド・レーガンは俳優から政治家に転身して1967年にカリフォルニア州知事選に当選。8年間州知事を務め、1980年の大統領選で3度目の挑戦にして大統領に就任している。後のシーンで「ジョン・F・ケネディって?」というセリフも出てくるが、ケネディが全米で知られるようになったのは1956年に副大統領候補の一人として大統領選に臨んでからだ(当選は1960年)。
マーティはドクに1985年の大統領を聞かれてレーガンと答えるも、信じてもらうことができなかった。ドクは「副大統領はジェリー・ルイスか?」と皮肉を言っているが、ジェリー・ルイスは有名なコメディアン・俳優で、ロバート・デ・ニーロ主演で後に映画『ジョーカー』(2019) に強い影響を与えた『キング・オブ・コメディ』(1982) などへの出演で知られる。
マーティはダイナーでビフにいびられている若き日の父ジョージと出会うが、車に撥ねられそうになったジョージを助けようとして自分が撥ねられてしまうことに。1985年では、母ロレインは自分の父がジョージを車で撥ねたことが二人の出会いのきっかけだったと話していた。その撥ねられる役目がジョージからマーティに代わってしまったことで、マーティは若き日の母ロレインに迫られることになってしまうのだ。
ジゴワットとSF劇場
過去のドクと合流したマーティは、燃料のプルトニウムの代わりに落雷のエネルギーを利用して未来へ帰ることに。「1.21ジゴワット」のエネルギーが必要とされているが、「ジゴワット」は共同脚本家のボブ・ゲイルが「ギガワット」を誤って綴ったもの。最近になって「テラ」という単位が当たり前になったように、当時はまだ「ギガ」という単位は一般的ではなかったのである。
ドクとマーティは、30年前に雷が落ちて時計が止まったとされる時計台への落雷が土曜日に迫っていることから土曜日を未来に帰る日に設定。しかし同時に、マーティと母と父の出会いを邪魔してしまったことで、未来のマクフライ家が消えようとしていた。土曜日までに母と父の仲をとり持つというのがマーティの任務になったのだった。
SF小説を書いているが、才能がないと言われたくないと誰にも小説を公開していない若き日の父ジョージ。マーティもまた自分の音楽の才能を認められておらず、父にも自分と同じような時期があったのだということを知るのだ。
ちなみにジョージが家に帰って観ると言っている『SF劇場』とは、1955年4月に放送が始まったセミドキュメンタリーシリーズで、当時のか科学をベースに「もしも」を探究していく番組だった。同シリーズは1957年に終了している。ジョージが枕元に置いている『ファンタスティック・ストーリー』は1950年から1955年まで刊行されたマガジンだ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ラストの意味は?
マーティが変えた過去
なんとかジョージとロレインをダンスパーティーに連れ出したマーティだが、現れたビフに連れ去られ、ロレインはビフから暴行を受けそうになる。その時、ジョージがロレインを助けてロレインとジョージは急接近することになる。この直前にロレインがマーティに口付けをしたが、親族にキスをしたような違和感を感じたこともロレインの気持ちがマーティから離れることになった要因だった。
このシーンの一連の流れは、暴行されている女性を助けて「男になる」演出や、マリファナを吸っている黒人ミュージシャン達のステレオタイプな描かれ方など、やはり今観ると引っかかる箇所は多い。マーティも父と母を繋げるために自分がロレインに恐怖を与える芝居を提案するなど、あくまで「父と息子」の物語のために他の属性のキャラクターが動員されている感じは強い。
それでも、二人が結ばれずマーティが消える未来は変わらず、マーティを助けるために負傷したミュージシャンに代わり、マーティがギターを弾くことに。そして、ジョージがもう一度ロレインを守るためにロレインを誘った男性を突き飛ばして、二人が結ばれてマーティが生まれる未来が元に戻っていく。
ウイニングランとしてマーティが演奏するのは、チャック・ベリーの「ジョニー・B. グッド」。“ロックンロールの生みの親”とも言われるチャック・ベリーの名曲だが、発表されたのは1958年のことだ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、マーティに演奏の機会を与えるマーヴィン・ベリーというミュージシャンがチャック・ベリーのいとこという設定になっている。この曲を聴いたマーヴィンがチャック・ベリーに電話をかけてこの曲を聴かせたことで、チャック・ベリーの「ジョニー・B. グッド」が誕生したということになっている。
両親の馴れ初め問題を解決したマーティは、時計台への落雷の時間が迫る中ドクと合流。未来へ戻る直前、マーティはドクが30年後に過激派に撃たれるという警告の手紙を残したが、未来のことを知ってしまったら未来を変えてしまうかもしれないと危惧するドクはこれを破り捨ててしまう。
ドクへの忠告を口頭で伝えることもできず、マーティは過去へ戻った1985年の10分前、つまりドクが撃たられる直前の未来へ帰ることにした。予定通り時計台に雷が落ち、マーティはそのエネルギーで未来へ。ドクが全力でケーブルを繋ごうとするシークエンスは、シンプルながら今観てもハラハラする。
ジョージの本の意味は?
未来へ戻ったマーティだが、時計台の場所に帰ってきたため、ドクが撃たれる瞬間には間に合わず。だが、ドクは破った警告の手紙をテープで繋ぎ合わせて復元しており、自分が撃たれることを知っていた。防弾チョッキを着ていたことでドクが死ぬ未来はなくなったのだった。ドク自身も自分の手で未来を変えたのである。
このシーンでマーティは、過激派から逃げて過去へと向かう自分の姿を見ている。つまり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界では、過去に干渉した時には未来に影響を与えるが、過去や未来に行った時には、その時代の自分もそこに存在しているということである。1955年はトラベラーのマーティがまだ生まれていなかっただけで、もしドクが1955年にタイムトラベルしていれば、1955年のドクと出会うことになる。
無事に帰還したドクは改めて30年後の未来、つまり2015年へと向かう。次の朝、目を覚ましたマーティは、歴史改変前とは見違える母ロレインと父ジョージの姿を目にする。ビフはマクフライ家の車にワックスがけをしており、すっかりジョージとの関係は逆転していた。
さらにジョージはSF作家として初めての小説を刊行していた。タイトルは『A Match Made in Space(宇宙で作られた出会い)』で、表紙の中央には1955年にマーティが放射能防護服を着て「ダース・ベイダー」を名乗り、ジョージにパーティーへ行くように脅した時の姿が描かれている。おそらくジョージがあの経験から着想を得て執筆したものなのだろう。
ちなみに、ジョージが作家として成功していそうなのに、これが「初めての小説」と紹介されていることには、一つの仮説が立てられる。それは、ジョージは短編小説や中編小説を発表してヒットしており、ようやく出版した長編小説が『A Match Made in Space』だったのではないかというものだ。
その証拠に、ロレインは届いた本を「Your first novel.」と言っている。「novel」とは長編小説のことだ。ジョージはこれまで短編(Short story)集や中編(Novella・Novelette)をまとめた本を出しており、その中から映像化された作品もあって売れっ子になったのではないだろうか。長編デビューが当たり前ではない米国では十分にあり得るキャリアだ。
続編に繋がる?
そんな裕福な家庭の子どもとなったマーティは、憧れていたトヨタのピックアップまで手に入れていた。ジェニファーとも再会を果たし、全てがうまく行ったと思われたが、ラストではドクが生ゴミを燃料に使えるようになった新型のデロリアンで2015年から帰ってくる。
ドクはジェニファーとマーティの子ども達に何かが起きると言い、二人を説得して未来へと向かう。進化したデロリアンは空を飛んでタイムトラベルすることができ、ドクの「これから行くところに道はいらん」というセリフで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は幕を閉じる。ドクのこのセリフはロナルド・レーガン大統領が翌1986年の一般教書演説で引用することになる。
明らかに続編へと続くラストだが、公開時点では続編制作は予定していなかったという。続編の公開までは4年の月日を費やしている。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の興行収入は全世界で3億8,110万ドルにのぼり、1985年のナンバーワンヒット作品となった。反響を受けて1989年公開の『PART2』、そして1990年公開の『PART3』が製作されている。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ネタバレ感想&考察
明るさが生む独特な魅力
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は上記でも触れてきたように、1985年当時の欠陥のある倫理観をベースにしてはいるものの、音楽の使い方や明快なストーリーによって、今にはない80年代の明るい雰囲気が伝わってくる作品になっている。
本作で扱われるタイムトラベル理論は、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のような、過去に干渉すればタイムラインが枝分かれするという理論ではない。時間軸は一本で、過去に干渉すると未来は変わるが、別の時間に飛べばそこにも別の自分がいるという理論になっている。
この理論はタイムパラドックス(タイムトラベルで発生する矛盾)の発生を前提としている。例えば、マーティはチャック・ベリーの「ジョニー・B. グッド」を聴いてこの曲を知っていたが、1955年ではチャック・ベリーはマーティの「ジョニー・B. グッド」を聴いてこの曲を作ったことになっている。
また、マーティの名前も、1955年にジョージとロレインを結びつけたマーティの名前から取られたことになっている。マーティがタイムトラベルをする前にはジョージとロレインはマーティに出会っていないはずで、名前の由来が宙に浮いてしまう。卵が先か鶏が先か、分からなくなってしまうのだ。
だが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はこうした設定の矛盾も含めて気軽な気持ちで楽しむことができる作品だ。ここからシリーズは「未来は自分で変えられる」というテーマをベースに、未来と過去での冒険が繰り広げられる。
一方で、繰り返しになるが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』には引っかかる点も多い。その辺りはこちらの記事に詳しい。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」トリロジー 35th アニバーサリー・エディション 4K Ultra HD + ブルーレイは発売中。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でのマーティのファッションについての解説はこちらから。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で流れた音楽の解説はこちらから。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のキャスト紹介はこちらから。