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『エイリアン:ロムルス』公開中
映画『エイリアン:ロムルス』は「エイリアン」シリーズの最新作。リドリー・スコット監督が手がけた第1作目『エイリアン』の公開から45年の時を経て、同作のその後の出来事が描かれる。
「エイリアン」シリーズでは、エイリアンだけでなく人間のアンドロイドの衝突と協力、そしてウェイランド・ユタニ社を中心とした企業の思惑もポイントだ。さらに、ウルグアイ出身のフェデ・アルバレス監督が手がけた『エイリアン:ロムルス』では、これまでのシリーズにも登場した“植民地”という舞台設定が重要になる。
今回は、『エイリアン:ロムルス』の植民地に関する設定と、フェデ・アルバレス監督がそこに込めた思いを探っていこう。
『エイリアン:ロムルス』で描かれた植民地
植民地に生きる若者たち
映画『エイリアン:ロムルス』の舞台になったのは、ウェイランド・ユタニ社が支配する植民地惑星のジャクソン星。この星の名前は、英語では「Jackson’s Star」になっており、“ジャクソン”という人物の管轄下にあることを窺わせる。2142年には、「Denny’s(デニーズ)」「Tully’s(タリーズ)」といった店名と同じ感覚で「◯◯(人名)’s」の名前が植民地にも付けられているのだ。
「エイリアン」シリーズで共通の表記としては、ジャクソン星は「LV-410」という番号が振られている。『エイリアン』『エイリアン2』(1986) ではLV-426、『エイリアン:コヴェナント』(2017) ではLV-223が舞台になっており、どちらかというとLV-426に近い惑星であることが予想できる。
ジャクソン星には鉱山があり、入植民たちは事故が相次ぐ劣悪な環境で労働に従事させられていたようだ。主人公のレイン・キャラダインは課された労働への従事を終えて別の惑星への移住を申請するが、不条理にも労働期間が延長されてしまう。
明らかにジャクソン星の治安は悪く、衛生的にも劣悪な環境にある。『エイリアン:ロムルス』では、若者たちがその植民地を抜け出そうとして物語が動き出す。
パンフレットの情報によると、リーダー格のタイラーは地球生まれだが物心ついた頃にはジャクソン星におり、病気が蔓延し、深刻な貧困状態にある惑星を出るためにリスクを取る。人生と未来を奪われた若者たちが、企業の支配から逃れようとするのが『エイリアン:ロムルス』の物語なのだ。
第三世界の物語
これまでの「エイリアン」シリーズでは、ウェイランド・ユタニ社の入植を目指す従業員や、会社の意向で調査を行う学者などが主人公になってきた。今回の『エイリアン:ロムルス』では、プロフェッショナルではなく、訓練を受けていない素人の若者が主人公になった。
新天地に希望を抱く入植者側の立場から、植民地の外に希望を抱く二世の立場へ。映画『エイリアン:ロムルス』では、なぜ植民地をスタート地点に設定したのだろうか。米Geekcultureのインタビューでは、その背景についてフェデ・アルバレス監督はこう語っている。
この映画は第三世界の物語なので、皆さんが自分と結びつけてもらえることを願っています。第三世界は私が生まれた場所です。第三世界で生まれれば、良くも悪くもそれが現実であり、成長すれば正しい行いをしようとするんです。
ですから、自分が間違った場所に生まれたのではないか、自分の周囲がメチャクチャになっていると感じている若者たちの物語では、そこから抜け出して、両親を見て「あの人たちみたいになりたくない」と思うはずです。それこそが第三世界の現実なんです。
第三世界とは、主にアジアやアフリカ、南米を中心とした西側にも東側にも属さない国のことだ。経済的な成長の余地がある国であることが多く、かつては「発展途上国」「後進国」と呼ばれていたが、あるべき発展の方向が存在すると誤認させる表現であるため、近年は「第三世界」や「グローバルサウス」と呼ばれている。
ウルグアイ生まれのフェデ・アルバレス監督は、第三世界に生まれた自分の視点を『エイリアン:ロムルス』に取り入れたようだ。現在はロサンゼルスを拠点にしているフェデ・アルバレス監督、映画監督としてハリウッドを目指した自分の経験をレインたちに重ね合わせたのだろう。
一方で、フェデ・アルバレス監督は、レインたちが希望を抱いて目指した惑星ユヴァーガについて、「おそらく実際にはひどい場所」と語っていた。フェデ・アルバレス監督の「エイリアン」には、同監督が見た理想と現実が表現されているのかもしれない。
幻のフェデ・アルバレス監督版『エイリアン3』
ブロムカンプ監督版が頓挫
また、このインタビューではフェデ・アルバレス監督による別バージョンの「エイリアン」映画のアイデアがあったことも明かされている。
「エイリアン」シリーズを追ってきた方ならご存知のように、「エイリアン」の新作をめぐっては『エイリアン:ロムルス』の公開までに紆余曲折があった。2015年、『第9地区』(2009)、『エリジウム』(2013) で知られるニール・ブロムカンプ監督が『エイリアン3』(1992) と『エイリアン4』(1994) を“なかったこと”にして『エイリアン2』の続編を作ると発表されたのである。
『エイリアン:コヴェナント』が公開された2017年には、リドリー・スコットによってニール・ブロムカンプ監督版「エイリアン」の企画が正式に中止になったことが明かされた。「エイリアン」新作は宙に浮いた状態になっていたが、ウォルト・ディズニー社による旧20世紀フォックスの買収が発表された後の2019年に『エイリアン:ロムルス』の企画の存在が明らかになった。
リプリー登場案も
上記のインタビューでは、ニール・ブロムカンプ監督の「エイリアン」が製作中止になった際に、『ロムルス』のフェデ・アルバレス監督が別バージョンの「エイリアン」を売り込んだことを明かしている。リドリー・スコットが立ち上げたスコット・フリー・プロダクションに、ニール・ブロムカンプ監督と同じく『エイリアン3』をやり直すバージョンをピッチしたという。
そのバージョンでは、シガニー・ウィーバー演じるエレン・リプリーと、マイケル・ビーン演じるドウェイン・ヒックス、そして、大きくなったニュートが登場する予定だったそうだ。この三人は『エイリアン2』のラストで生き延びた人間だが、デヴィッド・フィンチャー監督の『エイリアン3』(1992) ではリプリー以外は死んだことになっていた(アンドロイドのビショップは下半身が破損した状態)。
幻となったフェデ・アルバレス監督版『エイリアン3』は、生き延びたリプリーらが、傭兵の集団や悪の新型アンドロイドがいるジャングルで、新たなゼノモーフ(エイリアン)と戦うという設定だったという。地上戦をベースに考えていたことと、悪のアンドロイドを登場させようとしていたこと、そしてシガニー・ウィーバー演じるリプリーを登場させようとしていたことは興味深いポイントだ。
第三世界の視点を描いたフェデ・アルバレス監督の「エイリアン」は、今後どのように発展していくのか、続報を注視しよう。
映画『エイリアン:ロムルス』は2024年9月6日(金) より全国の劇場で公開。
『エイリアン:ロムルス』オリジナル・サウンドトラックは配信中。
「エイリアン」シリーズはBlu-rayコレクションが発売中。
映画『エイリアン3』のその後を新たに描くオリジナル小説『
』( T・R・ナッパー著, 入間眞 訳)は9月4日(水)発売。Source
Geekculture
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