SF作家対談 天沢時生×水町綜:不良とパンクとSFと | VG+ (バゴプラ)

SF作家対談 天沢時生×水町綜:不良とパンクとSFと

SF作家の天沢時生、水町綜に対談形式でインタビュー!

オンラインSF誌Kaguya Planetにて、SF作家の天沢時生、水町綜に対談形式でインタビューを開催した。インタビューのテーマは「不良とパンクとSFと」。また2人のこれまでの執筆の来歴などもお聞きした。

天沢時生は、2018年に「ラゴス生体都市」で第2回ゲンロンSF新人賞を、2019年に「サンギータ」で第10回創元SF短編賞を受賞。その後『小説すばる』や『S-Fマガジン』、伴名練編『新しい世界を生きる14のSF』(ハヤカワ文庫JA)などのアンソロジーなど、多数の媒体で精力的に作品を発表している。また2024年には、anon pressから『Uh-Oh』を電子書籍で刊行。現在は、『小説すばる』で長編小説「キックス」を連載中だ。

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水町綜は2019年に第七回ハヤカワSFコンテスト、2021年に第二回かぐやSFコンテストで最終候補に選出された。『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』に寄稿した短編SF小説「星を打つ」が高い評価を受け、齋藤隼飛編『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(いずれもKaguya Books)に再録された。また、〈一号〉の名義で同人活動も行っており、サークル〈水色残酷事件〉として『特殊部隊全滅アンソロジー』シリーズなどを刊行している。

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なお、このインタビューは、SF同人誌SFGと合同で行った。「ヤンキーvsドンキ」と題して電脳について掘り下げたパートを『SFG vol.6 電脳特集』に収録している。『SFG vol.6 電脳特集』は6月1日から通販を開始するのでこちらもお見逃しなく。

不良とパンクとSFと SF作家対談:天沢時生×水町綜

──本日は、色々な媒体で活躍されているSF作家の天沢時生さんと水町綜さんをお呼びしました。おふたりは今回初対面とのことですが、共通点は不良の出てくるSF小説を書かれているというところですね。ということで、さっそく本題である「なぜ不良を描くのか」についてお聞かせください。

水町綜(以下、水町):不良はアウトサイダーだからですね。サイバーパンクアンソロジー『PROTOCOL TBD』に短編小説「特甲アゲインスト・ザ・マシーン」を寄稿したのですが、サイバーパンクを書くなら不良は避けられないなと思って。

このアンソロジーはもともと“パワードスーツヤンキーSF”がテーマで、そこから軌道修正してサイバーパンクアンソロジーになった、という経緯があります。なのでそのときに「そもそもサイバーパンクとはなんぞや」というのを鍛え直そうと思って『ミラーシェード』(ブルース・スターリング/小川隆訳/早川書房)などサイバーパンク作品をいくつか読み返しました。サイバーパンク観にあらためて向き合って気づいたのは、「サイバーパンクの“パンク”って、パンクロックの“パンク”か」というところでした。体制への反逆ですね。ジャンルとしては「電脳」などの要素よりもそっちが大切なのだということに気づいたうえで、もともとパワードスーツヤンキーSF用に書いた短編をその観点から読み直してみたら、「これは書き直さなくてもこのままでサイバーパンクだ」と思ったので、大きな修正をせずに丸ごとお出ししました。“大企業や当局に抑圧されるアウトサイダー”という構図がサイバーパンクのジャンルとして強いので、そうなると不良少年は避けて通れないというのがありますよね。

パラリンピックの開会式で、身体に障害のある方たちが布袋寅泰さんとデコトラに乗って楽器を演奏するというシーンがあって、そこからものすごくサイバーパンクを感じたんです。『ブレードランナー』的にギラギラ光ればサイバーパンクというわけではなく、前述の“サイバーパンク捉え直し”のときに「そうか、アウトサイダーか」と繋がった感じがありました。

天沢時生(以下、天沢):日本のデコトラはサイバーパンクですよね。

水町:そうなんですよ! ギャル電さん(電子工学をしているギャル)という方がいらっしゃって、いろんなものをギラギラにデコってるんですが、日本のサイバーパンクの最前線だと思います。異色肌ギャル(アーティストMIYAKOによるプロジェクト)もそうですね。“カジュアルに身体改造をする”というのがサイバーパンクの一要素だとすると、ヤンキーやギャルとの親和性が高いですね。テクノロジーが人口に膾炙しているというのもサイバーパンクの醍醐味だと思いますし。高度なテクノロジーをヤンキーやギャルがファッションに取り入れているんですが、それは正規のルートのものではない。安全なものは企業や政府が独占している状況、というのが構図としてありますね。サイバーパンクとヤンキーは相性がいい。

──技術を市井の人々の手に取り戻すというか。

水町:抑圧されている名誉、人権の解放の話にもつながるので、虐げられている人々にスポットライトが当たりやすいジャンルだなと思います。インテリの話だとしても、企業の中で抑圧されている人に目がいきがちですね。『ニンジャ・スレイヤー』に“Bigger cage longer chain”というエピソードタイトルがあります(編集部注:もともとはノイズバンドThe noise conspiracyが2002年に発表したEPのタイトル)。抑圧から解放されたと思っても、その外にまたより大きな檻があり、より長い鎖がある。そして体制側にもより大きな権力者がいる、という、サイバーパンクにおける権力構造にはそういった構図がありますね。

──天沢さんはいかがですか。

天沢:不良とSFの取り合わせの魅力は、何より他に書いている人があんまりいないことですね。“不良とSFを書いている珍しい人”という取り合わせで私と水町さんが呼ばれているのが、何よりの証左じゃないでしょうか。我々は巨大な陸地に囲まれた超ちいさいブルーオーシャンにいるんですよ(笑)。

水町:他にもいそうなのに、いないですね。かなり珍しいですね。

──「ギャング」は多くても「不良」はあまり見かけないですね。

天沢:かといって人気がないのかというとそんなことはなくて、『東京卍リベンジャーズ』とかはすごく人気でしたし。それに、ヤンキー漫画が流行っている時期には、ヤンキーはすでに過去の遺物なんですよね。そもそもヤンキー文化がフィクションであるという前提があればSFと取り合わせても自由に書ける、というのもある気がします。

──天沢さんの作品はバイクをはじめ、マシンやガジェットの描写が決まっていてかっこいい印象があります。バイクをかっこよく書くために気をつけていることはありますか?

天沢:バイク描写ですか……どうですかね……(笑)。友達の後ろに乗ったことしかないので……(笑)。バイクもヤン車も、ヤンキーアイテムとして使っているので、一般的にはトガっているという印象が先行すると思うのですが、一方ではものすごくロマンティックさをはらんでいますよね。その両義性がすごくいいと思っています。昔、東京創元社の編集者である小浜さんがある小説について、「すごくトガっているけれど最終的には人情ものに着地するところがいいんだよ」と褒めていたことがあるのですが、ヤンキーものはそのトガりと人情の放物線を作るためのポテンシャルを秘めていると思っています。

──そのロマンティックさというのは、メカに対するギークなロマンというよりも、尾崎的な……。

天沢:そうですね、ウェットなロマンです。

──『ポストコロナのSF』に寄稿された「ドストピア」も、組長のロマンに溢れていますものね。

天沢:あれは男同士の、恋愛感情ではないけれど似たようなものを擬似的に感じてしまう、というものが体感としてすごくあるので、ヤクザはそれを小説に落とし込む媒介としてすごく有効でした。濡れタオルはプロットの段階では出てこなくて、実作で急に出てきたので自分でビビりました。編集者もひどく困惑していました(笑)。

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──なるほど! ちょっとヤンキー的なロマンティシズムがお好きなんですか?

天沢:悪いものはかっこいい、というところにすべて根ざしてますね。時代に逆行していますが、三つ子の魂百までなので……(笑)。

──私も“悪いものはかっこいい”という理由でタバコを吸ってた時期がありますね(笑)。

天沢:私もです(笑)。

内圧の高まりと一次創作

──水町さんにこれまでの活動遍歴をお聞きしてもいいですか? 〈一号〉と〈水町綜〉という二つのペンネームを使われて活動されていますが、どのように使い分けているのですか。

水町:結果的にそうなってしまいました。〈一号〉がもともとSNSで使っていたハンドルネームで、そちらで二次創作をしていました。その頃から〈水町〉でも細々と一次創作をしていたのですが、SF関係のフォーラムに出入りするようになって本格的に一次創作をはじめました。それぞれに交友関係あり気での活動だったので、二次創作では〈一号〉、一次創作では〈水町〉という使い分けになっています。

──いままでにどんなコミュニティやどんな発表の場で活動をしてきましたか。

水町:〈一号〉名義では、Twitter(現X)経由で『ニンジャ・スレイヤー』にどハマりして、二次創作をはじめました。それまでSFには馴染みが薄かったのですが、そこで「だいぶ面白いな」と気づいて。それから月村了衛先生の《機龍警察》シリーズにハマりました。SFでもあり、警察小説でもあり、ポリティカルな要素もあり、テロリズムを扱う国際情勢、ミリタリーなどさまざまな要素を含むシリーズで、ファンフォーラムがジャンル間のハブのようにもなっていました。そこで大戸又さんたちと出会い、仲良くなった方々とイベントに出るようになりました。しばらくはそこを拠点として二次創作をやっていました。

──二次創作で知り合った方々と一次創作でも活動をするようになった、という感じですか。

水町:そうですね。勘所がわかってきたから一次創作にも活かせるかな、という感じ。

──それは自然な流れで?

水町:そうですね……同人作家同士でだいぶ仲良くなって、プライベートでも顔を合わせるようになってから、ひとり、ふたりと一次創作を書きはじめました。そこで逢坂冬馬さんとも知り合ったりして。「一旗あげたい」ではないけれど(笑)、基本的に、二次創作はキャラクターや世界観をお借りしているので、本気で創作をするならやっぱり一次創作だよね、みたいな流れに自然となっていった感じですかね。

──知り合った時にはみなさんすでに一次創作もされていたんですか。

水町:そうとは限りません。でも、世間話として「(当該コンテンツの中で)こういうのあったら面白いよね」と話しているうちに、「これはもはや二次創作でなく、はじめから一次創作でやればいいのでは」となって。高まりすぎた内圧によって(笑)一次創作をするようになったのは自然な流れだったと思います。

──一緒にアンソロジーに参加している方々はそのころのご友人やお知り合いが多いですか。

水町:たとえば『特殊部隊全滅アンソロジー』はほとんどそうですね。

──一次創作と二次創作で創作の仕方は違いますか。

水町:違いますね。二次創作はキャラクターと世界観をお借りするので、読者の方とそれらを前提として共有しています。なのでスタートの速度がものすごく速くて、そこが全然違います。でも、自分はひねくれた人間なので(笑)二次創作に原作のキャラクターを出すだけでは物足りなくなってきて……

天沢:内圧ですね。

水町:そうですね(笑)。《スター・ウォーズ》でいう『ローグ・ワン』のように、「この世界観ならこういうことがあっただろう」ということを書きたくなってきてしまったんです。その作品世界に生きる普通の人の話を書くようになっていきました。その時点で一次創作の作品も発表していたので、そういう意味では、昔から読んでくださっている方からの、一次創作と二次創作への反応の差はあまりないですね。ただ、そういう変な方向性でやっているので、たまに二次創作の方が話題になったりすると、初見の方はびっくりされています(笑)。

──どうしてこのマイナーなキャラクターが出てくるのか、と(笑)。

水町:『ドラゴンボール』でいうと、せいぜい出てくるのはクリリンで、あとはオリジナルのキャラクターたちでずっとストーリーを回し続ける、みたいなことをずっとやっています(笑)。

──水町さんの活動においては、一次創作と二次創作ははっきり分かれているというよりも、グラデーションになっているのですね。

水町:そうですね。原作に登場するキャラクターを使って何かを書くことにはもう興味がなくなってしまって、その世界で、その先にあったであろう出来事を書く方向に……。

──そもそも、二次創作をしたいという欲求はどこから湧いてくるものですか? 好きな作品があったときに、みんながみんな「二次創作をしよう!」とはならないと思うので……。

水町:初手としては、「好きなお話の違う面を見てみたい、自分ならこういうところを見たい」という気持ちと、あとはバッドエンドで終わったお話をハッピーエンドに改変して、ファンとしての自分自身を救いたい、という気持ちですね。

──バッドエンドは悲しいですもんね。

水町:少し前に、『ゲゲゲの謎』で楽しく子育てするほのぼのした漫画がどんどんタイムラインに流れてきましたよね。本編が辛かったからみんなで集団幻覚を見ていた(笑)。

SF・短編小説との出会い

──ありがとうございます。では次に、天沢さんのご執筆歴について伺いたいです。そもそもなにがきっかけでご執筆をはじめられたのでしょうか。

天沢:いま38歳で、ゲンロンの講座を受けたのが30歳くらいだったと思うのですが、それ以前は長編を2本書いたくらいで、短編を書いたのはゲンロンが初めてでした。

──長編から書きはじめられたのですね。短編から書き始める方が多いようなイメージなのですが、どのように長編執筆をはじめたのですか。

天沢:もともと短編をまともに読んだことがなくて、ゲンロンの講座でほぼ初めて読んだんです。それまでは長編ばかり読んできました。短編を書くために短編を読みはじめたのですが、それまでは「短編を書く」という思考自体が頭の中にありませんでした。概念としての短編がなかったというか。講座が始まる前後でSFの短編を読み散らかしました。

──小説を書こうというそもそものきっかけはなんですか。

天沢:作家になる以前からゲームのシナリオライターの仕事をしているので、小説ではないけれど近いものは書いていて、その延長ですかね。仕事のモチベーションが上がらなかったので、業務中にシナリオじゃないものを書いてみたら「小説、書けるんじゃないか」と思って。そのように書きはじめて、結局その時の仕事はやめてしまい小説は書き続けていますね。

──SFに惹かれた遍歴についても伺いたいです。

天沢:そんな感じのきっかけだったので、SFという概念もそんなに意識していなかったというか……。SFと思わずに伊藤計劃さんを読んだりはしていたのですが、そこまでコミットしているわけではありませんでした。なので、最初に書いた小説はSFではありませんでした。

──作風から、ウィリアム・ギブスンの作品や『時計仕掛けのオレンジ』が好きなのかな、と拝察していましたが……。

天沢:講座が始まるまではギブスンは読んでいませんでしたね。キューブリックは大好きだったので、『時計仕掛けのオレンジ』もSFとは思わずに、キューブリックの素晴らしい作品の一つとして観ていました。また、押井守が好きなので、その影響は受けていると思います。

──SFというジャンルをジャンルとして認識していない状態で、なぜゲンロンの講座を受けようと思ったんですか。

天沢:もともと、東浩紀さんのフォロワーだったので。ゲンロン主宰の小説講座が始まるとなった時にそれがSFだったんです。幸運な出会いだったと思います。

──水町さんにも、好きな作家、影響を受けた作家を伺いたいです。

水町:SFを書きはじめてからはさっきもあげた月村先生。冲方丁先生も面白かったですね。あとはグレッグ・イーガンの短編ですかね。テッド・チャンも好きです。普通の人の話が多いですよね。特に「しあわせの理由」には衝撃を受けました。他には漫画家なのですが、長谷川祐一先生のSF少年冒険活劇にも影響を受けています。

──“普通の人の話”というのは……。

水町:ベネズエラの方が作った『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』という、サイバーパンク世界のバーテンダーのゲームがあるのですが、これがその世界に生きる普通の人たちの話で。ハネた世界設定の中でも、そこに暮らす普通の人たちがいる、ということを、世界観の広がりとしても考えてしまいます。

短編小説と長編小説の違い

──天沢さんは現在、「小説すばる」で「キックス」を連載なさっています。はじめに長編から書き始めたとおっしゃっていましたが、連載するにあたってプロットの作成方法などに違いはありますか。

天沢:何年も短編に特化して書いてきたので最初はひどく苦労したのですが、物語をいくつかのパートに分け、そのパートごとにプロットを立てながら、物語全体の起伏も作るというような、個別のパートと全体のプロットをそれぞれ毎回作るようにしています。ですが、毎回プロット通りにはいかないので、全体のプロットも都度調整するようにしています。

──書き下ろし長編や短編との大変さの違いはありますか。

天沢:長編の方がじゃじゃ馬な感じがしますね。いうことを聞いてくれないというか。短編だと、最後に意外な方向に進んでも、その手前の部分を微調整すれば格好がつくのですが、長編だと後ろの設定もずれていってしまうので、トライアンドエラーが発生します。構成のためのリソースが違うのと、あとは登場人物に付き合う時間が長くなるので、短編よりも登場人物のコントロールが効かなくなっていきます。

──長編と短編はどちらが書いていて楽しいですか。

天沢:どっちかな……。別の料理という感じなので、比べられないです。

水町:僕も天沢さんとほぼ同じですね。全体のおおまかなプロットを考えて、序破急的な三幕構成にして、さらにその中で短編のようなブロックに分けながら詰めていきます。でも書いているうちにキャラクターに対する解像度が上がってきて、「こいつはこんなことしないんじゃないか」とだんだん逸脱していって……。

天沢:それなんですよ!(笑)

水町:でもそれが出てくるのって、筆が乗っているときですよね。

天沢:やめてくれよ〜、と思いつつ快感もあるというか。

水町:動いてくれたというか。プロットではこうなるはずだったけど、ここまで書いてきたものと比較すると、「この人は絶対こういうことをしない」というのが出てくる。でもそういうときはかなりキャラクターに強度があるときなので、苦しみながらもガッツポーズをしています。書き下ろしの場合は書いているブロックをいくらでも消したり入れ替えたりできるのですが、連載は後戻りができないので大変だなと思います。

──連載の場合、どのくらい先の回までご執筆が進んでいるんですか。

天沢:直近は向こう一ヶ月分くらいですね。一ヶ月先を書いている感じです。今書いているものが一話ぶんあるとき、編集部がその前の提出済みの一話を校正していて、そのもう一話前が発売中の雑誌に出ています。何か修正の必要があるとき、一つ前の回まではギリギリ戻れますが、もうゲラになっているのであまり赤字を入れすぎても……(笑)

──水町さんは、作品をどんな順番で書きますか。頭から、それともシーンごとに書きますか?

水町:短編でも長編でもまずは冒頭を書いてみて、こんな感じか、というのがつかめたらあとはもうシーンごとにバラバラに書きます。今書きたい部分や書ける部分を書いていって、「このシーンとこのシーンがあるなら、あいだにこんなことがあるはずだ」というふうに場面を埋めていったりもします。書いているうちに先に書いたところと矛盾が生じるので書き直したり。時間のかかる書き方をしていますね。

好きなものを描く/本当に好きなものは入れない

──水町さんはSFのなかでも多岐にわたるテーマで書いていらっしゃいますが、どれもアクションシーンが印象的です。どうしたら生き生きとアクションシーンを書けるものですか。

水町:身も蓋もないことをいうと、アクションシーンが好きなんですよね。寿司ネタで言ったらトロの部分。全体的には小説を書くのは楽しくない派、苦しみながら書いている派なのですが、アクションは本当に楽しいので「自分のためのご褒美タイム」というような気持ちで書いています。まずは頭の中で映像として全体の流れを考えて、そこにカメラを置いて「ここを抜いて、ここをアップにして」というように切り替えを考えながら、どこにカメラを置いたらかっこいいかを気にしながら書いています。

──この映画のアクションシーンが好き、というものはありますか。

水町:パッと思いついたのは『リベリオン』(カート・ウィマー監督、2002年、アメリカ)というガンアクション映画ですね。〈ガン=カタ〉という、ガンアクションと格闘技を掛け合わせたような戦闘術が登場するのですが、かなりかっこいいです。そういうものをかなり繰り返して観ます。あとは評判が悪いですが実写版『キャシャーン』(紀里谷和明監督、2004年、日本)とか……。

──自分の物語の中のアクションシーンも実際に映像的にイメージしていくということですね。天沢さんの作品はディテールや固有名詞に対するこだわりがとても印象的ですが、それは好きなものを織り込んでいっているのでしょうかか、それともテーマに合わせて調べていくのでしょうか。

天沢:作品に必要なもの、作品に呼び込まれたものを調べて書いていく感じです。本当に好きなものはあまり入れないですね。

──バイク然り、「ショッピング・エクスプロージョン」のジャズ然り……。この点は水町さんとは対照的ですね。

天沢:なんならサイバーパンクもそこまで思い入れはないですからね。

(一同笑)

──「この作品にはこのジャンルの固有名詞群が合う」というのはどの段階で見つかるんですか。

天沢:プロットのときには固有名詞のことはそんなに考えなくて、実作のときにその場の悪ノリで思いついたものを書いています。

水町:実際、具体的な固有名詞がたくさん出てくると面白いですからね。

天沢:自分が笑っちゃったら採用、みたいな感じです。パッと思いついたものに対して「ウケる」と思ったら入れています。

──その固有名詞の使い方は、ゲンロンSF創作講座課題である「Uh-Oh, 生き馬どものゴールドラッシュ」が始まりだったのでしょうか。

天沢:あのあたりからですね。あれは、講座の課題が〈遊べ!不合理なまでに!〉、ようするに“悪ノリをしろ”というテーマだったので、それに合わせてやってみたら「悪ノリ楽しい!」と気づいた、という感じですね(笑)。

──日常を極端に異化して、ドライヴ感のある文章で引っ張っていく印象が強いのですが、どんなところから着想を得られるんでしょうか。例えば「ショッピング・エクスプロージョン」の舞台である「サンチョ・パンサ」は、量販店ドン・キホーテをモデルにしていますよね。

天沢:「ドンキいいよね」というのがまず、漠然とずっと頭にありました。 でも、無茶な設定を入れればなんでも小説になるかというと、そういうわけでもなく。「ドンキいいよね」と最初に思ったのは「ショッピング・エクスプロージョン」の一年以上前で、それからずっと頭の片隅にあって。あの、ジャングルというか、モノの充溢した空間を自己増殖に置き換えられるんじゃね?と気づいたときに、あ、これでいける、となりました。そういう、「なんかいいよね」が頭の中にいくつかあって、それと親和性のあるSF設定や要素が見つかれば書き始められる、という流れです。これってイタズラの感覚に近いと思います。イタズラをするときって、いい感じの言い訳を考えておかないと怒られるじゃないですか。この“言い訳”部分をずっと探しています。

──素晴らしい作品を発表しつづけているおふたりが、創作を存分に楽しんでいらっしゃることが垣間見えたインタビューとなりました。どうもありがとうございました。

(聞き手・構成:Kaguya Planet編集部)


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